後遺障害等級の解説

後遺障害等級一般論 上肢 下肢 神経症状

骨折と保険(弁護士法人小杉法律事務所監修)

こちらの記事では、骨折等の受傷と任意保険の関係について整理しました。

骨折した場合に発生しうる後遺症についてはこちらの記事でまとめております。

交通事故等で骨折等を受傷した際に頼りになる保険

交通事故等で骨折等の傷害を負った場合に発生しうる人身損害としては、治療費や休業損害、入通院慰謝料や後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料等があります。

これらの損害については、加害者がいれば加害者側へ損害賠償請求することを考えるべきですが、自損事故の場合には無理ですし、加害者がいても資力がない場合や、行方不明の場合等は回収可能性が低い点で損害賠償請求は難しくなります。

このような場合、たとえば被害にあったときに乗っていた自動車の自動車保険に自損事故保険や無保険車保険、人身傷害保険等の特約が組み込まれていれば、保険金として支払いをうけることができる可能性があります。

また、自動車保険でなくても、生命保険や各種傷害保険に加入していれば、一定の保険金の給付をうけることができる場合があります。

請求にあたっての一般的な留意点

契約内容・補償内容の確認方法

保険証券から、記名被保険者、保険期間、補償内容、特約の付保等をご確認いただく必要があります。

すぐに保険証券の内容を確認できない場合、加入している保険会社に電話等でご確認いただく手段もあります。

支払条件・計算方法

保険の種類により、どのようなことが起きた場合に保険金が支払われる約束になっているのかが異なります。

あるいは、実際に発生した損害をベースに保険金が計算されて支払われるタイプか、定額での給付で決まっているタイプか、等も異なります。

免責事由

重過失免責や酒気帯び免責条項等があり、該当すれば保険金の支払いはありません。

「重過失」については、ほとんど故意に等しい注意欠如の状態を指すと言われています。

裁判所の判断は最終的には事故時の状況等踏まえ総合的になされますが、警戒すべきは居眠り運転、飲酒運転、速度オーバーだと思われます。

名古屋地裁令和4年7月29日判決(令2(ワ)2704号)→免責

前方の見通しのきかない急カーブの山道(最高速度時速30km規制)を、深夜に、冬季通行止めの規則に反し時速59kmで走行し事故を起こしたケースで重過失免責が認められました。

東京高裁平成28年12月14日判決(平27(ネ)6207号)→免責

深夜の居眠り運転の事案ですが、重過失免責が認められました。

東京地裁平成19年12月26日判決(平18(ワ)22935号)→免責

法定速度時速60kmの一般道で、少なくとも時速100kmで運転中に遠心力が生じ、車両が制御不能になるようなハンドル操作を行い生じた事故につき、重過失免責が認められました。

東京地裁平成19年8月29日判決(平17(ワ)16791号)→免責せず

高速道路(制限速度時速70km)を時速96kmで走行中に携帯電話を操作したために前方注視を怠り、軽微なハンドル操作の誤りによって事故が起きた件につき、重過失までは認められないとして、免責を認めませんでした。

保険代位の有無(加害者への賠償請求との関係)

簡単な説明になってしまいますが、支払われる保険金が被害者に生じた実損害の穴埋め(てん補)として支払われる場合(保険法2条6号「損害保険契約」)、保険金の支払後には通常、保険代位(保険法25条)という効果が生じます。

保険代位とは、例えば、無保険車保険や人身傷害保険で保険会社が被害者に発生した損害について保険金を支払っててん補した場合、支払った保険金の分、被害者が加害者に有する損害賠償請求権が支払保険会社に移転し、権利を受け取った保険会社が加害者に求償請求し、支払った保険金の回収を図るということです。

