死亡事故の解決実績

  • 1億円以上の解決
  • 刑事裁判参加
  • 四輪車vs四輪車
  • 正社員
  • 死亡慰謝料
  • 民事裁判
  • 葬儀費用
  • 逸失利益
  • 過失割合
  • 遺族の損害(慰謝料など)
  • 高速道路

【死亡事故】加害者の嘘を暴き、被害者過失なしで1億円超の賠償金獲得

Aさん 福岡県・30代・男性・現場作業員

刑事裁判 慰謝料増額 葬儀費用 被害者参加 謝罪なし 逸失利益

死亡事故を起こした加害者の量刑の決定は刑事裁判で行われますが、交通事故発生に至った経緯やその瞬間の状況、交通事故発生後の加害者の態度など、様々な要因が影響を与えます。

それらの要因は、加害者の供述や、検察官の提出する証拠によって形作られ、法廷はまるで交通事故発生の瞬間を再現しているかのような状態になります。

そして、その交通事故発生の瞬間というのは、被害者のご遺族の方々が最も知りたいことの一つではないでしょうか。

刑事裁判には、被害者のご遺族の方々が参加できる「被害者参加」という制度があり、加害者や法廷全体に対して心情を述べたり、加害者に質問したりすることができます。

被害者参加は、被害者のご遺族の方々が、刑事裁判に直に参加して事故発生の瞬間の真実をその目で知ることができる制度ですが、それだけでなく、加害者への刑罰の重さや、民事裁判における損害賠償請求にも影響を与える制度です。

今回は、その被害者参加制度を活用することで、遺族の方々と共に加害者の嘘を暴いて加害者への刑罰が不当に軽くなることを防ぎ、民事裁判においても刑事裁判に被害者参加したことで発見した新たな事実を用いて約1億2000万円の損害賠償金を獲得した事例を紹介します。

 

被害者参加は、平成19年の刑事訴訟法の改正により導入された、比較的新しい制度で、利用件数がそれほど多い訳ではありません。

その中で、弁護士法人小杉法律事務所は死亡事故ご遺族の損害賠償請求を専門に取り扱っており、被害者参加制度を利用して加害者に適切な刑罰を受けさせるとともに、賠償請求を有利に進めた事例が多数ございます。

弁護士法人小杉法律事務所は死亡事故ご遺族の方々の無料法律相談を受け付けております。

真相を究明したい、少しでも加害者に適正な刑罰を受けて欲しい、少しでも賠償額を多くしたい、などのご希望がございましたら、まずは弊所の無料法律相談をご検討ください。

死亡事故被害者専門弁護士が、ご希望について解説いたします。

死亡事故のご相談はこちらのページから。

被害者参加制度の詳細はこちらのページから。

 

目次
  1. 弁護士法人小杉法律事務所にご相談いただくまで(死亡事故)
    1. 1 交通死亡事故の態様
    2. 2 死亡事故加害者の嘘
    3. 3 死亡事故ご遺族の想い
  2. 法律相談で刑事裁判への被害者参加を提案(3つのメリット)
    1. メリット1 加害者の嘘を法廷で暴き、被害者側の過失なしを裏付ける
    2. メリット2 加害者の不誠実な態度によって受けた精神的苦痛を法廷で供述し、裁判官の加害者に対する心証を悪くさせるとともに、民事の慰謝料請求においても刑事裁判の結果を利用する
    3. メリット3 ご遺族が直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えられるとともに民事の損害賠償請求においても利用できる
  3. 捜査手続や刑事裁判手続への被害者遺族の介入(被害者参加)
    1. 1.捜査担当警察官とのコミュニケーション
    2. 2.担当検察官とのコミュニケーション
    3. 3.証人尋問
    4. 4.被告人質問
    5. 5.心情意見陳述
    6. 6.論告意見
  4. 民事裁判|刑事裁判で得た証拠を上手く使う
    1. 1.被害者の過失なしで認定
    2. 2.民法第711条の文言を超えた近親者に慰謝料を認定
    3. 3.実年収の倍以上の金額を逸失利益の基礎収入に
    4. 4.遺族にも休業損害を認定
    5. 5.裁判基準を超えた葬儀関係費用の認定
    6. 合計約1億2000万円の賠償金獲得
  5. 弁護士小杉晴洋のコメント:死亡事故は刑事裁判への被害者参加が民事の損害賠償請求でもキーになります

