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事故で死亡してしまった場合の逸失利益の計算は? 被害者専門弁護士が解説

2024.02.02

お知らせ

損害賠償請求

死亡事故 生活費控除率 逸失利益

裁判所・法律事務所

不幸にも事故による被害者の方が亡くなってしまった場合、

その人が事故に遭わなければ将来にわたって得られていたであろう利益(死亡逸失利益)を相手方に請求することができます。

 

事故被害者の方が死亡された場合に損害賠償の請求を行うことができるのは、

相続人の方や、被扶養者の方になりますが、死亡逸失利益というのは被害者の方がそういった方々の生活を支えていくために遺したものということもできます。

 

そのような想いのこもった死亡逸失利益の額が、相手方保険会社などによって不当に低く支払われてしまうなどといったことがあって良いわけがありません。

このページでは、被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、死亡逸失利益の適切な計算方法について解説します。

 

 

死亡逸失利益の計算式

最高裁判所第三小法廷昭和43年8月27日判決(民事判例集22巻8号1704頁)では、

不法行為によって死亡した者の得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を認定するにあたっては,裁判所は,あらゆる証拠資料を総合し,経験則を活用して,できるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努めるべきであり,蓋然性に疑いがある場合には,被害者側にとって控え目な算定方法を採用すべきであるが,ことがらの性質上将来取得すべき収益の額を完全な正確さをもって定めることは不可能であり,そうかといって,そのために損害の証明が不可能なものとして軽々に損害賠償請求を排斥し去るべきではないのであるから,客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収益の額を算出することができる場合には,その限度で損害の発生を認めなければならないものというべきである。

と判示されています。

つまり、

  • 損害の証明が不可能であると決めつけて簡単に死亡逸失利益を否定することはない
  • 証拠資料を総合し、経験則を活用してできる限り蓋然性のある額を算出するように努める
  • 疑いがある場合は被害者側に控えめな算定をする

というルールのもと、死亡逸失利益の計算は行われます。

 

このルールから導かれている、現在の裁判基準における死亡逸失利益の計算式は、

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

です。(公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編 『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編)』より引用)

 

聞きなれない単語が多いと思いますので、順にご説明します。

 

死亡逸失利益の計算に影響を与える要素① 基礎収入

基礎収入はまさに、死亡逸失利益算定の基礎となる収入です。

冒頭でみたように、死亡逸失利益はその人が事故に遭わなければ得られていた利益のことです。

 

したがって死亡逸失利益の計算に当たっては、できる限り蓋然性のある額を算出するために、

実際に被害者の方が事故前に得ていた収入(利益)が事故後も継続していたら、と仮定して話を進めていきます。

 

では例えば亡くなった被害者の方が学生だった場合はどうでしょうか?

無職だった場合はどうでしょうか?専業主婦だった場合はどうでしょうか?

被害者の方が事故前に収入を得ていなければ則ち死亡逸失利益は全く認められないのでしょうか?

給与を得ている場合から順に、具体例を挙げながらみていきます。

 

給与所得者の死亡逸失利益計算における基礎収入

給与所得者の死亡逸失利益計算における基礎収入は、まさに事故前年の収入とするのが原則です。

支給額もはっきりわかりますし、これほど蓋然性のある数字はありません。

 

ですが、事故前年の収入をそのまま死亡逸失利益の計算の基礎収入とすることが妥当ではないもあります。

たとえば、被害者が若年労働者であった場合です。

若年労働者である場合、そもそも同じ年齢であっても学生の人もいればすでに就職している人もいるということもありますし、

年功序列で徐々に昇格・昇給していくのが自然だともいえます。

 

その被害者の方が事故に遭わなければ得られていた利益を計算するのであれば、

昇格や昇給等も考慮すべきでしょう。

事故前年の収入をそのまま基礎収入にしてしまうと、そういった昇格や昇給が考慮されません。

 

