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逸失利益の計算におけるライプニッツ係数とは?【専門弁護士が解説】

2024.07.01

損害賠償請求

逸失利益

 

  • 誰かに怪我をさせられ、後遺症が残った
  • 事故に遭い、亡くなってしまった

といったような場合に損害賠償請求をするにあたり、

逸失利益という費目が登場します。

 

逸失利益とは、その被害者が事故に遭わなければ将来にわたって得られていたであろう利益のことですが、

その計算においては、ライプニッツ係数という係数をかけることが実務上通例となっています。

 

このライプニッツ係数ですが、逸失利益の計算において考慮すると、額が減ってしまいます。

ではなぜこのライプニッツ係数を考慮することが必要なのか?

そもそもライプニッツ係数とは?

 

損害賠償請求を専門とする弁護士が解説します。

 

ライプニッツ係数とは?

そもそもライプニッツ係数とは何でしょうか?

一言でいえば、中間利息を控除するための係数です。

 

と言っても伝わりにくいでしょうから、より実態に則して言うと、

将来にわたって得ていたであろう利益を現在の価値に引き直すための係数と言えます。

 

この将来にわたって得ていたであろう利益こそ、まさに逸失利益ですから、

逸失利益の計算をもとに見ていきましょう。

 

後遺症が残ってしまった場合の逸失利益(後遺症逸失利益)は、

後遺症逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(に対応するライプニッツ係数)

で計算されます。

 

ここではライプニッツ係数のご説明がメインですから、簡単な説明にとどめますが、

基礎収入とはその人が事故に遭わずに将来にわたってどれくらいの収入を得る能力を持っていたかを、

労働能力喪失率とは後遺症が残ってしまったことでどれくらいの働きにくさが残ってしまったかを、

それぞれ表しています。

 

亡くなってしまった場合の逸失利益(死亡逸失利益)は、

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数(に対応するライプニッツ係数)

で計算されます。

生活費控除率とは、被害者の方が亡くなった場合、利益を得られなくなるのはもちろんですが、

逆に生きていたら費消していたであろう生活費もかからなくなります。

収入のすべてを自由に使えるわけではなく、一部はかならず生活に必要な支出になるわけですから、

その分を差し引いて、より実態に近づけるために考慮されるものです。

 

死亡逸失利益の計算全体についての解説はこちらのページをご覧ください。

 

逸失利益に関するより詳しい解説はこちらのページからご覧ください。

 

ここでライプニッツ係数に話を戻しますと、

ライプニッツ係数はそれぞれ労働能力喪失期間及び就労可能年数「に対応する」とされていることがわかります。

 

労働能力喪失期間と就労可能年数は細かい違いはありますが(後遺症の場合は相当期間の経過によるいわゆる「慣れ」により、

後遺症が残ったことによる働きにくさが就労の全期間に影響を与えない場合があるなど)、大まかには同じです。

 

したがってライプニッツ係数は、逸失利益の計算における期間に関係しているということができます。

実際に、ライプニッツ係数と就労可能年数の関係は表にされています。就労可能年数とライプニッツ係数表(国土交通省)

 

ここからは実際に例を挙げながら見ていきます。

 

例1 基礎収入500万円の30歳男性Aさんが、右目を失明してしまった場合

Aさんは仕事から帰宅している最中に、交通事故に遭い、右目付近を強く打ったことで、右目を失明してしまいました。

交通事故をはじめとする民事損害賠償請求においては、後遺症が残存した場合には、

残存している後遺症の程度を示す後遺障害等級に対応するかたちで労働能力喪失率が決められるのが原則です。

 

右目(1眼)を失明した場合には、「1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの」に該当しますから、

Aさんの後遺障害等級は第8級1号となります。

 

この場合、自動車損害賠償保障法施工令別表「労働能力喪失率表」(国土交通省)をみると、第8級の場合の労働能力喪失率は45%ですから、

Aさんは今回の事故により労働能力を45%喪失したということになります。

 

基本的には労働能力喪失期間は症状固定から67歳までの期間とされますから、30歳のAさんの場合は37年間になります。

このまま計算すれば、Aさんの逸失利益は、500万円×45%×37=8325万円となりそうですが、

37年間に対応するライプニッツ係数は、22.1672ですから、

実務におけるAさんの後遺症逸失利益は、

500万円×45%×22.1672=4987万6200円となります。

 

例2 基礎収入600万円の60歳男性Bさんが亡くなってしまった場合

Bさんは60歳になっても元気に現場で仕事をしている人でしたが、ある日労災に巻き込まれてしまい、亡くなってしまいました。

Bさんは奥様とお子さんとの3人暮らしで、家計はBさんが一人で支えていました。

 

