コラム
死亡事故損害賠償請求訴訟における上告・上告受理申立|弁護士法人小杉法律事務所
2024.07.03
死亡事故の場合、死亡逸失利益や死亡慰謝料など損害賠償額が数千万円~数億の単位となり、賠償金が高額となります。
そうすると、その金額の大きさゆえに、示談解決の確率は、他の交通事故よりも少なく、民事裁判へと移行しがちです。
そして、民事裁判を提起したからとってすぐに解決するわけではなく、被害者遺族側が納得できないような判決が下されることもありますし、逆に、死亡事故加害者側(加害者本人や保険会社など)が下された判決に納得しないというケースもあります。
日本の民事裁判は三審性を採用していますので、第1審(死亡事故の場合ほとんどは地方裁判所となります。)の判断に納得がいかない場合、控訴することによって第2審(高等裁判所)に審理が移行します。
交通死亡事故の発生から解決までの流れの解説はこちらのページをご覧ください。
控訴についての解説はこちらのページをご覧ください。
このページでは、第2審の判決にも不服がある場合について弁護士小杉が解説をしていきます。
第2審の判決に不服がある場合に行うことができるのは、上告と上告受理申立ての2つの手続ですので、これらについて紹介していきます。
上告とは
上告とは、自己に不利益な判決を受けた当事者が、第二審の裁判所(死亡事故の場合、高等裁判所となることがほとんどです。)の出した判決の確定前に、上級裁判所(最高裁判所)に対し、自己の有利にその裁判の取消し、変更を求める不服申立ての方法のことをいいます。
上告では、第二審判決に対する法律上の不服の主張の当否を審理判断し、事実に関する不服の主張の当否が判断されることはありません。
事実判断をする第一審・第二審を事実審の呼ぶのに対して、法律審と呼ばれます。
上告した当事者を上告人と呼び、上告された当事者を被上告人と呼びます。
上告理由
最高裁判所に対する上告は、以下の上告理由が存在する場合に限られています。
① 憲法解釈の誤り又はその他憲法違反があること(民事訴訟法第312条1項)
② 重大な手続違反(絶対的上告理由)があること(民事訴訟法第312条2項)
上告の手続(上告状の提出と14日の期間制限)
上告は、判決を出した第二審の高等裁判所に上告状を提出して行います。
上告状には、当事者及び法定代理人、第二審判決の表示及びその判決に対して上告をする旨を記載しなければなりません(民事訴訟法第313条・第286条2項)。
また、第二審の判決書を受け取った日から14日以内に上告をしなければなりません(民事訴訟法第314条、第313条・第285条)。
なお、上告状提出の際の印紙代は、訴状提出の際の印紙代の2倍の基準となっています。
上告審における主張(上告状と上告理由書)
上告状の提出は、第二審の判決書を受け取った日から14日以内という期間制限があることから、第二審判決に不服がある旨の簡単な記載しかなされないことが多いです(詳細な記載をしても大丈夫です(民事訴訟規則第186条・175条参照))。
第二審の判決に対する不服内容の詳細な主張は、通常、上告理由書において行います。
この上告理由書の提出は、控訴理由書と異なり、義務とされています(民事訴訟法第315条,第316条1項2号参照)。
上告理由書は、上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に(民事訴訟規則194条)、具体的かつ明確な根拠をもって記載することを要するものとされています(民事訴訟規則第190条~193条)。
上告受理申立て(裁量上告)
上告受理申立てとは
憲法解釈の誤り又はその他憲法違反があること(民事訴訟法第312条1項)または重大な手続違反(絶対的上告理由)があること(民事訴訟法第312条2項)といった上告理由がない場合であっても、最高裁判所が、法令解釈の統一性確保の観点から、法令解釈に関する重要な事項を含むと認めた場合には、申立てにより、上告事件として受理することができます(民事訴訟法318条1項)。
この申立てを上告受理申立てといいます。
上告受理申立理由
上告受理申立てが認められるケースというのは、下記のような場合です。
① 高等裁判所の判断に最高裁判例違反がある場合(民事訴訟法第318条1項)
② 高等裁判所の判断に関する最高裁判例はないが、大審院判例又は高等裁判所判例はあって、その大審院判例又は高等裁判所判例違反がある場合(民事訴訟法第318条1項)
③ これまで最高裁判所の判断がない解釈問題について解釈を示すべき場合
④ 最高裁判所の従来の判断を変更する場合
⑤ 高等裁判所の判断に誤った法令解釈が含まれている場合にこれを是正すべき場合
⑥ 下級審(高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所)実務の指針を提供するため、従来の最高裁判例の射程を明らかにするために必要な場合
上告受理申立手続
上告受理の申立てに対して、受理決定があった場合は、上告があったものとみなされます(民事訴訟法第318条4項前段)。
上告受理申立ては、原則として、上告の定期に関する規定が準用されます(民事訴訟法第318条5項,民事訴訟規則第199条)。
なお、上告の定期と上告受理申立てを1通の書面で行うことも可能です(民事訴訟規則第188条)。
上告審の審理と第二審判決が変わる確率
上告審は法律審ですので、一度も最高裁の法廷に行かずに判決又は決定によって終結することがほとんどです。
高等裁判所の判決内容が変更される確率は1%以下とされています。
死亡事故損害賠償請求訴訟における上告・上告受理申立ての利用について弁護士のまとめ
以上みてきたとおり、上告や上告受理申立てというのは、非常にハードルが高いです。
高等裁判所の下した死亡慰謝料額の判断に納得ができない、過失割合の判断に納得ができないといった、個別の不服では門前払いされてしまう確率が高くなっています。
第一審地方裁判所の段階で主張や証拠を出し切り、遅くとも第二審までの間に、民事裁判を勝ち切る動きや準備が重要となるでしょう。
なお、死亡事故の損害賠償請求訴訟において、民事の裁判で適正な判決を勝ち取るには、実は刑事の裁判の利用が重要となっています。
弁護士法人小杉法律事務所では、刑事裁判にも被害者参加することによって、その結果を民事の死亡慰謝料などの賠償金に反映させることで、適正な解決を図っています。
刑事裁判に参加することによって民事裁判にて死亡慰謝料など損害賠償金1億円以上を獲得した解決事例
刑事裁判に参加してその判決書を元に保険金1億4000万円を獲得した解決事例
では、上告や上告受理申立てというのは、意味がないものかというとそんなことはありません。
特に「最高裁判所の従来の判断を変更する場合」や「下級審(高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所)実務の指針を提供するため、従来の最高裁判例の射程を明らかにするために必要な場合」という上告受理申立理由は、適正な解決を導くために使い得るものだと思っています。
従来の考え方をそのまま当てはめたのでは、死亡事故の被害者本人やそのご遺族が浮かばれない事例というのは存在します。
また、過去に最高裁が示していない法的解釈について最高裁の見解を確かめなければいけない事例と言うのも存在します。
弁護士法人小杉法律事務所は、損害賠償請求日本一を目指していますので、日本の学者の見解のみならず、海外文献なども参照しながら死亡事故の被害者の方やそのご遺族のためになるような新しい最高裁判決の獲得にチャレンジしていきたいと考えています。