交通事故コラム

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通勤中の交通事故で正当な補償を受けるための労災保険の活用法とは?弁護士が解説!

2025.02.21

労災保険 通勤災害

このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、

  • そもそも労災保険とは?
  • 通勤中の交通事故で労災保険を利用するための流れ
  • 交通事故で労災保険を活用するメリットと注意点
  • ケース別の労災適用のポイント

について解説します。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。

交通事故被害に遭い、お困りごとをお抱えの方やそのご家族の方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による交通事故解決サポートの詳細についてはこちら。

 

労災保険とは?その基本知識

労災保険の概要と対象範囲

労災保険とは、業務上や通勤中に起こる交通事故や災害によって労働者が負傷したり、病気になったりした場合に受け取ることができる保険給付です。

 

事業主は労災保険への加入が法律で義務付けられており、労働者が被害を受けた際に迅速かつ適切な補償を受けられる環境を整えています。

対象範囲には、会社業務中や通勤経路上で発生した交通事故が含まれます。

 

 

通勤中の交通事故が労災となる条件

通勤中の交通事故が労災として認められるには、いくつかの条件を満たす必要があります。

労働者災害補償保険法第7条2項及び3項を見てみましょう。

 

労働者災害補償保険法第7条2項

…通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

 第一号 住居と就業の場所との間の往復

 第二号 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

 第三号 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

 

労働者災害補償保険法第7条3項

労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

 

ここに定めのあるように、基本的には、

  • 住居と会社等の就業場所との間の往復
  • 就業場所から他の就業場所への移動

などの最中に交通事故に遭った場合には、通勤災害として労災保険を利用することが可能です。

 

また、第7条3項にある「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」については、

以下のものが厚生労働省令で定められています。

  • (1)  日用品の購入その他これに準ずる行為
  • (2)  職業能力開発促進法に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、学校教育法に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発に資するものを受ける行為
  • (3)  選挙権の行使その他これに準ずる行為
  • (4)  病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

 

基本的には通勤経路を外れたり(逸脱)、移動を中断したり(中断)したような場合には、その逸脱や中断の時間はもちろん、それ以降の通勤についても通勤災害には当たらないとされています。

しかし、先ほどみた4つの行為のために逸脱や中断した場合には、その逸脱や中断の時間は通勤に当たらないと解されますが、それ以降の通勤で事故に遭った場合は通勤災害として認められます。

 

業務災害と通勤災害の違い

業務災害とは、労働者が業務を行う過程で発生した事故や病気を指します。

一方、通勤災害は、労働者が会社と自宅間を移動中に発生した事故を対象としたものです。

 

例えば運送会社での運送業務中に交通事故に遭ってしまったような場合には、

通勤災害ではなく業務災害になります。

 

この違いにより適用範囲や手続が変わるため、自分のケースがどちらに該当するのかを確認することが重要です。

両者とも労災保険による補償を受けられますが、条件や認定基準には一定の違いがあります。

 

通勤災害で労災保険から受けられる主な補償内容

通勤災害に遭った際に労災保険から受けられる補償は以下のようなものがあります(労働者災害補償保険法第21条)。

  • 一 療養給付
  • 二 休業給付
  • 三 障害給付
  • 四 遺族給付
  • 五 葬祭給付
  • 六 傷病年金
  • 七 介護給付

 

四 遺族給付及び五 葬祭給付については、交通事故被害者(通勤災害被災者)が亡くなってしまった時、

六 傷病年金及び七 介護給付については、交通事故被害者(通勤災害被災者)に重篤な後遺症が残ってしまった時に請求が可能です。

 

多くの被害者の方が利用することになるのは、

一 療養給付 二 休業給付 三 障害給付の3つになると思われますので順にみてみましょう。

 

療養給付

療養給付は、原則として「療養の」給付です。

何が言いたいかというと、労災保険による療養給付は現物の支給により行われるということです。

 

