後遺障害等級の解説

脳損傷 神経症状

脳挫傷の後遺症と性格について(弁護士法人小杉法律事務所監修)

こちらの記事では、脳挫傷の後遺症で、性格に関連するものを整理します。

性格に関連した症状は精神障害として分類でき、自賠責保険等で後遺障害認定を得る際は、頭部外傷後の器質性精神障害として高次脳機能障害の認定区分になると思われますので、本記事ではまず、高次脳機能障害について整理しております。

器質性精神障害についてはこちらの記事で整理しております。

高次脳機能障害とは

高次脳機能とは、社会生活を営む人間が発達させてきた、理解する、判断する、論理的に物事を考える等の認知機能で、知覚、言語、記憶、学習、思考、判断、感情等がこれにあたります。

何らかの原因で脳に損傷や機能異常が生じれば、高次脳機能に障害が発生する可能性があります。

交通事故による頭部外傷等でも生じます。

(標準脳神経外科学(医学書院)、266~267頁、275頁)

脳挫傷は穿通外傷のように外力が極めて限局的に加わってできる場合もありますが、多くの場合は頭部に加速あるいは減速の衝撃が生じて発生します。

脳挫傷受傷の原因(「穿通外傷」、「加速あるいは減速の衝撃」の具体例など)についてはこちらの記事で詳細をご確認ください。

外傷後の性格の変化について

頭部外傷後に被害者の性格に変化が生じることがあります。

「性格」というと、どこまでを指すのかは人によりざまざまですが、頭部外傷後の器質性精神障害の中で言えば、びまん性軸索損傷後に生じやすい、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害のことを念頭に置いて考えるのが便宜で、特に社会的行動障害のことを表現することが多いと思われます。

記憶障害(思い出せない、覚えられない)

昔のことが思い出せない、新しいことを覚えることができないなどの状態です。

主な病巣は海馬などの大脳辺縁系と言われます。

大脳辺縁系は大脳の内側にあるので上部のイラストでは図示されていません。

注意障害(気が散る)

物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの状態です。

主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。

遂行機能障害(計画的に行動できない)

物事を行うための段取りが悪かったり、臨機応変な対応ができず(こだわりが強くて予定外のことに想定できない)、物事をスムーズに行うことができない状態です。

主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。

社会的行動障害(人間関係をうまくつくれない)

易怒性(すぐに怒る)、意欲がわかない、特定のものに固執するなどして社会でうまく生きていくことが阻害される状態です。

すぐにカッとなり大声を出す、ギャンブルにはまる、他人や物事に関心を示さず家に引きこもる、あまり親しくない人に異常に親密に接するなどの症状が具体例です。

主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。

認定されうる後遺障害

自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理しました。

事故後発生した性格の変化が、交通事故による頭部外傷等で発生した脳損傷に起因するのであれば、通常は高次脳機能障害による精神障害として、高次脳機能障害〇級という認定を受けることになり、下のような区分がなされます。

高次脳機能障害での等級認定に必要な検査や書式等はこちらの記事で整理しています。

その他、脳挫傷後の後遺障害全般についてはこちらの記事でご確認ください。

別表第一第1級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。
別表第一第2級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている状態です。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。
別表第二第3級3号 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない場合です。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える状態です。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。
別表第二第5級2号 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題があります。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第7級4号 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第9級10号 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。

弁護士に相談を

交通事故等で頭部外傷を受傷後に性格に変化が生じた場合、それを事故後の後遺障害として適切に評価し、加害者に対しての損害賠償請求を行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。