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自転車のヘルメット着用が努力義務化!何が変わる?交通事故専門弁護士が解説

2023.12.22

損害賠償請求

交通事故 自転車事故

令和5年4月1日に施行された道路交通法の改正により、自転車運転時のヘルメットの着用が努力義務化されました。

努力義務化により何が変わるのでしょうか?

交通事故被害者専門弁護士が、損害賠償請求における影響を中心に解説していきます。

 

法律がどう変わったのか?

自転車運転時のヘルメットの着用について、令和5年4月1日に施行された道路交通法で変更になった部分は以下の通りです。

 

道路交通法第63条の11(令和5年3月31日まで)

「児童又は幼児を保護する責任のある方は、児童又は幼児を自転車に乗車させるときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。」

 

道路交通法第63条の11(令和5年4月1日以降)

「第1項 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない

 第2項 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

 第3項 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

 

今回の改正で変更になったのは、第1項と第2項のところですね。

改正前には、努力義務が課せられていたのは、「児童又は幼児を保護する責任のある方」でした。

そして、その努力義務の内容も、「保護する児童又は幼児を自転車に乗車させるときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせる」というものでした。

 

それが、今回の改正により新たに「自転車の運転者」すべてに乗車用ヘルメットをかぶる努力義務が課されました。

そして、「他人を自転車に乗車させるときには当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせる」努力義務も課されることになりました。

 

一言でいえば、自転車に乗るとき、人を乗せるときはいつでもヘルメットをかぶるように努めなければならなくなったということになります。

 

ヘルメット着用率の現状

 

では、実際にこのヘルメットの着用が努力義務化されたことでどういった影響が出るのでしょうか?

警察庁が令和5年2月~3月に自転車の利用者が多い13の都府県の駅周辺などで行った実態調査によれば、

1万6435人のうちヘルメットを着用していたのは665人で、着用率は4%にとどまっていたということです。

NHKニュース「自転車ヘルメット着用の実態調査 着用率4%にとどまるより)

 

努力義務化により着用率は若干の上昇は予想されるものの、ほとんど変化はないといって良いでしょう。

自転車運転時のヘルメット着用が一般化するのは、まだまだ先になりそうです。

 

それは、努力義務というものの法的性質が影響しています。

 

努力義務とは?

努力義務とは、法律上の文言で、「~するよう(しないように)努めなければならない。」と規定されているものをいいます。

「~しなければならない」「~してはならない」といった規定がされているいわゆる「法律上の義務」に違反した場合は、

罰則に基づいて罰金や過料が課せられることがあります。

その一方で、「努力義務」に法的拘束力はありませんから、違反しても罰則が課されるようなことはありません。

 

違反しても特にお咎めがないわけですから、極端なことをいえば守らなくても良い規定ということになります。

今回の自転車運転中のヘルメット着用の努力義務化は、実際の道路交通においては限定的な影響にとどまるでしょう。

ですが、害賠償請求における影響はより大きなものになる可能性があります。

ヘルメットを着用しているか否かで影響が出てくるのは、自転車を運転している方が被害者になる場合(自転車VS四輪車など)がほとんどだと思いますから、

今回は交通事故被害者専門弁護士が、自転車運転中に交通事故被害に遭った場合に、

ヘルメット着用の有無がどのような影響を与えるかについて、解説していきます。

 

損害賠償請求における影響

過失相殺がありうる?

交通事故における過失相殺とは、被害者の側にも交通事故による損害の発生やその損害の拡大に寄与するような過失(※)があった場合に、

損害賠償金全体から被害者の過失分を差し引くことを言います。これは、民法722条2項に規定があります。

 

民法722条2項「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」

 

※ ここでいう過失とは、結果を回避することができ、かつその義務があったにもかかわらず、必要な注意を怠ったことをいいます。

 

自転車運転中の交通事故の例でいえば、

道路交通法70条「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の操作を確実に操作し、か

つ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

に違反する運転、つまりハンドル、ブレーキその他の操作不適切や、前方不注視、速度超過などが挙げられるでしょう。

 

