【症状固定】意味・決め方・タイミング・デメリットを弁護士が解説!
2024.07.30
損害賠償請求
誰かに怪我をさせられ、治療を続けていく中で出てくる「症状固定」という言葉。
「症状固定」は、損害賠償請求において極めて重要な意味を持ちます。
このページでは、損害賠償請求を専門にする弁護士が、
「症状固定」の
- 言葉の意味
- 決め方
- タイミング
- デメリット
- 損害賠償請求において持つ意味
について解説します。
弁護士法人小杉法律事務所では損害賠償請求を専門とした弁護士による無料相談を実施しております。
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「症状固定」という言葉の意味
事故等で傷害を負った被害者の方は、その後医療機関で治療をうけ、症状の改善を目指していくことになります。
治療の結果としてお怪我が完治するのが一番良い結末でして、その場合は完治した時点で治療は終了ということになります。
ですが、一定期間治療をうけても症状が完治しない場合、お怪我の状況が「それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない状態」になったと判断されることになります。
そのような状態のことを「症状固定」といいます。
症状固定の決め方
症状固定は誰が決める?
基本的には、事故後診察をしてくださる主治医の先生の判断で決定されます。
上で見たように、「症状固定」は「それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない状態」のことですから、
治療の効果が出ていないことを医学的に認識できている人でなければ本来は判断できません。
それをもっとも適切に判断できるのは、事故後診察を続ける中で被害者の症状や、治療の状況を最も身近で把握してきた主治医の先生ということになります。
ちなみに、症状固定を迎えた時点の最終診療日(や後遺障害診断書・障害診断書等の作成日)を症状固定日とする運用が実務上多いですが、
医師がもっと前に症状固定を迎えていたと判断することも十分にあり得ます。
基本的に主治医の判断は尊重されるべきだと思われますが、後遺障害診断書や障害診断書等に症状固定日を極端に前に書かれてしまうと、
後述するように損害賠償請求においてはデメリットが生じる可能性もあります。
後遺障害診断書や障害診断書等の作成に当たっては、十分に気を付けるようにし、弁護士に相談することも視野に入れましょう。
(後遺障害診断書について弁護士に相談した方が良い4つの理由とは?)
保険会社担当者に症状固定を決める権限はない
上で見たように、症状固定は医学的内容を含みますから、主治医の先生の判断が最も重視されるべきでしょう。
他方、事故後に相手方の任意保険会社が治療費等の支払いをしてくれているケースで、任意保険会社が一方的に治療費等の支払いを終了するケースがあります。
このような場合の保険会社側の説明は様々ですので一概には言えません。
たとえば事故態様が軽微な場合や既往症があるケースで「我々が責任を負うべき部分の支払いは終了した」というふうな言い方や、
「もう治癒しているはず。」あるいは「もう症状固定になっているはず。」という言い方がありうると思います。
ただし、医師が未だ症状固定を迎えていないと判断されるうちは、治療費の対応は続けられるべきです。
保険会社は医師でもなく、治癒や症状固定の判断を含め、治療方針に対する判断はできませんから、
このような対応がされた場合でも、症状が残存しているのであればまずは主治医に相談し、治療の継続をすべきかどうか検討すべきです。
治療の継続をすべきと判断した場合、主治医の協力を仰ぎつつ(相手方が治療費対応を打ち切るという理由にもよりますので一概には言えませんが、
たとえば「●●様はいまだ症状固定ではなく、治療を継続すべきである。」等の診断書をご作成いただくのがいいかもしれません。)、
相手方と交渉し、治療費等の支払継続を求めていく必要があります。
例外的に裁判所が決める場合もある
このように、基本的な発想として、症状固定の判断は主治医が行うべきものと理解していただいてよいのですが、例外もありますので注意が必要です。
たとえば、事故後に通常想定されるよりも長期にわたって治療した場合、主治医が判断した症状固定日と裁判所等で認定される症状固定日がズレることがあります。
具体的には、長期間治療を受けた被害者の方が主治医から症状固定の診断を受けたとして、
裁判等で医療記録(カルテ等)の検討がなされた結果、医師による症状固定診断よりも早い段階で症状が変化しない状態になっていたことが明らかになった場合、
裁判所の判断として、症状固定の時期を前倒しでずらして認定されることがありえます。
症状固定は、後で解説しますが、損害額の認定に大きな影響を与えます。
医学的な判断は医師の方ができるでしょうが、法律に基づいた、損害賠償請求における判断は裁判所の方ができるでしょう。
ですから、適切な損害額を認定するにあたり、裁判所が主治医の判断をいわば覆して症状固定の認定をする場合があります。
このように、損害賠償請求における症状固定の認定は、医学的な知識も、損害賠償請求に関する知識も必要とする場合がありますので、
損害賠償請求を専門としている弁護士に相談するのが得策と言えるでしょう。
症状固定のタイミングとは?