弁護士法人小杉法律事務所にご相談いただくまで(死亡事故)

1 交通死亡事故の態様

Aさんは、会社の同僚が運転する自動車に乗って、仕事現場に向かっていました。

高速道路を走行中に加害者の車に衝突され、Aさんは亡くなってしまいます。

加害者は高速道路をふらつきながら走行しているうちに、Aさんの乗車する車に衝突してしまったのです。

加害者は運送の仕事中でしたが、加害者の運転する車の後部座席には大量の荷物が載せられており、ルームミラーによる後方確認が出来なくなっていました。

2 死亡事故加害者の嘘

しかし、加害者は嘘をついていました。

なんと、本件事故の加害者はAさんの乗車していた車の方であり、自分は被害者だと述べていたのです。

Aさんのご遺族がそれを知ったのは、労働基準監督署から、Aさんは加害者だという手紙が届いたからでした。

3 死亡事故ご遺族の想い

Aさんのご遺族は、Aさんが乗る車を運転していた同僚から交通死亡事故の状況について聞いており、Aさんは被害者であることを知っていました。

Aさんのご遺族は皆、Aさんのことが大好きでしたので、とても悲しみに暮れながら日々を過ごしていたところ、労働基準監督署からAさんが加害者だという手紙が届いたのです。

この時、加害者からは謝罪の連絡すら来ていませんでした。謝罪をしないどころか、加害者がウソをついていると知り、怒りに震えます。

加えて、Aさんのご遺族は既に弁護士(弁護士法人小杉法律事務所の弁護士とは別の弁護士)に依頼していましたが、その弁護士は今後の流れや、現状の報告をほとんどしておらず、Aさんのご遺族はその点でも不安を抱えていました。

そこで、Aさんのご遺族は不安を解決してくれる、より詳しい専門の弁護士を探していたところ、弁護士小杉晴洋の存在を知り、法律相談を受けることとなりました。

 

法律相談で刑事裁判への被害者参加を提案(3つのメリット)

弁護士小杉晴洋の法律相談

弁護士小杉は法律相談の中で、Aさんのご遺族に刑事裁判への被害者参加を提案します。

被害者参加制度とは、平成19年の刑事訴訟法改正により導入された、被害者や被害者のご遺族が刑事裁判に参加できる制度です。

この制度により被害者参加人は、証人尋問や被告人質問で、被害者やご遺族の観点から、加害者の責任追及が可能となります。また、心情意見陳述や論告意見により、被害者・ご遺族の声を直接裁判官や被告人に伝えたり、求刑について意見を述べることができます。

 

Aさんの事例では、被害者参加をすることで以下のようなメリットがあると考えられました。

  1. 加害者のウソを法廷で暴き、Aさん側の過失が不当に大きくされることを防ぐ
  2. 加害者がウソをついたり、謝罪をしなかったりすることによって受けた精神的苦痛を法廷で供述し、裁判官の加害者に対する心証を悪くさせるとともに、民事の慰謝料請求においても刑事裁判の結果を利用する
  3. 生前のAさんとの思い出や、亡くなってしまったことへの悲しみを法廷で証言し、直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えるとともに、民事の損害賠償請求においても利用する

 

メリット1 加害者の嘘を法廷で暴き、被害者側の過失なしを裏付ける

1つ目の「加害者のウソを法廷で暴き、被害者側の過失なしを裏付ける」についてですが、加害者が労働基準監督署に対して自分は被害者で、ぶつかってきたのはAさんの側だと主張している以上、刑事裁判の場でも自分は加害者ではなく被害者だと述べることが十分に予測されます。