労災指定病院に今回の事故が通勤災害である旨申し出て申請を行い、

会社等と連携しながら様式第16号の3を提出することで、

窓口での負担等がなく治療を受けることができます。

 

仮に通院した病院が労災指定病院ではなく、一度窓口での負担をせざるを得ないような場合には、

様式第16号の5を提出することで、負担した費用について支給を受けることができます。

 

通院交通費については、通院する病院と自宅または勤務地の距離が片道2㎞以上である場合には、

「移送費」として療養給付を請求することが可能です。

 

休業給付

休業給付は通勤災害による療養のため労働をすることができないために賃金を受けられない日の4日目から支給を受けることができます。

この1日目~3日目の期間を待期期間と言いますが、この期間については事業主(会社等)から給付基礎日額の60%の支払を受けることになります。

 

 

4日目以降は休業給付として給付基礎日額の60%の支給を労災保険から受けることになりますが、

あくまで「療養のため労働をすることができない」期間について認められるものですから、

主治医が「療養のため労働をすることができない」と認定してくれる期間についてしか休業給付の支給請求はできません。

しっかりと治療を受けるようにしましょう。

 

また、休業給付の支給がされている期間については、休業特別支給金というものが別で支給されることになります。

この休業特別支給金は、「労働者の福祉の増進に寄与すること」を目的として支払われるものです。

 

この休業特別支給金は、給付基礎日額の20%についての支給になります。

ですからトータルで発生した休業損害の80%について労災保険から受け取ることができるということになります。

 

この休業特別支給金については、被害者にとって大きなメリットがあります。以下で詳述します。

 

健康保険との違いと注意点

労災保険と健康保険は似ているようで異なる制度です。

 

健康保険は通勤や業務に関係のない日常生活中の病気やけがに対応しますが、労災保険は業務中や通勤中に発生した事故が対象です。

通勤中の交通事故に遭い、労災保険の利用が可能な場合には、健康保険を利用することができません。

 

通勤災害に該当するにもかかわらず健康保険を利用して通院を続けている中で、通勤災害であることが判明し、労災保険利用に切り替える場合には、

治療費のうち健康保険が負担した7割を健康保険に返還したうえで、労災保険に療養の費用の給付を請求する必要が生じます

(健康保険と労働基準監督署と相互にやり取りを行うことで健康保険から直接労災保険に請求してもらうように手配してくれる場合もあります。)。

 

健康保険が負担した治療費を一度被害者本人が立て替える必要性が生じ、被害者の大きな負担になることも考えられますから、

通勤災害であると考えられるような場合には健康保険の利用はせず、速やかに労災保険利用の申請を行うようにしましょう。

 

通勤中の交通事故で労災保険を利用する流れ

事故発生時に取るべき初期対応

通勤中に交通事故が発生した場合、まず重要なのは迅速かつ冷静な初期対応です。

 

事故直後には、まず警察に通報し交通事故証明書を取得するための手続を行う必要があります。

この証明書は、労災保険や自賠責保険の請求で必須の書類となります。

 

また、怪我を負った場合は速やかに医療機関で診察を受け、診断書を取得することが重要です。

診断書は、労災申請を行う際や慰謝料請求の際に必要となるため、事故直後に医療機関を訪れることを忘れないようにしましょう。

 

 

さらに、事故当日は、会社に遅延や欠勤について連絡し、労災保険の申請準備が必要であることを報告することも大切です。

 

労災申請に必要な書類と手続

労災保険を利用するためには、いくつかの書類を準備して手続を進める必要があります。

まず、事故の発生を会社に報告し、労災用の事故届である「第三者行為災害届」を作成します。

この届出は、交通事故の背景が第三者行為によるものである場合に必要で、正確な情報を記載することが求められます。

 

