後遺障害等級一般論 骨折 上肢 下肢 神経症状
骨折した際の示談金の相場について(弁護士法人小杉法律事務所監修)
こちらの記事では、骨折受傷後の示談金の相場について整理しています。
「示談」とは?
何気なく使う用語ではありますが、正確な定義は何かと聞かれると実は悩ましい部分があります。
多くの場合は示談=和解であり、和解とは民法695条に規定されている和解契約を指すと思われます。
訴訟等の段階に進んだ後なら和解、それ以前であれば示談、というふうな使い分けがなされている印象です。
和解契約の根拠条文である民法695条はこういう文言です。
「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」
要素は、前提として「争い」がある場合に、「互いに譲歩」(互譲)して、争いを「やめること」の合意です。
これらの要素を満たす合意であるかぎり、表現が示談でも和解でも効力は同じで、事後の蒸し返しは基本的にNGとなります。
もちろん契約の一種ですから、事後的に民法95条1項による錯誤取消や、一方の説明義務違反による債務不履行解除(民法540条~)を主張することは可能ですが、なかなか認められにくいしょう。
※例えば、錯誤取消も債務不履行解除も認められなかった例として、福岡地裁令和5年2月16日判決(令和3年(ワ)第3694号、令和4年(ワ)第1066号)
示談(和解)をする際の内容や条件については、合意する前にしっかりチェックし、弁護士への相談も検討なさることをお勧めします。
骨折の示談金の相場について
交通事故に精通した弁護士であれば、この職業の方でケガがこのくらいなら大体このくらいかなぁ、という感覚は持ち合わせています。
ただ、あえて言いますが、相場はありません。事案によります。
被害者の属性(年齢、職業(自営業か(確定申告はしているか、しているとして赤字申告じゃないのか。)、会社経営者か(会社の規模はどのくらいか、役員報酬のうち労務対価分はいくらか。)、雇用契約による給与所得者か、主夫・主婦か、学生か、無職か、など。)、持病の有無など。)、事故態様(過失割合等)、怪我の種類や重症度、後遺障害の有無や程度によって都度都度計算するしかありません。
事故やケガの詳細も聞かずに「それだったらいくらくらいじゃない?」と話す弁護士がいたら、ちょっと疑った方がいいと思います。
→骨折事案の後遺障害認定に関する弁護士としての着眼点はこちらのページの「後遺障害認定申請時の着目点(弁護士の発想)」で少し記載しています。
交通事故等による損害賠償請求項目
相場はありませんと書きましたが、それでは元も子もありませんので(申し訳ございません)、ざっくりとですが、事故発生後の賠償金支払・解決までの流れと、請求すべき主な損害賠償費目についてご説明します。
事故後~解決までの流れ
大雑把な整理ではありますが、交通事故等で受傷した際にたどる経過としては次の(A)→(B)→(C)の流れが一般的です。
(A)治療~治癒or症状固定
まずは事故で受傷した症状をよくするのが第一ですから、治療に専念していただくことになります。
治療を受ければ、症状は徐々に軽快していくのが通常ですが、事故前と同じ状況まで回復すれば治癒となり、治療中に発生した損害を計算し、(C)のステップへ進みます。
(B)症状固定~後遺障害認定
治療をすることで当初に比べればいくらか症状は軽減したとしても、何らかの症状が残存し、改善の効果が見込めない状態になると、症状固定の時期となり、(少なくとも損害賠償の対象になるという意味での)治療期間は終了します。
残存した症状については、交通事故なら自賠責保険に後遺障害認定の申請をして、後遺障害等級の評価を受けます。
その後、治療中(A)に発生した損害と、残存した後遺障害(B)に関連する損害を計算し、(C)のステップへ進みます。
ところで、症状固定後も医療機関へ継続的に受診するかどうかは被害者の方の自由ですが、以降の治療費や通院交通費、休業損害等の費目は原則として加害者側へ請求できません。だからといって症状がつらいのにパッタリ通院をやめてしまえば、本当に何か症状残っているのか(あるいは、そんなにひどくないんじゃないか)と疑われる可能性もありますし、塩梅が難しいところです。自賠責保険の等級認定で異議申し立てをする際は、症状固定後の通院もあればそれを主張することで、良い結果に繋がることもあります。
