2022年精神障害の新基準【ゲーム症】弁護士の観点から解説(大澤健人)
2022.08.23
活動内容・実績
うつ病・PTSDなどの精神障害については、ICD-10という診断基準に基づいて診断がなされます。
eスポーツが新語となった2018年、ゲーム症(ゲーム障害)がWHOの発行するICD-11に追加されることになり、2022年から適用が始まります。
小杉法律事務所の大澤健人弁護士が、福岡eスポーツフェスタにおける神崎保孝医師(東京大学大学院医学系研究科・民事訴訟事件裁判鑑定人等)の講演に参加してきましたので、当該講演内容を踏まえ、弁護士の目線から、ゲーム症・ゲーム障害について紹介をさせていただきます。
2022年ICD-11に【ゲーム症】が新設適用
eスポーツが新語となった2018年、ゲーム症・ゲーム障害(≠ゲーム依存症)がWHOの発行するICD-11に追加されることになりました。
親が子に対して「ゲームばかりしていないで勉強しなさい」と声をかける場面をドラマや映画などで見聞きしたことがあると思います。
2018年を契機として、ゲームに対する悪いイメージを基に、様々な議論が活発になりました。
18歳未満の学生に対してインターネットやゲームの利用時間を制限する条例まで作られるような状況になっています。(香川県ネット・ゲーム依存症対策条例)
コロナ禍で人との距離が開く中、さらに自宅でゲームをするようになった人も多くなったのではないでしょうか。
なお、ICD-11は、2022年から適用が開始されますが、日本国内で診断基準としての適用はまだされておらず、これから適用されていくことが予想されます。
したがって、今後は、ゲーム症・ゲーム障害という診断がされるようになることが想定されます。
今回は、ゲーム症・ゲーム障害と不登校や休業との関係に着目していきたいと思います。
なお、ゲーム症ではなく「ゲーム依存症」と不登校との関係についてはこちらのページで解説をしております。
ゲーム症とは?
ゲーム症の診断基準(ICD-11)
ゲーム症の診断基準は、大きく言うと、
- ゲームをやめられないというコントロール性
- ゲームをどれだけ優先するかという優先性
- 日常生活等へ与える影響という社会性
の3つの観点から判断されることになります。
ゲーム症は疾患なのか?
ゲーム症・ゲーム障害については、アメリカではモラルパニックではないかとの反論がなされています。
モラルパニックは簡単に言うと魔女狩りのようなことを指します。
「スポーツをすると脳に衝撃がかかり、人体に有害であるため行うべきではない。」「テレビを見ると学力が低下するから見るべきではない。」というような、特定の事項に対する否定的な意見が先行し、それを合理化するために科学的根拠に基づかない理由を提示されることが過去にもありました。
ゲーム症・ゲーム障害についても、ゲームに対するモラルパニックの産物ではないかといわれております。
ICDと対をなす診断基準に、アメリカ精神学会の発行しているDMSというものがあります。
DMS-5では、ゲーム症・ゲーム障害の対象とされるのはオンラインゲームに限定されるとともに正式な疾患ではないと説明されています。
対象が異なるだけではなく、疾患ではないとされているのです。
ゲーム症の原因はゲームのやり過ぎ?いじめ・パワハラなど他の原因を見極めるべき
不登校となっている生徒や、会社を休み続けている社会人の中には、家でゲームばかりしているという人がいます。
2022年8月現在においてはICD-11は日本で適用になっていませんが、今後は、こうした家でゲームばかりしている人たちに対して、ゲーム症・ゲーム障害と診断される人が出てくると予想されます。
ゲーム症・ゲーム障害と診断される人は、客観的に見ると家でひたすらゲームをしているように見えます。
そうすると学校や労働基準監督署などからするとゲームが原因で不登校又は休業している、すなわち学校事故や労働災害はないと判断されることが予想されます。
しかし、逆説的・回顧的に時系列で考えるとその説明は本質をとらえていない可能性があります。
例えば、
- 学校や職場で何か辛いことがあった。
- 学校や職場に行く意思はあるが行こうとすると立ち止まってしまうこと(失敗体験)が続いた。
- 失敗体験が重なることで劣等感や自己嫌悪などを生じた。
- 劣等感や自己嫌悪を紛らわす行動としてゲームをする。
- 以上2~4の行動を繰り返している。
という状況の人も、現在の状況を見ると、家でゲームだけをしているように見えます。
しかし、こういった人がゲームのせいで不登校となったり、会社に行けなくなったりしていると評価するのは本質を見誤っているのではないでしょうか。
感情に押しつぶされないように自分の身を守るための行動としてゲームをしている、ゲームをしていることで精神の均衡を保っているという人に対して、ゲーム症・ゲーム障害と診断することが適切なのでしょうか。
さらに言えば、こういった人たちに対して、ゲームのせいで不登校や休業状態になっているのだからゲームを取り上げるべきと言っていいものなのでしょうか。
本質的には、いじめやパワハラといった学校や職場に存する問題を解消するべきではないでしょうか。
ゲームが先か心理的な負荷が先か、しっかりと原因を見極める必要があると思います。
大澤健人弁護士のゲーム症についての見解(学校事故・労災について)
今後、子供がゲーム症・ゲーム障害と診断されていることで、「不登校の原因はゲームのやり過ぎである」などと主張され、学校の責任やいじめ加害者の責任を免れようとする動きがあるかもしれません。
また、大人であっても、ゲーム症・ゲーム障害と診断されていることで、「休業の原因はゲームのやり過ぎである」などと主張され、労働基準監督署や労働局が労災の適用を認めず、会社もパワハラなどを原因とする休業ではない等と主張してくるといった事態も想定されます。
しかしながら、「学校や職場に行っていないときにゲームをしている=だらけている」と考えることは、ゲームが依存性のあるものである、ゲームばかりしていることは悪いことであるといった偏見に基づいている可能性があります。
丁寧に時系列順に事実関係を分析して、心理的な負荷をかける原因となった事実を特定し、その人にとってゲームがどのように位置づけられているのかを明らかにしていくことが弁護士には求められます。
すなわち、ゲーム症・ゲーム障害と診断されたとしても、ゲームに精神的な拠り所を求めるに至った原因として、学校でのいじめや、会社でのパワハラなどが特定できるのであれば、それはゲーム症・ゲーム障害患者本人の責任によるものではなく、学校・加害生徒・会社の責任によるものとして、損害賠償請求をしていかなければなりません。
小杉法律事務所では、精神科・心療内科・クリニックなどの専門医との医師面談を多く行っており、精神障害に基づく損害賠償請求事例も数多く取り扱っております。
不登校や休業状態となり、家でゲームばかりしているという状況に陥ってしまっている方について、その原因が学校生活でのいじめ・職場でのパワハラに基づく場合、被害者側専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
小杉法律事務所では、無料の法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。