圧迫骨折・体幹骨骨折 下肢 胸腹部臓器
骨盤骨折(弁護士法人小杉法律事務所監修)
こちらの記事では、骨盤の骨折について整理しています。
骨盤骨折は骨盤輪骨折と寛骨臼骨折に大別されますが、本記事では主に骨盤輪骨折について記載しています。
→骨盤含む「その他体幹骨」一般はこちらの記事で整理しています。
骨盤とは
骨盤は、左右の寛骨、仙骨、尾骨(尾てい骨)から構成され、体幹と下肢をつなぐ下肢帯として、体重の支持や骨盤臓器の保護の働きをしています。
左右の寛骨は前方で恥骨結合により連結、後方で仙腸関節により連結し、安定した輪状構造を形成します。これを骨盤輪といいます。
寛骨は出生~小児期には腸骨、坐骨、恥骨に分かれていますが、成人期には骨癒合が完成し、寛骨という一つの骨になります。なので、成人で腸骨、坐骨、恥骨と表現する場合、それは別々の骨のことではなく、寛骨という一つの骨のどの部位を指すのか、という前提の表現になります。
左右の寛骨の外側にあるカップ状の寛骨臼と大腿骨頭が合わさり、股関節を形成します。
骨盤骨折の態様(骨盤輪骨折と寛骨臼骨折)
(標準整形外科学第15版(医学書院)、816頁)
骨盤輪骨折と寛骨臼骨折の2つに大きく分類されます。
骨盤輪は寛骨(腸骨+恥骨+坐骨)と仙骨で構成される輪状構造です。
骨盤輪骨折は大量出血により生命を脅かすことがあります。
寛骨臼骨折は、股関節(寛骨臼+大腿骨頭)に骨折線が及ぶ骨折のことを言います。
診断・検査
骨盤輪骨折も寛骨臼骨折も、X線検査とCT検査が必要になります。
骨盤輪骨折についての詳細は後記します。
骨盤輪骨折とは
概要
(今日の整形外科治療指針第8版(医学書院)、714頁)
骨盤輪が破綻し、周囲の血管損傷と骨折部からの出血により、大量出血をきたすことが主な死亡原因になります。
受傷原因
交通事故や墜落などの高エネルギー外傷で生じます。
他方、骨粗鬆症を有する高齢者の低エネルギー外傷(主に転倒)により生じる脆弱性骨盤輪骨折もあります。
骨折態様による分類
骨盤輪骨折の病態を理解するのに有用だと言われるのがYoung-Burgess(ヤング-バージェス)分類です。
側方圧迫型をLC、前後圧迫型をAPC、垂直剪断型をVS、組み合わせの場合CMと分類します。
骨盤輪骨折で発生する症状
(標準整形外科学第15版(医学書院)、818~819頁)
腰痛・臀部痛
最も頻度の高い後遺症です。
神経障害
全骨盤骨折の10~15%に合併し、特に垂直剪断型の骨折に多いです。
仙骨骨折や仙腸関節脱臼の場合に腰神経叢損傷を合併することが多く、運動・感覚麻痺が生じます。
排尿障害
両側恥坐骨骨折に多く、尿道障害や膀胱損傷により排尿障害(尿失禁、排尿困難、血尿、頻尿、夜尿症など)が生じます。
性機能障害
男性の勃起障害や女性の性交不快感などを生じることがあります。
骨盤輪骨折で必要な検査
(今日の整形外科治療指針第8版(医学書院)、714頁)
身体所見
高エネルギー外傷では、特に多臓器損傷の合併の有無を確認します。
尿道口からの出血は尿道損傷を疑う所見です。
尿検査
尿の外観で血尿と判断すれば、肝臓以下尿道までの損傷を疑います。
X線
蘇生が必要な場合、胸部と骨盤部の単純X線正面像2枚で重症度の判断を行います。
受傷者の症状が落ち着いているのであれば、インレット像、アウトレット像を追加し、それぞれ前後方向、垂直方向の転位や骨盤輪の破綻を明らかにします。
CT
重症度の判断に必要な、骨盤の後方構成体損傷を診断するのに用います。手術計画をする際にも必要な情報です。
MRI
高齢者の脆弱性骨盤輪骨折においては、後方構成体の破綻はX線では診断できないことも多く、その場合にMRIが有用です。
骨盤輪骨折で認定されうる後遺障害について
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予測されます。
神経症状
骨折部位に痛み等が残存する場合に認定可能性があります。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
機能障害
骨盤骨折が股関節の可動域制限に影響を及ぼしている場合は認定の可能性があります。可動域の測定は他動値で行います。
また、骨盤骨折の影響で末梢神経が損傷し、支配領域に麻痺等の症状がおこった場合にも機能障害での認定可能性があります。こちらの場合は自動値での可動域測定を行います。
また、人工関節・人工骨頭が挿入置換された場合には別の認定基準が準備されています。
別表第二第8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
→以下の2つのうちいずれか。 ・関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの ・人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの |
別表第二第10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