(C)示談交渉・裁判等
事故によって発生した損害について計算し、加害者側と支払の交渉をすることになります。
被害者側に弁護士が介入しないケースで加害者に保険会社がついているケースなら、多くは保険会社から賠償金の提案がなされ、それをベースに交渉してくことになります。
被害者側に弁護士がついたケースでは、多くは弁護士の方で損害額(裁判基準。場合によっては+α。)を計算し、加害者側に請求することで交渉が開始します。
交渉の結果、双方支払金額に納得すれば、示談・和解となり終了します。
そうでなければ、民事裁判や調停、ADR等の手続きに進み、解決を目指します。
(A)治療期間中の損害
主なものは以下の通りです。
治療費
加害者側に任意保険がついているケースでは、通常、都度都度保険会社が医療機関に直接支払いをしてくれるケースがほとんどです。
ただ、加害者が保険に加入していないとか、被害者の過失割合が高いケース等では直接の支払を拒まれ、事後的な清算を求めざるを得ないこともあります。
そのような場合でも、被害車両に人身傷害保険等が付保されていれば、そちらから治療費等の支払を適宜うけることができることがあります。
また、労災適用のある事故であれば、労災保険で療養(補償)給付を受けることが可能です。
通院交通費
通院に要した交通費です。
もちろん受傷の程度によりますが、基本的には公共交通機関(電車やバス)ベースでの賠償になり、タクシー利用のケースは争われることが多いので(当初は払ったとしてもあとで他の項目から清算すると主張されたり。)、タクシーでの通院しかできない場合はその旨医師から保険会社に説明してもらうなど、状況を整えておく必要があります。
休業損害
治療期間中に発生した休業損害です。基本的には受傷前3か月の平均日額をベースに、休業期間中の損害を計算することになります。
雇用契約でどちらかにお勤め方は就業先に休業損害証明書を書いていただければ立証は比較的容易です。
自営業の方の場合、確定申告をしていない方や赤字申告している方は基礎収入等の立証の難度が上がります。
無職の方の場合、直近までの就労状況にもよりますが、学生でもない限り、内定が決まっていて近い将来に収入が入る予定があったという方でなければ、支払い自体厳しいか、支払われても少額になる傾向が高いでしょう。
同居する家族のために家事を担っている方であれば、主夫・主婦としての休業損害を請求できる可能性もあります。
休業損害については、対応する保険会社によって、月ごとに支払ってくれるケースもあれば、後日まとめて清算というケースもあります。
こちらについても、加害者が対応しないケースの場合に自車付保の人身傷害保険を利用したり、労災適用のある事故の場合は労災保険に休業(補償)給付を申請することも可能です。
入通院慰謝料(傷害慰謝料とも)
入院期間や通院期間によって、参考とされている表があり、実務的にはそれをベースに算出されることが多いです。
詳細は下記「入通院期間に対応する慰謝料」をご確認ください。
(B)後遺障害に対する損害
主なものは以下の通りです。
後遺障害逸失利益
残存した後遺障害によって、症状固定以降に失う可能性のある将来の収入を算出して請求するのが後遺障害逸失利益です。
基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失年数に対応したライプニッツ係数 の計算で算出します。
基礎年収については被害者の属性により様々です。
休業損害ともリンクしますが、雇用契約でどちらかにお勤めの方で源泉徴収票等があれば立証は比較的容易です。他方、自営業の方で確定申告をなさっていないとか、赤字申告でやってきたという方の場合や事故時失業中だった方や無職の方等、立証には苦労するケースもあります。
同居する家族のために家事を担っている方で、家事に支障が出ている方であれば、主夫・主婦として逸失利益を請求できる可能性もあります。
