交通事故コラム

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弁護士が解説!物損事故から人身事故へ切り替える際の手続とポイント

2025.01.24

物損

このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、

  • 物損事故(物件事故)と人身事故の違い
  • 人身事故への切替(人身切替)の手続
  • 人身事故への切り替えのメリットとデメリット
  • 人身切替時の注意点

などについて解説します。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。

交通事故被害に遭い、お困りの方はぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士によるサポートの詳細についてはこちら。

 

物損事故(物件事故)と人身事故の違い

物損事故と人身事故の定義

交通事故は、その被害の内容によって「物損事故」と「人身事故」に分類されます。物損事故とは、車両や建物、ガードレールなど「物」に被害が及んだ事故のことを指します。

一方、人身事故は「人」に対する身体的な損害、例えばけがや死亡が発生した事故を指します。

 

とはいえ、人身事故の被害者が自転車やバイク、自動車に乗っていたような場合なども考えられますから、

同一の事故で人損被害も物損被害もどちらも発生することもあるということになります。

 

 

物損事故が発生した場合に警察が発行する交通事故証明書や、捜査記録などでは「物件事故」という呼称になりますが、

ここから先は「物損事故」ということで話を進めていきます。

 

物損事故の主な特徴と適用範囲

物損事故の特徴は、主に被害が物に限定されているという点です。

この場合、加害者に刑事処分や行政処分が科される可能性が低く、反則点数も加算されません。

 

また、物損事故としてつくられる報告書(物件事故報告書)は人身事故と比較して手続が簡略化されます。

 

物損についての損害賠償請求の時効は、民法第724条で以下のように規定されています。

民法第724条不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。

二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

 

後述しますが人的損害の場合と時効が異なるので注意が必要です。

 

人身事故ならではの法的扱い

人身事故では、加害者はより厳しい法的責任を問われることがあります。

この場合、交通違反の反則点数が加算され、場合によっては免許停止や取消などの行政処分が課される可能性があります。

 

また、刑事処分が科される場合もあります。

警察の捜査時に人身事故として処理される場合には、「過失運転致死傷」や「危険運転致死」などで検察に送致され、

検察での補充捜査が行われたのちに起訴・不起訴などの判断がされます。

 

初犯の過失運転致傷の場合には不起訴となることも多いですが、

被害者に発生した被害が甚大である場合や、加害者の過失が重大であるような場合には、

略式起訴や公判請求がされることもあります。

 

 

物損事故を人身事故に切り替える理由とメリット/デメリット

物損事故を人身事故に切り替える理由

事故当時はアドレナリンが出ていることもあり、痛みや身体の不調に気づかないこともあります。

しかし、帰宅してからや、数日経ってからそういった症状が発現することもあります。

 

ですから、交通事故被害に遭った場合には、大丈夫だと思っても念のためできるだけ早期に整形外科を受診することが重要です。

第一に身体のことですから、受診しておくことは今後の不安の解消に繋がりますし、

損害賠償請求という観点から見ても、早期に受診したという記録や診断書が残っていること自体が被害者にとって強力な証拠となります。

 

事故から1~2週間空いてから受診しても、「本当にその怪我は今回の事故によって負ったものなの?」という疑義を相手方や裁判所から挟まれてしまうと、

事故による受傷自体が否定されかねません。

 

交通事故被害に遭った後の早期受診はお身体のことを考えても、損害賠償請求を考えても重要です。

 

 

整形外科を受診し、診断書を受領した場合、その診断書を警察に提出することで物損事故から人身事故に切り替えることが可能になります。

この物損事故から人身事故への切り替えについては、メリット・デメリットを把握したうえで比較衡量して判断することが求められます。

 

人身事故に切り替えるメリット

まず前提として、人身事故への切り替えをしなくても、事故による怪我に対する治療自体は可能です。

「物件事故」と「人身事故」の切り替えはあくまで制度上の話ですから、

実態として人身損害が発生していれば、「物件事故」の扱いのままでも人身損害の請求はできます。

 

そのうえで、人身事故に切り替えることによるメリットは大きく2つあります。

 

1つ目のメリットは「過失割合をより詳細に検討できる」ことです。

先ほど少し出てきましたが、警察で物件事故として処理された場合、警察内部で「物件事故報告書」という書類が作られて捜査が終了します。

この物件事故報告書も、地図上に被害者・加害者双方の事故当時の立ち位置や状況が記録されるため、過失割合検討の一助にはなりますが、詳細な書類ではありません。

 

一方で、人身事故に切り替えると、警察は過失運転致傷の捜査をする必要が生じ、実況見分などが行われます。

この実況見分時に作成される現場の見分状況書や、被疑者供述調書などは、過失割合を検討する上で非常に有用です。

 

過失割合が争点になりそうな事案では、人身切替をすることでより詳細な記録を基に主張をすることができるようになります。

 