それどころか、加害者が取調べの段階から被害者であると主張するとなれば、被害者Aさんは亡くなっており、事情聴取を受けることができませんから、専ら加害者の主張が通ってしまい、不起訴となる可能性すらあります。

したがって、起訴前から被害者参加する意向を伝え、捜査担当警察官や担当検察官と密に連絡を取り、被害者側の意見をしっかり伝えることが大切になります。

 

メリット2 加害者の不誠実な態度によって受けた精神的苦痛を法廷で供述し、裁判官の加害者に対する心証を悪くさせるとともに、民事の慰謝料請求においても刑事裁判の結果を利用する

2つ目の「加害者の不誠実な態度によって受けた精神的苦痛を法廷で供述し、裁判官の加害者に対する心証を悪くさせるとともに、民事の慰謝料請求においても刑事裁判の結果を利用する」についてですが、運転中に死亡事故を起こしてしまったという事例で成立する危険運転致死罪や過失運転致死罪では、量刑において加害者の不誠実な態度は加害者に不利に考慮される事情になります。(交通死亡事故を起こした加害者の刑期についての解説はこちらのページをご覧ください。)

加害者が謝罪をしないどころかウソをついており、精神的苦痛を受けていることを刑事裁判の場で供述をすることで、量刑において加害者に不利に考慮される事情を増やすことができます。

また、この供述は、民事の損害賠償請求、特に慰謝料請求においても利用できる事情となります。

加害者の不誠実な態度が量刑において考慮に入れられた場合、刑事裁判の判決では必ず「量刑の理由」としてそのことが明記されます。

民事の損害賠償請求においては「加害者の著しく不誠実な態度があるような場合」に、慰謝料の増額事由として認定されることがあります。

この「加害者の著しく不誠実な態度があるような場合」であったと主張する際に、刑事裁判の「量刑の理由」に加害者に不誠実な態度があったと明記されることは、非常に大きな根拠になるといえます。

ですので、刑事裁判の場で加害者の不誠実な態度について被害者やご遺族が供述することは、刑事裁判はもちろん、それにとどまらず民事裁判においても被害者側に有利な影響を与える事が考えられるのです。

 

メリット3 ご遺族が直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えられるとともに民事の損害賠償請求においても利用できる

3つ目の「ご遺族が直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えられるとともに民事の損害賠償請求においても利用できる」についてですが、これはどちらかというと民事の損害賠償請求におけるメリットの方が大きいです。

もちろん、刑事裁判で直接裁判官や加害者に対して悲しみの大きさを伝えることは大きな意味を持ちます。加害者に、どれだけの人に愛されていた人を自分は殺してしまったのか、ということを意識させ、罪を自覚させて反省させることも、刑事裁判の重要な意義の一つです。

しかしながら、実際のところ刑事裁判の実務においては、被害者・ご遺族の悲しみが決定的な量刑を重くする事情になっているような印象はありません。死亡事故により突然命が奪われた場合に、被害者が大きな悲しみを覚えることはいわば当たり前のことです。裁判所も当然そのことは理解していますから、量刑の基準に既に組み込まれているのだと思われます。

直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えることよりも大きな、民事の損害賠償請求におけるメリットとは、近親者の慰謝料をもらえる対象を増やせる可能性があるということです。

近親者慰謝料に関する規定は民法第711条にあります。

民法第711条「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

分かりやすく言えば、死亡事故の加害者は近親者(被害者の父母、配偶者及び子)に対して配偶者慰謝料を支払わなければならない。といった内容の条文です。

つまり、条文上は被害者の兄弟姉妹は近親者慰謝料の対象には含まれていないという事になります。

ですが、家族として共に暮らしてきた人が亡くなった時の悲しみが、その人が亡くなった人の父母や配偶者、子ではなく兄弟姉妹であるからという理由で損害賠償の対象とならないというのは不合理です。実務上も不合理であると考えられていて、この民法第711条の規定を類推適用し、被害者の兄弟姉妹が「実質的に親・配偶者・子と同視しうるほど近い関係であることを立証」できれば、近親者慰謝料の対象となります(最高裁判所昭和49年12月17日判決 最高裁判所判例集28巻10号2040頁参照)。

