死亡事故の解決実績

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【死亡事故】裁判で過失割合を逆転させ慰謝料など損害賠償金約3000万円の判決獲得

Bさん 神奈川県横浜市・20代・男性・新聞配達員

死亡事故解決事例のポイント

① 保険会社提示0円⇒約3000万円の判決
② 現地調査や科学捜査研究所との連携により加害者側提出の鑑定書を排斥し過失割合逆転(8割⇒4割)
③ 独身男性で死亡慰謝料2700万円
④ 独身男性で生活費控除率40%
⑤ 実際の収入より高い基礎収入額の認定
⑥ どの弁護士にも受任を断られ続けた事案
⑦ 画期的な判決であるとして判例雑誌掲載(自保ジャーナル1913号135頁)

 

相談前(死亡事故の内容・直進車と右折車の事故の過失割合の基準・どの弁護士にも断られた経緯)

Bさんは、独身の男性でしたが、彼女もおり、新聞配達の仕事をしながら幸せに暮らしていました。

交通事故歴もなく、真面目な青年です。
ある日、いつものように原動機付自転車に乗り、朝刊を配達していました。

しかしながら、Bさんが交差点を右折する際、対向から走ってきたバイクに衝突し、帰らぬ人となってしまいます。

事故の相手方の保険会社は、Bさんの過失が8割であるから、自賠責保険金以上に支払うものはないとして、一切の賠償に応じようとしませんでした。

Bさんのお父さんは、Bさんの過失が8割という点にどうしても納得がいきませんでした。

Bさんは臆病な性格で、交通事故を怖がっていましたし、日頃安全運転を心掛けていたことを誰よりも知っていたので、Bさんが大きな過失のある交通事故を起こすとは考えられなかったのです。

Bさんのお父さんは、交通事故の真相を確かめようと、弁護士に相談することにしました。

しかし、「別冊判例タイムズ38号という、裁判官も参照する過失割合についての本があり、そこには右折車の過失8割:直進車の過失2割と書いてある、息子さんの方が悪い事故だ」という回答しか得られません。

何軒法律事務所を回っても、どこも同じ回答でした。

 

法律相談(別冊判例タイムズ38号の過失割合基準を画一的にあてはめるべきではない)

Bさんのお父さんが来所され、法律相談を実施しました。

お父さんに生前のBさんの話をうかがいましたが、弱者や動物に優しい、とても好青年であることが分かりました。

直進車と右折車の交通事故ですと、直進車が優先というのは他の弁護士が回答したとおりなのですが、この判例タイムズ38号という本には、「本書記載の基本の過失相殺率は,各基準表に記載した典型的な事案を前提としたものにすぎず,実際の事件においては,個々の事故態様に応じた柔軟な解決が望まれる。本書を利用する際には,各事故態様の個別性を踏まえ,基準化された基本の過失相殺率とその修正要素の背景にある考え方を適切に応用していくことが,民事交通事件の適切な解決に不可欠なものであり,過失相殺率の認定基準の画一的な運用は避けるべきである。」(東京地裁民事交通訴訟研究会編 別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂5版はしがき引用)と記されていて、事故内容によっては、この本に定められた割合以外での過失割合が認められることを、この本自体が認めています。

そこで、過失割合を覆す具体的な根拠はなかったものの、依頼を受けることにし、Bさんのお父さんと共に戦うことにしました。

 

民事裁判 横浜地方裁判所第6民事部(交通部)

1 民事訴訟提起前の過失割合調査

(1)交通事故現場の検証(見通しがとても良い道路であること・直進車両が速度を出しやすい状況となっていることが判明する)

受任後、すぐに交通事故の現場に向かいました。

交通事故現場は、直線道路が長く続く幹線道路で、だいぶ先まで見える、見通しがとても良い道路でした。

大きな道路で、直線道路が長く続くことから、制限速度(時速50㎞)以上にスピードを出しやすい道路となっていて、特に新聞配達の時間帯である深夜・早朝は、通行車両も少ないことから、飛ばしている車やバイクが見られました。

これだけ見通しの良い道路ですと、Bさんとしては直進してくるバイクの存在に気付いたはずで、臆病で慎重なBさんが、右折を強行するとは考えられませんでした。

と同時に、交通事故の現場を見ることで、直進車両の速度オーバーが事故の原因ではないかという仮説が生まれます。

 

(2)科学捜査研究所の見解(直進バイクに速度超過の事実があったことの判明)

調査したところ、直進車の運転手は不起訴処分となっていました。

不起訴処分の場合は、当事者の供述調書の開示が認められておらず、実況見分調書くらいしか入手できないことになっています。

検察への連絡をする中で、当該死亡事故の捜査に、科学捜査研究所(通称「科捜研」)が関わっていたことが判明します。

科捜研の担当者とアポイントをとることができたため、話をうかがってみると、この事故では、直進バイクが時速100㎞程度で走行していたとのことでした。

そこで、科捜研の見解を根拠に民事訴訟を提起しました。

 

2 民事裁判(横浜地方裁判所第6民事部(交通部))

過失割合(右折車40:直進車60)

(1)被告の主張(右折車である原告側に大きな過失がある・鑑定意見も同意見である・死亡事故となってしまったのはヘルメットの性質や装着方法のせいである)