したがって損害賠償請求全般において圧倒的な影響力を誇る、赤い本と呼ばれる『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編)』(公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編)では、「若年労働者(概ね30歳未満)の場合には、全年齢平均の賃金センサスを用いるのを原則とする。」とされています。

この賃金センサスというのは厚生労働省が毎年調査・発表している賃金基本統計調査の結果のことです。

 

仙台地方裁判所平成20年2月27日判決(自保ジャーナル1761号8頁)では、事故時17歳であったアルバイトの男性につき、

就労意欲があることおよびその就労能力の向上も十分に見込まれる年齢であったことから、

当時の賃金センサス男性学歴計全年齢平均の542万7000円を基礎収入として死亡逸失利益の計算をしています。

 

また若年労働者ではない被害者であっても、事故時の現実の収入が、賃金センサスの平均額を下回っていた場合に、

平均賃金を得られる蓋然性があれば、基礎収入を賃金センサスの平均額とすることもあります。

 

金沢地方裁判所平成22年3月25日判決(自保ジャーナル1846号74頁)では、事故時36歳であり、日給の森林組合職員として約336万円の給与を得ていた男性につき、

  • 仕事内容について職場で一定の評価を得ていたこと
  • 日給職員が月給職員に転ずることもあったこと
  • 事故年に基本給が昇給していたこと

などから定期的に昇給する高度の蓋然性があったとして、当時の賃金センサス男性高卒全年齢平均の492万4000円を死亡逸失利益計算の基礎収入としています。

 

このように、給与所得者の死亡逸失利益の計算は、昇格や昇給等も考慮して行わなければなりません。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、就業先の協力を得ることにより、被害者が事故に遭っていなければより多くの収入を得ていたであろうことを立証し、実際の年収よりも100万円以上高い基礎収入を認定させた事例がございます。

 

事業所得者の死亡逸失利益の計算における基礎収入

自営業者、自由業、農林水産業者の方などの事業所得者の死亡逸失利益の計算における基礎収入はどうなるでしょうか?

基本的には、事故前年の確定申告時の申告所得を参考にします。

 

事業所得者の場合、一言で言えば、

売上-(流動経費+固定経費)=所得

となると思いますが、

 

死亡逸失利益の計算においては、この経費の部分を、事故により発生した損害として基礎収入に加算することはできません。

休業損害の算定においては、固定経費は事業の維持・存続のために必要やむを得ないものについては加算することができますが、

将来にわたっての利益を考える場合、亡くなってしまった以上、固定経費についても支出の必要がなくなるものと判断されるので、損害として認められないのが現状です。

 

確定申告をしていない、もしくはしていたが申告している所得の他に所得があったというような場合にはどうなるでしょうか?

確定申告をしないことは公序良俗や信義則に反することではありますが、所得自体がそういったものに反して得られたものでないのであれば、

死亡逸失利益の計算においては申告外所得についても基礎収入に算入することが一般的です。

 

とはいえ裁判所も、もちろん加害者側保険会社も、申告外所得についてそうやすやすと認めてはくれません。

『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編)』(公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編)では、

申告額と実収入が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とする」とされていますが、

この立証については、高度の証明を要すると解されており、会計帳簿や伝票等の積み重ねで一つ一つ立証していなかければなりません。

またこの高度の証明は経費についても同様に必要ですが、経費は記帳や記録が正確に残っていないことも多く、立証が難しいことが多いです。

 

このような場合には、各種統計資料を参考に判断することがあります。

 

申告外所得についての立証が足りなかった場合であっても、

平均賃金が得られる蓋然性の立証が足りた場合には、男女別の賃金センサスを基礎収入とすることがあります。

 

大阪地方裁判所平成18年6月16日判決(自保ジャーナル1668号20頁)では、申告所得が350万円ほどであった男性(27歳)につき、

代金として振り込まれている金額が年間700万円以上あったことから、平均賃金を得る蓋然性が高いと判断され、

男性学歴計全年齢平均賃金の547万8100円が基礎収入とされ、死亡逸失利益の計算がされました。

 

