後遺障害等級の解説

醜状障害 上肢 神経症状

デグロービング損傷(弁護士法人小杉法律事務所監修)

本記事では、手袋状剥皮損傷(デグロービング損傷)について整理しています。

受傷状況によっては末梢神経損傷や骨折等を合併する可能性があり、注意が必要です。

末梢神経損傷一般についてはこちらの記事で整理しています。

デグロービング損傷とは

交通事故や労災事故などで、回転するタイヤや機械に巻き込まれ、皮膚と皮下組織が強い牽引力によって筋組織から剥脱されて生じる損傷のことを、皮膚剥脱創、剥皮創といいます。

手が巻き込まれ、皮膚全体が手袋状に剥脱された手袋状剥皮損傷(デグロービング損傷)、指輪により指の皮膚が剥脱された指輪損傷は皮膚剥脱創の一種です。

デグロービング損傷も指輪損傷も手や手指の損傷ですが、「皮膚剥脱創」自体はその他部位(手首より近位の上肢や足や足指等含む下肢)にも発生しえますが、本記事では以下、手袋状剥皮損傷(デグロービング損傷)について整理していきます。

原因

交通事故で回転するタイヤに巻き込まれる、労災事故で機械に巻き込まれる、その他鋭利な刃物や強力な外力で皮膚及び皮下組織が剝ぎ取られて発生します。

症状

皮膚を損傷するだけでなく、骨折、神経、腱、血管の合併損傷が生じる恐れがあります。

損傷部位の疼痛や、損傷部位より末梢の神経麻痺、重度の場合は指の切断・欠損などの障害も考えられます。

末梢神経損傷一般についてはこちらの記事で整理しています。

検査

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、514頁)

単純X線検査

受傷態様によっては骨折を伴うこともあります。前腕遠位に創が及ぶ場合、肘関節まで撮影します。

CT

骨折を合併する場合に、単純X線検査では判読できない小骨片を確認できます。

治療

剥脱した皮膚は挫滅が強く、血行障害を生じていることが多いです。壊死する可能性が高い場合は植皮や有茎皮弁などで被覆します。

保存療法の適用はなく、手術療法が適応になります。

損傷の範囲に応じて皮膚の修復、血管の修復、骨折への対応等がなされます。

指先までの完全皮膚剥脱か、皮膚剥脱を伴った完全引き抜き切断の場合、まずは再接着を試みます。末節骨を切除して指の短縮を考慮することもあります。

(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、514頁)

皮膚移植術

皮膚の欠損が大きく、縫合による閉鎖が不可能な創に対して行われます。

移植する皮膚に動静脈が含まれなければ植皮、含まれれば皮弁と言い、皮膚を切離せず欠損部位に隣接した部位から移動させて移植するのを有茎皮弁、皮膚を栄養血管とともに切離して移植するのを遊離皮弁と言います。

後遺障害等級

損傷部位や範囲によってケースバイケースですが、本記事では手指についての後遺障害等級について整理します。

機能障害と欠損障害については、どの指が、どこの関節で、というのが重要な要素になりますので、↓図と一緒にご確認ください。

手指の構造や骨折による後遺障害等はこちらでも整理しております。

神経症状

損傷部位に疼痛やしびれ等の症状が残存した場合です。

別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

可動域制限(末梢神経損傷含む)

骨折を受傷するなどして可動域制限が残った場合です。

抹梢神経麻痺よって可動域制限が残存した場合も、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級を適用します。

別表第二第7級7号 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
別表第二第8級4号 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
別表第二第9級13号 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
別表第二第10級7号 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
別表第二第12級10号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
別表第二第13級6号 1手のこ指の用を廃したもの
別表第二第14級7号 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

「手指の用を廃したもの」

おや指では中手指節関節(MP関節)または指節間関節(IP関節)他の四本の指では、中手指節関節(MP関節)または近位指節間関節(PIP)に著しい運動障害を残すものを、「手指の用を廃したもの」として取り扱います。著しい運動障害を残すものとは、患側の関節可動域が健側の1/2以下になったものをいいます。

また、おや指では、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の1/2以下になったものも「著しい運動障害を残すもの」として取り扱います。

また、「手指の用を廃したもの」には、指の末節骨の長さの1/2以上を失ったものも含みます末節骨の欠損がその長さの1/2に達しなければ、「手指の用を廃したもの」ではなく、「指骨の一部を失ったもの」として欠損障害での認定になります。

欠損障害

重度の損傷で手指の欠損を伴う場合です。

別表第二第3級5号 両手の手指の全部を失ったもの
別表第二第6級8号 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの
別表第二第7級6号 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの
別表第二第8級3号 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの
別表第二第9級12号 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
別表第二第11級8号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの
別表第二第12級9号 1手のこ指を失ったもの
別表第二第13級7号 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
別表第二第14級6号 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

「指を失ったもの」

おや指では指節間関節(IP関節)、その他の四本の指では近位指節間関節(PIP関節)以上で指を失ったものをいいます。

「指骨の一部を失ったもの」

1指骨の一部を失ったものをいいます。その程度は、指骨の一部を失っている(遊離骨片の状態を含む)ことがエックス線写真で明確であるものをいいます。

末節骨で欠損が生じた場合、その長さの1/2以上を失ったものについては「手指の用を廃したもの」として、機能障害での認定になります。末節骨の欠損がその長さの1/2に達しなければ、前記の「指骨の一部を失ったもの」として整理されます。

醜状障害

別表第二第14級4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

露出面

上肢では肩関節以下(手部を含む)、下肢では股関節以下(足背部を含む)をいいます(この点、労災保険における取り扱いと異なりますので注意が必要です。)。
この露出面の醜状は、てのひら大以上の瘢痕または線状痕が残った場合に、上肢では別表第二第14級4号、下肢では別表第二第14級5号に認定されます。線状痕についてもその面積がてのひら大以上となることが必要となります。

交通事故や労災事故等でお困りの方は弁護士に相談を

交通事故や労災事故等で受傷し、デグロービング損傷を受傷した場合に損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うためには、損傷の部位や態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。