後遺障害等級の解説

上肢 神経症状

尺骨神経(弁護士法人小杉法律事務所監修)

この記事では、末梢神経である尺骨神経の損傷について整理しています。

末梢神経損傷一般についてはこちらの記事で整理しています。

尺骨神経とは

尺骨神経は腕神経叢に由来し、上腕では内側~肘の内側背面を通り、前腕では尺骨に沿って走行する神経です。

腕神経叢損傷の詳細はこちらの記事をご覧ください。

運動性の神経線維は、尺骨神経本幹から出る筋枝により、主に前腕尺側の筋肉(尺側手根屈筋、深指屈筋など)を支配し、深枝から出る筋枝により、手内在筋である骨間筋、虫様筋、小指球筋などを支配します。

感覚性の神経線維は、手掌面と手背面の尺側の皮膚に分布します。浅枝から出る掌側指神経、掌枝、手背枝などです。

尺骨神経は肘部で肘部管を通過しますが、尺骨神経が肘部管で障害されると肘部管症候群(尺骨神経高位麻痺)手首尺側のギヨン(Guyon)管(尺骨神経管)で障害されるとギヨン管症候群(尺骨神経低位麻痺)となります。

肘部管 オズボーン(Osborne)靱帯、滑車上肘靱帯、尺骨神経溝などで構成
ギヨン管(尺骨神経管) 屈筋支帯、掌側手根靱帯、豆状骨などで構成

尺骨神経麻痺の原因

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、473頁)

外傷性麻痺と絞扼性麻痺があります。

外傷性麻痺 肢の打撲、圧座、牽引や開放創、肩・肘・手関節の脱臼や骨折等で生じます。
絞扼性麻痺 肘関節や手関節近傍で、周囲の変形した骨、肥厚変性した靱帯や筋膜などにより、神経が慢性的に圧迫、刺激を受けて生じます。

尺骨神経障害の症状

障害部位によって異なります。

ギヨン管症候群(尺骨神経低位麻痺)

運動麻痺について

骨間筋、小指球筋、虫様筋、母指内転筋などの障害が発生 ・手指を伸展させると、環指、小指のMP関節は過伸展しますが、PIP関節・DIP関節は屈曲します。鉤爪手変形。

・母指内転筋の筋力低下(フロマン徴候)

・ギヨン管症候群の場合、環指・小指の深指屈筋腱の筋力低下は見られません。

感覚障害について

・環指尺側1/2と小指、手背尺側の感覚障害

・ギヨン管症候群の場合は手背測の感覚低下は生じません。

肘部管症候群(尺骨神経高位麻痺)

運動麻痺について

骨間筋、小指球筋、虫様筋、母指内転筋、深指屈筋(環指・小指)、尺側手根屈筋などの障害が発生 ・手指を伸展させると、環指、小指のMP関節は過伸展しますが、PIP関節・DIP関節は屈曲します。鉤爪手変形。

・母指内転筋の筋力低下(フロマン徴候)

感覚障害について

・環指尺側1/2と小指、手背尺側の感覚障害

フロマン(Froment)徴候:母指と示指で紙をつまませて引っ張ると母指内転筋不全を代償するために母指IP関節が屈曲します。

手指の関節:(MP関節、PIP関節、DIP関節)。母指IP関節は、末節骨と基節骨の間の関節。

尺骨神経損傷の検査

損傷高位がどこかによって異なります。

肘部管症候群(尺骨神経高位麻痺)

徒手検査

(標準整形外科学第15版(医学書院)、479頁)

肘部管でTinel徴候が陽性になることが多いです。

誘発テストとしては肘屈曲テスト(elbow flexion test)(肘関節を最大屈曲位で保持するとしびれが増強する)があります。

画像検査

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、474頁)

X線検査は、通常の肘関節2方向に加え、尺骨神経溝撮影も行い、変形性肘関節症変化や肘関節の骨性アライメントを確認します。

疼痛の強い症例ではガングリオンなどを疑いMRIや超音波検査をすることもあります。

神経伝導検査および筋電図検査

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、474頁)

肘部における尺骨神経の伝導ブロックを確定診断します。

臨床所見による診断を確定するために行います。

肘部管をはさんだ範囲で伝導速度の遅延が認められれば確定診断できると言われています。

ギヨン管症候群(尺骨神経低位麻痺)

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、500頁)

画像所見はX線像で手関節・手根管の変形や骨折の有無を確認し、MRI超音波でガングリオンなどの占拠性病変を確認します。

電気生理学的診断は確定診断のために有用で、尺側神経伝導検査を行い遠位潜時の延長と振幅の低下を確認しギヨン管部っでの尺側神経伝導障害を診断します。

認定されうる後遺障害等級

神経損傷に起因する痛みやしびれ等の神経症状手指の動きにくさ(機能障害)等で認定可能性があります。

認定可能性のある後遺障害の詳細についてはこちらの記事で整理しております。

医学知識が豊富な小杉法律事務所の弁護士に相談を

交通事故や労災事故等で受傷し、尺骨神経を損傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、損傷の部位や態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。