もう1つのメリットが、「自賠責保険に事故態様の小ささを推認されないこと」です。

自賠責保険は、交通事故により発生した「人的損害」に対して一定額の賠償金をお支払する保険です。

 

この自賠責保険に対する請求自体は、「物件事故」扱いでも可能ですが、その請求にあたっては、

「人身事故証明書入手不能理由書」という追加の書類を提出する必要が生じます。

 

つまり、「なぜ人身事故でないのか?」について納得できる理由を提示しなければ保険金の支払がないということです。

自賠責保険が保険金の支払を拒否するような事案の場合、相手方任意保険会社も支払を拒否しますし、

仮に暫定的に治療費の一括対応を行っていたような場合には返金を求められることさえあります。

 

ただし、実際のところ、自賠責保険は被害者保護のセーフティネット的役割を果たすために存在しており、

この点について厳密に支払可否の決定がなされるわけではありません。

 

とはいえこの「人身事故でないこと」が影響を与えるシチュエーションがあります。

それは、後遺障害等級認定の申請を行う場合です。

 

交通事故により怪我をし、治療をある程度の期間続けても良くならず、これ以上治療しても良くならないという状態に達することがあります。

この状態に達することを症状固定と言い、この時点で残存している症状を後遺症と言います。

 

 

後遺症が残存しているという前提で相手方との示談交渉を進めていくにあたり必要となるのが、

「本当に後遺症が残っている」ということを証明する証拠です。

 

この証拠として非常に強力なのが、自賠責保険が認定する「後遺障害等級」です。

ですから、後遺症により今後生じうる損害について適切な請求を行うためにはまずは適切な後遺障害等級の認定を得ることを目指した方が良いわけです。

 

では、自賠責損害調査事務所の調査員の気持ちになって考えてみましょう。

交通事故により生じた怪我について、約半年ほど通院したが症状が残ってしまったので、後遺障害診断書を作成した被害者がいます。

後遺障害診断書には「頚椎捻挫後の頚部痛」や「腰椎捻挫後の腰部痛」といった記載があります。

 

このいわゆるむち打ち症については事故発生時の衝撃の大きさが一つ判断要素になります。

当たり前の話ですが、事故発生時の衝撃が大きければ大きいほど、症状が強く残りやすいと思われるからです。

 

ということで事故発生時の状況を確認しようとしたところ、手元には「物件事故」と書かれた交通事故証明書と、

「人身事故証明書入手不能理由書」がありました。

 

調査員としては、「事故の瞬間はあまり痛くなかったのか?」「病院に行くほどの事故ではなかったのか?」という推認が働きます。

逆に救急搬送されて当然に人身事故扱いになっているような事故であれば事故の衝撃は大きかったと考えるはずです。

 

このように、人身事故に切り替えずに進み、結果として後遺症が残ってしまったような場合には、

人身事故に切り替えをしなかったことが被害者にとって不利益に働く=人身事故に切り替えることでメリットが得られる可能性がある

ということになります。

 

ただし、あくまで判断要素の一つにすぎませんから、物件事故扱いだから絶対に後遺障害等級の獲得は不可能だ!というわけでもありませんのでご安心ください。

 

人身事故に切り替えることで発生する可能性のあるデメリット

一方で、物損事故から人身事故に切り替えることによってデメリットが発生する可能性もあります。

 

最も大きくかつ分かりやすいデメリットは、「被害者側にも手間が発生する」ことです。

先ほども見たように人身事故に切り替えがされると、警察の捜査がより詳細に行われます。

この際、被害者も実況見分に立ち会ったり、供述を行ったりする必要が生じます。

 

警察署に赴く手間がかかったり、場合によっては仕事を休まざるを得ないこともあるでしょう。

 

次に考えられるデメリットは、「被害者も行政処分の対象になる可能性が生じる」ことです。

被害者がバイクや自動車の運転中に発生した事故の場合、

赤信号待ちの停車中の追突事故などの被害者側が無過失の事故を除いて、被害者にも一定程度の過失=注意義務違反が認められることになります。

 

このような場合に、被害者の側から人身事故に切り替えを行うと、被害者についても道路交通法上の義務違反が認められてしまい、

点数が引かれたりするリスクがあります。

 

 

人身事故への切り替えには以上のようなメリット・デメリットがあります。

切り替えを検討する際には、弁護士に相談するなどして慎重に行いましょう。

 

 

物損事故から人身事故へ切り替える手続の流れ

医師から診断書を取得する手順

物損事故から人身事故に切り替えるには、まず医師に診察を受けて診断書を取得する必要があります。

交通事故の際、当初は痛みを感じなくても、数日後に症状が現れることがあります。

 

そのため、事故後は速やかに病院を受診し、怪我の状況を確認してもらうことが重要です。

診断書には、事故日や治療開始日(初診日)、症状の内容が記載されることで、交通事故と怪我との因果関係が証明されます。

 