また、「療養の給付請求書」や「休業給付支給請求書」など、事故内容に基づいて必要な書類を会社に提出することで申請手続を開始できます。

これらの書類は、会社の労災担当部署や労働基準監督署で取得することができるため、会社と相談しながら進めていきましょう。

請求手続が面倒に感じる場合には、弁護士や専門家の支援を受けることも検討すると良いでしょう。

 

申請後の調査と審査の流れ

労災申請が行われた後、労働基準監督署などの関連機関が調査・審査を行います。

申請内容に基づいて、事故が実際に通勤災害に該当するかどうかが判断され、その結果が通知されます。

この段階では、事故の経緯や提出された書類の整合性が審査の対象となるため、提出した情報が正確であることが非常に重要です。

 

調査期間中、必要に応じて追加的な資料提出が求められることがあります。そのため、労働基準監督署からの連絡を見逃さず、できるだけ迅速に対応することが審査をスムーズに進めるポイントです。

また、申請が遅延した場合、それに伴い補償の開始が遅れることもあるため、早めの申請を心掛けましょう。

 

労災保険を活用するメリットと注意点

被害者の過失割合部分を実質的に小さくできる

第一のメリットとして、労災保険による療養給付や休業給付は被害者側の過失を考慮しません。

交通事故における過失割合は、簡単に言えば発生した損害について双方がどれくらいの割合で責任を負うかを表したものです。

 

 

例えば今回交通事故被害に遭ったAさんに発生した損害が、

治療費100万円・休業損害100万円・慰謝料100万円の合計300万円であったとします。

 

この場合、Aさんと加害者との間の過失割合が、Aさん10:加害者90とすると、

Aさんが加害者に請求できるのはAさんの自己過失分の10%を除く部分ですから、300万円×(1-10%)=270万円となります。

仮にAさん20:加害者80の過失割合であれば、300万円×(1-20%)=240万円となり、過失割合は請求できる金額に大きな影響を与えます。

 

実際の事案では、治療費については加害者側保険会社の一括対応が、休業損害については内払がなされていることも多いでしょう。

一括対応や内払の金額は被害者の過失分を考慮せずにひとまずお支払をしたうえで、最終的に過失割合を考慮した金額から差し引かれることになります。

 

先ほどの例でいくと、治療費の100万円については全額一括対応で、休業損害は100万円をすでに内払で受け取っていたとします。

Aさんの過失20:加害者の過失80とすると、Aさんが最後に受け取れるのは、

300万円×(1-20%)-(治療費100万円+休業損害100万円)=40万円 となります。

Aさんは治療費と休業損害をそれぞれ100万円ずつ受け取っているという扱いになりますから、Aさんが今回の事故で受け取った賠償金の合計額は、

治療費100万円・休業損害100万円・慰謝料40万円の合計240万円ということになります。

 

このように、基本的には加害者側保険会社から過失割合の考慮前に治療費や休業損害について支払を受けると、

実質的に慰謝料として受け取るはずだった部分が減少してしまうことになります。

 

ところが労災保険を利用した場合は異なります。

それは、労災保険利用には「費目間流用の禁止」という考え方があるからです。

 

「費目間流用の禁止」とは、労災保険から支払われた給付は、その支払の目的が合致する費目としか損益相殺をしてはいけないというルールです。

少しわかりにくいので先ほどの例をもとに説明します。

 

先ほどのAさんのように、

治療費100万円・休業損害100万円・慰謝料100万円の計300万円の損害が発生しており、過失割合はAさん20:加害者80です。

Aさんは通勤中の事故だったので労災保険に療養給付と休業給付の支給を申請しています。

療養給付については発生した治療費の全額に相当する療養を(100万円)、

休業給付については発生した休業損害の60%に相当する支給を(60万円)、それぞれ受け取りました。

 

この時、Aさんが加害者側に請求できる金額は、

300万円×(1-20%)-(100万円+60万円)=80万円となりそうですがそうはなりません。

 