刑事裁判の被害者参加は、この「実質的に親・配偶者・子と同視しうるほど近い関係であることを立証」するにはもってこいの場といえます。

 

以上のように、刑事裁判の被害者参加には多くのメリットがあります。しかし、比較的最近導入されたという事情もあり、そのメリットについてあまり知らない弁護士が多いのも事実です。実際Aさんのご遺族が弁護士小杉にご相談される前に委任していた弁護士は、被害者参加制度の利用の提案をしないどころかその説明さえしていませんでした。

Aさんのご遺族は弁護士小杉の法律相談に非常に納得していただいたようで、すぐに以前の弁護士を解任し、弁護士小杉に委任してくださいました。

 

捜査手続や刑事裁判手続への被害者遺族の介入(被害者参加)

裁判

被害者遺族が捜査手続刑事や裁判手続手続に介入することができるタイミングというのは、概ね以下のとおりです。

  1. 捜査担当警察官とのコミュニケーション
  2. 担当検察官とのコミュニケーション
  3. 証人尋問
  4. 被告人質問
  5. 心情意見陳述
  6. 論告意見

どのような介入をすることができるのかを、Aさんの事例で実際にご遺族と弁護士小杉が行った介入をもとに解説していきます。

 

1.捜査担当警察官とのコミュニケーション

捜査情報は機密事項ですので、基本的に教えてもらうことは出来ません。

ですが、刑事裁判が提訴された際には被害者参加をする予定であると伝えると、捜査状況を教えてくださる警察官の方も多くいらっしゃいます。

Aさんの事例でも、将来被害者参加をする意向であると伝えたうえで、加害者はウソの供述をしているという情報を提供するとともに、後続車両のドライブレコーダーには、交通事故の様子が映っていて、警察は間違いなくAさんの側が被害者であると考えているという情報を教えてもうらことができました。

 

2.担当検察官とのコミュニケーション

警察による捜査があらかた終了すると、捜査情報が検察官に送られます。いわゆる「送検」です。

検察官は加害者に成立するであろう犯罪は何か、犯罪が成立したとしてどのくらいの刑期が裁判で認められるかなどを考え、刑事裁判を提起するかどうかを判断する権限を持っています。

検察官が証拠不十分等の理由で加害者に犯罪が成立すると認められないと考えた場合には、刑事裁判は提起されず、不起訴ということになってしまいます。

Aさんの事例では弁護士小杉が密にコミュニケーションをとることで、起訴が決定した際にすぐに検事が刑事裁判で提出する予定の証拠の閲覧・謄写の手続を実施することができました。

刑事裁判が始まる直前に刑事裁判で提出される証拠を見ても、十分な検討が出来ません。その状態で被害者参加をしたとしても効果的な働きをすることはできません。

Aさんの事例では担当検察官と密にコミュニケーションをとっていて、すぐに証拠を見ることができ、十分な検討をしたうえで刑事裁判に臨むことができました。

 

3.証人尋問

証人尋問への被害者参加は、刑事訴訟法第316条の36に規定があります。

刑事訴訟法第316条の36「裁判所は、証人を尋問する場合において、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士から、その者がその証人を尋問することの申出あるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、審理の状況、申出に係る尋問事項の内容、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、情状に関する事項(犯罪事実に関するものを除く。)についての証人の供述の証明力を争うために必要な事項について、申出をした者がその証人を尋問することを許すものとする。

ここで注目すべきポイントは、証人尋問ができるのは情状に関する事項に限られ、犯罪事実に関する尋問はできないということです。

死亡事故の場合、加害者(被告人)の家族や上司が、情状証人といって、被告人の罪を軽減することを目的に、「加害者には反省の意思がある」「二度とこういった事故を起こさないよう私が監督していく」等の情状に関する証言をする証人として刑事裁判に登場することがあります。