また、事故前年の所得が低い(赤字であった)場合であっても、将来にわたって高い所得を生み出せる蓋然性の証明ができた場合にも、

賃金センサスを基礎収入とすることがあります。

 

大阪地方裁判所平成24年11月27日判決(交通事故民事裁判例集45巻6号1356頁)では、事故前年に新規事業を始めた元新聞販売店経営者の男性(43歳)につき、

新規事業の収入が通算11か月で440万円ほどの赤字であったものの、直近2か月では黒字に転じており、今後増加する見込みがあったことや、

死亡前3年間の収入額は、賃金センサスにおける平均賃金を大きく上回っていたことから、

男性学歴計年齢別平均賃金を基礎収入として、死亡逸失利益の計算がされました。

 

ここまではお一人で事業を営まれている事業所得者の方をイメージしながら見てきていましたが、

事業所得者の中には、ご家族で事業を営まれていたり、従業員を雇われていたり、あるいは物的設備などからの労務以外によって収益を得ている方もいらっしゃいます。

もちろん事業主の方が亡くなってしまうということは事業全体に大きなダメージを与えますが、

裁判所が死亡逸失利益の計算において認めてくれているのは、亡くなった方の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分のみになります。

 

最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決(民事裁判例集22巻8号1549頁)では、

企業主が生命もしくは身体を侵害されたため、その企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、原則として、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきであり、企業主の死亡により廃業のやむなきに至つた場合等特段の事情の存しないかぎり、企業主生存中の従前の収益の全部が企業主の右労務等によつてのみ取得されていたと見ることはできない。したがつて、企業主の死亡にかかわらず企業そのものが存続し、収益をあげているときは、従前の収益の全部が企業主の右労務等によつてのみ取得されたものではないと推定するのが相当である。」

と判示されています。

 

この最高裁判決では、被害者の方が亡くなったことで廃業になるような場合でない限りは、企業全体の収入を基礎収入とすることはできず、

死亡逸失利益の計算の基礎収入とできるのは、あくまで被害者の方本人の労務により得た収益に限るとされています。

 

では実際にこの被害者の方本人の労務により得た収益をどのように算定するかというと、

  • 事故前後の収支状況、営業状況
  • 業態・業種(人脈などが経営に大きな影響を与えるものや、俳優やスポーツ選手など本人の才能により収益が上がる業種)
  • 本人の職務内容や稼働状況
  • 家族や他の従業員の給与額や関与の程度

などをもとに判断がされます。

 

仙台地方裁判所平成2年10月25日判決(自保ジャーナル93号)では、

事故前に妻及び長男とともに農業に従事していた事故時55歳の男性の死亡逸失利益の計算における基礎収入について、

長男が農業に身を入れて従事していたわけではなかったこと、妻が農作物の行商にあたっていて、農作業は手伝い程度であったこと、

被害者は主に農業に従事していたことなどを考慮して、被害者の寄与率を6割とし、全体の所得の6割を本人の基礎収入を計算しています。

 

このように、事業所得者の死亡逸失利益の計算は、実際の所得や寄与率の証明をきちんと行わなければなりません。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、事故時年収が250万円ほどであった男性について、将来的に父親の事業を継ぐことになっていたことを立証し、死亡逸失利益の計算における基礎収入を実収入の倍以上で認定させた事例がございます。

 

 

会社役員の死亡逸失利益の計算における基礎収入

会社役員の報酬は、立証に関する証拠が給与所得者の場合と比較して曖昧であることや、

法人税の負担軽減のために増額されている可能性があること、そして実質的な利益配当部分が含まれていることから、

死亡逸失利益の計算における基礎収入の算定にあたっては問題になることが多いです

(なお、会社役員の方が給与として得ている収入については、給与所得者と同じような考え方になります。)。

 