「費目間流用の禁止」のルールがあるため、今回の場合療養給付は治療費と、休業給付は休業損害としか損益相殺をすることができません。

まず治療費についてみると、

治療費100万円×(1-20%)-療養給付100万円=-20万円 となりますが、この―20万円を他の費目と相殺することはできないので扱いとしては0円となります。

次に休業損害についてみると、

休業損害100万円×(1-20%)-休業給付60万円=20万円 となり、未だ填補されていない損害が20万円分ありますから、これは相手方に請求できます。

そして慰謝料については、受け取っている給付がありません(労災保険には精神的苦痛に対する填補を目的に支給されるものがありません)から、

100万円×(1-20%)=80万円を請求できます。

 

ですからこのときAさんが最終的に加害者側に請求できるのは、

20万円+80万円=100万円です。

Aさんはすでに療養給付100万円と休業給付60万円を受け取っていますから、最終的に260万円を受け取ることができます。

 

このように「費目間流用の禁止」のルールがなければ240万円しか受け取れなかったにもかかわらず、労災保険の利用により20万円多く受け取ることができています。

被害者の過失が一定程度あると見込まれるときに労災保険を利用する大きなメリットがこの「費目間流用の禁止」です。

 

特別支給金の存在

さきほどみたように、休業給付や障害給付を受け取る場合には、特別支給金というものが支払われます。

 

この特別支給金についても大きなメリットがあります。

最高裁判所平成8年2月23日判決(判例時報1560号91頁)によれば、この特別支給金について、

特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(平成七年法律第三五号による改正前の法二三条一項二号、同規則一条)、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合における前記各規定と同趣旨の定めはない。このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないというべきである。

と判示されています。

 

つまり、特別支給金は被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額と差し引きされません。

労災保険からの休業に関する給付は、休業給付としての事故前収入の60%の金額と、休業特別支給金としての事故前収入の20%の金額で構成されています。

したがって労災保険からはトータルで事故前収入の80%を受け取ることができるのですが、加害者に対する損害賠償請求の際には60%しか受け取っていないというイメージで請求ができるので、休業給付として60%、相手から(100%-60%)で40%、特別支給金として20%の計120%を受け取ることができるようになるのです。

 

このように、労災保険を利用することで過失がある場合(無い場合でも)、被害者は得をすることになります。

 

加害者が無保険である場合

加害者が無保険(任意保険未加入)である場合には、加害者の資力にもよりますが十分な賠償を得られない可能性もあります。

そのような場合に、労災保険を利用して発生した損害の一部を回収しておくことは被害者の事故後の生活を支えるうえでも大きいメリットと言えるでしょう。

 

治療を長く続けたい場合のメリットと注意点

交通事故被害に遭い、治療を受ける場合には、

労災保険の療養給付を受けるか、加害者側保険会社の一括対応を受けるかを選択することができます。

 

被害者側にも過失が一定程度見込まれるような場合には労災保険を利用した方がお得になりますが、

それ以外にも治療を長く続けたいと考える場合などにも労災保険を利用した方がお得な可能性があります。

 

というのも、加害者側保険会社は基本的には治療は短く切り上げたいと考えています。

なぜなら治療が短く切り上げられた方が支払う治療費の額も小さくできますし、治療期間を基に計算される入通院慰謝料の額も小さくできるからです。

 

また、背景には自賠責保険の存在もあります。

加害者側任意保険会社は、被害者に支払った治療費などについて自賠責保険に対して求償を行うことができます。

求償は一言でいえば「あなたの代わりに治療費を払ったのでその分私に返してください」ということができるというものです。

 

しかし自賠責保険は最低限度の補償のために存在している保険ですから、治療費をはじめとする傷害による損害に対する支払上限が120万円までと決まっています。

加害者側保険会社は治療費を払いすぎてこの120万円の枠を圧迫したくないのです。

 

このような理由で加害者側保険会社は治療を打ち切るタイミングを常に見計らっています。

 