就労可能年数も原則として67歳までとされますが、平均余命の2分の1が67歳までの期間より長い場合には、

平均余命の2分の1が就労可能年数となります。

令和4年簡易生命表(男)(厚生労働省)をみると、60歳男性の平均余命は23.59年です。

23.59÷2=11.795ですから、Bさんの場合は67歳までの期間(7年)より、平均余命の2分の1の方が長いので、

逸失利益の計算はこの11年でされることになります。

 

Bさんは被扶養者が2人ですから、生活費控除率は30%とされることが多いです。

 

このまま計算すれば、Bさんの死亡逸失利益は、600万円×(1-30%)×11年=4620万円となりそうですが、

11年間に対応するライプニッツ係数は9.2526ですから、

実務におけるBさんの死亡逸失利益は、

600万円×(1-30%)×9.2526=3886万0920円となります。

 

例3 15歳の女性Cさんが右手首を骨折し、可動域制限が残ってしまった場合

Cさんは部活動中の事故により右手首を骨折してしまいました。

懸命にリハビリをしましたが、右手首の可動域が左手首の4分の3以下になってしまいました。

 

この時Cさんに認定される後遺障害等級は第12級の6「 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」になります(スポーツ振興センター)。

第12級の場合の労働能力喪失率は14%ですから、Cさんは今回の事故により労働能力を14%喪失したということになります。

 

Cさんは事故時中学三年生で、高校に進学することがほぼ確実でした。

このような場合には、少なくとも働き始めるのは高校卒業時点(18歳)以降になるという考え方になり、

労働能力喪失期間は18歳から67歳までの49年間となります。

 

また、学生の基礎収入は賃金センサスより、産業計企業規模計学歴計男女別全年齢の平均賃金を用いることになります。

 

このまま計算すれば、Cさんの後遺症逸失利益は、394万3500円(令和4年賃金センサスより)×14%×49年=2705万2410円となりそうですが、

この時ライプニッツ係数は、52年(15歳から67歳まで)に対応するライプニッツ係数26.1662-3年(15歳から18歳まで)に対応するライプニッツ係数2.8286=23.3376となり、

実務におけるCさんの後遺症逸失利益は、

394万3500円×14%×23.3376=1288万4456円となります

 

なお、大卒者になる蓋然性がある場合には、基礎収入を大卒者計としたうえで、労働能力喪失期間を22歳から67歳として計算することもあります。

この場合のCさんの後遺症逸失利益は、462万4600円×14%×19.9359(52年に対応するライプニッツ係数26.1662-15歳から22歳までの7年に対応するライプニッツ係数6.2303)=1290万7379円となります。

 

ここまで見てきたように、ライプニッツ係数を考慮すると、単に労働能力喪失期間や就労可能年数を計算式に入れるより、

後遺症逸失利益や死亡逸失利益の額は下がってしまいます。

 

ではなぜこのライプニッツ係数を考慮することが実務上一般化しているのか。

それこそまさに中間利息を控除するためです。

 

ライプニッツ係数を考慮する必要性

先ほどのAさんの例を見てみましょう。

Aさんの基礎収入は500万円でした。

 

つまりAさんは、毎年500万円の収入を得る能力があったということです。

毎年500万円の収入を得るということは、

事故に遭っていなければAさんは1年後に計500万円、2年後に計1000万円、3年後に計1500万円…37年後に計1億8500万円を稼いでいるはずでした。

 

ところが今回事故に遭い右目を失明してしまったことで、事故に遭っていなかったら、というストーリーが消えてしまいます。

Aさんは事故前に有していた収入を得る能力のうち45%を喪失してしまったということになりますから、

今後の人生で稼げる収入は、毎年500万円×(1-45%)=275万円です。

事故に遭ったことで、Aさんは1年後に計275万円、2年後に計550万円、3年後に計825万円…37年後に計1億0175万円しか稼げなくなってしまいました。

 

この事故に遭っていないAさんが将来にわたって稼ぐ1億8500万円と、事故に遭ってしまったAさんが将来にわたって稼ぐ1億0175万円の差額である8325万円が、

まさに逸失利益ということになります。

当たり前ですが、さきほど出てきた500万円×45%×37年と同額です。ただし損害賠償実務においては異なります。

 

それは、損害賠償が一時金による賠償が原則となっていることに理由があります。

最高裁判所第二小法廷昭和62年2月6日判決(集民第150号75頁)では、「損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による
支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当である」としています。

 

一時金による賠償が原則となっているということは、37年後にもらうはずだった収入も、

損害賠償の段階でまとめてもらうということです。

 

この37年後にもらうはずだったが、事故により得られなくなった225万円(500万円×45%)についてみてみましょう。

Aさんは37年後にもらうはずだった225万円を、逸失利益として現在受け取りました。

 

するとAさんはこの225万円を銀行に預けます。この225万円には、民法で定められている法定利率3%の利息が付きますから、

1年後には225万円×103%=231万7500円となります。

そのまた1年後には、今度は231万7500円についての法定利率3%の利息が付き、

231万7500円×103%=238万7025円となります。

これを36年間繰り返すと、225万円×289.8278328%(103%の36乗)=652万1126円となります。

 

