後遺障害等級の解説

骨折 下肢 神経症状

大腿骨骨幹部骨折について(弁護士法人小杉法律事務所監修)

大腿骨骨幹部(だいたいこつこっかんぶ)とは

大腿骨全体

大腿骨は股関節と膝関節の間にある長管骨ですが、本記事では大腿骨の骨折のうち、大腿骨の骨幹部(中央部)の骨折について整理しています。

大腿骨骨折の全般についてはこちらの記事をご覧ください。

股関節の骨折についてはこちらの記事で整理しています。

大腿骨骨幹部骨折はどのような場合に受傷するか

交通事故、労働災害、スポーツによる受傷が多い骨折です。

大腿骨は人体最大の長管骨で、これに骨折を生じるにはきわめて強い外力の作用が必要(高エネルギー外傷)です。

前方、側方、後方から大腿部に直接力が加わった場合(直達外力)は、横骨折、斜骨折を生じます。回旋力による場合(介達外力)は螺旋骨折になります。骨折後、主に筋肉の作用によって一定の肢位と転位をとります。

大腿骨骨幹部骨折による症状とは

受傷直後から、起立・自動運動不能となり、自発痛が著明です。特有の肢位と変形、短縮が見られ、異常可動性が明らかです。

時間とともに腫脹、皮下出血が増加します。外力の大きさにもよりますが、皮下骨折であっても500~1000mlの出血が起こるため、血圧低下、ショックなどの全身症状を呈することがあります。

大腿骨骨幹部骨折に対する治療

(標準整形外科学第15版(医学書院)、830頁)

大腿骨骨折の治療では、体重支持と歩行のために完全な機能的治癒を得ることが重要です。大腿骨は深い筋層に囲まれて血流がよく、骨癒合しやすい骨です。

骨折部の整復(主に短縮変形)と疼痛軽減を目的として牽引法が手術までの待機期間に行われます。

保存療法

徒手整復とギプス包帯による外固定は整復位を保つことがほとんど不可能なため行われません。牽引法は小児では行われますが、成人例では大腿骨の短縮・回旋変形、膝関節拘縮などの長期安静臥床に伴う苦痛や合併症の問題などから治療として用いられることはほとんどありません。

手術療法

治療期間の短縮、膝関節拘縮の予防などの点から手術療法を行うのが一般的です。内固定法としては、髄内釘固定法(キュンチャー髄内釘など)の最もよい適応だとされます。エンダー釘固定は回旋転位を生じやすい欠点があり、プレート固定は骨折部を大きく展開するたあめ感染のリスクを伴います。

古典的なキュンチャー髄内釘では、回旋や短縮などの骨折部転位を生じることが弱点でしたが、近年、これらを防止するために髄内釘に横止めのねじを加える(横止め髄内釘法)が本骨折の標準的手術法になってきています。

大腿骨骨幹部骨折後に認定されうる後遺障害等級は

自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予想されます。

なお、大腿骨に近い関節は股関節と膝関節ですが、骨幹部の骨折は関節の動きにくさに影響を及ぼしにくいと考えられますので、機能障害での認定は考えにくいと思われます。

神経症状

骨折した箇所に痛みやしびれ等が残存した場合に認定される可能性があります。

別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

変形障害

別表第二第7級10号 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残し、常に硬性補装具を必要とするもの

別表第二第8級9号 1下肢に偽関節を残すもの

→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すものの、「常に硬性補装具を必要とするもの」以外のもの

別表第二第12級8号 長管骨に変形を残すもの

→以下の3つのうちのいずれかに該当する場合。

・大腿骨に変形を残すものであって、その程度が外部から見てわかる程度以上のものです。具体的には、15度以上屈曲して不正ゆ合したもの

・大腿骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの

・大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上「回旋変形ゆ合」しているもの

この場合、回旋変形ゆ合していることについては、エックス線写真等により明らかに大腿骨の回旋変形ゆ合が認められることを前提として、外旋変形ゆ合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形ゆ合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないことを確認することによって判定します。

短縮傷害

別表第二第8級5号 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
別表第二第10級8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
別表第二第13級8号 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

下肢の短縮については、上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを測定し、健側と比較して、短縮した長さを算出します。

この他に、下肢長の測定を行う方法としては、エックス線写真を使用する方法があります。これには、通常のフィルムを貼り合わせる方法と、必要な長さに応じて調節し下肢全体を1枚のフィルムに収めることのできるロールフィルムを使用する方法があります。下肢長に疑問があるときは、このような画像検査資料を取り付けることにより適切な認定を行う必要があります。

過成長

短縮障害とは異なりますが、小児の骨折などでは、骨折を契機として逆に成長が促進され、骨折した側が健側と比較して長くなってしまう、いわゆる過成長とよばれる障害が起こることがあります。過成長については、短縮の場合に準じ、健側と比較した長さの程度によってそれぞれ別表第二第8級相当、別表第二第10級相当、別表第二第13級相当とします。ただし、成長期であることから、認定時期については注意が必要です。

検査

X線検査は必須です。必要に応じてCT検査の実施を相談しましょう。

短縮傷害や過成長が生じることもありますので、懸念があれば患側と健側の下肢の長さを測定し、比較しましょう。

弁護士に相談しましょう

交通事故等の外傷で大腿骨骨幹部の骨折を受傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、大腿骨骨幹部骨折の態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。