後遺障害等級の認定を「2か所」に依頼し、より高い認定で示談解決!
交通事故被害者Lさん(50代・男性・会社員・福岡県在住)
交通事故 保険金請求 後遺症・後遺障害
交通事故の後遺障害等級の認定は、基本的に加害者側の自賠責保険に依頼します。
しかし、今回ご紹介するLさん(50代・男性・会社員・福岡県在住)の事例では、
加害者側の自賠責保険ではない「2か所」に後遺障害等級の認定を依頼することにより、より高い認定で解決ができました。
その「2か所」とはどこなのか?どういう仕組みでより高い認定で示談ができたのか?弁護士が解説します。
小杉法律事務所では、後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。
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Lさんの事例の概要
交通事故の態様
Lさんは、福岡県福津市の道路を原動機付自転車で走行していました。
すると突然左側の路地から自転車に乗った子どもが飛び出してきました。
驚いたLさんは急ブレーキをかけましたが、バランスを崩してしまい、右肘から地面に倒れてしまいました。
子どもに怪我はありませんでしたが、Lさんはブレーキを握った拍子に左手薬指をブレーキレバーで強く挟み、左手薬指(左環指末節骨骨折)を骨折し、
右肘から地面に倒れたことで右肘(右橈骨骨頭)を骨折してしまいました。
実務における交通事故の過失割合の検討については、『別冊判例タイムズ第38号』(株式会社判例タイムズ社発行)という、
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準をまとめた書籍が圧倒的な権威を誇っています。
『別冊判例タイムズ第38号』には全338の類型がありますが、Lさんの事例は【242】図に該当するものでした。
各図について、基本的な過失割合が定められており、【242】図からすると、Lさんの過失は75%もありました。(相手の子どもの過失は25%)
治療の状況
福津市内の病院でレントゲンを撮影したところ骨折が判明し、
右肘については約3週間のギプス固定、左手薬指については約1か月の固定を余儀なくされました。
相手の子どものご両親が、個人賠償責任保険(※)に加入していたので、相手の過失分の25%分の治療費について、相手方保険会社が支払ってくれました。
※ 個人賠償責任保険とは、「個人またはその家族が、日常生活で誤って他人にケガをさせてしまったり、他人のモノを壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害を補償する保険です。」(一般社団法人日本損害保険協会ホームページより引用)
残りの75%分(Lさん自身の過失分)については、社会保険を利用し、自費での通院を続けていました。
ギプス固定を終了した以後も通院を続けましたが、約1年後に、相手方保険会社から、25%分の治療費対応について、打ち切りを宣告されました。
交通事故の相手方が治療費の対応をするのは、基本的に症状固定を迎えるまでです。
症状固定とは、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」をいいます(『労災補償 障害認定必携』(一般財団法人 労災サポートセンター発行)より引用)。
簡単に言うと、「これ以上治療を続けても症状が改善しないと思われる時点」のことです。
この時点で残存しており、かつ将来にわたっても改善が困難と見込まれる症状のことを後遺症というわけなのですが、
これ以上治療を続けても症状が改善しない=これ以上治療をする意味がない=相手方が支払う意味(義務)もないというわけです。
症状固定は医師が決定する事項ですが、治療費対応を早く打ち切ることができれば、
それだけ相手方保険会社は支払う治療費が少なくなるわけですから、相手方保険会社はできるだけ治療費対応を早く打ち切ろうとします。
しかし、Lさんの場合には、医師も症状固定を迎えているとの見解を持っていたので、
特に治療費延長の交渉等をすることなく、後遺障害診断書の作成に移りました。
後遺障害等級の申請について、弁護士に依頼したいと考えたLさんは、
後遺症に詳しい弁護士を探して小杉法律事務所に辿り着きました。
弁護士木村治枝による法律相談
Lさんからご相談を受けた弁護士木村治枝は、大きく分けて2つのポイントに重点を置きながら法律相談を行いました。