現在の実務上一般化しているのは、先ほどまでみたような事業所得者の場合と同じように、

役員報酬の中で、被害者本人の労務への対価として支払われていると認められるものに関してのみ、基礎収入とする考え方になります。

 

これは、先ほどみた最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決(民事裁判例集22巻8号1549頁)の判断と同様の趣旨になります。

 

では実際にどうやって労務対価部分がどこかを判断するかというと、

  • 会社の規模(及び同族会社か否か等)
  • 利益状況
  • 本人の地位や職務内容
  • 年齢
  • 役員報酬の額
  • 事故後の報酬額の推移

等を総合考慮して判断することになります。

 

大阪地方裁判所平成24年9月27日判決(交通事故民事裁判例集45巻5号1202頁)では、

同族会社の代表取締役だった男性(45歳)について、事故の当期及び前期とも損失が生じているにもかかわらず、年間合計1000万円を超える役員報酬が計上されていたことから、

役員報酬全額については労務対価として認められないとされたものの、会社の規模や経営状態、役員報酬額などから事故当期の役員報酬の80%が、

死亡逸失利益の計算における基礎収入とされました。

 

このように、会社役員の方の死亡逸失利益の計算における基礎収入は、役員報酬の中でも労務対価と評価される部分に限定されることになります。

 

なお、実質的な個人会社の場合や、小規模の会社であって、被害者の死亡により会社の存続が困難となり、廃業に至ったような場合では、

被害者が死亡したことによって利益配当部分の側面を含む役員報酬の額も減少ないし消滅するわけですから、

そのような場合には実質的に役員報酬の全額が労務対価部分と評価される可能性があります。

 

家事従事者の死亡逸失利益の計算における基礎収入

被害者家族

亡くなった被害者の方が家事従事者であった場合、もちろん家庭においては多くの利益を生み出していることは確かですが、

実質的な収入額として算定するのはかなり困難であろうと思われます。

 

実際に、最高裁判所第二小法廷昭和49年7月19日判決(民事裁判例集28巻5号872頁)が出るまでは、家事従事者の死亡逸失利益を否定する考え方もみられました。

しかし、この判決がでたことで、家事従事者の死亡逸失利益を肯定する見解が判例上確定しています。

 

同判決では以下のように判示されています。

おもうに、結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。のみならず、法律上も、妻の家計支出の節減等によつて蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は- 夫の死亡の際の相続によつて、妻に還元されるのである。 かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。ただ、具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少くないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。

この判決では、家事労働を他人に依頼すれば当然相当の対価の支払いが必要になる以上、家事従事者は財産上の利益を挙げているのであって、

その額(基礎収入)は、現在の社会情勢等にかんがみ、賃金センサスより産業計企業規模計学歴計女性労働者の全年齢平均の賃金額とすべきであるとしています。

 

この判例をみると分かるように、家事に従事者するのは当然に妻であるように考えられています。

この考え方は、まさにこの判決が出された「現在の社会情勢等」にかんがみれば、そうだったのでしょう。

 

しかし、この記事を書いている「現在の社会情勢等」にかんがみると、もはや家事労働は妻がやるというのは当然ではありません。

夫婦が協働して行うものという考え方の方が一般的かと思いますし、専業主夫の方もいらっしゃいます。

時代の変化に応じて、家事従事者の死亡逸失利益の計算における基礎収入を女性労働者全年齢平均の賃金額とすることが相当でない時が来るかもしれません。

 

ところで、いわゆる兼業主婦(家事をしながら仕事もされている方)の場合はどうなるかというと、

女性労働者全年齢平均の賃金額と、お仕事で得られる給与所得とを比較し、どちらか高い方を死亡逸失利益の計算における基礎収入とすることになっています。

 

これはなぜかというと、「有職の主婦は、時間的な制約等から専業主婦と比較して家事労働が質量共に劣るのが通常であり、特別の事情のない限り、家事労働と他の労働を合わせて一人前の労働分として評価するのが相当である」(塩崎勤「主婦の逸失利益」判例タイムズ927号23頁)とされているからです。

