骨折 上肢 神経症状
上腕骨の近位端の骨折(弁護士法人小杉法律事務所監修)
上腕骨とは
肩関節と肘関節の間をつなぐ、二の腕部分の長管骨になります。
→上腕骨の骨折(一般)についてはこちらの記事で整理しております。
肩関節は上肢の3大関節の一つです。
上腕骨近位端とは
上腕骨近位端とは、上腕骨のうち肩の付け根に近い部分を指し、骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つの部分に分かれます。
上腕骨頭はほぼ球形を呈し、球の約1/3に相当する大きい関節面を有します。大結節には棘上筋、棘下筋、小円筋が付着し、小結節には肩甲下筋が付着しています。これら4つは合わせて腱板ともいわれています。
どのような原因で上腕骨近位端骨折を受傷するか
交通外傷やスポーツで受傷することがあります。
また、転倒時に受傷することが多く、手又は肘からの介達外力によって生じます。
上腕骨近位端骨折に合併しうる他の損傷
腱板損傷
上腕骨頭には腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)が付着していますので、上腕骨近位端を骨折した場合、腱板損傷を合併する可能性があります。
上腕骨近位端骨折の症状にはどのようなものがあるか
骨折部位の痛み等
骨折部位に痛み等の神経症状が残存する可能性があります。
関節の可動域制限
肩関節の動きが悪くなり、可動域制限(機能障害)が残存する可能性があります。
上腕骨骨折後に認定されうる後遺障害等級
認定される可能性のある後遺障害
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のものが認定される可能性があります。
機能障害
別表第二第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
別表第二第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
→患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限されたもの |
別表第二第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
→患側の関節可動域が健側の3/4以下に制限されたもの |
※「関節の用を廃したもの」とは、関節が完全強直または完全強直に近い状態となったもの、関節の完全弛緩性麻痺または完全弛緩性麻痺に近い状態になったものを言います。
「完全強直」したものとは、関節の可動域が全くないものをいい、「完全強直に近い状態」になったものとは、原則として、健側の関節可動域の10%程度以下に制限されているものをいいます。この「10%程度」とは、健側の関節可動域の10%に相当する角度を5度単位で切り上げて計算されます。なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合は全て「これに近い状態」として取り扱われます。
神経症状
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
変形障害
変形障害の認定区分は以下の通りですが、種類が多い上に「ゆ合不全」がどこにあればいいのかなど、非常にややこしい基準になっております。ご留意ください。
別表第二第7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
別表第二第8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
別表第二第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
別表第二第7級9号にある「1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、上腕骨の骨幹部または骨幹端部(以下「骨幹部等」。)にゆ合不全を残す場合であって、常に硬性補装具を必要とするものがこれに該当します。
別表第二第8級8号の「1上肢に偽関節を残すもの」とは、上腕骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので前述の「常に硬性補装具を必要とするもの」以外のものがこれに該当します。
一般に、骨折等による骨片間のゆ合機転が止まって異常可動を示す状態を「偽関節」といいますが、認定基準上は、カパンジー法による尺骨の一部離断を含め、骨片間のゆ合機転が止まって異常可動を示す状態を「ゆ合不全」と表現し、長管骨の保持性や支持性への影響の程度に応じて等級を認定することとされています。
ゆ合不全の判定にあたっては、できるだけ複数の方向から撮影したエックス線写真を取り付ける必要があります。これは、ゆ合不全の場合、エックス線写真を撮る方向によっては、骨折面が影になってしまい、ゆ合不全があっても骨ゆ合しているように見えることがあるからです。
別表第二第12級8号の「長管骨に変形を残すもの」には、認定基準上、六つの基準が定められていますが、上腕骨近位端骨折に関連しうるのは以下のものです。
なお、同一の長管骨に複数の変形障害を残す場合でも、第12級8号となります。
「長管骨に変形を残すもの」の一つ目は、上腕骨に変形を残すもの、または、橈骨および尺骨の両方に変形を残すもので、その変形が外部から見てもわかる程度以上のものです。
具体的には、15度以上屈曲して不正ゆ合したものがこれに該当します。また、橈骨または尺骨のいずれか一方のみの変形でも、その程度が著しく、外部から見てもわかる場合は、別表第二第12級8号として認定することができます。
しかし、長管骨の骨折部が正しい方向にゆ合している場合には、たとえその部位に骨肥厚があったとしても、長管骨の変形とは認められません。
「長管骨に変形を残すもの」の二つ目は、上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部にゆ合不全を残すものです。
「長管骨に変形を残すもの」の三つ目は、上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したものです。
この場合、骨端部の欠損は一部でなく、そのほとんどが欠損した場合が該当します。なお、回内・回外を改善するために尺骨の遠位端を切除する手術法としてダラー法がありますが、これも骨端部のほとんどを欠損したものに該当します。
「長管骨に変形を残すもの」の四つ目は、上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または、橈骨もしくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したものです。
「長管骨に変形を残すもの」の五つ目は、上腕骨が50度以上の外旋または内旋変形でゆ合しているものです。
50度以上回旋変形ゆ合していることは、「外旋変形ゆ合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が50度を超えて可動できないこと」および「エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること」によって認定します。
検査方法
骨折の有無について
単純X線検査は必須です。より詳細に確認したい場合、CT検査が行われることがあります。
上腕骨大結節については不顕性骨折(X線検査ではわからない。)がみられることがありますので、場合によってはMRI検査についても医師と相談しましょう。
→不顕性骨折を含む骨折の種類についてはこちらの記事で整理しています。(準備中)
腱板損傷について
画像検査として、MRI検査が有用です。
徒手検査としては、有痛弧(painful arc sign)やインピンジメントサインが有用です。断裂部位診断としては、棘上筋腱断裂を診断する棘上筋テスト、棘下筋腱断裂を診断するexternal rotation lagテスト、肩甲下筋腱断裂を診断するlift-offテストやbelly pressテストなどがあります。
弁護士に相談を
交通事故等で上腕骨近位端骨折を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うために、上腕骨近位端骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
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