一方で労災保険には120万円の枠などはありませんから、被害者は安心して治療を続けることができます。

とはいえ労災保険も治療が長期間に及ぶような場合には被害者本人や病院に対して照会をかけたうえで療養給付を打ち切ることがあるので注意が必要です。

 

また、もう一点注意すべきポイントがあります。

それは、主治医が自賠責様式の後遺障害診断書を作成してくれるかどうかです。

 

病院としては、労災保険適用よりも自賠責適用(自由診療)の方がありがたいです。

それは、労災保険適用の場合は治療1点あたりの単価が12円であるのに対し、自由診療はその名のとおり自由に単価を設定できるからです(概ね20円)。

同じ治療をしてももらえる金額が高くなるわけですから交通事故の場合には自賠責保険を適用してくれた方がありがたいわけです。

 

ある交通事故被害者が治療を労災保険で受けていた中で最終的に後遺症が残りそうということになり、

自賠責保険に対して後遺障害等級の認定申請をするタイミングで、診断書だけ自賠責様式で作成してくださいというのは、

病院側からすればあまり好ましくないと言えるでしょう。

 

病院によっては後遺障害診断書の作成を断られる場合もあります。

そうすると加害者側保険会社に対して後遺障害等級の認定を得たという事実をもって後遺症慰謝料や後遺症逸失利益の請求をすることが難しくなります。

ですから労災保険適用で治療を行う、かつ後遺症が残りそうだという場合には治療早期に診断書の作成に応じてくれるかを確認しておきましょう。

 

 

ところで、労災保険にも障害給付支給請求の際に、労働基準監督署の審査のうえで後遺障害等級の認定がされます。

労災保険で後遺障害等級の認定を得て加害者側保険会社と交渉をすればよいのでは?という考えも浮かびます。

実際一理あると言えるでしょう。

 

しかし、労災保険で認定された後遺障害等級と同じ等級が自賠責保険でも認定されるとは限りません。両者は独立した判断機構だからです。

加害者側保険会社は当然自賠責保険の判断を重要視します。それは先ほども見たように求償の関係によります。

 

例をもとに見てみましょう。

労災保険で第14級9号の認定を受けた被害者に対して、加害者側保険会社が労災保険の認定に従い、第14級の後遺症慰謝料として110万円を支払ったとします。

加害者側保険会社はこの110万円のうち、自賠責保険における第14級が認定された場合の上限額である75万円について求償をかけます。

 

ところが自賠責保険における調査では第14級9号の認定はされず、非該当ということになりました。

この場合加害者側保険会社は1円も自賠責保険から回収することができません。

となるとやはり加害者側保険会社は保険金の支払前に自賠責保険がどう判断するかを見ておきたいという考えが働き、

結果として労災保険の認定より自賠責保険の認定の方が、加害者側保険会社との示談交渉の際には強い証拠となるわけです。

 

このように通勤災害における労災保険の利用は注意すべきポイントもあるため、

弁護士に相談するなどしてメリットとデメリットを総合考慮しながら進めることが重要です。

 

知っておきたいケース別の労災適用のポイント

通勤経路外で事故が起きた場合

通勤中の交通事故の場合、合理的な通勤経路を外れた行動が含まれていると、労災保険の適用外となる可能性があります。

たとえば、通勤途中に大幅な寄り道をしたり、私用目的で通勤時間を大きく逸脱した状況下での事故は、労災の対象外となるケースがあります。

 

ただし、やむを得ない事情や合理性が認められる場合(緊急の買い物など)は、例外的に通勤災害と認められることがあります。

そのため、通勤中での事故の状況を正確に把握し、必要であれば弁護士や専門家に相談して労災の適用可能性を確認することが重要です。

 

任意保険と労災保険の兼ね合い

通勤中に交通事故被害に遭った場合、労災保険だけでなく、自賠責保険や加害者が契約している任意保険も関わります。

この場合、被害者は労災保険と任意保険の補償を併用できる可能性があります。

 