労働能力喪失率については、基本的には自賠責の認定等級に応じて〇%という目安が決まっています。
例えば14級なら5%、12級なら14%、10級なら27%…といった具合です。(2024年版赤本上巻448~450頁)
あくまで目安ですから、事案によっては割合が増額されたり、逆に減額されることもあります。詳細は弁護士にご相談ください。
労働能力喪失年数は、基本的には症状固定時の年齢~67歳までの年数で計算されます。たとえば30歳で症状固定なら67歳との差は37年ですが、ライプニッツ係数による調整が入り、37年の場合は22.1672です(令和6年3月現在。)。
後遺障害慰謝料
こちらも残存した後遺障害によって、目安が設けられています。詳細は下記「後遺障害についての慰謝料」をご覧ください。
3つの算定基準(自賠責保険基準、任意保険会社基準、裁判基準)
以下の通り、3つの基準があると言われています。
事案によりますが、一般には自賠責保険の基準<任意保険会社の基準<裁判基準の順に高くなる傾向があります。
自賠責保険の基準
治療中の損害については120万円、後遺障害についての損害は逸失利益と慰謝料あわせて一定額、という上限があります。
後者について、14級なら75万、12級なら224万、10級なら461万…といった具合です。(2024年版赤本上巻448~450頁)
裁判基準
俗に「裁判基準」と言われているだけなので、はっきりした定義はなく、それぞれの弁護士や使用されている文脈によって意味が異なる可能性があります。
赤本記載の慰謝料(入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料)を指して「裁判基準」というのが最大公約数的な理解かと思われますが、その他、通院付添費や通院付添費、自家用車による通院の場合のガソリン代の計算基準、葬儀関連費用等を含むのかもしれません。
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の場合、下記「入通院期間に対応する慰謝料」「後遺障害についての慰謝料」でご紹介する別表Ⅰか別表Ⅱによる目安の金額になるでしょう。
被害者側の弁護士としては裁判基準(場合によっては+α)で計算した賠償金額を示談交渉においても請求しますが、裁判基準での賠償金額は基本的には時間をかけて裁判をした場合に認められる金額だと認識されており(少なくとも交渉決裂後に訴訟提起してから6~12か月程度でしょうか。)、示談交渉の段階では早期解決(早期入金)の引き換えとして一定程度の譲歩を要求されることが多いです。
では、全件裁判に持ち込めばいいか、というのも難しい問題です。
裁判になれば「すぐお金払うから安くしてよ」という値切りは被害者にとって意味がないですし、裁判基準ベースで損害の計算が行われますから、一般論で言えば賠償金の増額が見込まれます。また、判決まで行けば遅延損害金と弁護士費用の増額も見込まれ、この点も有利な点といえそうです。
ただ、事案が長引くことや加害者側から提出される裁判書類の内容自体で被害者の方の精神衛生が長期間にわたって害されます。増額が期待できるとして、精神的負担に見合うほどの金額なのか、考えなければいけません。また、示談交渉の段階では加害者側は気づいていないけども、裁判になると気づいて主張され、かえって減額する可能性がある事案もあります。
担当の弁護士としっかり相談して、方針を決めていきましょう。
任意保険会社の基準
こちらも項目として設置しておきながら恐縮ですが、一般に公開されているわけではないので、詳細は不明です。「自賠責の基準よりは高く払わないとダメ(許してもらえない)だけど、裁判基準ベースの請求額通りに払うわけにもいかないし、どこかで値切って折り合いつかないかなぁ…。」というのが彼らの内心ではないでしょうか。
赤本で計算すればこうなる、という裁判基準について、保険会社は当然理解している(はずな)のですが、示談交渉の段階では(おそらくは)「まだ裁判じゃないですし、裁判すると時間かかるところ、今すぐ払いますから…」等の理由(内心?)で値切りを要求してきます。
