後遺障害等級の解説

脳損傷

【高次脳機能障害|てんかん】医師監修記事|弁護士法人小杉法律事務所

本記事は、弁護士小杉晴洋による「高次脳機能障害とてんかん」に関する執筆記事です。

医学的な事項については、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)監修のもと執筆しておりますが、損害賠償請求を専門とする法律事務所としての執筆記事であるため、高次脳機能障害及びてんかん共に、外傷に基づくものを対象としております。

はじめに、高次脳機能障害とてんかんについて、それぞれの簡単な説明をした後に、両者の関係について説明していきます。

 

高次脳機能障害についての簡単な説明

 

脳は、大脳・小脳・脳幹に分けられ、大脳の外側面は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分けられます。

前頭葉は「意志」「創造」「感情」、頭頂葉は「理解」「認識」「知覚」、側頭葉は「聴覚」「言語」「判断」「記憶」などをそれぞれ司るとされています。

脳外傷による高次脳機能障害は、交通事故などで上記構造を持つ脳が損傷され、一定期間以上、意識が障害された場合などに起こりやすく、記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断力低下等の認知障害と、感情易変、不機嫌、攻撃性、暴言・暴力、幼稚、羞恥心の低下、多弁(饒舌)、自発性・活動性の低下、病的嫉妬、被害妄想等の人格変化を典型的な症状とするものです。また、半身の運動麻痺や起立・歩行の不安定などの身体症状を伴うこともあります。

脳外傷による高次脳機能障害では、CTやMRI等の画像検査で脳損傷などの「脳の器質的病変」が確認されることが特徴です。

脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害等級は、CTやMRI等の画像検査にて脳損傷が確認できれば無症状であっても後遺障害等級12級が認定され、それ以上の等級に関しては、介護の要否や労務への制限の程度によって1級・2級・3級・5級・7級・9級の認定がなされます。

以上が簡単な説明となりますが、高次脳機能障害に関するより詳しい説明は下記のページをご覧ください。

【高次脳機能障害】に関する詳しい説明はこちら

【高次脳機能障害の等級と金額】に関する詳しい説明はこちら

 

てんかんについての簡単な説明

(外傷性)てんかんは、脳の損傷によりてんかん発作を起こすものをいいます。

てんかんは、薬物の継続服用等によって、発作を完全に抑制することが治療の目標です。したがって、症状固定の時期は、専門の医師の治療によっても医療効果が期待できないと認められた場合及び治療により症状が安定した場合とされています。

てんかんの診断には、脳波所見が重要な意味を持ち、てんかんを示す異常脳波にはスパイク波(棘波)・鋭波といった種類のものがあります。

てんかんの診断については、発作の型の特定や脳波検査が重要ですが、MRI、CT等の画像診断も、てんかん発作の原因等を判断するのに有用とされています。

外傷性てんかんについての後遺障害等級の認定は発作の形、発作回数に着目し下記の基準によるとされています。

なお、外傷性てんかんに関する詳しい説明はこちらのページをご覧ください。

後遺障害等級5級2号

①1か月に1回以上の発作があり、かつ、②転倒する発作等がある場合に、後遺障害等級5級が認定されるとされています。

ここでいう「転倒する発作等」というのは、A「意識障害の有無を問わず転倒する発作」か、B「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」のいずれかを指します。

転倒する発作

「転倒する発作」の例としては、次のようなものが挙げられます。

  1. 意識消失が起こり、その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き、次第に短時間の収縮と弛緩を繰り返す間代性のけいれんに移行する強直間代発作
  2. 脱力発作のうち、意識は通常あるものの、筋緊張が消失して倒れてしまうもの

意識障害を呈し、状況にそぐわない行為をする発作

「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」の例としては、意識混濁を呈するとともに、うろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し、発作中は周囲の状況に正しく反応できないものというのが挙げられます。

後遺障害等級7級3号

A数か月に1回以上「転倒する発作等」があるか、または、B1か月に1回以上転倒する発作等「以外の」発作がある場合に、後遺障害等級7級が認定されるとされています。

後遺障害等級9級10号

A数か月に1回以上転倒する発作等「以外の」発作があるか、または、B服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されている場合に、後遺障害等級9級が認定されるとされています。

後遺障害等級12級13号

発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認められる場合に、後遺障害等級12級が認定されるとされています。

 

高次脳機能障害とてんかんの関係(後遺障害等級認定及び損害賠償請求)

では、高次脳機能障害とてんかんとの両方が問題になる場合、後遺障害等級の認定はどうなるでしょうか?

