交通事故コラム

過失割合

交通事故の「過失割合」について被害者専門弁護士が解説!

2024.12.23

過失割合

このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、

  • 交通事故の過失割合とは
  • 過失割合の決定プロセス
  • 事例別の過失割合の考え方
  • 被害者視点で考える過失割合の交渉ポイントと注意点

等について解説します。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による過失割合解決サポートを行っております。

交通事故被害に遭い、過失割合の交渉でお困りの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による過失割合解決サポートの詳細はこちら。

 

過失割合とは何か?基本的な仕組みと重要性

過失割合の定義とその役割とは

民法では「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定されています(民法第722条2項)。

これを「過失相殺」といい、過失相殺によって定められた被害者及び加害者の過失の割合を「過失割合」といいます。

 

この「過失割合」は、実務においてはどちらがどの程度の責任を負うべきなのかを具体的に示す指標となります。

 

たとえば、発生した交通事故について双方の過失割合が9:1であれば、事故の90%が加害者の責任であり、残りの10%が被害者の責任ということになります。

この割合は事故後の損害賠償の基準となるため、非常に重要な役割を果たします。

 

今回の事故により被害者に生じた損害が1000万円であった場合、被害者の過失が10%となると、この1000万円×10%=100万円は自己過失分ということで相手に請求することができず、

受け取ることができる金額は自己過失分を差し引いた900万円となります。

 

この過失割合が8:2となると、受け取ることができる金額は800万円となり、発生した損害の大きさは変わらないのに受け取ることができる金額が減少してしまいます。

 

このように、過失割合は損害賠償金額全体に影響を与えるため、被害者や加害者が適正な補償を受けるためにも、正確な過失割合を算出することが必要不可欠です。

 

 

過失割合は誰が決めるのか?

交通事故において過失割合を決定するのは、基本的に事故当事者が契約している各保険会社の担当者です。

保険会社は、原則として東京地裁民事交通訴訟研究会編別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)を基に、

全【338】の類型のどれに当てはまるかという観点から、事故の状況に則した妥当な割合を算出します。

 

 

この『別冊判例タイムズ38号』の【338】の類型は、それぞれ被害者にとっても加害者にとっても有利に修正できる要素が列挙されています。

しかし、加害者側保険会社の提示は被害者にとって有利な修正要素を使わずに(結果として加害者側に有利になるように)過失割合を提示してくる場合もあります。

 

こういった場合には、各修正要素の定義を理解し、事故発生状況を示す証拠などをもとにしっかりと被害者側に有利な修正要素を主張していくことが重要です。

 

最終的な決定権は当事者同士にあり、合意が得られなければ調停や訴訟といった法的手続を選択することも可能です。

また、弁護士に依頼することで、保険会社では見落とされる可能性のある事実を指摘し、被害者側に有利な交渉を進める助けとなります。

 

 

交通事故の事例ごとの基準(交差点、追突事故など)

交通事故の過失割合は、当然ですがその事故の発生状況によって異なります。

 

先ほど出てきた『別冊判例タイムズ38号』の【338】の類型は、

まずは双方当事者の属性などをもとに7つの類型に分けられ、そこからさらに事故発生状況によって細分化されています。

 

その7つの類型は以下のとおりです。

  • 歩行者VS四輪車・バイク
  • 歩行者VS自転車
  • 四輪車VS四輪車
  • バイクVS四輪車
  • 自転車VS四輪車・バイク
  • 高速道路上の事故
  • 駐車場内の事故

この類型ごとに、例えば横断歩道上であるとか、交差点内であるとか、道路外出入時であるとかの事情を踏まえてどの類型に該当するかということが決定されます。

 

各類型における注意点については以下のページで解説しておりますのでよろしければご覧ください。

 

 

弁護士が果たす役割

しかし、保険会社は多数の事故を取り扱う中で、標準的な基準や迅速な処理を優先する傾向があります。

そのため、被害者側の個別事情が十分に考慮されないことも少なくありません。

 

そこで弁護士の存在が重要になります。

弁護士は、被害者の視点に立って、事故状況に基づく正確な過失割合を主張するとともに、修正要素の提示や判例を用いた具体的な交渉を行います。

 

また、保険会社との交渉過程での不安や不満についても被害者をサポートし、納得のいく和解や判決につなげる役割を果たします。

 

納得できない場合の対処法

提示された過失割合に納得がいかない場合、まずはその根拠を具体的に確認することが重要です。

保険会社から過失割合の計算基準として使用された判例や修正要素について説明を求め、自分の事故と照らし合わせながら、適切であるかを判断します。

 

それでも納得がいかない場合は、弁護士のサポートを受けて、証拠や明確な基準に基づいた交渉を行いましょう。

弁護士は専門知識を活かし、被害者側に有利な主張を展開できるため、裁判などの手続きでも心強い支えとなります。

 

 