①現在の症状&治療状況など
このポイントに重点を置いた理由は、後遺障害等級の認定のためです。
後遺障害等級の認定にあたって最も大切なのは症状固定時に残存している症状です。
後遺障害等級の認定は、後遺症(=症状固定時に残存している症状)について行われるわけですから当たり前ですね。
弁護士木村治枝は、Lさんの自覚症状と治療状況、交通事故の発生の状況などを詳しく聞く中で、
Lさんに認定されうる後遺障害等級の見立てをたてました。
認定された後遺障害等級は、最終的に獲得する示談金の額に大きな影響を与えます。
後遺障害等級の見立てがたつと、最終的に獲得する示談金の額の見立てをたてることができるようになります。
Lさんは症状固定を迎えた時、
- 右腕(肘)を真っすぐ伸ばすことができない
- 左手薬指に痛み、痺れがあり、第一関節を曲げることができない
といった後遺症を残していました。
弁護士木村治枝は、
右肘を真っすぐ伸ばすことができないという後遺症については、
後遺障害等級第12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に該当し、
左手薬指の痛み・痺れについては、
後遺障害等級第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し、
これらを併合して、併合第11級まで認められる可能性があると考えました。
②Lさんを取り巻く保険関係
Lさんは、過失が75%ありますから、Lさんの方が怪我が大きいとはいえ、形式上は加害者です。(自己の過失が50%を超えるため)
単に相手方保険会社に対してだけ損害賠償請求を行うような被害者側の事例とは異なり、Lさん自身が加入している保険(任意保険)も把握する必要があります。
Lさん自身が加入している保険の内容によっては、Lさんの任意保険からも保険金を受け取れる可能性があるからです。
Lさんに任意保険の内容について確認していただいたところ、自損傷害特約という特約が付いていることが判明しました。
この自損傷害特約により、Lさんは大きく得をすることになりました(その理由は後述)。
Lさんから①②を中心に、ご事情をお伺いした弁護士木村治枝は、弁護士に依頼した方が得であることをLさんにご説明しました。
Lさんにもご納得の上、委任していただくことができました。
小杉法律事務所では、依頼者の方の個別具体的なご事情を正確に聴取した上であらゆる可能性についてご説明し、
ご納得の上で委任していただくという法律相談を行っています。
交通事故・後遺症などでご不安をお抱えの方は、ぜひ一度小杉法律事務所の後遺症被害者専門弁護士による無料相談をお受けください。
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自損傷害特約によって得をした理由とは?
先ほど、Lさんは自損傷害特約を付帯していたことにより、大きく得をすることになったとお伝えしました。
その理由を一言で言うと、「自損傷害特約により支払われる保険金は、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除されない(損益相殺の対象とならない)から」です。
これだけ読んでも全く意味が分からないと思いますので、少しずつ説明していきます。
まず、自損傷害特約により支払われる保険金(自損事故保険金)が損害賠償請求権の額から控除されないことについては、
東京高等裁判所昭和59年5月31日判決(判時1121・49)により判示されています。
「自損事故保険金の額は、実際に生じた損害の額とはかかわりなく、それぞれ定額とされているうえ、保険約款上、商法六六二条所定の保険者代位の規定が排除されていることが明らかである。そこで、これらの点に照らし考えると、右保険金は生命保険金とほぼ同じ法的性格を有するものと認められ、…、これによりその受領額の限度で損害賠償額から控除されて、損害賠償債権の消滅をきたすものというわけではないものと解するのが相当である。」
ここで、「右保険金(自損事故保険金)は生命保険金とほぼ同じ法的性格を有するものと認められ」という部分に着目しましょう。
生命保険金とほぼ同じ法的性格を有しているから、自損事故保険金は損害賠償請求権の額から控除されないわけですから、
生命保険金がどういった法的性格を有しているかを確認する必要があります。
生命保険金の法的性格とは?