医学的な見地も踏まえながら、後遺障害専門の弁護士が解説していきます。

 

1か月に2回以上のてんかん発作がある場合には高次脳機能障害3級以上と自動判定される

先ほど、てんかんの後遺障害等級の説明にて、①1か月に1回以上の発作があり、かつ、②転倒する発作等がある場合には、後遺障害等級5級が認定されると言及しました。

では、1か月に2回以上のてんかん発作がある場合は、どうなるのでしょうか。

答えは、てんかんとしてではなく、高次脳機能障害として1級~3級のいずれかの後遺障害等級認定がなされます。

これは、医学経験則上、1か月に2回以上のてんかん発作があるという場合、てんかん発作のみが単独で残存するということは想定し難く、通常は脳挫傷があって、高度な高次脳機能障害を残す状態でてんかん発作を伴っているケースとして考えられると整理されていることに基づきます(「労災補償障害者認定必携」第17版158頁参照)。

従いまして、1か月に2回以上のてんかん発作がある場合には、常時介護の状態であれば高次脳機能障害1級、随時介護の状態であれば高次脳機能障害2級、介護の必要が無ければ高次脳機能障害3級が認定されるということになります。

なお、単純な繰返し作業程度ができる症状の場合、高次脳機能障害としては5級の認定がされることになっていますが、1か月に2回以上のてんかん発作があるのであれば、単純な繰返し作業程度ができる能力があったとしても、高次脳機能障害として3級の認定がなされるということになります。

てんかんの後遺障害等級が●級で、高次脳機能障害の後遺障害等級が●級で、両者の等級を併合して●級になるといった考え方はしないので注意が必要です。

 

元々てんかん発作の症状を持つ人が交通事故に遭って高次脳機能障害となってしまった場合はどうなるか

加重障害(既存障害:てんかん)

元々てんかん発作の症状を持つ人が交通事故に遭って高次脳機能障害となってしまった場合、後遺障害等級認定上「加重障害」として取り扱われます。

加重障害について簡単に説明をすると、交通事故後の後遺障害の等級をまず認定し、そこから交通事故前から有していた後遺障害の等級をマイナスするといったものです。

加重障害に関する詳しい説明はこちらの記事をご覧ください

この考え方に従うと、例えば、交通事故後の高次脳機能障害の後遺障害等級が3級に該当するもので、交通事故前から有していたてんかん発作が数か月に1回の転倒する発作として7級に相当するものとすると、「3級-7級」という評価がなされることになります。

具体的には、自賠責保険金の支払いについて現れるところで、後遺障害等級3級の自賠責保険金2219万円から、既存障害等級7級に相当する自賠責保険金1051万円を控除した、1168万円が自賠責保険金として支払われるということになります。

元々てんかん発作を持っていたがゆえに高次脳機能障害の程度が酷くなったというのであれば、致し方ないとも評価し得ますが、かなり酷い交通事故で、元々てんかん発作がなかったとしても高次脳機能障害3級になっていたという場合について酷な結果といえます。

しかしながら、自賠責保険というのは、てんかんと高次脳機能障害を同一の部位として評価しますので、上記例においては2219万円の自賠責保険金が支払われることはなく、てんかんが高次脳機能障害と無関係であったとしても1051万円をマイナスした自賠責保険金しか支払ってくれません。

自賠責保険は日々発生する多くの交通事故案件を迅速に処理しなければならないため、このような機械的判断をします。

これは、元々てんかんの症状を持った人に対して酷な結果といえますが、元々のてんかん発作と高次脳機能障害との無関係を主張立証することにより、民事裁判では違った判断を得ることは可能ですので、このようなケースでは、専門の弁護士に訴訟依頼をするのが適切であると考えられます。

素因減額

素因減額とは、被害者が事故前から有していた、既往症や、身体的疾患又は心因的疾患が、事故による損害に寄与して、損害が拡大してしまったという場合、寄与した割合によって、損害賠償額を減額することをいいます。

さきほど説明した加重障害の概念は自賠責保険における用語ですが(自動車損害賠償保障法施行令2条2項)、ここでいう素因減額というのは損害賠償請求における用語で(民法722条2項類推適用)、自賠責保険金や後遺障害等級認定とは無関係です。

事故前からてんかん発作を有していたがために交通事故後の高次脳機能障害の程度が酷くなってしまったという場合に、素因減額の考え方が適用されます。

簡単に説明すると、交通事故後の高次脳機能障害の程度から考えられる損害額(慰謝料や治療費などの合計額)が1億円と仮定した場合、このような重い高次脳機能障害となってしまった原因は、交通事故が80%・元々疾患を有していたことが20%といった形で割合を認定して、元々の疾患の割合分を控除するということが行われます(上記例だと損害額1億円から20%分が引かれるので8000万円となります。)。