被害者としては、すでに保険会社が支払って埋めてくれた損害については2重に加害者に損害賠償請求できないという効果(損益相殺)が発生します。

他方で、人の死亡や傷害疾病に基づき定額の保険金額を支払う場合には通常保険代位はなく、保険金受取の有無は加害者への賠償請求に影響しません。

事故後は早期に対応を

まずは保険会社にすぐ連絡を入れ、今後について相談しましょう。たいていの契約約款では、保険金支払対象になる事故が発生した場合、保険会社に一報をいれるよう規約があります。

また、事故での受傷からあまりに時間が経過してから保険会社に連絡を入れた場合、そもそも事故があったのかどうか、どのような事故だったのか、今の症状は事故によるケガなのかどうかなど、保険会社に疑われてしまう可能性が高まります。最終的に保険金が支払われるとしても、保険会社による調査が入り、支払いまでの期間が長期化する懸念もあります。

あとは、保険金請求にも時効があり、通常は保険金を請求できるときから3年間とされています(保険法95条1項)。

主な任意保険

自動車保険

自動車をお持ちの方のほとんどは自賠責保険だけではなく任意対人賠償保険に加入なさっていると思います。そちらに特約として人身傷害保険等が加わることが多いと思われます。

賠償責任保険(任意対人賠償保険)

事故を起こして他人の身体に傷害を負わせたり、所有物を棄損してしまった場合に自身が加害者として負担することになる損害賠償額について、保険金が支払われる仕組みでして、被害者側の立場で言えば、加害者側に付保されている任意対人賠償保険の役割になります。なので、本記事ではこれ以降取り上げません。

傷害保険

事故に巻き込まれてケガをしたり死亡した際に、被害者の方が乗っていた車に付保されている保険から保険金が支払われます。

後で整理していますが、自損事故保険、搭乗者保険、無保険車傷害保険や人身傷害保険等がここに含まれます。

保険代位がある場合、ない場合の両方があります。

自動車保険以外

自動車に関連した保険ではなく、生命保険や医療保険として加入なさっている場合が多いと思われます。

大きくは生命保険金と傷害保険金に分かれますが、保険代位は通常ありませんので、加害者に対する損害賠償請求への影響は基本的にはありません。

従来型の損害保険

自損事故保険 定額払い/代位無し

単独事故や相手方がいても無責の場合に、死亡保険金、後遺障害保険金、介護費用保険金、医療保険金等が支払われます。

いずれも定額での支払いになり、保険代位はありません。

搭乗者傷害保険 定額払い/代位無し

自車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により、車両搭乗者が死傷した場合に支払われます。

保険金額は定額での支払いになり、保険代位もありません。

なお、たとえば降車する際の事故などは、保険金支払い要件である「運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故」等の解釈で疑義が生じ、保険金の支払いについて紛争が生じることがしばしばあります。

無保険車傷害保険 損害てん補/代位あり

加害者に任意対人賠償保険が付保されていない場合やひき逃げ等で加害者がわからない場合に備える保険です。

死亡または後遺障害による損害(だけ)が対象になり、保険金額は事故の被害者が加害者に請求できる損害賠償額と同じです。

こちらは定額払いではなく、実際に発生し加害者に請求可能な損害額が保険金として支払われる(てん補される)保険で、保険代位が発生します。

治療期間中の損害(例えば治療費や休業損害、入通院慰謝料等)は支払い対象外になりますので、事故後の治療で完治して後遺障害が残存しなかった場合(後遺障害として認定されない場合も含みます。)には支払いが無い点、注意が必要です。

また、加害者に請求可能な損害額が保険金になりますので、被害者に過失相殺が適用されればその分保険金も減額されます。

人身傷害保険 損害てん補/代位あり

概要

自動車事故で身体に傷害を負った被害者(あるいは死亡した場合も)が、事故によって被った人身損害について保険金を受け取れるものです。

被害者過失部分等についても保険金の支払いがあるのが大きなメリットと言えます。被害者側の過失割合が50%でも100%分の保険金を受領できますし、自損事故でも同様です。

ただ、保険金支払の対象になる損害額の計算は、人身損害保険約款に基づくルールに従うことになりますので、俗にいう「赤本基準」や「裁判基準」と比べれば低額になることが多いです。

