交通事故コラム

慰謝料 治療費 積極損害

【弁護士解説】交通事故で怪我をした際の通院先は整骨院?整形外科?

2023.12.25

整形外科 整骨院

交通事故の被害に遭い、怪我を負ってしまったときの通院先として有力な選択肢の1つである整骨院(接骨院)。

整骨院(接骨院)の通院には多くのメリットがありますが、最終的に適切な慰謝料等を支払ってもらうことができるか?という観点からみると、気を付けるべきポイントがあります。

このページでは、交通事故被害者の損害賠償請求を専門としている弁護士が、整骨院(接骨院)への通院において気を付けるべきポイントを解説します。

(なお、以下では整骨院とさせていただきます。)

 

そもそも整骨院と整形外科は何が違う?

整骨院通院のメリットや気を付けるべきポイントを考えるためには、まずそもそも整骨院と整形外科は何が違うのかを明確にしておく必要があります。

整骨院と整形外科の大きな違いは、

  1. 施術者
  2. 目的
  3. 手段

の3つです。順に見ていきましょう。

 

1.施術者 

整骨院の施術者 柔道整復師
整形外科の施術者 医師(及び理学療法士)

整骨院で施術を行うのは、国家資格を有する柔道整復師です。柔道整復師は専門家として整骨院や接骨院といった施術所を開設することができます。

 

一方で整形外科でリハビリを行う理学療法士も、国家資格を取得する必要がありますが、開業することはできません。医師の指示の下で患者のリハビリを進めていくことになります。

 

2.目的

整骨院(柔道整復) 人間が本来持っている自然治癒力を最大限に引き出させること

公益財団法人 日本柔道整復師会 ホームページより引用)

整形外科(理学療法を含む) 病気、ケガ、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善及び基本的動作能力の回復を図ること

公益社団法人 日本理学療法士協会 ホームページより引用)

 上の表をみると分かるように、整骨院の柔道整復の目的は、治癒能力を最大限に発揮させ、自然治癒を促すことにあります。

一方で整形外科の理学療法は、直接的に運動機能の維持・改善や基本動作能力の回復を図っています。この目的の違いが、3.手段に影響してきます。

 

3.手段

整骨院(柔道整復) 整復・固定・後療などの、手術をしない「無血療法(徒手整復)」という独特の手技

公益社団法人 日本柔道整復師会ホームページより引用)

整形外科(理学療法を含む) 投薬、注射、手術、リハビリテーション等

公益社団法人 日本整形外科学会ホームページより引用)

※リハビリテーションとは治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることとされています(理学療法士及び作業療法士法第2条)。

先ほど見たように、整骨院の柔道整復の目的は、「人間の持つ治癒能力を最大限に発揮させ、自然治癒を促すこと」でした。

そのため、整骨院では手術や注射、投薬などのいわゆる西洋医学的な治療を行いません。あくまで手技による整復による自然治癒を目指しています。

 

これと対照的に、整形外科による治療は、投薬、注射、手術、リハビリテーション等を行い、運動機能の維持・改善及び基本的動作能力の回復を図ることを目的としています。

そして、ここでいうリハビリテーション(理学療法)は、運動を行わせたり、電気刺激やマッサージ、温熱その他の物理的な手段を加えることと定義されています。

 

マッサージは柔道整復の手技による整復ととても近しいものです。ただし、整形外科(理学療法)におけるマッサージは、

数ある治療方法の一つという位置づけであるのに対し、整骨院(柔道整復)における手技による整復は、施術の根幹となっています。

 

この点が、整骨院と整形外科の最も大きな違いであり、整骨院通院のメリットの根幹を担っています。

 

ここまで見てきたように、整骨院と整形外科には様々な違いがあります。この違いが、整骨院のメリットと気を付けるべきポイントを生み出していますから、

この違いをもとに、それぞれについて以下で見ていきましょう。

 

交通事故被害に遭った際の整骨院通院のメリット

丁寧な施術を受けることができる

整骨院通院の最大のメリットは、丁寧な施術を受けることができる点です。

先ほどもみたように、整骨院は手技による整復を専門的に行っています。

交通事故に遭って、痛みが残ってしまったというような場合には、リハビリで運動を行ったりするよりも、

整骨院で丁寧な手技による整復を受けた方が身体が楽になるということもあると思います。整骨院の施術の方がご自身の症状には合っているという場合には、

整骨院通院のメリットはとても大きいです。

 

整形外科より待ち時間が少なく、かつ仕事終わりの夕方に通院が可能な場合が多い

先ほども見たように、理学療法士は医師の指示の下で患者のリハビリを進めています。

整形外科には色々な症状を抱えた患者が訪れ、それぞれの患者に応じた治療方法を医師が診断の上決定することになります。

理学療法士はその決定に基づいた、目標に向けたプログラムを作成し、リハビリを進めていくことになりますが、

医師の判断が必要な以上どうしても時間がかかります。また、整形外科は営業時間が短く、お仕事をされている方は通院することができない場合も多いです。

 

しかし、整骨院は柔道整復師が単独で施術を行うことができるため、待ち時間が短いです。

また、整形外科と比較すると夜間まで営業していることも多く、お仕事をされている方も通院が可能です。

 

整骨院に通院する際に気を付けるべきポイント

木村治枝弁護士(小杉法律事務所)