被害者視点で考える過失割合の交渉ポイントと注意点

弁護士小杉晴洋による示談交渉

交渉で押さえておきたい基礎知識

交通事故の過失割合は、発生した事故に対する当事者の責任割合を示す重要な要素です。

過失割合がどのように決まるか、またその影響についての基本を理解しておくことは、被害者として納得のいく賠償金を得るための第一歩です。

 

過失割合は保険会社が提示する場合が多いですが、提示された数値の根拠を確認し、不明点や納得できない点があれば適切に交渉する準備が必要です。

こうした基礎知識を事前に知っておくことで、不当に低い過失割合を受け入れずにすみます。

 

被害者側が活用できる証拠とデータ

交通事故の過失割合を交渉する際には、客観的な証拠とデータが重要な役割を果たします。

事故当日の現場写真、ドライブレコーダーの映像、目撃者の証言、警察(検察)の刑事記録などは、被害者が自身の主張を裏付ける有力な証拠となります。

 

また、交通法規や過去の判例を参照し、相手側や保険会社が提示する根拠に対抗できる材料を揃えることも有効です。

これらを積極的に活用することで、より有利な過失割合を得られる可能性が高まります。

 

過失相殺による賠償金への影響

交通事故では、過失割合は賠償金の金額に直接影響を与えます。

例えば、過失割合が8:2で自分に20%の過失が認められる場合、請求できる損害のうち20%分を差し引いた金額しか受け取ることができません。

 

これを「過失相殺」といい、被害者の過失が多いほど賠償金が減額される仕組みです。

 

このため、過失割合の交渉は非常に重要であり、不当に高い過失割合を受け入れないよう慎重に対応する必要があります。

賠償金の影響や交渉ポイントを事前に理解し、必要であれば弁護士のサポートを受けることが被害者にとっての大切な対策となります。

 

過失割合の関係で労災や健康保険等を利用するメリット

ここまで見てきたように、適切な過失割合を交渉で勝ち取ることに全力を尽くすことは重要です。

とはいえ、交通事故発生は一瞬のことであり、どうしても被害者側として過失が一定程度認められることを避けられないこともあります。

 

このような場合に、

  • 労災保険
  • 健康保険/国民保険
  • 人身傷害保険

などを利用することによって、実質的に被害者が自己過失分として負担せざるを得ない部分を減少させることができます。

順にみてみましょう。

 

労災保険(労働者災害補償保険)

通勤労災と認められる場合には、被害者は加害者側保険会社や自賠責保険だけでなく、労災保険に対しても療養や休業、障害の給付の支給を申請することができます。

この労災保険から支給される「療養給付」「休業給付」「障害給付」については、

発生した損害に対する填補を目的としているため、被害者の加害者に対して有する損害賠償請求権(過失相殺後)の一部と相殺されます。

 

しかしこの時「費目間流用の禁止」の原則により被害者にメリットが発生します。

少しわかりにくいので例を見てみましょう。

 

今回の事故で被害者に発生した損害が、治療費50万円、休業損害100万円、慰謝料100万円の計250万円であるとします。

被害者の過失が40%あるとすると、被害者が加害者に請求することができる金額は250万円×(100%-40%)=150万円となります。

 

ここで、仮に労災保険から療養給付として30万円、休業給付として70万円を受け取っているとすると、

「費目間流用の禁止」の原則が無い場合には、150万円-(30万円+70万円)=50万円が最終的な受取金額になります。

 

しかし、実際には「費目間流用の禁止」の原則があります。

これは読んで字のとおりで、費目の間で流用をしてはいけないという原則です。

 

より具体的に言うと、療養給付として支払われたものは治療に関するものとのみ損益相殺(差し引き)をして良く、それ以外の休業損害などと差し引きしてはいけないという原則です。

 

これがなぜ被害者のメリットになるかは実際に計算をしてみると一目瞭然です。

「費目間流用の禁止」の原則が働く場合、まず費目ごとに過失相殺がされます。

 

  • 治療費50万円×(100%-40%)=30万円
  • 休業損害100万円×(100%-40%)=60万円
  • 慰謝料100万円×(100%-40%)=60万円

となり、被害者が加害者に対して請求できる金額は合計150万円です。

ここから先ほど同じように労災保険からの支払分の損益相殺(差し引き)がされますが、費目間の流用は禁止ですから、

療養給付は治療費と、休業給付は休業損害と、のみ損益相殺されます。

 

  • 治療費30万円-療養給付30万円=0円
  • 休業損害60万円-休業給付70万円=-10万円

となります。この休業損害と休業給付の損益相殺後の-10万円は、「費目間流用の禁止」の原則が無ければ慰謝料の60万円と差し引きし、50万円が受取金額となります(先述のとおり)。

しかし「費目間流用の禁止」の原則があるため、この-10万円はいわばなかったこととなり、慰謝料の60万円がそのまま受取金額となります(+10万円)。

 

このように、労災保険の利用により過失相殺を一部免れる部分が生じるため、結果として被害者の得となります。

(参考:最高裁判所第三小法廷昭和58年4月19日判決 民集第37巻3号321頁など)

 