この診断書は、後の警察や保険会社との手続において非常に重要な証拠となります。

 

警察とのやり取り:申請方法と必要書類

診断書を取得したら、次は警察に提出して物損事故から人身事故への切り替えを申請します。

 

この際、診断書は必須の書類です。また、それ以外に自動車運転免許証や車検証、自賠責保険証、印鑑といった書類も用意しておくとスムーズに手続が進みます。

 

警察には、事故当時の状況を説明し、人身事故への切り替えを正式に申請する必要があります。

この手続きによって、事故が物損事故から人身事故として扱われるようになります。

 

保険会社への連絡と対応

人身事故への切り替えを警察に申請した後は、保険会社へもその旨を報告する必要があります。

交通事故発生を警察に連絡した段階で、「物件事故」扱いの交通事故証明書の発行がされますが、

身事故への切り替えを行った場合は再度「人身事故」扱いの交通事故証明書を発行してもらう必要があります。

 

保険会社もその再発行の手間が面倒であったり、人身事故に切り替えをされると後遺障害等級の認定可能性に影響を及ぼす可能性がある=自社が支払う保険金額が上がる可能性があったりという理由で、

物件事故のままでも治療費の対応など行いますので切替されなくて良いですよ」と言ってくることもあります。

このような場合でもしっかりと自身の事故の場合はメリットとデメリットどちらが大きいかを考えて、場合によっては人身切替をする必要があります。

 

切り替えにおける期限と注意点

切り替え手続に法的な期限はあるのか

物損事故から人身事故へ切り替える手続に明確な法的期限は設けられていません。

しかし、あまりにも期間が空きすぎると警察が切り替えに消極的になり、取り合ってくれない場合もあります。

 

できるだけ早期に、遅くとも事故から1か月以内には切り替えを行うかどうかを判断すべきです。

 

注意すべき点とトラブル回避策

物損事故から人身事故への切り替えにおいては、いくつか注意すべき点があります。

 

まず、事故後はすぐに医療機関を受診し、診断書を取得する必要があります。

この診断書が、交通事故による怪我を証明する重要な書類となります。

 

また、警察には速やかに人身事故への切り替え申請を行い、診断書を提出しましょう。提出が遅れると事実確認が難しくなり、トラブルの原因となる場合があります。

 

 

専門家(弁護士)へ相談するタイミング

物損事故から人身事故へ切り替える手続や必要性で悩んだ場合、加害者側との交渉に不安を感じる場合は、早い段階で弁護士に相談するべきです。

 

一見単純に思える事故処理でも、診断書の取得や警察への対応、保険会社との交渉において複雑な問題が生じる可能性があります。

交通事故に詳しい弁護士に相談することで、適切な対応方法をアドバイスしてもらえ、被害者としての権利をしっかり行使できる環境を作ることができます。

 

まとめとおすすめの対応方法

物損事故・人身事故に関する総括

交通事故における対応には、物損事故として処理するか、それとも人身事故へ切り替えるかという選択肢があります。

 

物損事故は、車両や物品が損壊し、人がケガをしていない場合に用いられる手続です。

一方で人身事故は、人の身体や命に直接的な影響が及んだ場合に適用されます。

 

人身事故に切り替える場合には、

  • 過失割合の検討資料がより詳細になる
  • 自賠責損害調査事務所に事故の軽微さを推認させないで済む
  • 手間がかかってしまう
  • 被害者も行政処分の対象となってしまう

 

という人身切替のメリット・デメリットを比較衡量しながらどちらが良いかを速やかに決定しましょう。

 

スムーズな切り替えのためのポイント

物損事故から人身事故へ切り替えるためには、いくつかの重要な手順を適切に行う必要があります。

 

まず、早期に医療機関を受診し、事故による怪我であることを診断書として証明してもらうことが第一歩です。

この診断書を基に、警察に人身事故への切り替えを申請します。その際には、免許証や車検証、自賠責保険証などの必要書類を提出することが求められます。

 

また、保険会社にも連絡し、事故の状況や診断書をもとに人身事故への切り替えを共有する必要があります。

 

弁護士へ相談するメリット

初めて交通事故に遭遇した場合、どのように対応すべきか迷う方も少なくありません。

その際、交通事故に詳しい弁護士に相談することで、適切なアドバイスを受けることができます。

 

弁護士は法的知識をもとに、被害者が適切な保障を受け取れるようサポートしてくれます。

 

例えば、診断書や実況見分調書の重要性について具体的に案内してもらえるだけでなく、警察や保険会社とのやり取りを代行することも可能です。

 

交通事故被害を専門としている弁護士に早期に相談することで、治療期間中からアドバイスを受けることができ、

後遺障害等級の認定可能性を上げたり、適切な示談交渉をまとめたりすることができるようになります。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による初回無料の法律相談を実施しています。

人身切替をはじめ交通事故被害でお困りの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。