損害てん補型の保険で、保険代位があります。

また、保険適用の有無については「急激かつ偶然な外来の事故」や「運行に起因する事故」等の要件があります。搭乗者保険と同様に適用の可否が争われ、紛争になるケースがあります。

例えば、もともとあった持病が関連していないのか、故意の事故ではないか(自殺や保険金詐欺の疑い)、乗降中の事故ならどうか、等になります。

使いどころ

交通事故で被害にあった場合、自損事故の場合はそもそも相手方がおらず賠償請求できません。相手方がいたとしても任意対人賠償保険未加入や行方不明等のケースで回収可能性に不安がある場合、かなり助かる保険だと言えます。加害者側の資力に問題はないが事故態様等で争いがありスムーズな支払いが開始されないケースでも同様です。

このような事情があり、加害者への請求がすぐに難しい状況でも、人身傷害保険が適用されれば医療機関への医療費等の支払を都度対応してます。

他方、相手方加害者に任意対人賠償保険があり、治療費の都度払い等にも対応してくれているとしても、被害者側に過失割合があればその分は支払いがなされません(厳密にいえば、一括対応の場合は任意対人賠償保険が治療の必要性を認める限り治療費は支払いますが、あとで慰謝料等から過払い部分を控除されます。)。

人身傷害保険は被害者過失部分等についても保険金の支払いがありますので、うまく活用すれば被害者側に請求できない過失負担部分を人身傷害保険で補うことが可能です。

注意点

うまく活用すれば」のところが非常に悩ましいポイントです。

加害者のいる交通事故で任意対人賠償保険が普通に治療費等の都度払いに対応している(あるいはしようとしている)ケースでも、人身傷害保険を使うことはできます。

ただ、被害者に負担すべき過失割合があって加害者に全額請求できないケースで人身傷害保険を活用し、自身の過失負担部分も含めて100%の回収を目指すには様々な検討を要します。

詳細なご説明は機会があればまた別の記事でさせていただくとして、ざくっと記載するだけでも以下のような検討ポイントがあります。

加害者の任意対人賠償保険への請求を先にするのか(いわゆる「賠償先行」)、人身傷害保険への保険金請求を先にするのか(いわゆる「人傷先行」)。

加害者への請求を先にして大丈夫なのか(いわゆる「読み替え規定」の有無。その場合ほぼ裁判確定になりますが、時間的・精神的負担は大丈夫なのか。)。

人身傷害保険への請求を先にするとして、自己過失負担部分含めた全体の保険金を受け取るのか(その後加害者に残額を請求しますが、この場合もほぼ裁判確定です。)、自身の過失負担部分のみの請求をするのか(俗に「自己過失払い」といいますが、できない約款もあります。事故過失払いの場合には保険代位は発生せず、後日加害者と裁判によらず解決できる可能性は高く残ります)。

また、人身傷害保険の支払を受ける際の協定書の文言に問題はないのか、等の問題です。

さらに言えば、保険会社や保険によって契約約款の内容に差があり、同じ保険商品でも契約時期によって約款の内容は変わります。

「うまく活用」する方法については、法律相談の際に弁護士に直接ご確認いただければ幸いです。

人身傷害保険についての関連記事

人身傷害保険についてはこちらの記事でも整理しています。

弁護士に相談を

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交通事故等で骨折等を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を検討するのは当然ですが、被害者の方が乗っていた車についている保険や生命保険等で使えそうなものはないのか、あるとして、加害者への賠償請求との関係はどうなるのか等、悩みどころは非常に多くあります。特に、人身傷害保険の活用方法については経験のある弁護士のアドバイスが必須だと言えます。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

なお、保険金についてのご相談の際は、保険証券をお手元にご準備していただいて、「〇〇保険会社の」「〇〇保険の件」とあらかじめ示していただけないと、一般論としてのご説明はともかく、支払い内容や条件について詳細に検討できかねます。その点に関しては事前にご協力いただければ幸いです。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。