 

この考え方が実態に則しているかどうかについては様々な意見があるところかと思われますが、実務上はこの考え方が通底しています。

 

学生・生徒・幼児等の無職者の死亡逸失利益の計算における基礎収入

学生や生徒、幼児等は、亡くなった時に収入を得ていないことが多いです。

したがって、事故に遭わなければ将来にわたってその被害者の方が得ていたであろう利益の算定にあたって、

事故前の収入を参考にするといった方法を取ることができません。

 

ですが、事故に遭わなければ社会人になり、収入を得ていたと思われますから、

死亡逸失利益を0円で計算することは実態に則しているとは言えません。

 

ではどうするかというと、賃金センサスの産業計企業規模計学歴計男女別全年齢平均の賃金額を基礎収入とすることが原則となります。

 

事故時大学生であったような場合には、全年齢平均ではなく大卒者の平均賃金を基礎収入とすることになります。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも事故時10代の大学生であった被害者の死亡逸失利益計算の基礎収入について、大卒平均賃金をとさせた事例がございます。

 

また、例えば進学校に通っていて、大学入学の蓋然性があるような被害者の場合には、

事故時大学生でなくても大卒者の平均賃金を用いる場合があります。

 

東京高等裁判所平成15年2月13日判決(交通事故民事裁判例集36巻1号6頁)では、事故時高校2年生であった男性につき、

勉学に対する意欲があり、大学へ進学するのを当然とする家庭環境(両親が大卒で、姉2人も大卒)であり、

両親も本人も大学進学を希望していたことから、死亡逸失利益の計算における基礎収入を男性大卒全年齢平均賃金としています。

 

男女別全年齢平均を基礎収入とすることが原則とされていると述べましたが、

女子年少者の死亡逸失利益の計算においては、男女計全年齢平均の賃金を基礎収入とすることが一般的です。

これは、男女間の賃金格差が縮小しつつある現代の情勢に鑑みたものですが、

いずれ男女間の賃金格差が無視しても良いレベルまで縮小すれば、全学生・生徒・幼児等の死亡逸失利益の計算において、

男女計全年齢平均の賃金額を基礎収入とすることになる日が来るかもしれません。

 

高齢者の死亡逸失利益の計算における基礎収入

お亡くなりになった方が高齢者であった場合、既にご退職されていることも少なくありません。

死亡逸失利益はその人が事故に遭わなければ将来にわたって得られていたであろう利益のことですから、

事故前に収入を得ていなかった場合には認められないのが基本的な考え方です。

 

ですが逆に言えば事故前に収入を得ていた人は当然として、収入を得る蓋然性があった人については認められる場合があります。

 

大阪高等裁判所平成16年2月17日判決(自保ジャーナル1533号14頁)では、一人暮らしで亡くなった当時働いていなかった女性(74歳)について、

農作業や仕出し屋でアルバイトとして働くこともあったこと、就労の意思も能力もあったことなどから、就労の(収入を得る)蓋然性を認め、

女性学歴計65歳以上平均の賃金を基礎としました。ただし、就労の機会と得られる収入が少ないことを考慮して、その5割を、

死亡逸失利益の計算における基礎収入としています。

 

このようにお亡くなりなった方が高齢者で、事故時働いておられなかった場合でも、

収入を得る蓋然性があれば、死亡逸失利益の請求ができる場合があります。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、事故時79歳であった女性について、家事従事者であることを認めさせ、専業主婦としての死亡逸失利益満額を認めさせた事例がございます。

 

無職者(失業者)の死亡逸失利益の計算における基礎収入

お亡くなりになった方が事故時無職であった場合についても、基本的には死亡逸失利益は認められません。

ですが、労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性があった場合には死亡逸失利益が認められる場合があります。

 

その場合の基礎収入は、特段の事情の無い限り失業前の収入を参考とするとされていますが、

失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、男女別の賃金センサスを用いることもあります。

 

横浜地方裁判所平成18年2月13日判決(自保ジャーナル1671号13頁)では、亡くなった当時32歳であった男性について、

大学中退後、職を変えながらも断続的に相当程度の収入を得ていたことから、男性高専短大卒全年齢平均の賃金501万8300円が、

死亡逸失利益の計算における基礎収入として認定されました。

 

このようにお亡くなりになった方が事故時失業者であっても、就労の蓋然性があった場合には死亡逸失利益が認められることがあります。

 

年金は死亡逸失利益の計算における基礎収入にはできないの?