この素因減額は公平の理念に基づくものであるため、元々てんかん発作がなかったとしても重い高次脳機能障害とはなっていなかったという事例では適用されず、この点で加重障害の考え方とは異なって機械的判断はなされません。

ただし、本当に20%も損害拡大に寄与していたのかといった点は高度な専門的判断が求められますから、事故前からてんかん発作があった方が高次脳機能障害になってしまったというケースは、専門の弁護士に依頼して損害賠償請求をしてもらうのが適切であると考えます。

 

元々高次脳機能障害の後遺症を持つ人が交通事故に遭っててんかん発作が生じてしまった場合はどうなるか

加重障害(既存障害:高次脳機能障害)

元々高次脳機能障害の後遺症を持つ人が交通事故に遭っててんかん発作が出てしまったという場合、前述の例と同様、後遺障害等級認定上「加重障害」として取り扱われます。

例えば、交通事故後のてんかん発作が数か月に1回の転倒する発作として7級に該当するもので、交通事故前から有していた高次脳機能障害の後遺症が軽易な労務にしか服することができないものとして7級に相当するとすると、「7級-7級」という評価がなされることになります。

具体的には、後遺障害等級7級の自賠責保険金1051万円から、既存障害等級7級に相当する自賠責保険金1051万円を控除することになるので、自賠責保険金は1円も支払われません。

元々高次脳機能障害を有していたがためにてんかん発作を発症したというのであれば、致し方ないとも評価し得ますが、交通事故がなければてんかん発作が生じることは無かったというのであれば自賠責保険金0円というのはかなり酷な結果といえます。

しかしながら、先ほど述べたとおり、自賠責保険というのは、てんかんと高次脳機能障害を同一の部位として評価しますので、元々後遺障害等級7級だった人が、交通事故後も変わらず7級の後遺障害等級を有しているだけだと判断して、自賠責保険金を1円も払ってくれないという対応を取ることになります。

これは、元々てんかんの症状のなかった被害者の方に対して酷な結果といえますが、民事裁判ではこのような機械的判断ではなく実質的な判断を得ることは可能ですので、上記のようなケースでは、専門の弁護士に訴訟依頼をするのが適切であると考えられます。

素因減額

事故前から高次脳機能障害であったために交通事故後にてんかん発作が生じたという場合に、素因減額の考え方が適用されます。

例えば、交通事故後のてんかん発作の程度から考えられる損害額(慰謝料や治療費などの合計額)が1000万円と仮定した場合、てんかん発作が生じた原因が、交通事故が60%・元々の脳疾患が40%といった形で割合を認定して、元々の疾患の割合分を控除するということが行われます(上記例だと損害額1000万円から40%分が引かれるので600万円となります。)。

この素因減額は公平の理念に基づくものであるため、元々高次脳機能障害がなかったとしてもてんかん発作が生じていたという事例では適用されず、この点で加重障害の考え方とは異なって機械的判断はなされません。

ただし、交通事故外傷によって高次脳機能障害となることはありますが、てんかん発作のみが後遺症として残るということは稀ですので、類型的に素因減額0%で解決することは難しいと思われます。

いずれにしても、高い素因減額割合を認定されてしまっては、損害賠償金額が大幅に減額されてしまいますから、事故前から高次脳機能障害の後遺症を有していた方が事故後にてんかん発作が発現したというケースでは、専門の弁護士に依頼して損害賠償請求をしてもらうのが適切であると考えます。

 

高次脳機能障害とてんかんのまとめ

弁護士法人小杉法律事務所の新聞掲載

以上、高次脳機能障害の簡単な説明や、てんかんの簡単な説明を経た上で、両者の関係について、後遺障害等級認定や損害賠償請求の側面にて解説を行いました。

高次脳機能障害とてんかんの関係は、自動的に3級以上の後遺障害等級が認定されたり、てんかん発作とは無関係に高次脳機能障害になったとしてもてんかんの後遺障害等級相当分の自賠責保険金減額が行われてしまうなどの特殊性があります。

弁護士法人小杉法律事務所では、元々障害を有していた方が事故被害に遭った場合の事案に集中的に取り組んでおり、新聞掲載歴・判例誌掲載歴・講演実績が多くございます。

高次脳機能障害やてんかんの症状にて損害賠償請求をお考えの方は、無料相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。