コラム
交通事故被害者が死亡した場合の相続放棄とは?手続きの流れや期限、メリット・デメリットを弁護士が解説
2026.09.04

「亡くなった被害者に多額の借金があった」「疎遠だった親族の相続に関わりたくない」など、
相続をしたくない事情がある場合、家庭裁判所で手続きを行うことで相続人としての地位そのものを放棄する「相続放棄」という制度を利用することができます。
相続放棄は、被相続人の借金などマイナスの財産を引き継がずに済む有効な手段ですが、
手続きには期限があるほか、一度行うと原則として撤回できないなど、注意すべき点も少なくありません。
このページでは、交通死亡事故被害を専門としている弁護士が、
相続放棄の基本的な仕組みから、
- 手続きの流れ
- 期限
- メリット・デメリット
などについて解説します。
交通事故に強い弁護士法人小杉法律事務所では、交通死亡事故被害を専門としている弁護士による無料相談を実施しております。
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相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が家庭裁判所に申述することにより、初めから相続人ではなかったものとして扱われる制度です(民法938条・939条)。
| 民法938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」 |
| 民法939条「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」 |
相続放棄が認められると、被相続人の預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(債務)についても、一切相続しないことになります。
単に「遺産はいらない」と口頭で伝えたり、遺産分割協議で「何も受け取らない」と合意したりするだけでは、法的な相続放棄にはなりません。
相続放棄の効力を生じさせるためには、必ず家庭裁判所への申述という正式な手続きを行う必要があります。
相続放棄をすべきか検討したほうがよいケース
相続放棄は、次のようなケースで検討されることが多い手続です。
- 被相続人に、プラスの財産よりも借金などの債務が多いことが明らかな場合
- 被相続人が誰かの連帯保証人になっており、保証債務を引き継ぎたくない場合
- 相続財産の調査が難しく、債務の有無がはっきりしないため、リスクを避けたい場合
- 特定の相続人(配偶者や跡を継ぐ子など)に遺産を集中させたいため、他の相続人が財産を受け取らない意思を明確にしたい場合
- 疎遠な親族の相続に関わりたくない、相続トラブルに巻き込まれたくない場合
なお、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか判断がつかない場合には、
相続放棄ではなく、相続財産の範囲内でのみ債務を負担する「限定承認」という制度を検討することもできます。
ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があるなど、相続放棄に比べて手続きが複雑になる点に注意が必要です。
| 民法922条「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」 |
| 民法923条「相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。」 |
相続放棄の期限(熟慮期間)
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。
財産や債務の調査に時間がかかり、3か月以内に相続放棄をすべきかどうかの判断がつかない場合には、
家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期間を延ばしてもらえる場合があります。
期限が迫っている場合は、自己判断で放置せず、早めに家庭裁判所への申立てや弁護士への相談を検討することが重要です。
| 民法915条「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」 |
相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きは、一般的に次のような流れで進みます。
- 相続財産・債務の調査:プラスの財産とマイナスの財産の両方を確認し、相続放棄をすべきかどうかを判断します
- 必要書類の準備:相続放棄申述書、戸籍謄本など、被相続人との続柄に応じた書類を準備します
- 家庭裁判所への申述:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、必要書類を提出します(郵送での提出も可能です)
- 照会書への回答:裁判所から、相続放棄に至った経緯などを尋ねる照会書が送られてくることがあり、正確に記入して返送します
- 相続放棄申述受理通知書の受領:書類に問題がなければ、提出から数週間程度で「相続放棄申述受理通知書」が届き、正式に相続放棄が成立します
金融機関や不動産登記の手続きなどで相続放棄の事実を証明する必要がある場合には、別途「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所に申請して取得することもできます。
相続放棄に必要な書類・費用
相続放棄の手続きには、申述する人が誰であっても共通して必要な書類と、被相続人との続柄によって追加で必要になる書類があります。
共通して必要な書類
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
続柄によって追加で必要になる主な書類
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(申述する人が被相続人の配偶者、子である場合)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(申述する人が被相続人の父母・祖父母等直系尊属に当たる場合)
など
詳細は裁判所ホームページ「相続の放棄の申述」にてご確認ください。
費用の目安
- 収入印紙:申述人1人につき800円
- 連絡用の郵便切手:数百円程度(申述先の家庭裁判所によって異なります)
- 相続放棄申述受理証明書を取得する場合:1通150円程度
戸籍謄本の収集には、本籍地の変遷によって複数の市区町村役場とのやり取りが必要になることもあり、時間がかかる場合があります。
期限が迫っている場合は、戸籍がすべて揃っていなくても、まずは相続放棄申述書の提出を先行させ、戸籍書類は後日追完するという対応が可能な場合もあります。
相続放棄をするメリット・デメリット・注意点

