交通事故の解決実績

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【脛骨高原骨折・膝内側側副靭帯損傷・鼻部挫傷】示談提示60万円が裁判で約1350万円獲得。症状固定時に膝可動域制限が出ていたが、治療期間中は膝が動いていた被害者について、福岡高裁で後遺障害等級併合11級が認められた事例

Bさん 福岡市・20代・女性・大学生

【脛骨高原骨折・膝内側側副靭帯損傷・鼻部挫傷】示談提示額60万円⇒裁判で約1350万円獲得。症状固定時に膝可動域制限が出ていたが、治療期間中は膝が動いていた被害者について、福岡高裁で後遺障害等級併合11級が認められた事例

解決事例のポイント

① 保険会社の示談提示額60万円⇒裁判で約1350万円獲得
② 入院中は膝が動いていた被害者について、医師の意見書により膝の可動域制限の後遺障害等級獲得
③ 弁護士が醜状面談に同行することにより微妙な鼻部挫傷について後遺障害等級獲得
④ 判例誌掲載判決(自保ジャーナル2062号45頁:福岡高等裁判所令和元年11月19日判決・福岡地方裁判所令和元年6月19日判決
⑤ SNS投稿や探偵に注意

相談前

Bさんは20代大学生の女性で、アルバイトをしながら学生生活を送っていました。

帰宅途中、道路を横断する際に、四輪車にはねられてしまい、左脛骨高原骨折、左膝内側側副靭帯損傷、鼻部挫傷といった傷害を負ってしまいます。

計3か月程度の入院をし、その間、懸命にリハビリに励み、一時期はまったく動かなくなっていた膝が動くようになっていました。

退院後もリハビリ通院を続けましたが、左膝の可動域はフルには動かなくなり、右膝と比べ、3/5程度しか動かなくなってしまいます。

Bさんは、膝の痛みや動きづらさ、そして、鼻の傷について気になっていて、後遺障害等級の申請は弁護士に任せた方が良いのではないかとネットで調べて思うようになり、弁護士に相談することにしました。

法律相談

Bさんのご家族が来所され、法律相談を実施しました。

Bさんからこれまでのご事情をお伺いした後、今後の流れについて説明をします。

今後の流れについての説明
(1)後遺障害診断書の作成

まずBさんの場合は、近々症状固定が予定されていたので、後遺障害診断書の作成の重要性について説明をしました。

Bさんのケースの後遺障害診断書のポイントは下記の3点です。なお、後遺障害診断書の作成のポイントは法律相談時にお伝えしますが、すべて記憶した上でお医者さんに話してもらうのも難しいので、当事務所ではお医者さん宛の書類も作成しています。

① 後遺障害診断書の自覚症状欄の症状の記載方法:神経症状は端的に記す

後遺障害診断書の自覚症状欄は、症状が残存している部位と、その症状(痛み・痺れなど)を端的に書いてもらうことが重要です。

自身の大変さを分かってもらおうと、自覚症状について多くの記載を求める人がいますが、それが後遺障害等級を取る上で加点として評価されることはほとんどなく、むしろ揚げ足取りの材料として使われしまうことがあります。

例えば、「●●をするときに膝が痛むため●●ができなくなった」など、自身ができなくなってしまったことを伝えようとする場合、自賠責保険というのは、「●●ができなくなって可哀想に」とは思ってくれず、逆に、このような記載ですと、「●●をするとき以外は膝は痛くないのですね」と判断してきます。

そうすると、せっかく窮状を伝えようと情報提供したことが、かえって不利に働いてしまい、常時疼痛を残すものという神経症状の後遺障害等級該当性に当てはまらない事情として使われてしまいますので、自覚症状欄には、端的に「左膝痛」などと記してもらった方が良いということになります。

脛骨高原骨折の場合は、後遺障害等級が獲得できることがほとんどで、局部の神経症状の上位等級である12級13号が獲得できるケースも多いですが、変なところで揚げ足を取られないようBさんに注意をしました。

② 他覚症状および検査結果の欄の記載方法:症状の裏付けとなる所見を記してもらう

他覚症状および検査結果の欄には、症状の裏付けとなる所見を記載してもらうことが重要です。

後遺症が残ってしまったことを伝えるのが後遺障害診断書ですから、後遺症の医学的な裏付けを書いてもらうのです。

症状の裏付けと関係のない所見や「所見なし」という所見は記載の必要がありません。

明確な医学的な裏付けがなくても認定される後遺障害等級というのは14級9号のみで、より上位の後遺障害等級が考えられるケースでは、この欄の記載が重要になってきます。

Bさんは、脛骨高原骨折の傷害を負っていて、膝可動域制限も残していましたので、骨癒合の状況や膝関節の拘縮などの医学的原因を記載してもらうことが重要となってきます。

③ 醜状欄の記載を忘れない

後遺障害診断書を書くのは整形外科医の主治医ということが多く、形成外科にも通っていたようなケースでない限り、顔にキズが残ってしまったことなども整形外科に記載してもらわないといけません。