生命保険金の法的性格については、最高裁判所第2小法廷昭和39年9月25日判決(民集18・7・1528 判時385・51)で判示されています。
(自損傷害特約について判示した東京高等裁判所昭和59年5月31日判決より20年前)
「生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、たまたま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはないと解するのが相当である。」
先ほどの生命保険金の法的性格とは、「すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきもの」という部分です。
生命保険とは、「急激・偶然・外来の事故によりケガをした結果、死亡した場合などに保険金が支払われる保険です」(一般社団法人 日本損害保険協会ホームページより引用)。
この「急激・偶然・外来の事故」の原因(=不法行為の原因)が何であろうと、
定額で保険金の支払を受けることができます。
つまり生命保険を契約する人からすれば、生命保険は「交通事故」による損害が発生した時に、それをてん補する目的で契約するものではありません。
生命保険契約の目的は、自身が何らかの原因で死亡した場合などに、まとまった金額を家族のような保険金請求権者に遺すためであり、その目的をいつか達成するために、
日々保険料を積み立てているというのが、一般的生命保険契約者の方が持つイメージだと思います。
交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権 | 交通事故により被った損害をてん補するための権利
⇒マイナスを0にするための権利 |
生命保険契約者(及び保険金請求権者)が生命保険に対して有する保険金請求権 | (生命保険契約者が亡くなった際に)保険金請求権者の生活の安定を図るための権利
⇒0をプラスにするための権利 |
そうすると、交通事故に遭った際の、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権と、死亡した場合の生命保険への保険金請求権は、
その性質を異にしますから、一緒に扱ってはいけない(=生命保険金を被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除してはいけない)ということになります。
そして、自損傷害特約は生命保険とほぼ同じ法的性格を有しているわけですから、自損事故保険金は、
被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除してはいけないということになります。
生命保険とほぼ同じ法的性格を有しているかどうかは、具体的には
- 実際に生じた損害の額とはかかわりなく定額で支払われるか
- 保険者代位の規定が排除されているか
といったポイントに注意してみると分かります。
自損傷害特約の他に傷害保険金についても、生命保険とほぼ同じ法的性格を有しているため、
被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除されないとされています。(最高裁判所第1小法廷昭和55年5月1日判決(判時971・102))
(私的加入保険でいうと、搭乗者傷害保険金も、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除されないとされています(最高裁判所第2小法廷平成7年1月30日判決(判時1524・48))が、
搭乗者傷害保険金については、生命保険とほぼ同じ法的性格を有しているから、という理由ではない別の理由でそれが認められています。
ここではその理由は割愛します。)
実際の約款上の自損傷害特約の規定はどうなっている?
実際に約款上の自損傷害特約の規定がどうなっているか見てみましょう。
今回は、三井住友海上火災保険株式会社 GK車の保険 家庭用自動車総合保険の約款を見ていきます。
特約3.傷害に関する特約 第2条(保険金を支払う場合)
「⑴当社は次のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害を被り、その直接の結果として死亡した場合であって、それによってその被保険者に生じた損害に対して自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)第3条(自動車損害賠償責任)に基づく損害賠償請求権が発生しないときは、この特約に従い、被保険者の法定相続人に死亡保険金を支払います。
①ご契約のお車の運行に起因する事故
②ご契約のお車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災、爆発またはご契約のお車の落下。ただし、被保険者がご契約のお車の正規の乗車措置またはその装置のある室内に搭乗中である場合に限ります。