相続放棄をするメリット
相続放棄には、主に次のようなメリットがあります。
- 被相続人の債務を一切相続せずに済む:借金や連帯保証債務などのマイナスの財産を引き継ぐ必要がなくなります
- 遺産分割協議に参加する必要がなくなる:相続放棄をした人は相続人ではなくなるため、他の相続人との間の遺産分割トラブルに巻き込まれずに済みます
- 相続税の基礎控除額には影響しない:相続放棄をした人がいても、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を計算する際の「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含めてカウントされるため、他の相続人の税負担が増えることはありません
相続放棄をするデメリット・注意点
一方で、相続放棄には次のようなデメリット・注意点もあります。
- プラスの財産も一切受け取れなくなる:借金だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も含めて、すべて相続できなくなります
- 原則として撤回できない:一度受理された相続放棄は、熟慮期間内であっても、詐欺・強迫などの特別な事情がない限り撤回することができません
- 後順位の相続人に影響が及ぶ:自分が相続放棄をすると、次順位の相続人(子が放棄すれば直系尊属、直系尊属もいなければ兄弟姉妹)が新たに相続人となり、債務を含めて相続する可能性があります。事前に一言伝えておかないと、後順位の親族との間でトラブルになることもあります
- 生命保険金等には原則として影響しない:死亡保険金は受取人固有の財産とされているため、相続放棄をしても受け取ることができる場合が一般的です(ただし、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えなくなる点に注意が必要です)
- 相続財産の管理義務が残る場合がある:相続放棄をした人であっても、次の相続人が財産の管理を始めることができるまでの間、一定の財産保存義務を負う場合があります
相続放棄をすると相続人はどう変わるか
相続放棄をした人は、その相続に関しては初めから相続人でなかったものとして扱われます。
そのため、同順位に他の相続人がいなければ、次順位の相続人が新たに相続人となります。
たとえば、被相続人の子全員が相続放棄をした場合、次順位である直系尊属(父母など)が相続人となり、
直系尊属もすでに他界していれば、さらに次順位の兄弟姉妹が相続人となります。
借金を理由に相続放棄をする場合、こうした後順位の親族にも影響が及ぶことを踏まえ、事前に事情を伝えておくことがトラブル防止の観点から望ましいといえます。
期限を過ぎてしまった場合はどうなるか
熟慮期間(原則3か月)を過ぎてしまうと、原則として「単純承認」をしたものとみなされ、プラスの財産・マイナスの財産のすべてを相続することになります。
また、期間内であっても、次のような行為をすると、相続を承認したもの(法定単純承認)とみなされ、後から相続放棄ができなくなる場合があるため注意が必要です。
- 被相続人名義の預貯金を解約して使用した
- 被相続人の遺品のうち、価値のあるものを処分・売却した
- 被相続人の債務を、相続財産から支払った
ただし、被相続人の死亡を知らなかった、あるいは債務の存在を認識できないやむを得ない事情があった場合には、
3か月の期間経過後であっても、例外的に相続放棄の申述が認められる場合があります。
この判断は事案ごとに難しい面があるため、期限を過ぎてしまった場合や、期限内の判断に迷う場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故と相続放棄

交通事故被害者が亡くなってしまった場合も、当然相続の問題は発生します。
この時、最大の注意点は、相続放棄をしてしまうと損害賠償金も受け取れなくなってしまうということです。
交通事故で被害者が亡くなると、亡くなってしまったことによってさまざまな損害が発生します。
しかし、この損害は基本的には被害者本人に発生し、それが相続されるという構成になっています。
そうすると、相続放棄をしてしまった場合、損害賠償請求権も放棄されてしまうので、損害賠償請求ができなくなってしまいます。
死亡事故被害者に発生する損害は、
- 葬儀費用
- 死亡逸失利益
- 死亡慰謝料
などになり、被害者の年齢や収入などにもよりますが、総額が1億円近い金額になることもあります。
債務と損害賠償金との兼ね合いを考えながら判断することが重要になり、そうすると損害賠償金が一体いくらになるのか?という点をはっきりさせる必要があります。
なお、近親者慰謝料については遺族固有のものとされており、相続放棄をしても請求可能ですが、
相場としては200万円~300万円程度とされております。
この点については、死亡事故被害を専門としている弁護士に相談することが最も確実です。
死亡事故被害を専門としている弁護士であれば、損害賠償金の見立てを提示し、実際のところいくらになるのか?では相続放棄はすべきか?という点についてのアドバイスを行うことができます。
また、実際の相続の手続きについてもサポートが可能です。
交通事故に強い弁護士法人小杉法律事務所では、死亡事故被害を専門としている弁護士によるサポートを実施しております。
大切な方を亡くされ、失意の中にある状況にもかかわらず、期限は刻々と迫ってきます。お辛い中ではありますが、泣き寝入りにならないためにも、
ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
相続放棄についてのよくある質問

相続放棄をすると、被相続人が生前に滞納していた税金や公共料金も支払わなくてよいですか?
はい。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとして扱われるため、被相続人が滞納していた税金や公共料金などの債務についても、支払う義務を負いません。
ただし、督促状などが届いた場合には、相続放棄をしたこと(相続放棄申述受理通知書の写しなど)を送付先に伝えておくとスムーズです。
相続放棄をした後に、実は多額のプラスの財産があったことが判明した場合、取り消せますか?
相続放棄は、原則として一度受理されると撤回できません。
財産調査が不十分なまま相続放棄をしてしまうと、後から多額のプラスの財産が見つかっても受け取ることはできなくなります(民法919条)。
そのため、相続放棄をする前に、可能な限り丁寧な財産調査を行うことが重要です。
| 民法919条1項「相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。」 |
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