骨折 下肢 神経症状
大腿骨骨折について(弁護士法人小杉法律事務所監修)
大腿骨とは
股関節の下にある太ももの骨です。
大まかには、近位部(股関節に近い)、骨幹部(その間)、遠位部(膝関節に近い)と分類され、近位部はさらに体幹に近い方から、球状の大腿骨骨頭とこれを連結する大腿骨頚部、転子部(てんしぶ)(大転子と小転子)、転子下(てんしか)に分類されます。
大腿骨の骨頭は、下肢帯の寛骨の寛骨臼に収まり、位置的にも上からの荷重に耐えられるような配置になっています。
軟骨に覆われる大腿骨骨頭の関節面は球面のほぼ2/3の形態で、その内側部には大腿骨頭靱帯が付着する大腿骨頭窩と呼ばれる陥凹があります。骨頭に続く頚部は断面が楕円形を呈し、前後径のほうが短くなっています。頚部基部の後方には大転子と小転子をつなぐ隆起である転子間稜が走っています。
→股関節の構造の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
大腿骨は近位部では股関節、遠位部では膝関節をそれぞれ構成しています。いずれも下肢の3大関節です。
大腿骨骨折の種類
大腿骨近位部骨折
大腿骨近位部(大腿骨の股関節に近い部分。)は体幹に近い方から、球状の大腿骨骨頭とこれを連結する大腿骨頚部、転子部(てんしぶ)(大転子と小転子)、転子下(てんしか)に分類されます。以下、それぞれの部位の骨折について整理します。
大腿骨頭骨折
主に交通事故などの高エネルギー外傷で発生します。
通常、股関節後方脱臼に伴って発生します。骨頭に付着する円靱帯による牽引と、寛骨臼後縁での剪断力によって骨折を生じます。骨頭骨片は整復が困難なうえ、血行に乏しく、経過中に大腿骨頭壊死をきたして二次性変形性股関節症へ移行することも多いです。
また、骨癒合しにくく、骨癒合不全になりやすい部位でもあります。
大腿骨頚部骨折についてはPipkin(ピプキン)分類が頻用されています。Type I、II、 III、 IVの4分類です。
治療方針
原則は骨頭荷重面の再建になります。まず股関節脱臼の徒手整復を行い、整復が可能で、骨頭骨片の適合性が得られた場合は保存的に治療します。徒手整復が不能な場合は、観血的に整復します。整復後も骨頭骨片の適合性が得られなかった場合は、骨頭骨片の処置を行います。
(標準整形外科学第15版(医学書院)、825~826頁)
外傷性股関節後方脱臼
高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷による受傷が多いです。股関節屈曲位にあるときに前方から強い外力が大腿骨の軸方向に加わると、大腿骨頭は後方へ脱出します。走行中の自動車の座席に座っていて正面衝突した際、膝をダッシュボードに打ち付けた場合など、膝周囲に外力が加わって生じることが多いため、膝周囲にも外傷がないかどうか注意が必要です。診断には単純X線検査、CT画像検査が用いられます。骨頭骨折や大腿骨頚部骨折、寛骨臼骨折を伴うことがあり、その場合はCTが有用です。
→寛骨臼骨折についての詳細はこちらの記事でご確認ください。
大腿骨頚部骨折
交通事故等の高エネルギー外傷はもちろん、転倒などによる低エネルギー外傷でも発生しえます。
大腿骨頚部骨折はきわめて骨癒合しにくい骨折態様だと言われており、治りにくい骨折だと言えます。
→骨折で治りにくい部位についてはこちらの記事で記載しております。
非転位型の骨折でも骨癒合不全になる可能性が高いので、近年では全身状態が許せば積極的に手術を行うことが多いです。若年者の場合は人工骨頭が将来的に再置換に至る可能性を考慮し、極力骨頭を温存して骨接合術を選択するのが日本では一般的です。高齢者の場合、非転位型の骨折には骨接合術が、転位型の骨折では人工股関節・骨頭置換術が行われます。(標準整形外科学第15版(医学書院)、826~827頁)
大腿骨転子部骨折
転倒などによる低エネルギー外傷でも発生しうる骨折です。
→大腿骨転子部骨折の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
大腿骨転子下骨折
主に交通事故などの高エネルギー外傷で発生します。
一般に転子下骨折では腸腰筋・中殿筋・内転筋により高度に転位し、近位骨片が強力に屈曲・外旋・外転するため、転子部骨折よりもはるかに整復が困難で疼痛も強いと言われています。
良好に整復された場合の骨癒合は良好ですが、整復不良例では骨癒合不全が生じやすく、注意が必要です。
大腿骨骨幹部骨折
交通事故、労災事故、スポーツによる受傷が多いです。
→大腿骨骨幹部骨折の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
大腿骨顆上骨折・大腿骨顆部骨折
大腿骨顆上・大腿骨顆部は大腿骨の遠位部(膝関節に近い部位)にあります。大腿骨遠位骨幹部分に過伸展力が加わることで生じます。若年者の外傷の1/3は多発外傷に伴うものであり、膝関節内にも骨折が及びやすく膝関節内の出血や解放骨折につながることも多いです。
→大腿骨顆上骨折・大腿骨顆部骨折の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
大腿骨骨折後に認定されうる後遺障害等級は