ところで、年金収入については死亡逸失利益の計算における基礎収入にはできないのでしょうか?

年金収入は、受給権者の死亡によりその支給が停止されますから、将来にわたって得られるはずだったのに事故に遭い、亡くなったことで得られなくなった利益であるということができるように思われます。

 

ですが、年金は死亡逸失利益として認められる場合と認められない場合があり、これは支給される年金の性質により異なります。

 

例えば、国民年金(老齢年金)については、最高裁判所第三小法廷平成5年9月21日判決(判例時報1476号120頁)で、

被害者本人の「損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められるから、

他人の不法行為により死亡した者の得べかりし国民年金は、その逸失利益として相続人が相続によりこれを取得し、加害者に対してその賠償を請求できるものと解するのが相当である」とされています。

 

一方で最高裁判所平成12年11月14日判決(判例時報1732号78頁)では、遺族厚生年金及び市議会議員共済会の遺族年金について、

受給権者自身の生計の維持を目的とした給付であることなどを理由として、死亡逸失利益として認めませんでした。

 

このように、その年金が被害者(受給権者)本人の生計の維持を目的としたものである場合は否定される傾向にあり、その家族(相続人)の生計維持も含む性質がある場合は肯定される傾向にあるようです。

 

また、事故時に受給が始まっていない年金についても、退職年金などについては一部認められる可能性があります。

また、受給資格を満たす程度に年金を納付していた被害者の場合は、一部国民年金を認められる場合もあります。

 

 

ここまで見てきたように、死亡逸失利益の計算における基礎収入は、

被害者の方が事故に遭わなければ歩んでいた道のりに可能な限り近づけるように、事故前の生活様式に応じて変化します。

だからこそ、小さな証拠を積み重ねて適切な基礎収入を主張することが必要になります。

 

死亡逸失利益の計算に影響を与える要素② 生活費控除率

 

生活費控除率とは、事故により被害者が亡くなってしまった場合、将来にわたって利益を得られなくなることはもちろんですが、

逆に将来にわたって費消するはずであった生活費がかからなくなるという側面も同時に持っています。

 

この生活費について控除しなければ、実態に則した計算とは言えません。

そこで、被害者の事故前の生活様式に応じた控除率をかけることになります。

 

一家の支柱(被扶養者1人の場合) 生活費控除率:40%
一家の支柱(被扶養者2人の場合) 生活費控除率:30%
女性(主婦・独身・幼児等を含む) 生活費控除率:30%
男性(独身・幼児等を含む) 生活費控除率:50%

という画一的に定められた数字を適用することが多いですが、

被害者の具体的な事故前の生活様式に応じて変更されるべきです。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、

独身男性であるが生活費控除率30%で死亡逸失利益を認めさせた解決事例

独身男性(子どもも無し)であるが彼女の陳述書を元に生活費控除率40%で死亡逸失利益を認めさせた解決事例

80代半ばの年金収入について生活費控除率30%で死亡逸失利益を認めさせた解決事例

などがございます。

 

詳しくは以下のページで解説しておりますので、興味をお持ちいただけましたらご覧ください。

死亡逸失利益計算における【生活費控除率】とは?被害者専門弁護士が解説!

