後遺障害等級の解説

骨折 下肢 神経症状

大腿骨の転子部の骨折について(弁護士法人小杉法律事務所監修)

本記事では、股関節と膝関節の間にある大腿骨の骨折のうち、大腿骨の近位部にある転子下の骨折について記載します。

股関節の骨折の詳細はこちらの記事をご覧ください。

大腿骨の骨折全般について確認したい方はこちらをご覧ください。

大腿骨の転子部とは

大腿骨は近位部(股関節に近い)、骨幹部(その間)、遠位部(膝関節に近い)と分類され、近位部はさらに体幹に近い方から、球状の大腿骨骨頭とこれを連結する大腿骨頚部、転子部(てんしぶ)(大転子と小転子)、転子下(てんしか)に分類されます。

大腿骨の転子部はどのような場合に骨折するか

転倒などによる低エネルギー外傷でも発生しうる骨折です。

荷重により骨折部への強力な内反・短縮応力が作用すること、腸骨大腿靱帯の牽引力による転位で整復不良をきたしうることから、骨癒合不全や変形治癒になることがありますが、軟部組織や髄内からの血行が期待できる関節外骨折ですので、大腿骨頚部骨折より骨折治癒には有利だと言われています。

大腿骨頚部骨折の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。

大腿骨転子部骨折の治療について

診察・後遺障害診断

片脚立位および歩行時に股関節へかかる外転筋力は、中殿筋が付着する大転子部に集中し、これが有効に機能しないと骨盤が水平位を保てずに跛行(異常歩行)を呈します。このため転子部骨折の治療は、骨頭骨片と骨幹部骨片を強固に固定し疼痛や下肢長短縮を防ぐだけではなく、大転子部の骨癒合を得て外転筋力が有効に作用する状態に回復させることを目標にします。全身状態が許せば積極的に骨接合術を行い、強固な内固定と解剖学的整復を目指します。(標準整形外科学第15版(医学書院)、827~828頁)

大腿骨の転子部を骨折した場合に発生しうる症状

骨折部の痛み等の神経症状股関節の動かしにくさ跛行(異常歩行)等の症状が発生しえます。

大腿骨の転子部を骨折した場合に認定されうる後遺障害等級

自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予想されます。

神経症状

骨折部位の痛みやしびれ等の症状です。

別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

機能障害

大腿骨転子部の骨折が股関節の動かしにくさに影響を与えている場合に認定される等級です。

別表第二第8級7号 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
別表第二第10級11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
別表第二第12級7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

変形障害

別表第二第7級10号 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残し、常に硬性補装具を必要とするもの
別表第二第8級9号 1下肢に偽関節を残すもの→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すものの、「常に硬性補装具を必要とするもの」以外のもの
別表第二第12級8号 長管骨に変形を残すもの→以下の5つのうちのいずれかに該当する場合。

・大腿骨に変形を残すものであって、その程度が外部から見てわかる程度以上のもの(具体的には、15度以上屈曲して不正ゆ合したもの)

・大腿骨の骨端部にゆ合不全を残すもの

・大腿骨の骨端部のほとんどを欠損したもの

・大腿骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの

・大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上「回旋変形ゆ合」しているもの

この場合、回旋変形ゆ合していることについては、エックス線写真等により明らかに大腿骨の回旋変形ゆ合が認められることを前提として、外旋変形ゆ合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形ゆ合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないことを確認することによって判定します。

短縮傷害

別表第二第8級5号 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
別表第二第10級8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
別表第二第13級8号 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

下肢の短縮については、上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを測定し、健側と比較して、短縮した長さを算出します。

下肢の長さの測定方法の詳細は大腿骨骨幹部骨折の記事をご覧ください。

過成長

小児の骨折などで発生する場合があり、別表第二第8級相当、別表第二第10級相当、別表第二第13級相当の認定可能性があります。

過成長の詳細については大腿部骨幹部骨折の記事をご覧ください。

検査

X線検査は必須です。ただ、単純X線像だけでは大転子部後方の骨折を正確に把握できない症例がありますので、必要に応じてCT検査の実施を相談しましょう。

短縮傷害や過成長が生じることもありますので、懸念があれば患側と健側の下肢の長さを測定し、比較しましょう。

弁護士に相談を

交通事故等の外傷で大腿骨転子部の骨折を受傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、大腿骨転子部骨折の態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。