ただし、二重取りを防ぐため、補償額に調整が入ることがあります。

また、相手が任意保険未加入の場合や補償額が不足する場合、労災保険を利用することで被害者がさらなる補償を受けることができます。

事故が複雑化した場合は、保険会社や労災担当窓口と連携を行い、適切な補償を確保することが大切です。

 

自転車通勤中の事故における対応

自転車通勤をしている際の交通事故も、条件を満たせば労災保険が適用されます。

ただし、通勤ルートの合理性や事故発生場所が重要なポイントとなります。

 

特に、自転車専用道路を通るなど安全に配慮している場合は、労災が認められやすいと言えるでしょう。

一方、任意で通勤方法を選ぶ場合、通勤経路の変更を事前に職場に届け出ておくことが重要です。

事故発生時には、迅速に交通事故証明書を取得し、第三者行為災害届を労働基準監督署に提出することで、補償を受けるまでの流れをスムーズに進めることができます。

 

公共交通機関利用中の事故ケース

電車やバスなどの公共交通機関を利用中に事故が発生した場合も、労災保険が適用されることがあります。

この場合のポイントは、通勤ルートが合理的であり、公共交通機関利用の目的が通勤であることが明確であることです。

 

たとえば、電車内で万が一怪我をした場合やバス乗車中の急停車による事故などは、通勤災害として扱われる可能性が高いです。

事故直後には、交通機関のスタッフや警察への通報を行い、証拠を確実に残しておきましょう。

 

休日出勤や直行直帰の場合

休日出勤や業務の都合で職場以外の場所に直接向かう「直行直帰」の場合でも、労災が適用される可能性があります。

この場合、事故発生時点で通勤経路が合理的であるかが判断基準となります。

 

たとえば、休日に特定の現場に直行して業務を行う際の移動中での事故や、直帰途中の交通事故などは通勤災害と認められるケースが多いです。

ただし、出勤先や勤務先が変更になる場合は、事前に会社へ報告を行い、通勤経路や労働内容について記録を残しておくことが肝心です。

 

まとめ:労災保険をうまく活用して適切な補償を受ける方法

早めの対応が重要

通勤中の交通事故に遭った場合、適切な補償を受けるためには早期対応が非常に重要です。

事故直後には、まず警察と保険会社に連絡を行い、交通事故証明書の取得手続を始める必要があります。

 

また、通勤災害に遭ったことを速やかに会社に報告し、労災保険への申請を迅速に進めていく必要があります。

 

労働基準監督署や窓口への相談

労災に関する制度や申請手続について分からないことがあった場合には、労働基準監督署や専門窓口を活用しましょう。

労働基準監督署では、申請時に必要な書類や手続きの流れについて詳細な説明を受けることが可能です。

 

また、役所窓口を活用することで、通勤中の事故による補償請求を正しく進めるサポートが受けられるため、初めての手続でも安心です。

 

弁護士への相談で損害賠償も上手く進める

労災保険や交通事故の補償手続では、被害者が対応しきれない複雑な場面が生じる場合があります。

特に、相手との過失割合の話し合いや慰謝料請求などでトラブルを回避するためには、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士は、法律的な側面でのアドバイスや請求における交渉を支援してくれるため、スムーズな解決を目指す一助となります。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、通勤中の交通事故の被害に遭われた方について、

労災保険利用や加害者側保険会社との交渉を上手く進めながら適切な解決を行った事例が数多くございます。

 

 

交通事故における労災保険利用は、労災保険と加害者側保険会社と、それぞれやり取りを行いながら進めていく必要があります。

適切な賠償金を獲得するためには交通事故を専門とする弁護士に依頼しましょう。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による初回無料の法律相談を実施しております。

通勤中の交通事故被害でお困りごとをお抱えの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。