うえで見たように、交通事故被害に遭った際の整骨院通院にはメリットもあります。

お仕事の合間にご自身の症状を緩和したいというご希望がある方からすれば、整形外科よりも整骨院に通院したいというお気持ちも大きいかもしれません。

ただし、適切な慰謝料等を受け取るためには、気を付けるべきポイントがあります。

 

⑴ 交通事故に遭ってすぐに整形外科にも行くこと

損害賠償請求という観点においては、後遺障害等級認定の判断をする自賠責損害調査事務所

賠償金を決定する裁判所も、整骨院通院よりも整形外科の通院を重視します。

特に交通事故に遭ってすぐに整形外科に通院し、医師の診断を受けることは極めて重要です。

その診断(書)があるかどうかで、被害者の方が訴えている症状が本当に交通事故によるものといえるかどうかが変わってきます。

 

また、整骨院にはレントゲンやMRIといった画像の撮影ができる機器がありません。

画像所見は後遺障害等級の認定においては極めて重要な証拠となりますから、

やはり適切な賠償金を得るためには、早めに整形外科を受診し、画像を撮影してもらうことが必要となります。

 

⑵ 整形外科に月1回は最低でも通院すること

⑴でも述べたように、治療状況や被害者の症状については整形外科の医師の診断書の方が、整骨院の施術証明書より証拠としての価値が高いです。

治療の必要性や、後遺症の有無が争われたときに主張が認められるためには、医師の診断を少なくとも月1回は受けておく必要があると言えます。

 

また、後遺症が残ってしまったことで、自賠責に後遺障害等級の申請をする際に必要となる後遺障害診断書の作成権限は医師にしかなく、柔道整復師にはありません。

いざ後遺障害等級認定の申請をするタイミングになって、一度も整形外科に通院していなかった、

あるいはほんの数回しか通院していなかったとなると、そもそも後遺障害診断書が作成できないということがあり得ます。

後遺障害等級が認定されるかどうかは、最終的に支払われる賠償金の額にとても大きな影響を与えますから、後遺障害診断書を作成してもらえる環境づくりは極めて重要です。

 

なお、交通事故によるむち打ちで通院をする場合ですと、適切な後遺障害等級の獲得のためには、整形外科や整骨院に約6か月間の通院をすることが一つの目安になります。

 

⑶ 整形外科の主治医に整骨院通院の指示や同意を得ること

整形外科の主治医に整骨院通院の指示を得ることは整骨院での施術が必要かつ相当であったというお墨付きを得るために重要です。

交通事故の損害賠償請求実務において、通称「赤い本」と呼ばれ、絶大な影響力を誇る『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準』(公益財団法人 日弁連交通事故相談センター 東京支部編)では、

交通事故により生じた損害として認められる治療費を、「必要かつ相当な実費全額」としています。

逆に言えば、「必要かつ相当でない」場合には損害として認められない(=相手に請求できない)ということです。

 

そして、柔道整復(接骨院、整骨院)に要した費用については、症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にあるとされています。

上の治療費でさえ、「必要かつ相当でない」場合には損害として認められないにもかかわらず、

さらに損害として認められる範囲が狭くなっています。

 

最も被害者側にとっては高い賠償金の額となる裁判所の基準でも、柔道整復に要した費用については認められないことが往々にしてあり得るわけですから、

支払う金額をできるだけ少なくしたい加害者側保険会社がこの点を争ってこないわけがありません。

 

整骨院通院についての治療費一括対応を早期に打ち切ってきたり、そもそも1円も支払わないということが十分に考えられます。

幸い「ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある」とされていますから、整形外科の主治医に整骨院通院の指示を得ることで、

整骨院通院に要した費用も支払ってくれる可能性を高めることができると言えます。

 

なぜなら医師の指示がある場合というのは、医師が治療方法の一つとして柔道整復を積極的に選択した(医師が柔道整復が必要だと認めた)ことを意味しているからです。

 

整形外科の主治医に、整骨院通院の同意を得るだけでも一定の効果はあると思われますが、

指示を得られた場合と比較すると、どうしても整骨院の施術費が損害として認められる可能性は低くなります。

 

ただし、何の指示や同意も得ていない場合や、主治医から整骨院通院を否定された場合と比較すると、

黙示的な同意であっても大きな意味を持ちますから、一度主治医に整骨院に通院してよいかを尋ねてみることは重要です。

 

4 まとめ(弁護士法人小杉法律事務所の取り組み)

ここまで見てきたように、整骨院通院には、通院に際して気を付けるべきポイントがあります。

この気を付けるべきポイントをないがしろにしたまま整骨院への通院を継続してしまうと、

適切な後遺障害等級の認定が得られなかったり、施術費を支払ってもらえなかったりして、適切な慰謝料の獲得をすることが出来なくなってしまいます。

 

ただしこれはあくまで損害賠償請求上の話であって、被害者の方の症状や状況によっては、

整骨院を上手く利用することで、被害者の方の生活の質が向上することも大いにあり得ます。

 

だからこそ、交通事故被害者側専門弁護士の事務所である弁護士法人小杉法律事務所では、

被害者の方お一人お一人の症状や状況に合わせ、適切に整骨院を利用できるようアドバイスをさせていただいたり、

場合によっては医師に整骨院通院の指示や同意をしていただくようお願いしたりしています。

 

適切な慰謝料を得るだけでなく、交通事故被害に遭ってから賠償金を獲得するまでの生活もサポートさせていただきます。

 

弁護士法人小杉法律事務所の交通事故被害者側専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。