情状証人の存在は、それだけで被告人に有利な事情として考慮され、被告人の刑期が短くなったり、執行猶予が付きやすくなったりする可能性があります。(死亡事故加害者の刑期決定の際に考慮される事情についての解説はこちらのページをご覧ください。)

そういった情状証人に対し、「謝罪を受けていないから反省の意思があるとは思えない」「本当に加害者を監督する意志があるのか」等の質問をすることができます。情状証人が、加害者の刑期を軽くするために適当なことを言っているだけなのであれば、情状証人の存在だけで被告人の刑期が短くなったり、執行猶予が付いたりすることは絶対に避けなければなりません。

Aさんの事例では、まず加害者の妻が情状証人として登場し、「妻として、夫がこんなに大きな事故を起こしてしまい申し訳ない。」「今後は私が監督していく。」といった旨の証言をしました。

これに対し、弁護士小杉は被害者参加人として、「申し訳ないと思っているのならなぜ今まで一度も謝罪に来ていないのか。」「加害者は過去に交通事故違反歴があるが、それを知っているか。」(知らなかったと答えた妻に対し)「過去に交通事故違反歴があった加害者を監督できていなかったのだから、今後も監督など出来ないのではないか」などの追及をしました。

次に情状証人として登場したのは、加害者の上司でした。加害者の上司は、「加害者は普段は真面目に勤務している優秀な部下であった。」「今後は会社で加害者の更生を支えていく。」といった旨の証言をしました。

これに対し、弁護士小杉は妻に対してした尋問と同様に、「過去に交通事故違反歴があった加害者を監督できていなかったのだから、今後も監督など出来ないのではないか」といった追及をしました。

加えて、「加害者が事故を起こした時、車の後部座席には大量の積載物があり、ルームミラーで後方の確認ができない状態であった。あなたの会社ではこれを是認しているのか」といった追及をしました。

 

4.被告人質問

被告人質問への被害者参加は、刑事訴訟法第316条の37に規定があります。

刑事訴訟法第316条の37「裁判所は、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士から、その者が被告人に対して第311条第2項の供述を求めるための質問を発することの申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士がこの法律による意見の陳述をするために必要があると認める場合であって、審理の状況、申出に係る質問をする事項の内容、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、申出をした者が被告人に対して、その質問を発することを許すものとする。

被告人質問は、証人尋問と異なり、情状に関する事項に限定されず、起こした交通事故の内容についても質問をすることができます。

ここまでの質問を受け、被告人は次のように供述を変更しました。

  • 自分は被害者である。→自分は被害者ではないが、左右後方確認は怠っておらず、不注意は無かった。
  • 自分はきちんと運転していた。→ふらついていたかもしれないが、それは、後部座席の積載物のせいである。

これに対し、弁護士小杉は次のように、追及します。狙いは、被告人が不自然に供述を変更したことを裁判官に強く印象付けることです。

  • 当初自分は被害者であると述べていたにもかかわらず、供述を変更したのはなぜか。
  • 車がふらついていた原因を今まで述べていなかったのはなぜか。
  • 後続車のドライブレコーダーが証拠として提出されなければ、今も被害者であると述べ続けているのではないか。
  • これまで後部座席の積載物のせいでふらついたことはあるか。

更に、加害者に有利な事情として情状が考慮されないよう、念押しの意味を込めて追加で質問をしました。

  • これまで一度も直接遺族に謝罪をしていないのはなぜか。
  • 将来また車を運転するつもりでいるか。

ここでの主軸は、民事の損害賠償請求に利用するというよりは、加害者に適切な量刑が下されることです。

 

5.心情意見陳述

心情意見陳述については、刑事訴訟法第292条の2に規定があります。

刑事訴訟法第292条の2「裁判所は、被害者等又は当該被害者の法定代理人から、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、公判期日において、その意見を陳述させるものとする。