⑵当社は⑴①または②のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が傷害を被り、その直接の結果として、普通保険約款別表1の1または別表1の2に掲げる後遺障害が生じた場合であって、それによってその被保険者に生じた損害に対して自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)第3条(自動車損害賠償責任)に基づく損害賠償請求権が発生しないときは、この特約に従い被保険者に後遺障害保険金を支払います。
⑶当社は⑴①または②のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が傷害を被り、その直接の結果として、治療を要し、かつ、入院または通院した場合であって、それによってその被保険者に生じた損害に対して自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)第3条(自動車損害賠償責任)に基づく損害賠償請求権が発生しないときは、この特約に従い被保険者に医療保険金を支払います。」
自動車損害賠償保障法第3条に基づく損害賠償請求権が発生しないときというのは、
自賠責保険に加入している車両との間で発生した交通事故ではないということです。
文字のとおり、専ら自損事故の場合を想定している特約といえるでしょう。
第5条(支払保険金)
「⑴1回の事故につき、被保険者1名に対し当社の支払う死亡保険金の額は、それぞれ1,500万円とします。
⑶1回の事故につき、被保険者1名に対し当社の支払う後遺障害保険金の額は、それぞれ保険金支払額とします。
⑹1回の事故につき、被保険者1名に対し当社の支払う医療保険金の額は、それぞれ次の額とします。
①入院又は通院した治療日数の合計が5日以上の場合
医療保険金(5日以上入通院保険金)=別表2に規定する額
② ①以外で、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に入院又は通院した場合
医療保険金(5日未満入通院保険金)=5,000円」
これを見て分かるように、支払保険金の額は、約款で既に金額が決まっています(定額)。
第10条(代位)
「当社が自損傷害保険金を支払った場合であっても、被保険者またはその法定相続人がその傷害に対して第三者に対して有する損害賠償請求権は、当社に移転しません。」
この約款では、保険者代位の規定が排除されていることが明示されていますね。
保険者代位とは、保険会社が被保険者に対して保険金を支払った場合に、その保険金の額を限度として、
第三者に対して有する損害賠償請求権が保険会社に移転することを言います。
たとえば、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額が1000万円、
被害者が契約している人身傷害保険が支払う保険金の額が500万円であるとします。
被害者は、加害者に対して1000万円の損害賠償を請求する前に、人身傷害保険にまず500万円の保険金の支払を請求しました。
人身傷害保険はその請求に基づき、被害者に対して500万円をお支払します。
すると、この人身傷害保険が支払った500万円分について、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権が移転します。
人身傷害保険は、「あなた(加害者)の代わりに被害者に500万円を支払ったのだから、私にその500万円を支払ってください」ということができるわけです。
そして、被害者は、もともと加害者に対して有していた損害賠償請求権の額1000万円のうち500万円を既に受け取っていますから、
加害者に対して請求できるのは残りの500万円ということになります。
これが保険者代位の仕組みであり、保険者代位がされる場合は必ず約款に規定があり、保険者代位について被保険者が合意する必要があります。
先ほど見た第10条では、保険者代位をしないことが明示されていました。
以上から、自損事故保険金が、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額から控除されないことが分かりました。
Lさんが得をした理由
ここまでの話を踏まえると、
Lさんが得をした理由はとっても簡単です。
Lさんが受け取った自損事故保険金は、相手の子どもに対してLさんが有する損害賠償請求権の額から控除されません。
なぜなら相手の子どもが加入していた保険は、個人賠償責任保険であり、
今回のLさんの事例では自動車損害賠償保障法第3条に基づく損害賠償請求権が発生していないからです。
つまりLさんは、まず自損傷害特約によりLさんご自身が加入していた保険から自損事故保険金を受け取ることができ、
それを受け取っていないことにして相手の子どもにも、発生した損害の25%(相手の子ども)の過失分の損害賠償を請求できます。
発生した損害は1つなのに、「2か所」からお金(保険金・損害賠償金)を受け取ることができるわけですね。
今回のLさんの事例は、損害賠償請求権の相手方がいるにもかかわらず自損傷害特約を利用できたという稀なケースです。
ご自身が交通事故に遭われた際もこの自損傷害特約を利用できるかは、保険会社担当者や弁護士に確認することをおすすめします。
なぜ「2か所」に後遺障害等級認定の申請をした?