つまり、本来であれば37年後に225万円としてもらうはずだったものを今同じ225万円もらってしまうと

37年後には利息が付くことによって、652万1126円になってしまうのです。

これは被害者にとって得が生じてしまいます。

 

したがって、37年後にちょうど225万円になるように調整する必要があり、その調整のための係数がライプニッツ係数です。

36年間資産運用をした場合には、元本の289.8278328%になることになります。

ということは37年後に225万円になるようにするには、225万円を289.8278328%で割ったものを元本にすればよいということになります。

225万円÷289.8278328%=77万6323円です。

77万6323円は、225万円の0.34503243に相当する金額ですから、

 

37年後にちょうど225万円になるような金額(77万6323円)を今受け取るためには、225万円に0.34503243をかけて受け取ればよいということになります。

これがライプニッツ係数です。

 

ただし、逸失利益は労働能力喪失期間または就労可能年数について毎年毎年発生し続けるものですから、

これを、36年後にちょうど225万円になるライプニッツ係数、35年後にちょうど225万円になるライプニッツ係数、34年後にちょうど225万円になるライプニッツ係数、…1年後にちょうど225万円になるライプニッツ係数というように、

全期間について考慮する必要があります。

これを考慮したのが、さきほど出てきた22.1672です。

 

このようにして、37年間にわたって毎年もらうはずの225万円を一度にもらうことで、被害者が得しないように利息を控除するための係数が、ライプニッツ係数なのです。

 

ライプニッツ係数はどうやって決まる?

ではこのライプニッツ係数はどのようにして決まるのでしょうか。

それは、先ほどまでみてきたようなライプニッツ係数を導き出す式に答えがあります。

 

ライプニッツ係数は利息を控除するための係数であり、利息は民法で定められている法定利率3%ということで計算していました。

つまり、ライプニッツ係数は法定利率が変われば変わります。

 

現に令和2年4月1日施行の改正民法の前は、法定利率は5%でしたから、これに合わせてライプニッツ係数が決まっていました。

これが改正民法の施行後は、法定利率3%を前提にライプニッツが決まっています。

 

なお、なぜライプニッツ係数の計算に法定利率を用いるかというのは、

平成11年11月22日に、東京地方裁判所第27部、大阪地方裁判所第15民事部及び名古屋地方裁判所民事第3部が発表した三庁共同提言というものからきています。

三庁共同提言では、民法404条第1項が「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。」とされていることなどを理由に、

逸失利益の算定における中間利息控除の方法は、特段の事情のない限り、年5分(当時の法定利率)の割合によるライプニッツ係数を採用することが相当と判断されています。

 

逸失利益のほかにライプニッツ係数が影響を与えるもの

 

ライプニッツ係数は、将来にわたって得られていたであろう利益を、今まとめて受けとったときに被害者が得をしないようにするための係数でした。

価値を現在に引き直す係数と言い換えることもできるでしょう。

 

したがって、損害賠償請求の費目の中で、将来の損害について考えているものについてはライプニッツ係数が計算式に登場します。

あくまで逸失利益の計算におけるライプニッツ係数をメインにしているため、詳しくは触れませんが、

例えば、

  • 杖の買替が必要になった場合の将来装具費用
  • 症状固定後も治療が必要な場合の将来治療費
  • 平均余命までの介護が必要な場合の将来介護費用
  • おむつなどが継続して必要になった場合の将来雑費
  • 通院を続けなければならない場合の将来の通院交通費

などがあげられます。

ただし、将来装具費用などについては、将来の価格の不確実性などから中間利息控除が行われない(ライプニッツ係数が考慮されない)場合もあります。

(名古屋地方裁判所平成19年1月17日判決(自保ジャーナル1704号2頁)など)

 

まとめ:ライプニッツ係数は逸失利益を現在の価値に引き直すための係数です。

ここまでみてきたように、ライプニッツ係数は将来にわたって得られていたであろう利益を今まとめてもらうことで、

利息分について被害者が得をしてしまうことを防ぐための係数です。

利息分を控除するための係数ですから、ライプニッツ係数は利率によって決まり、その利率は民法の定めている法定利率をもとにしています。

したがって、ライプニッツ係数自体について保険会社が低く設定してきたり、それが弁護士の介入によって変わるといったものではありません。

しかし、ライプニッツ係数がかかわる労働能力喪失期間や就労可能年数、ひいては逸失利益全体の額は、

弁護士の介入によって大きく変わります。

逸失利益の計算について疑問をお抱えの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所の無料法律相談をお受けください。

損害賠償請求専門弁護士がご相談させていただきます。

 

損害賠償請求専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。

弁護士小杉晴洋の詳しい経歴等はこちら

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