心情意見陳述は、被害者・ご遺族の方が、事故で被害を受けたことに対する怒りや苦しみ、悲しみ、辛さといった心情を、そのまま加害者や裁判官に伝えることができる限られた場所です。

ですので、小杉法律事務所では、この心情意見陳述に関しては、ご遺族の方が悲しみのあまり法廷で話すことができないといった場合を除き、原則代理人弁護士ではなくご遺族の方に直接お願いしています。

Aさんの事例では、Aさんのお兄さんと、Aさんの奥様の2人に心情意見を述べて頂きました。

ここで、Aさんのお兄さんに心情意見陳述をお願いしたことには、一つ民事の損害賠償請求上の大きな戦略があります。

それは、メリット3「ご遺族が直接裁判官や加害者に悲しみの大きさを伝えられるとともに民事の損害賠償請求においても利用できる」で解説した内容が丸々妥当します。

つまり、民法第711条の条文上は近親者慰謝料の対象とならないAさんのお兄さんについて、実質的に親・配偶者・子と同視しうるほど近い関係であることを立証して近親者慰謝料の対象とする証拠づくりができるのです。

しかしこれは、適切な損害賠償金を受け取って頂くために弁護士が考えることです。Aさんのお兄さんは近親者慰謝料のためなどではなく、純粋に小さな頃から共に過ごし、楽しい思い出をたくさん作ってきた、将来は父の事業を継ぐ予定だった、そんな弟の命を突然奪われた悲しみを直接加害者や裁判官に知ってもらいたいという強いお気持ちで、心情意見陳述をしてくださいました。

次に、Aさんの奥様に心情意見を述べて頂きました。

Aさんの奥様はとても憔悴されていて、被害者参加ができるのかどうか不安な状態ではありましたが、義理のお姉様の付添いのもとで、なんとか心情意見をしてくださいました。

Aさんとの馴れ初めから結婚、結婚して3人の子供が生まれ、幸せの絶頂にあったこと。そんな幸せが被告人の不注意で一瞬のうちに絶望に変わってしまったこと。

被告人が謝罪をしないどころか虚偽の供述をしたことが許せないこと。こちらの子供たちは父親の命を奪われているのに、被告人の妻が子供を理由に減刑を求めていることがどうしても納得できないこと。

奥様の絞り出すような、ただ、確かに強い気持ちが込められた心情意見陳述は間違いなく法廷中の人々の心に刺さっていました。

 

6.論告意見

論告意見(事実又は法律の適用についての意見)については、刑事訴訟法第316条の38に規定があります。

裁判所は、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士から、事実又は法律の適用について意見を陳述することの申出がある場合において、審理の状況、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公判期日において、第293条第1項の規定による検察官の意見の陳述の後に、訴因として特定された事実の範囲内で、申出をした者がその意見を陳述することを許すものとする。

論告意見で述べることができる内容は、情状に関する事項に限られません。道路交通法に基づいて被告人の運転や当該死亡事故の悪質性を述べたりすることも可能です。

ですので、この論告意見に関しては弁護士に任せることを推奨します。

Aさんの事例では弁護士小杉は以下のような論告意見を行いました。

  • 被告人は後部座席の積載物のせいでふらついたと述べているが、被告人の運転していた車両は総重量1t程度であり、積載物の偏りでふらつくほどの影響は出ないこと。
  • 仮に被告人の主張通り後部座席の積載物のせいでふらついていたとしても、事故発生の直前だけふらついているのはおかしいということ。
  • ドライブレコーダーの映像から、被告人は明らかに無謀な運転をしており、適切に左右後方の確認をしていたとは思えないこと。
  • 被告人は過去にも多くの交通違反歴があることを考えると、今後も再犯の可能性は高いこと。
  • 被告人の交通違反歴を知らない妻や、後方確認が出来ないほどの積載物を載せる会社の上司に、今後の被告人の監督など出来ないこと。
  • 被告人の弁護人は、被害者にも過失があると主張していたが、ドライブレコーダーの映像上過失は認められないこと。