通常の交通事故の後遺障害等級認定の申請は「1か所」にしかしない
今回後遺障害等級認定の申請をした「2か所」とは、
- Lさんの任意保険会社(自損傷害特約付帯保険の会社)
- 相手の子どもの個人賠償責任保険会社
です。
一方、通常の交通事故の後遺障害等級認定の申請は、一見すると3か所に対して行えます。
- 任意保険会社
- 加害者側保険会社
- (加害者側の)自賠責保険会社
ですが、これらは実質1か所です。
任意保険会社や加害者側保険会社に対して行った後遺障害等級認定の申請も、
書類は(加害者側の)自賠責保険会社へ送られます。
(加害者側の)自賠責保険会社による後遺障害等級の認定ができる時は、ここでしか認定しません。
なぜなら、任意保険会社も加害者側保険会社も、保険金や損害賠償金を支払った後、
(加害者側の)自賠責保険会社に求償を行うからです。
先ほどご説明した、保険者代位に基づく請求を、自賠責保険会社宛に行うということです。
その際、仮に自賠責保険会社で認定された後遺障害等級より高い後遺障害等級で保険金や損害賠償金を支払っていた場合、
自賠責保険会社は求償に応じません。
自賠責保険会社からすれば、自賠責保険会社が認定した後遺障害等級以上に重い後遺症は残存していませんから、
残存していないはずの後遺症について認定された後遺障害等級に基づく支払い部分については、払う義務がありません。
そうすると、その差額分については任意保険会社や加害者側保険会社の手出しになってしまいますから、
加害者側の自賠責保険会社による後遺障害等級の認定ができる時は、
任意保険会社も加害者側保険会社も、自賠責保険会社に書類を送り、そこで認定してもらうことになります。
自賠責保険会社への後遺障害等級認定の申請は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という、
交通事故により残存した後遺症の、等級認定を専門に行っている機関において調査されます。
この自賠責損害調査事務所は、認定された等級に伴って実際に保険金を支払うことになる任意保険会社や、
損害賠償金を支払うことになる加害者側保険会社とは異なり、第三者として後遺障害等級の認定をすることができます。
中立かつ公正な等級認定を期待できますね。
交通事故の被害者からしても、保険会社からしても、自賠責保険会社に後遺障害等級認定の申請をしない理由はありません。
(なお、保険会社が行う自賠責への後遺障害等級認定の申請を「事前認定」、
被害者が自身で直接行う自賠責への後遺障害等級認定の申請を「被害者請求」といいますが、
小杉法律事務所では、原則「被害者請求」を行っています。
「事前認定」では、保険会社が提出してくれないような有意な医師の意見書などを、被害者請求では提出することができるからです。)
なぜ今回は自賠責への後遺障害等級認定の申請をしなかったのか?
なぜ今回のLさんの事例では自賠責への後遺障害等級認定の申請をしなかったのか?
それは、できなかったからです。
Lさんが交通事故を起こした相手方は、自転車に乗っていた子どもです。
自動車損害賠償保障法にいう「自動車」とは、第2条より「道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。」とされていますから、
自転車に乗っている相手との交通事故で、加害者側の自賠責保険会社は登場しません。
ところで、本件交通事故においては、Lさんの過失は75%ですから、形式的には加害者です。
そして、Lさんは原動機付自転車に乗っていましたから、Lさんの加入している自賠責保険への後遺障害等級認定の申請が出来そうに思われます。
しかし、実際にはできません。
それは、自賠責保険は、自動車損害賠償責任保険であり、自動車で損害を発生させてしまった際に賠償金を支払うために加入する保険だからです。
どういうことかというと、Lさんが加入している自賠責保険はLさんのためというよりは、Lさんが交通事故で損害を発生させてしまった人のため、
今回の交通事故で言えば相手の子どものための保険です。
つまり、Lさんが加入している自賠責保険の後遺障害等級認定は、Lさんではなく相手の子どもが申請した時にだけ実施されます。
ですので、今回の交通事故では、Lさんは自賠責への後遺障害等級認定の申請はできませんでした。
自賠責以外に後遺障害等級認定の申請をする場合の注意点
自賠責により認定された後遺障害等級は、それだけで大きな証拠になります。