問題は、ヘルメットの着用をしないことが、過失にあたるかどうかです。

過失にあたる場合は、ヘルメットを着用せずに自転車を運転している時に交通事故の被害に遭うと、

過失相殺され(=、損害賠償金から過失分として差し引かれる部分が生じる)可能性があるということになります。

ただし、ヘルメットを着用していない時に発生した交通事故が、ヘルメットを着用していれば発生しなかった、ということはおよそ考えにくいですから、

ほとんどの場合に問題となるのは、ヘルメットを着用していなかったことによって、被害者が受けた損害が大きくなった(損害の拡大に寄与した)」といえるかということになるでしょう。

 

今回の道路交通法の改正により、自転車運転中のヘルメット着用は「努力」義務化されました。

義務とはついていますがあくまで努力義務ですから、先ほども見たように罰金や過料などはありません。

 

だからといって則ち民事裁判において過失相殺がされないと断言できるかというとそうではありません。

罰金や過料をはじめとするいわゆる刑事罰や行政罰は、公権力が国民の権利を侵害する側面がありますから、

なるべく必要最低限の執行にとどめなければならないという、謙抑性という性質が働きます。

 

したがって法律上の義務となっていないヘルメットの非着用を理由に罰金や過料が課せられることはありません(罰金や過料を課すことができる条文もありません。)。

 

一方で、損害賠償請求は民法の話であって、被害者と加害者は同じ国民という立場であることがほとんどです。

過失相殺をしなければ加害者にとって酷であるというケースにおいては、損害の公平な分担という見地から過失相殺が認められることになります。

 

では、実際に裁判所がどういった判断をしているかについてみていきましょう。

ちなみにここで紹介する判例は、どれも改正道路交通法の施行前(ヘルメットの着用が努力義務化される前)に出た裁判例です。

 

神戸地裁平成31年3月27日判決(交通事故民事裁判例集52巻2号27頁)

神戸地裁平成31年3月27日判決(交通事故民事裁判例集52巻2号27頁)は、

当時12歳の児童がヘルメットを着用せずに自転車を運転していたところ、

自動車と交差点で出合い頭の交通事故を起こしたという事案です。

 

裁判所は、「道路交通法63条の11(改正前)は、児童・幼児の保護責任者に対し、努力義務として、当該児童・幼児へのヘルメットの着用を定めているに過ぎないし、

本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、

ヘルメットを着用していなかったことを不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない。」と判示しました。

 

大阪地裁令和元年10月31日判決

大阪地裁令和元年10月31日判決は、

当時8歳の児童がヘルメットを着用せずに自転車で横断歩道を横断していたところ、

直進してきた自動車と交通事故を起こしたという事案です。

 

裁判所はここでも、「本件事故当時ヘルメットを装着していなかったと認められるが、

児童のヘルメット装着が定着しているとはいえない情勢に照らすと、この事情は過失割合の認定においては影響を及ぼさない」と判示しました。

 

上記にあげた2つの裁判例を見ると、裁判所は「幼児・児童の自転車運転中のヘルメットの装着は努力義務として明文されているけれども、

実際のところ一般社会に浸透しているとは言えない」ことから、どちらもヘルメットの非着用を過失とすべきではないとしています。

すなわち、裁判所は、努力義務が一般社会に浸透しているかどうかによって、過失の有無を判断していると考えられます。

 

これらの裁判例をそのまま当てはめるならば、今回道路交通法の改正によって、

自転車運転者全員に対してヘルメットの装着が努力義務として明文されましたが、

実際のところヘルメット着用が一般社会に浸透するまでは、ヘルメットの非着用を損害賠償請求における過失とされることはないといえそうです。

着用率が4%にとどまったという警察庁のデータを見ても、損害賠償請求においてヘルメットの着用が問題になることはまだまだ先のように思われます。

 

ただし、いわゆるロードバイクのように、一般的な自転車と比較するとスピードが出るような自転車の場合ですと、

既にヘルメットの着用は比較的一般化しているように思われますから、ヘルメットを着用せずにロードバイクの運転している時に交通事故の被害者となったような場合には、

裁判例の傾向から見ても、過失相殺される可能性は十分にあるといって良いと思われますし、加害者側の弁護士は間違いなく主張してくるでしょう。

 