 

死亡逸失利益の計算に影響を与える要素③ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

最後の死亡逸失利益の計算に影響を与える要素は、就労可能年数に対応するライプニッツ係数です。

 

まず就労可能年数についてみていきましょう。

 

何度も出てきていますが、死亡逸失利益は、その人が事故に遭わなければ将来にわたって得られていたであろう利益のことであり、

被害者が事故時に就労していたことがいわば前提になっています。

 

健康寿命という考え方があるように、ご存命の期間すべてが就労可能なわけではありません。

給与所得者の場合は退職という制度もあります。

また逆に、亡くなった方が10歳に満たないような場合は、その時から収入が発生しているわけではなく、

就職等をしたタイミングから収入が発生します。

 

このように、単に亡くなった年齢から平均余命までの期間を死亡逸失利益の計算において基礎とするのは適切ではないですから、

これらを考慮したものを就労可能年数といい、死亡逸失利益の計算の基礎とします。

 

原則として亡くなった年齢から67歳までの期間とされますが、

67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる場合や、67歳以上の場合には、平均余命の2分の1が就労可能年数とされます。

 

また、未就労者の場合には原則として就労の始期が18歳とされますが、大学卒業を前提とする場合には大学卒業予定時となります。

 

年金については就労可能年数という考え方は適切ではないので、平均余命までとなります。

 

京都地方裁判所平成7年12月21日判決(自保ジャーナル1146号2頁)では、亡くなった当時56歳であった開業医の男性について、70歳まで稼働可能であったと認め、

就労可能年数を70歳までで計算しています。

このように、職種や健康状態、能力等の要素を考慮して判断することもあります。

 

 

次に、ライプニッツ係数についてみていきます。

ライプニッツ係数とは、中間利息の控除のための係数です。

 

損害賠償金の支払は一時金(まとめて支給する)が原則ですから、

将来にわたって、何年もかけて取得するはずであった死亡逸失利益についても、賠償金支払の段階でまとめて受け取ることになります。

これを資産運用すると利息分を得してしまいますから、その利息分を控除(差し引き)するために考慮されているのがこのライプニッツ係数です。

 

例えば、事故時年収700万円の50歳の会社員(妻・子2人あり)の方が亡くなった場合、

生活費控除率を30%、就労可能年数を67歳までの17年間として計算すると、

この方の死亡逸失利益は、700万円×(1-30%)×17=8330万円ということになります。

この方は今後、死亡事故に遭わなければ、生活費を除き、17年間かけてこの8330万円を得るはずだったわけです。

 

ところがご家族が損害賠償金の支払を受けたあと、これをすべて資産運用に回したとすると、

毎年法定利率3%の利息がつくことになります。

 

この利息分は、嫌な言い方をすれば事故に遭ったことで、一度に賠償金を受け取ったことによってもらいすぎたものになりますから、

ちょうど17年後に死亡逸失利益の額が8330万円になるように調整する必要があり、ライプニッツ係数をかけることが実務上一般化しています。

 

ライプニッツ係数については以下のページで詳しく解説しておりますので、よろしければご覧ください。

逸失利益の計算におけるライプニッツ係数とは?【専門弁護士が解説】

 

まとめ:ご家族の未来を守るために、死亡逸失利益の計算は適切に行う必要があります。

ここまで見てきたように、死亡逸失利益の計算は、実務上は基礎収入×生活費控除率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数という計算式1つで表されます。

しかし、その中には被害者ご本人はもちろん、ご家族の生活態様や将来のことなど、お一人お一人のお気持ちが無数に含まれているはずです。

そういったお気持ちを適切に賠償額に反映し、ご家族の未来を守ることが、死亡事故被害者専門弁護士の使命であると思っています。

 

弁護士法人小杉法律事務所は、被害者の無言の叫びを受け止め、ご家族の未来を守るために、

死亡事故被害者専門弁護士が誠心誠意ご対応させていただきます。

 

ご家族が死亡事故に遭われ、ご不安をお抱えの方は、是非一度弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

弁護士法人小杉法律事務所における死亡事故の解決についてはこちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。

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