示談交渉や裁判の場においては、「自賠責保険により後遺障害等級第12級9号が認定されているのだから、
後遺症逸失利益や後遺症慰謝料は、第12級9号に該当する後遺症が残存したものとして計算してください。」
と主張することができるようになり、基本的には相手方もその判断に従います。
ですが今回は自賠責に後遺障害等級認定の申請はできません。
この場合、取ることができる選択肢は3つです。
- 後遺障害等級認定を経ずに示談交渉する
- Lさんの任意保険会社に後遺障害等級認定を依頼する
- 相手の子どもの個人賠償責任保険会社に後遺障害等級認定を依頼する
1の選択肢は有って無いようなものです。
後遺障害等級認定を経ずに、示談交渉の場で「Lさんには後遺障害等級併合第11級に該当するような後遺症が残存しているんだ!」
と主張しても、相手方が認めてくれるわけがありません。
自損傷害特約に基づく保険金請求も、認定された後遺障害等級に応じて保険金が支払われる以上、
後遺障害等級の認定を受けずに保険金の請求をしても後遺症は残存していないものとされてしまいます。
一方で、2や3の選択肢が万能かというとそうではありません。
保険会社は営利企業ですから、利潤を大きくすることを目的としています。
保険会社の利潤はとっても単純です。
「保険契約者から集めた保険料の総額-支払った保険金の総額=利潤」
つまり、保険会社はできるだけ保険金を支払いたくないというのが本音です。
ここで、後遺障害等級が認定されるとどうなるかを考えてみましょう。
後遺障害等級が認定されると、その認定された等級に基づいて保険金が支払われたり、
示談交渉が進んだりします。
当然、重い・より上位の後遺障害等級が認定されると、それだけ後遺症逸失利益や後遺症慰謝料の額は高くなりますから、
支払う保険金や損害賠償金の額も大きくなります。
ということは、保険会社はできるだけ低い後遺障害等級を認定すれば、より利潤を大きくできます。
これが、2や3の選択肢が万能でない理由です。
自賠責損害調査事務所のように、中立かつ公正で、適切な後遺障害等級の認定を期待できません。
そこで、弁護士木村治枝は、2・3の選択肢を両方用いることにしました。
どちらの保険会社にも申請することで、適切な後遺障害等級の認定がされる可能性を上げるためでした。
保険会社による後遺障害等級の認定
任意保険会社による後遺障害等級の認定
弁護士木村治枝が、事前に想定していたLさんに認定されるであろう適切な後遺障害等級は、
- 後遺障害等級第12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(右肘の可動域制限について)
- 後遺障害等級第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」(左手薬指の痛み・痺れについて)
の2つを併合した、併合第11級でした。
後遺障害等級第12級以上の等級が2つ以上残存する場合には、併合されて重い方の等級が1つ繰り上がります。
しかし、任意保険会社により認定された後遺障害等級は、後遺障害等級第12級6号だけでした。
つまり、左手薬指の痛み・痺れについては、後遺障害等級第12級13号にも、後遺障害等級第14級9号「局部に神経症状を残すもの」にも、
該当しないと判断されてしまいました。
これでは適切な後遺障害等級の認定が為されたとは言えません。
そこで、相手方保険会社に対しても後遺障害等級認定の申請を行いました。
相手方保険会社による後遺障害等級の認定
まぅたく同じ書類を相手方保険会社に対しても提出し、同じく後遺障害等級の認定を申請したところ、
相手方保険会社により認定された後遺障害等級は併合第11級でした。
任意保険会社が認定した右肘についての後遺障害等級第12級6号だけでなく、
該当しないと判断された左手薬指についての後遺障害等級第12級13号も認定されたのです。
実は、相手方保険会社に対して提出した書類は、相手方保険会社から自賠責損害調査事務所に送られていました。
保険会社が有料の依頼をすることで、自賠責損害調査事務所が後遺障害等級の判断だけをしてくれるサービスがあり、
相手方保険会社はそれを利用していたのです。
自賠責損害調査事務所による中立かつ公正な判断がされた結果、併合第11級という適切な後遺障害等級が認定されました。
これで、相手方保険会社とは、併合第11級に該当する後遺症が残存しているという前提で示談交渉を進めて行くことができます。
任意保険会社に対して再度後遺障害等級の認定を要請し、判断を覆す!