醜状欄にキズが残ってしまったことの記載をしないと、そもそも醜状障害の後遺障害等級の該当性を判断すらしてくれないのです。

Bさんには鼻に薄く傷が残っていましたから、醜状欄への記載をしてもらうようお伝えしました。

(2)後遺障害等級認定と異議申立て

後遺障害診断書を作成してもらった後は、自賠責保険会社に対して、後遺障害等級の申請を行います(被害者請求)。

申請をしてから結果が出るまで2~3か月を要することが多いですが、Bさんの場合は、鼻の醜状障害の面談が間に入るため、もう少しかかる可能性がある旨、説明しました。

後遺障害等級の結果が出た後は、見立てどおりの結果がでれば示談交渉に進み、見立てどおりの結果がでなければ内容を精査した上で、可能性があれば異議申立てをしていきます。

(3)示談交渉または裁判による解決

示談交渉自体は1か月程度を目安にしています。

ただし、相手方のある話ですので、保険会社の担当者によっては、もう少し時間がかかることもあります。

示談交渉がまとまれば解決となり、まとまらなければ裁判となります。

なお、福岡地方裁判所の交通事故訴訟の平均審理期間は14か月とされています。

後遺障害等級の認定

1 後遺障害診断書の作成

法律相談時にお伝えした方針で病院宛にお手紙を作成し、Bさんにお渡ししました。

そうしたところ、自覚症状も端的に書いてもらうことができ、また、関節拘縮の事実や醜状欄も記載をしてもらうことができました。

2 醜状面談への弁護士の同行

Bさんは交通事故のせいで、鼻に線のキズが残ってしまったのですが、大きく目立つようなものではなく、後遺障害等級の認定がなされるか微妙なラインでした。

外貌醜状障害というのは、3㎝以上の線状痕があった場合に、後遺障害等級12級の認定がなされるのですが、Bさんの場合、薄い傷の部分も含めて見れば十分に3㎝以上の線状痕があるものの、濃い傷の部分のみで測定されてしまうと3㎝未満と判断される可能性がったことから、醜状面談に同行することにしました。

同行してみたところ、案の定、傷の始点と終点を濃い部分のみで測ろうとしていたので、「ここから傷が始まっていますよ」と指摘をし、無事、Bさんが事故によって生じた傷の部分を適正に測定してもらえました。

3 後遺障害等級併合11級の認定

以上の活動が奏功し、左膝機能障害12級7号と外貌醜状障害12級14号が認定され、後遺障害等級併合11級であるとの認定を受けることができました(自賠責保険金331万円)。

示談交渉の決裂

後遺障害等級の認定がなされると、休業損害や傷害慰謝料(入通院慰謝料)といった損害費目のほかに、将来仕事がしづらくなってしまうことの損害である逸失利益や、後遺症を負ってしまったことに対する精神的苦痛としての損害である後遺症慰謝料を請求することができます。

しかしながら、保険会社側の弁護士は、左膝の機能障害の自賠責保険の認定は誤りであり、後遺症であるとの主張は認めないと主張をし、逸失利益は払わないと言ってきました(示談金の提案60万円)。

Bさんは当初は示談での解決意向でしたが、後遺障害等級併合11級の事案で、示談金60万円というのは、あまりに低額ですので、Bさんの了解を得て、裁判をすることにしました。

民事裁判 福岡地方裁判所

1 被告の主張:保険会社顧問医による意見書の提出

被告は、Bさんの膝は入院中は動いていたのであって、詐病による後遺症であると主張してきました。

また、保険会社というのは、お抱えの顧問医がいますので、Bさんの膝の可動域制限は詐病である旨の意見書を提出してきました。

2 原告の反論
(1)主治医に対する医師面談と意見書の作成

保険会社側の顧問医の作成した意見書の妥当性について事前に調べた上で、主治医の見解を聞きに行きました。

保険会社の顧問医というのは、中には適切な医学的意見を書かれる方もいらっしゃいますが、多くの場合、保険会社に忖度した意見しか書きませんので、その内容や医学的な裏付けが不十分であることが多いです。

また、こちら側の主治医は年間手術件数が1000件を超える整形外科の部長を務めていて、専門性の高い医師ですが、今回意見書を提出してきた顧問医は経歴不明で手術経験や医学的論文を発表した経験も窺われない医師でした。

そのためか不正確な記載も多く、Bさんの骨折の程度が軽いであるとか、不自然な可動域の推移であるなどの意見が述べられていましたが、骨折の程度が重いこと、膝可動域の推移は医学的に見て不自然ではないことなどを主治医の先生に説明してもらいました。