「症状固定」とは、上で見たように「それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない状態」になった時を言います。
つまり症状固定のタイミングは、「治療の効果がなくなった時」です。
具体的な症状固定と判断されるまでの治療期間は被害者の方の属性、事故態様やお怪我の種類等により様々です。
打撲・捻挫等他覚的所見のないお怪我の場合の目安は半年程度、
骨折等他覚所見のあるお怪我の場合、1年程度様子を見ることもあるのではないかと思われます。
損害賠償請求において症状固定が持つ意味
何度も確認しますが、「症状固定」とは「それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない状態」になったことです。
しかし、医師の中には、症状というものは常に変わり続けるものなので、症状固定という概念はあり得ないとおっしゃる方もいます。
医学的に見れば、症状が常に変わり続けるものというのはおそらくその通りだと思われます。
ですが、損害賠償請求実務においては症状固定という概念を避けて通ることはできません。
なぜなら症状固定は、損害賠償請求において極めて重要な意味を持つからです。
症状固定の前後で請求できる費目が変わる
「請求できる費目が変わる」
これが、損害賠償請求において症状固定が持つ意味の中で最も大きなものと言えるでしょう。
事故で傷害を負った場合、被害者には様々な損害が生じます。一口に「損害」といっても内容は様々ありまして、
分類方法としてわかりやすいのは、治療期間中の損害と症状固定時以降の損害という切り口です。
まず、治療期間中の損害をご説明します。「傷害部分」の損害ともいいます。
事故に遭われたあと治療を受けて治癒に至るまで、あるいは症状固定の状態になるまでの損害項目でして、
大まかに説明すれば、治療費、休業損害、入通院慰謝料等の損害になります。損害額算定の基礎になる期間は、受傷後治療して治癒or症状固定に至るまでの期間になります。
次に、症状固定以降の損害についてご説明します。こちらは「後遺障害部分」の損害とも言われます。
治療を受けても治癒せず症状固定になった場合、残存した症状を「後遺障害」と表現しますが、
症状固定以降の損害についてはこの後遺障害に対する賠償として整理され、基本的には後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料の2つになります。
このように、損害については、治療期間中の損害と症状固定以降の損害で大まかに分類できるのですが、
症状固定の判断がなされれば、治療期間中の損害の計算がそこで区切られることになります。
(症状固定前)治療費 | (症状固定後)基本的には請求できない。※一部例外あり。 |
(症状固定前)休業損害 | (症状固定後)後遺障害逸失利益 |
(症状固定前)入通院慰謝料 | (症状固定後)後遺障害慰謝料 |
後遺障害逸失利益についての詳しい解説はこちらのページからご覧ください。
症状固定のデメリット?
上で見たように、治療費は症状固定を迎えると基本的には相手に請求することができなくなります。
また、休業損害も症状固定を迎えると後遺障害逸失利益という費目に切り替わってしまうので、休業損害が請求できる期間は区切られてしまいます。
これが問題になり得るのは、事故後発生した治療費や休業損害等について、加害者等が都度都度支払いをしてくれるケースです。
例えば、相手方が加入している任意保険会社が対応している場合や、事故について労災保険制度の適用があれば、
労災保険の給付金(療養(補償)給付又は休業(補償)給付)として支払われるといったケースで、
これらの場合に症状固定の判断がされれば、治療費等の支払いがストップすることになります。
また、傷害慰謝料の計算期間もそこで区切られてしまいます。
ですから、症状固定の時期によっては、もっとお支払されていたはずの治療費や休業損害等の支払を受けられなくなった、
といった事態が発生する可能性があります。
典型的な例が、相手方が加入している任意保険会社から治療費の打ち切りを言われたタイミングでそのまま症状固定をしてしまうような場合です。
医師がまだ治療の効果が出ており、症状固定はもっと先だと考えているのであれば、症状固定をこのタイミングでするのは被害者にとって損です。
払われるべき治療費や休業損害等が認定されず、傷害慰謝料の額も低くなり、さらに後遺障害等級の認定可能性が低くなる場合もあります。
相手方に医師のお考えを伝えて治療費対応の継続を求めることはもちろん、仮に相手方が全く聞く耳を持たず治療費対応を打ち切ったとしても、
医師が判断する症状固定の時期まで自費(健康保険利用)での通院を検討するなどの柔軟な対応をすることが、適切な慰謝料を獲得することに繋がります。
最も良い方法が何かを考えるうえでは、現状を弁護士に伝え、回答を仰ぐことが有用だと言えます。
例外的に症状固定後の治療費が認められる場合とは
例外的に症状固定後の治療費が損害として認められるのは、一言でいえば「症状固定後も治療の必要性が認められる場合」です。
治療費が損害として認められるかは、症状固定の前後にかかわらず、その必要性・相当性があるかという1点に尽きます。
ただし、症状固定とは「それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない状態」になったこと、でした。
では症状固定後も治療の必要性が認められる場合はどのような場合かというと、
いわゆる植物状態(遷延性意識障害)になったとき等で生命を維持するために治療を継続することが必要な場合や、
症状固定後も強い身体的苦痛が残存しており、苦痛を軽減するために治療の必要性が認められる場合です。
上記の場合以外で症状固定後の治療費が認められることはほぼありません。
なお、症状固定後の治療費が損害として認められた場合には、将来の治療費が認められやすい傾向があります。
まとめ
ここまで見てきたように、症状固定は損害賠償請求においては極めて重要な意味を持ちます。
相手方保険会社の言う通りに進めていくのではなく、損害賠償請求を熟知した弁護士に一度相談してみることをお勧めします。
損害賠償請求を専門とする弁護士法人小杉法律事務所の弁護士へのご相談はこちらのページから。
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