しかし、任意保険会社が現時点で認定している後遺障害等級はあくまで第12級6号だけです。
このまま任意保険会社への保険金請求をしてしまうと、Lさんに残存している後遺症は、
後遺障害等級第12級6号に該当するもののみであるという前提で話が進んでしまいます。
そこで、弁護士木村治枝は、「相手方保険会社(から依頼を受けた自賠責損害調査事務所)が併合第11級を認定した」という
証拠を持って、再度、任意保険会社に対して後遺障害等級の認定を要請をしました。
すると、任意保険会社も判断を覆し、Lさんの後遺症について後遺障害等級併合第11級を認定してくれました。
もし、再認定を経ずに保険金請求をしていたら?
もし再認定を経ずに保険金請求していたらどうなっていたでしょうか。
自損傷害特約に基づいて支払われる保険金の額は、後遺障害等級に応じて決定されます。
多くの保険会社(三井住友海上火災保険株式会社・損害保険ジャパン株式会社・東京海上日動火災保険株式会社など)では、
後遺障害等級第11級の場合は210万円が、後遺障害等級第12級の場合は145万円が支払われることになっています。
つまり、再認定を経ずに保険金の請求をしていると、65万円もの差が出てしまっていたのです。
実際にLさんの身体に残存している後遺症は変わらないのに、適切な後遺障害等級の認定がされるかされないかだけで、
これだけ金額に開きが出てしまいます。
今回は相手方保険会社の方が適切な後遺障害等級の認定をしてくれましたが、
仮に相手方保険会社の方が低い等級の認定をしていた場合には、後遺症逸失利益や後遺症慰謝料の額も小さくなってしまいますので、
これ以上の金額の差が出ていたと思われます。
今回相手方保険会社から支払われた金額は、実際にLさんに発生した損害の25%分(100%-Lさんの過失75%)の、
約400万円でした。
自損傷害特約に基づいて支払われる保険金は、相手方から支払われる損害賠償金から控除されない(損益相殺の対象とならない)ので、
約400万円+210万円=約610万円を獲得することができました。
2か所の等級認定機関に、後遺障害等級の認定を申請するというのは珍しいケースですので、
交通事故を専門に扱っている弁護士でないとできなかったと思われます。
依頼者の声(交通事故被害者Lさん(50代・男性・会社員・福岡県在住))
自分の過失が大きかったので、自損傷害特約からもらえる保険金だけで終わると思っていましたが、
相手方保険会社からも400万円近い損害賠償金をもらうことができて、びっくりしました。
木村弁護士は適切な後遺障害等級の認定のために精一杯尽力してくださり、
分かりやすい説明もしてくださったりと、本当に木村弁護士に依頼してよかったと思います。
結果にも、ご対応にもとても満足しています。
弁護士木村治枝のコメント:適切な後遺障害等級の認定のために全力を尽くします
今回の事例は、相手方がいる交通事故であるにもかかわらず、自損傷害特約を利用できたという稀有な事例でした。
自損傷害特約の仕組みや、判例法理を理解していなければ、相手方保険会社への損害賠償請求だけで終わっていたかもしれません。
また、認定された後遺障害等級は、全体で受け取ることが金額を大きく左右します。
後遺障害等級が認定されたから良かった、ではなく、適切な後遺障害等級が認定されるために全力を尽くした結果、
今回のLさんのような解決ができたと思います。
今回のような解決は、交通事故や後遺症・後遺障害等級を熟知した弁護士でなければできません。
交通事故でお困りの方は、ぜひ一度小杉法律事務所の法律相談をお受けください。
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