裁判基準をベースに少額減額されるのであればまだマシですが、平気で最低基準の自賠責保険の金額を提示してくることもありますので、注意が必要です。
相手方から賠償金の提示があったら、弁護士に相談することをお勧めします。
ちなみに、加害者がいない自損事故や、被害者の過失割合が大きく、自車に付保している人身傷害保険等から保険金の給付を受ける場合、これは約款に基づく契約上の支払いになりますから、裁判基準で支払えと要求したところで聞き入れてはもらえません。
ただ、下記の解決事例でも紹介していますが、加害者に対して訴訟提起してそこで認容された金額を保険金として支払うという約款が準備されている場合もあります(【頚椎捻挫】【人身傷害保険】【告訴】頚椎捻挫で裁判基準の2倍の逸失利益が認められ、裁判基準からの慰謝料増額も認められた事例)。
詳細は保険会社や契約内容により異なりますが、費目によっては裁判基準より有利な金額の保険金で計算される場合もあります。
入通院期間に対応する慰謝料
治療期間(事故発生時~治癒または症状固定時)までの期間に対応する慰謝料です。
入院期間や通院期間によって、参考とされている表があり、実務的にはそれをベースに算出されることが多いです。
2024年版の民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(俗に「赤本」)上巻(基準編)、212~213頁にある別表Ⅰと別表Ⅱがそうです。
たとえば骨折して入院1月、その後通院5月の方なら、141万円が一応の基準ということになりますが、事案により増額修正要素も減額修正要素もありますから、詳細は弁護士にご相談ください。
後遺障害についての慰謝料
こちらも残存した後遺障害によって、目安が設けられています。
14級なら110万円、12級なら290万円、10級なら550万円…といった具合です。(2024年版赤本上巻216頁)
あくまで目安ですから、事案によっては割合が増額されたり、逆に減額されることもあります。詳細は弁護士にご相談ください。
たとえば、醜状障害等で認定基準にギリギリ届かず後遺障害認定が下りなかったケースや、就労に影響がないため逸失利益がゼロと認定された場合等に後遺障害慰謝料が考慮されたり(あるいは傷害慰謝料の増額で考慮)することがあります。
弁護士に相談を
交通事故等で骨折を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うために、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。賠償金の提示があった場合でも、適切な計算がなされているのかは一見して判断つきにくいケースが多いです。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
関連記事
→本記事内でちらちら出てきた人身傷害保険等、骨折等受傷時に頼りになる任意保険についてはこちらの記事で整理しています。
弁護士法人小杉法律事務所による解決事例
骨折事案に限ったものではありませんが、「裁判基準」よりも水準の高いところの解決を勝ち取った事例をいくつかご紹介します。
【捻挫など7箇所受傷】複数部位に14級の認定を受けたことを理由に、逸失利益が裁判基準以上に認められ、保険会社示談提示の4倍で裁判解決した事例
【頚椎捻挫・腰椎捻挫】追突むち打ち主婦の事例で、後遺障害等級併合14級だが労働能力喪失率は12級基準の14%で認められた事例
【頚椎捻挫・腰椎捻挫・右肩関節捻挫】後遺障害等級14級が3つ認定されたことを理由に、逸失利益10%10年が認められ、720万円の示談解決
【頚椎捻挫】【人身傷害保険】【告訴】頚椎捻挫で裁判基準の2倍の逸失利益が認められ、裁判基準からの慰謝料増額も認められた事例
【頚椎捻挫・腰椎捻挫】追突事故によるむち打ち併合14級の自営業者につき、後遺障害等級が複数あることの支障を立証し、後遺障害等級13級相当の示談解決をした事例
【骨盤骨折】後遺障害等級14級9号で労働能力喪失期間10年が認めされ、総額約1100万円の損害賠償金が認められた事例