被告からは、被告に速度超過があったとしても、時速100㎞とする主張には根拠がなく、せいぜい時速10㎞超程度の速度オーバーであり、右折進行車である原告側に大きな過失がある事案であるとの主張がなされました。

被告の主張の裏付けとして鑑定意見書も提出され、物理の公式など専門的な説明がなされた上で、原告側に大きな過失のある事案であるとの結論が記されていました。

また、死亡という大きな結果となってしまったのは、原告のヘルメットの性質のせいであり、また、装着方法が不十分であったことに起因するとの主張もなされました。

 

(2)原告の主張(Bさんは亡くなっているので尋問することなく結審)

被告側から難解な鑑定意見書が提出され、それに対する反論の主張を行いました。

過失割合で争いのあるケースというのは、通常は尋問が行われるのですが、本件は死亡事故でBさんの言葉を聞くことはできないので、尋問は行われずに、結審することになりました。

 

(3)科学捜査研究所からの意見取寄せ(直進車の速度が時速100㎞~115㎞であること・その時速計算の根拠・弁論再開)

被告側提出の鑑定意見書は難解なもので、素人には理解困難な内容となっていました。

そこで、提訴前に話をしていた科学捜査研究所の方に、この鑑定意見書を送ってみることにしました。

そうしたところ、当該鑑定意見書は内容が間違っている旨の報告書を作成してくださり、当方に送ってくれました。

科学捜査研究所の報告書によれば、直進車の速度は時速100㎞~115㎞であり、その時速を割り出した根拠を明確に示してくれています。

まさか科学捜査研究所が報告書を作成してくれるとは思っていなかったので、弁論を終結していて、判決待ちの状態でしたが、横浜地方裁判所に連絡を入れ、弁論再開の申立てを行いました。

横浜地方裁判所の裁判官は、弁論の再開を認めてくれ、科学捜査研究所の報告書を証拠として提出することができました。

 

(4)判決内容(科学捜査研究所の報告書を主たる根拠として右折車4:直進車6の過失割合の認定)

被告提出の鑑定意見書における速度の推計は相当でないから採用することができず、科学捜査研究所の報告書における速度の推計は、パラメータ(変数)に本件の各証拠から認められる数値を代入してされたものであり、相当であるとして、直進バイクの速度が時速100㎞~115㎞であったと推認され、制限速度である時速50㎞をはるかに超過していたとの認定がなされました。

また、Bさんは、道路交通法第71条の4のヘルメット着用義務に違反しておらず,道路交通法施行規則9条の5第1号~第7号の乗車用ヘルメットの基準を満たしたヘルメットを装着していたとの認定がなされました。

結果、当初Bさんの過失8割と主張されていたものが、判決ではBさんの過失4割と認定され、直進バイクの方が悪いという認定を獲得することができました。

 

死亡慰謝料(独身男性で裁判基準の死亡慰謝料額を超える2700万円認定)

独身男性の死亡事故の場合、裁判基準の死亡慰謝料額は2000万円~2500万円とされていますが、Bさんのケースでは、この裁判基準を超える2700万円の精神的苦痛の慰謝料額が認められました。

 

死亡逸失利益(実年収以上の基礎収入額認定・独身男性であるが生活費控除率40%の認定)

(1)基礎収入額

Bさんは享年24歳の若年労働者であったことから、当時は所得が低かったとしても、本件死亡事故がなければ、賃金センサス男子学歴計全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が高いとの認定を得ることができ、基礎収入額は約523万円と認定されました。

 

(2)生活費控除率(彼女の陳述書立証が奏功し、独身男性の基準である50%ではなく40%の認定)

同棲していた彼女からお話をお伺いして、彼女の陳述書を証拠として提出していたことから、これが採用され、独身男性の基準である生活費控除率50%ではなく、生活費控除率40%の認定を得ることに成功しました。

 

合計約3000万円の賠償金獲得(相手方保険会社の0円提示から大幅に賠償額上昇)

損害賠償金合計2797万7878円の判決を得ることができ(遅延損害金を含めると約3200万円以上)、自賠責保険金を含めると総額約6000万円での解決となりました。

 

弁護士小杉晴洋のコメント:死亡事故では早々にあきらめずに故人を信じて戦うべき

裁判基準以上の慰謝料や逸失利益の獲得は、立証の技術もありますが、本件で最も大きかったのは過失割合の判断です。

この点については、科学捜査研究所の協力なしに勝ち取ることは困難でした。

その意味では、運も味方したといえる判決ではありますが、運を引き入れたのは、どんなに弁護士に断られようとも諦めようとしなかったBさんのお父さんの執念にあると思います。

死亡事故というのは、被害者本人の話を聴くことができなくなりますので、被害者のことをよく知るご遺族が、信じてあげるしかありません。

死亡事故は特に、人の命が奪われる重大事故ですので、最後まで戦い抜く覚悟と努力が必要です。

すべてのケースで立証が上手くとは限りませんが、あきらめずに戦い続ければ、本件のように、故人の無念が晴らせるようなケースもあります。

現地調査、警察への聞き込みなど、できることはすべてやることが大切です。

裁判が終わり、ご自宅にお線香をあげに伺いましたが、Bさんのお父さんは晴れ晴れとした表情をされていました。

 

ご家族が交通事故でお亡くなりになられたという方については、無料の法律相談を実施しておりますので、お問い合わせください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。