→以下の2つのうちいずれか ・患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限されたもの ・人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下には制限されていないもの |
別表第二第12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの→患側の関節可動域が健側の3/4以下に制限されたもの |
変形障害
別表第二第12級5号 | 骨盤骨に著しい変形を残すもの |
なお、ここでいう「骨盤骨」には、仙骨が含まれます(尾骨の変形は障害認定の対象になりません)。
「著しい変形」とは、裸体となったとき、変形や欠損が明らかにわかる程度のもので、レントゲン写真によってはじめて見出される程度のものは該当しません(この点については、採骨による変形の場合も同様です)。
後遺障害申請時には変形や欠損が外観上判別しやすい写真を撮影し、添付するのが有用です。
骨盤骨が高度に変形したために、股関節が転位して運動障害が残った場合は、骨盤骨の変形と股関節の機能障害とを併合することができます。
たとえば、変形障害12級と股関節の機能障害12級の場合、併合して11級での後遺障害認定がなされます。
後遺障害の等級は損害賠償請求額の計算に直結ますので、骨盤骨骨折後に股関節に機能障害が残った場合、変形障害の残存がないのかどうか、忘れずにチェックすることが重要です。
排尿障害(膀胱機能障害)
別表第二第9級11号 | 膀胱の機能の障害により、残尿が100ml以上であるもの |
別表第二第11級10号 | 膀胱の機能の障害により、残尿が50ml以上100ml未満であるもの |
排尿障害(尿道狭さく)
別表第二第11級10号 | 尿道狭さくにより糸状ブジーを必要とするもの |
別表第二第14級相当 | 「シャリエ式」尿道ブジー第20番(ネラトンカテーテル第11号に相当)が辛うじて通り、時々拡張術を行う必要があるもの |
畜尿障害(尿失禁)
尿失禁は、持続性尿失禁、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁に分類されます。
持続性尿失禁以外は、尿失禁の程度に応じて認定します。
持続性尿失禁とは、膀胱の括約筋機能が低下または欠如しているため、尿を膀胱内に蓄えることができず、常に尿道から尿が漏出する状態をいいます。
切迫性尿失禁とは、強い尿意を伴って不随意に尿が漏れる状態であり、尿意を感じてもトイレまで我慢できずに尿が漏れる状態をいいます。
腹圧性尿失禁とは、笑ったり、咳やくしゃみ、重い荷物を持ち上げたりしたとき、歩行や激しい運動等によって急激に腹圧が上昇したときに尿が漏れる状態をいいます。
別表第二第7級5号 | 持続性尿失禁を残すもの |
別表第二第7級5号 | 切迫性尿失禁または腹圧性尿失禁により、終日パッド等を装着し、かつ、パッドをしばしば交換しなければならないもの |
別表第二第9級11号 | 切迫性尿失禁または腹圧性尿失禁により、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの |
別表第二第11号10号 | 切迫性尿失禁または腹圧性尿失禁により、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの |
畜尿障害(頻尿)
頻尿とは、器質的病変による膀胱容量の器質的な減少または膀胱もしくは尿道の支配神経の損傷が医学的に認められること、日中8回以上の排尿が医師の所見により認められること、多飲など頻尿となる他の原因が認められないこと、という要件をいずれも満たすものをいいます。
頻尿が認められる場合には、排尿のため日常生活動作を中断しなければならないことから、労務に支障が生じることになります。
別表第二第11号10号 | 頻尿を残すもの |
勃起障害
勃起障害は、器質性の原因による勃起障害に限り評価の対象となりますので、下記の要件をともに満たす必要があります。
まず、夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャンによる夜間陰茎勃起検査により証明されることです。
次に、支配神経の損傷など勃起障害の原因となり得る所見が、神経系検査(会陰部の知覚、肛門括約筋のトーヌス・自律収縮、肛門反射および球海綿筋反射に係る検査)、または、血管系検査(プロスタグランジンE1海綿体注射による各種検査)により認められることです。
別表第二第9級17号 | 勃起障害を残すもの |
射精障害
射精障害についても器質性の原因による射精障害に限り評価の対象となります。
尿道または射精管が断裂していること、両側の下腹神経の断裂により当該神経の機能が失われていること、膀胱頚部の機能が失われていることのいずれかに該当する必要があります。
別表第二第9級17号 | 射精障害を残すもの |
弁護士に相談を
交通事故等で骨盤骨折を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うために、骨盤骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。