上肢 神経症状
橈骨神経麻痺(弁護士法人小杉法律事務所監修)
この記事では、末梢神経の一つである橈骨神経が損傷して発生する麻痺症状等について整理しています。
→末梢神経損傷一般についてはこちらの記事で整理しております。
末梢神経が何か、運動麻痺や感覚障害がどのようなものか、ティネル徴候や筋電図等の検査、神経剥離術等の手術法の詳細等は↑の記事でご確認いただければ幸いです。
橈骨神経とは
橈骨神経は腕神経叢に由来する末梢神経の一つです。
腕神経叢の一部がわき(腋)の下付近でさらに腋窩神経と分かれ、その先が橈骨神経になります。
橈骨神経の運動性の繊維は、橈骨神経本幹から出る筋枝や後骨間神経により、上腕~前腕後面の伸筋を支配します。
感覚性の繊維は、上腕の後面、上腕下部の外側面、前腕の後面、手背面の撓側の皮膚に分布します。背側指神経などです。
橈骨神経麻痺は障害部位によって症状等が異なります。
上腕骨橈骨神経溝での障害による疾患は橈骨神経高位麻痺とか、単に橈骨神経麻痺ともよばれます。
フローゼのアーケードでの障害による疾患は橈骨神経低位麻痺とか、後骨間神経麻痺と呼ばれます。
※上腕骨橈骨神経溝
上腕骨の後面のうち中央の1/3を上内側から下外側に走る浅い溝のことを言います。ざっくりですが、上腕骨の骨幹部です。
※フローゼのアーケード(Frohse’s arcade)
橈骨神経は、腕橈骨筋の内側(上腕部外側)を下行し、肘付近で浅枝(感覚枝)と深枝(運動枝)に分岐します。深枝は回外筋の浅層と深層の間を走行し前腕部背側にでて後骨間神経と名前を変えます。この、後骨間神経が回外筋に入る入口部分をフローゼのアーケードと言います。ざっくり言えば、肘関節の少し下の部分です。
※絞扼性神経障害(こうやくせいしんけいしょうがい)
末梢神経損傷のうち閉鎖性損傷の一つです。骨折や習慣的な足組み、睡眠中の腕枕等の圧迫、ガングリオンや腫瘍等でおこります。
橈骨神経麻痺の症状
先ほど整理した損傷部位に従って、次のように分類できます。
後骨間神経麻痺(橈骨神経低位麻痺)(フローゼのアーケードでの損傷)
運動麻痺について
尺側手根伸筋、手指及び手関節の伸筋の障害 | 下垂指(MP関節伸展障害)
・全指のMP関節に伸展障害がみられます。 ・手関節の背屈(伸展)は可能です。 |
感覚障害について
ほぼありません。
橈骨神経麻痺(橈骨神経高位麻痺)のような感覚障害がわずかに認められることもあります。 |
橈骨神経麻痺(橈骨神経高位麻痺)(橈骨神経溝や腋窩部などでの損傷)
運動麻痺について
腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、手指及び手関節の伸筋の障害 | 下垂手
・手関節の背屈(伸展)障害および全指のMP関節の伸展障害により手が下垂します。 |
感覚障害について
母指、示指、中指の背側や、手背の撓側の軽度のしびれ、疼痛 |
※MP関節:中手指節関節。指の付け根の関節。
橈骨神経麻痺の原因
骨折、切創などによる橈骨神経への直接損傷、上肢への外力、腫瘍などによる神経への圧迫によって発生(絞扼性神経障害)します。
外傷では上腕骨骨折(特に上腕骨骨幹部骨折)や肘周辺の外傷が原因になります。
非外傷では腕枕等の長時間の不良肢位が原因になります。
※発生原因が不明な突発性橈骨神経麻痺も存在しますのでご注意ください。
橈骨神経麻痺の検査
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、468~469頁)
Tinel徴候(ティネル徴候)
橈骨神経の走行に沿ってティネル徴候が認められるか検査します。
神経伝導検査
橈骨神経伝導速度、支配筋の複合活動電位の低下、消失を証明します。
麻痺筋の筋電図
麻痺発生後3週間以降に検査します。神経再支配の有無を調べます。
MRI
後骨間神経麻痺が疑われる場合には、肘関節部分のMRIを行い、フローゼのアーケード付近にガングリオンなどの腫瘍がないか調べます。
治療方針
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、469頁)
開放損傷
橈骨神経縫合や神経移植が適用になりますので、直ちに専門病院で手術を受けさせるべきだと言われます。
非開放性麻痺
橈骨神経への非開放性麻痺は、発症から少なくとも3か月間は経過観察します。
経過観察では、ティネル徴候の位置とその抹消への進行、麻痺筋力の回復、筋電図による神経再支配の有無などを確認します。
経過観察中に麻痺の自然回復も期待できます。
後骨間神経麻痺で、発症後3か月たっても神経回復がみられない場合、発症後6か月までに神経剥離術を行います。それ以降では腱移行術が適用になります。
認定されうる後遺障害等級
損傷部位の痛みやしびれ等で神経症状、麻痺により関節に機能障害が残存すれば機能障害としての認定がありえます。
→橈骨神経麻痺で認定されうる後遺障害等級の詳細については末梢神経損傷一般の記事で整理しております。
弁護士に相談を
交通事故や労災事故等で受傷し、橈骨神経を損傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、損傷の部位や態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。