東京地方裁判所令和4年8月22日判決

東京地方裁判所令和4年8月22日判決では、ロードバイク運転中に交通事故被害に遭った被害者について、

当時ヘルメット着用が条例で努力義務化されていたことに基づき、

「ヘルメットの着用についても、条例上は努力義務に留まるものの、原告が本件事故によって実際に頭部を負傷したことを踏まえると、

ヘルメットを着用していれば、被害を軽減できた可能性も否定できず、原告の過失を考慮する際の事情といえる。」として、

ヘルメットの非着用について被害者側に5の過失を認めています。

(事故態様上は被害者の過失5:加害者の過失95が一般的な交通事故でしたが、本判決では、被害者の過失10:加害者の過失90として認定されました。)

 

この判決を出している東京地方裁判所民事第27部は交通事故を専門に扱っている裁判所であり、この判決の先例的な価値は高いと言えます。

つまり、今後他の裁判所がこの裁判例と似た判決を出す可能性があるということです。

 

この判決のポイントとして、

  • 被害者が運転していた自転車がロードバイクであること(=比較的ヘルメットの着用が一般化している)
  • 条例上既に努力義務として定められていたこと
  • 被害者が頭部を受傷していること

が挙げられます。

 

「被害者が頭部を受傷していること」が要素として上げられているのは、ヘルメットの非着用が直接被害の拡大に寄与しているというためには、

被害者が頭部を受傷している必要があるからです。

 

極端な話をすれば、ヘルメットを着用していないからといって、自転車のスピードが出すぎたり、赤信号を無視したりすることはないですよね?

ヘルメットを着用していないことが、すなわち損害の発生原因となることはほぼないと言っていいでしょう。

 

問題は損害が発生した時に、その発生した損害がより大きくなってしまった原因が被害者にある場合で、その場合はその原因は被害者の過失として考慮されます。

 

つまり、自転車を運転中に交通事故の被害に遭った人が頭を打った時に、ヘルメットを着用していれば被害が小さかったのに、

被害者がヘルメットを着用していなかったせい(=努力義務を履行しなかったせい)で被害が大きくなったということができるときには、

ヘルメットの非着用が被害者の過失として考慮されることは十分にあり得ます。

 

この判例に基づいて考えると、今回の道路交通法の改正により「ヘルメット着用が努力義務として明示され」、

ロードバイク以外の自転車についても「ヘルメット着用が一般化し」、「交通事故被害者が頭部を受傷した」場合は、過失相殺が認められても何ら不思議ではなくなります。

 

自分を守るためにヘルメットはつけましょう(主に死亡や、高次脳機能障害などの重篤な障害の残存を防ぐため)

上で見たように、ヘルメットの非着用は、遠い先になったとしても、いつ過失相殺されるという判例が出てもおかしくないという不安定な位置にあります。

 

今回の道路交通法の改正をきっかけに、被害者が大人であっても、ロードバイク運転中ではなくても、

頭部を受傷している場合には加害者側保険会社の弁護士は間違いなくヘルメットの非着用は過失にあたるという主張をしてくるでしょう。

交通事故被害者専門弁護士としては、もちろん「一般社会に浸透しているとまではいえない」といった主張をして、

ヘルメットの非着用を過失としてはならないという方向に持っていくことにはなりますが

適切な賠償金を確実に受け取るために、交通事故被害に遭った時に後悔しないためにも、損害賠償請求だけをとってもヘルメットは着用しておいた方が無難と言えます。

 

また、ヘルメットを着用していないことで、交通事故被害が発生した時に、損害が拡大することは事実です。

警察庁のデータによれば、自転車運転中の交通事故被害者のうち、ヘルメットを着用していなかった人の死亡率は、ヘルメットを着用していた人の約2.1倍になります。

また、自転車乗車中に亡くなった人の致命傷の56%が頭部です。

頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽より

 

頭部を損傷すると、死亡までいかなくても高次脳機能障害といった重篤な後遺障害が残存する可能性もあります。 

自らの将来を守るためにも、ヘルメットの着用はしておいた方が良いでしょう。

万が一自転車運転中に交通事故被害に遭い、後遺症が残ってしまうような場合には、交通事故被害者専門弁護士に相談しましょう。

弁護士法人小杉法律事務所の交通事故被害者専門弁護士への無料相談は、こちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。

弁護士小杉晴洋の詳しい経歴等はこちら

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