交通事故の「後遺症」と「後遺障害」の違いって何?
後遺障害
交通事故の損害賠償請求について調べていると、
「後遺症」と「後遺障害」という用語にほぼ確実に出くわすことかと思います。
一見して非常に似た言葉であり、意味も全く同義であると捉えられることも多いですが、
厳密には若干意味が異なります。
自賠責保険における後遺障害等級認定に係るシステムは、
基本的に、労災における後遺障害等級認定のシステムを準拠したものとなっています。
ということで、労災の障害(補償)等給付における「後遺症」や「後遺障害」の考え方をみてみましょう。
『労災補償 障害認定必携 第17版』(一般財団法人労災サポートセンター発行)によれば、「後遺症」と「後遺障害」について次のようにまとめられます。
すなわち、
傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態であり、かつ残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときにおいて残存する傷病と相当因果関係を有し、加えて将来においても回復が困難と見込まれる精神的または身体的な毀損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの
です。
分解して考えると、次のようになります。
「後遺症」=傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態であり、かつ残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときにおいて残存する傷病
「後遺障害」=「後遺症」と相当因果関係を有し、加えて将来においても回復が困難と見込まれる精神的または身体的な毀損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの
つまり、「後遺障害」というのは、「後遺症」の中でも労災の障害(補償)等給付に規定された障害に該当するものを指す概念であり、「後遺症」に包含される関係になるわけです。
そのため、「後遺障害」という概念は医学における概念ではなく法律上の概念となります。
抽象的な話ばかりではイメージしづらいので、具体例を出して考えてみましょう。
労災における障害(補償)等給付の補償対象とされる障害の中に、外貌醜状というものがあります。
「外貌」とは頭部・顔面部・頚部のような上下肢以外の日常露出する部分を指し、
この外貌に傷痕等が残存した場合に、一定の要件を満たすと障害等級が認定されます。
外貌醜状には3つの等級が定められていますが、
そのうちの一つである第12級の14「外貌に醜状を残すもの」については次の要件が設定されており、いずれか一つに該当すれば等級認定がされます。
ア 頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
イ 顔面部については、10円玉大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
ウ 頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕
ここで、顔面に4センチメートルの線状痕を残す被害者Aと、顔面に2センチメートルの線状痕を残す被害者Bがいたとします。
被害者Aは、要件イに該当する後遺症を残しているので、外貌醜状第12級の14の後遺障害に該当すると判断されます。
他方、被害者Bは、要件イに該当するほどの傷ではないため、外貌醜状第12級の14の後遺障害には該当しません。
このように等級判断結果は異なりますが、被害者A・被害者Bの二人とも、線状痕の後遺症が残存していることには変わりありません。
換言すると以下のようになります。
被害者Aの線状痕は、労災の第12級の14の後遺障害に該当する後遺症である
被害者Bの線状痕は、労災の第12級の14の後遺障害には該当しない後遺症である
以上にみてきたとおり、
「後遺症」と「後遺障害」という概念は同義ではなく、厳密には意味が異なるものとなっており、
「後遺症」の中でも、労災で定められた補償対象となる障害に該当するものが「後遺障害」となります。
冒頭で述べたように、自賠責の障害等級認定においては労災のシステムが準用されていますので、
交通事故の場合でも、「後遺症」と「後遺障害」の関係は労災と同様に考えることができます。
このように、法律上・損害賠償請求上特有の概念が登場することから、
専門的な知識がないと、なかなか簡単には理解できないことも多くあるでしょう。
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