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予想されます。
本記事では大腿骨全般の骨折をまとめて説明していますが、骨折部位・種類によって認定されうる等級の種類は変動しますので、ご注意ください。
神経症状
骨折部位に痛み等が残存する場合に認定可能性があります。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
機能障害
大腿骨は近位で股関節、遠位で膝関節とつながっていますので、大腿骨骨折が股関節か膝関節の可動域制限に影響を及ぼしている場合は認定の可能性があります。
また、人工関節・人工骨頭が挿入置換された場合には別の認定基準が準備されています。
別表第二第8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
→以下の2つのうちいずれか。 ・関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの ・人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの |
別表第二第10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
→以下の2つのうちいずれか ・患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限されたもの ・人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下には制限されていないもの |
別表第二第12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
→患側の関節可動域が健側の3/4以下に制限されたもの |
変形障害
別表第二第7級10号 | 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残し、常に硬性補装具を必要とするもの |
別表第二第8級9号 | 1下肢に偽関節を残すもの
→大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すものの、「常に硬性補装具を必要とするもの」以外のもの |
別表第二第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの
→以下の5つのうちのいずれかに該当する場合。 ・大腿骨に変形を残すものであって、その程度が外部から見てわかる程度以上のもの(具体的には、15度以上屈曲して不正ゆ合したもの) ・大腿骨の骨端部にゆ合不全を残すもの ・大腿骨の骨端部のほとんどを欠損したもの ・大腿骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの ・大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上「回旋変形ゆ合」しているもの この場合、回旋変形ゆ合していることについては、エックス線写真等により明らかに大腿骨の回旋変形ゆ合が認められることを前提として、外旋変形ゆ合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形ゆ合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないことを確認することによって判定します。 |
短縮傷害
別表第二第8級5号 | 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
別表第二第10級8号 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
別表第二第13級8号 | 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
下肢の短縮については、上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを測定し、健側と比較して、短縮した長さを算出します。
→下肢の長さの測定方法の詳細はこちらの記事をご覧ください。
過成長
小児の骨折などで発生する場合があり、別表第二第8級相当、別表第二第10級相当、別表第二第13級相当の認定可能性があります。
→過成長に関する等級認定の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
検査
X線検査は必須です。必要に応じてCT検査の実施を相談しましょう。
短縮傷害や過成長が生じることもありますので、懸念があれば患側と健側の下肢の長さを測定し、比較しましょう。
弁護士に相談しましょう
交通事故等の外傷で大腿骨の骨折を受傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、大腿骨骨折の態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。