お伺いした内容をこちらで整理して、原告側も医学的意見書を提出することにしました。

(2)医学文献からの反論

保険会社側提出の意見書には、脛骨高原骨折のことのみが記されていて、左膝内側側副靭帯損傷のことについては一切触れられていませんでした。

そこで、脛骨高原骨折に靭帯損傷を合併していた症例では、可動域制限を残す傾向が見られるという医学文献を提出し、保険会社側の意見書が不当であることを主張しました。

3 裁判所和解案

裁判官はこちら側の主張を認めてくれて、左膝の機能障害についての後遺障害等級を認めてくれました。

しかし、被告側が和解案を呑まなかったため、和解は決裂し、尋問へ進むことになりました。

4 尋問

尋問は、まずこちらから、あらかじめ準備をしていた内容で主尋問を行います。

そのあと、被告側の弁護士が反対尋問を行い、最後に裁判官から補充尋問を行うという流れで行われます。

主尋問では、Bさんの膝可動域の推移が不自然ではないことを裏付けるため供述をしてもらいました。

ところが、反対尋問で、BさんのSNSの写真や動画が提出されることになりました。

Bさんが旅行などをして楽しんでいる写真が提出され、後遺症は残っていないのではないかとの主張がなされることになりました。

また、尋問の日にBさんは、保険会社が雇った探偵をつけられていて、保険会社側の弁護士は、その探偵資料をもとに、Bさんは普通に歩けているし後遺症は残っていないのではないかとの主張が出されました。

5 主治医意見書によるフォロー

SNSでの旅行写真や探偵資料に対して、念のため、主治医の先生に医学的な見地からのアドバイスをもらいにいきました。

左膝機能障害12級7号というのは、右膝に比べて3/4以下の可動域制限が生じてしまったという後遺症ですから、問題なく歩行はできますし、旅行に行くことも差し支えない旨の意見をもらうことができ、それを意見書として証拠提出しました。

6 一審判決

和解案と同様、左膝の機能障害についての後遺障害等級を認めてくれ、勝訴判決となりました。

福岡高等裁判所

無事一審判決は勝訴しましたが、被告側から控訴がなされました。

保険会社側は、控訴審において、Bさんの父が横領をしていて、Bさんには詐病をする動機があるなどと主張してきました。

しかしながら、左膝機能障害の認定方法は、「関節可動域の測定値については,日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い,原則として,他動運動による測定値によることとする」とされています(労災補償障害者認定必携第17版p288)。

すなわち、患者自身が膝を動かす自動運動による測定値によって関節可動域を測定するのではなく、医師により膝を動かす他動運動による測定値によって関節可動域を測定することになっていますので、詐病によって後遺障害等級を獲得できるものではないと反論しました。

そうしたところ、福岡高等裁判所も一審と同様、Bさんの膝の後遺障害等級を認定してくれ、勝訴となり、遅延損害金を含めて約1350万円(自賠責保険金331万円除く。)での解決となりました。

弁護士小杉晴洋のコメント

保険会社の回答が渋い場合は裁判するべき(保険会社提示額の60万円から22.5倍の約1350万円で解決)

裁判をすることに抵抗のある方もいらっしゃると思いますが、本件のように60万円だった提示額が22.5倍の約1350万円まで増えるようなケースもあります。

裁判するかどうかの見極めは、被害者側専門の弁護士と相談の上、決定するのが良いと思います。

本件も、Bさんははじめ裁判に乗り気ではありませんでしたが、無事解決することができ、最後に喜んでおられました。

SNS投稿に注意

このケースは保険会社が徹底抗戦の姿勢を示していましたので、BさんのSNS(facebook・twitter・instagramなど)をすべてチェックされていました。

ですので、交通事故被害者の方は、保険会社の担当者や弁護士が、SNSを見ている可能性があるということは頭に置いておいてほしいと思います。

探偵を付けられることがあります

これは多くはありませんが、本件のように、保険会社が徹底抗戦の姿勢を示しているケースでは、探偵を付けてくることがあります。

Bさんのケースでは探偵を付けられたがために、こちら側の主張が崩されるということはありませんでしたが、友人とも付き合いのために、後遺症を負っているけれども無理な運動をしたというようなことがあると、その瞬間を撮られてしまい、後遺症がないという証拠として使われてしまうことがあります。

探偵はプロですから、気付くのは難しいと思いますが、後遺症の残っている方は、お身体のこともありますし、無理な行動はしないようにしてください。

関連記事

こちらの記事で脛骨高原骨折の症状や後遺障害等について説明しています。

膝部の内側側副靱帯損傷に関する記事はこちらをご覧ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。