さらに労災保険は、休業に対する給付や障害に対する給付で、特別支給金というものが存在します。

特別支給金とは、休業給付や障害給付が支給された場合に、上乗せされる形で支給があるものです。

最高裁判所平成8年2月23日判決(判例時報1560号91頁)によれば、この特別支給金について、

特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(平成七年法律第三五号による改正前の法二三条一項二号、同規則一条)、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合における前記各規定と同趣旨の定めはない。このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないというべきである。

と判示されています。

 

つまり、特別支給金は被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額と差し引きされません。

労災保険からの休業に関する給付は、休業給付としての事故前収入の60%の金額と、休業特別支給金としての事故前収入の20%の金額で構成されています。

したがって労災保険からはトータルで事故前収入の80%を受け取ることができるのですが、加害者に対する損害賠償請求の際には60%しか受け取っていないというイメージで請求ができるので、休業給付として60%、相手から(100%-60%)で40%、特別支給金として20%の計120%を受け取ることができるようになるのです。

 

このように、労災保険を利用することで過失がある場合(無い場合でも)、被害者は得をすることになります。

 

 

健康保険/国民保険

被害者に過失がある場合、健康保険を利用することでも被害者は得をすることになります。

交通事故で怪我をした場合でも、第三者行為による傷病届を提出することで、健康保険を利用した治療を受けることができます。

 

健康保険を利用しない場合と利用する場合とでみてみましょう。

 

健康保険を利用しない場合

健康保険を利用しない場合には、基本的に1点当たり20円という単価で治療費の計算がされます。

治療期間トータルで1万点分の治療を受けたとすると、1万点×20円=20万円の治療費がかかったことになります。

 

加害者側保険会社の治療費の一括対応があった場合には、最終的に20万円を差し引くことになりますが、

この時過失割合を考慮した金額から差し引きがあります。

 

被害者の過失が40%とすると、相手に請求できる金額は20万円×(100%-40%)=12万円となり、

ここから20万円を差し引くと、-8万円となります。このマイナス分は他の慰謝料などの費目と相殺されることになります。

 

健康保険/国民保険を利用する場合

健康保険/国民保険を利用する場合は、1点あたり10円で計算されます。

1万点の治療を受けたとすると、10万円の治療費がかかることになります。

ただし、健康保険を利用した場合に本人が窓口で負担する金額はこの3割ですから、10万円×0.3=3万円となります。

 

加害者側保険会社が健康保険を利用し、かつ一括対応を行う場合(いわゆる「健保一括対応」の場合)には、最終的にこの3万円を差し引くことになりますが、

この時過失割合を考慮した金額から差し引きがあります。

 

被害者の過失が40%とすると、相手に請求できる金額は3万円×(100%-40%)=1万8000円となり、

ここから3万円を差し引くと、-1万2000円となります。このマイナス分は他の慰謝料などの費目と相殺されることになります。

 

このように、単純に他の費目と相殺される金額が少なくなる=他の費目で受け取れる金額が増えることになります。

これは、窓口負担で3割分支払う際に、健康保険協会が肩代わりする7割分に実質的に被害者の過失分も含まれるためです。

 

健康保険/国民保険を利用することで、過失のある被害者は得をすることになります。

 

ただし、健康保険/国民保険を利用した場合は、病院によっては自賠責様式の診断書や診療報酬明細書、後遺障害診断書などを作成してくれない場合があるため、

事前に医師に確認しておくことが必要です。

 

人身傷害保険

人身傷害保険とは、被害者が自身が交通事故などで怪我を負った場合に、自身の怪我に対して一定程度の補償を得られるように予め加入している保険をいいます。

この人身傷害保険は、「被害者の過失割合にかかわらず一定のお金が支払われる」という性質があります。

 

この性質と、最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決(判例時報2145号103頁)で判示された内容を踏まえると、

被害者に過失がある場合であっても、民事裁判を提起して裁判上の和解または判決を得た後に人身傷害保険を請求することで、

被害者の過失分を含めて発生した損害満額を受け取ることができるようになります。

 

 

 

弁護士に依頼するメリット

交通事故の過失割合における交渉は、保険会社が提示する主張に対して適切に対応する必要がありますが、専門性の高い知識が求められます。

そのため、弁護士に依頼することが被害者にとって大きなメリットとなります。

弁護士は交通事故に関する法的知識や判例を活用して、被害者に有利な条件で交渉を進められます。

 

また、専門的な対応を依頼することで精神的な負担を軽減し、迅速かつ公平な解決を図ることが可能です。

特に、納得できない過失割合が提示された場合には、弁護士の介入が最適な選択と言えるでしょう。

 

関連記事:交通事故の相手方の「たちが悪い」場合にはどうしたら良いでしょうか?

 

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、

被害者の方お一人お一人の事故発生状況に合わせ、正確な証拠を踏まえた的確な主張を行い、適切な過失割合を勝ち取るサポートをさせていただきます。

 

交通事故被害に遭い、過失割合についてお困りの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。

 

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弁護士法人小杉法律事務所における過失割合を有利に修正した事例の一部はこちら。

 

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。