 

以上の1~6が、被害者参加制度により被害者・ご遺族が刑事裁判に参加できる部分になります。

刑事裁判の判決では、加害者に禁錮2年半刑が下されました。検察官の求刑より若干低い量刑が出ることが多い刑事裁判ですが、今回は検察官の求刑通りでした。

また、量刑の理由の中に、被告人の過失の大きさやご遺族の怒りの感情が大きいことが明記された一方で、被害者側の過失については明記されませんでした。

 

民事裁判|刑事裁判で得た証拠を上手く使う

刑事裁判が終わると、多くの場合、今度は民事裁判になります。

刑事裁判はご遺族と共に戦い、加害者の量刑を少しでも重くすることを目指しますが、民事の損害賠償請求は基本的には弁護士の仕事です。

生命を奪われたことのてん補が、金銭で完全にできるとは全く思っていません。

ですが、刑事裁判においては、加害者に任意保険会社が付いていて、その任意保険会社から十分な賠償金が得られる見込みがあるというだけで加害者側に有利に考慮されることが多いです。

加害者側に有利な事情として賠償金が得られる見込みがあることが考慮され、加害者の量刑が軽くなったにもかかわらず、実際刑事裁判後に行われた損害賠償請求では適切な賠償金は得られなかったということは、絶対に避けなければなりません。

ただし、刑事裁判に参加したことにより獲得した、賠償金の額を上げるために必要な様々な証拠がこちらにはありますから、それを用いて交渉した結果、合計1億2000万円の賠償金を獲得しました。具体的にそれらのどこに活きてきたのか。以下で細かく見ていきましょう。

 

1.被害者の過失なしで認定

民事裁判の相手方は加害者側の任意保険会社の弁護士でした。

この弁護士は被害者側にも過失があるとして争ってきましたが、刑事裁判で既に被害車両側に過失がないことは認定されていますので、この主張は退けられました。

2.民法第711条の文言を超えた近親者に慰謝料を認定

ここまで何度も見てきたように、民法第711条の文言上から読み取れる近親者慰謝料の対象は、親・配偶者・子だけです。

しかし、お兄さんに心情意見陳述をしてもらい、刑事裁判の場において実質的に親・配偶者・子と同視しうるほど近い関係であることを述べてもらいましたので、このお兄さんも含めて近親者慰謝料の対象として認定されました。

3.実年収の倍以上の金額を逸失利益の基礎収入に

逸失利益の基礎収入には、基本的には事故前年の収入が採用されます。

しかし、概ね30歳未満の若年層や、今後収入が増えていく蓋然性が高いことを証明できた場合には、実年収より高い金額が基礎収入になることもあります。

Aさんの事例では、事故前年の年収は250万円弱でしたが、お兄さんが、Aさんは今後父親の事業を継ぐ予定であったと心情意見陳述で述べてくださいました。

ですのれこれを用い、Aさんのお父さんの収入資料と併せ、Aさんは今後このくらいの収入を得る蓋然性が高かったと主張したところ、事故前年の実収入の倍以上の金額を逸失利益の基礎収入として認定されました。

4.遺族にも休業損害を認定

休業損害は基本的には事故の直接の被害者にしか認められません。

ただし、死亡事故のような被害が大きい事故の場合、悲しみのあまりご遺族の方が仕事が出来なくなるということは実際に起こりますし、そのような場合には近親者にも休業損害が認められることがあります。

Aさんのお父さんも、自分の事業を将来継いでくれることを楽しみにしていたAさんが突然事故により亡くなり、呆然として仕事が手につかなくなってしまいました。

心情意見陳述でAさんのご遺族がどれだけ絶望を感じたかについてAさんの奥様が述べてくださいましたので、Aさんに事業を継がせる予定だったお父さんが仕事が手につかなくなり、休業損害が発生することも認められました。お父さんの収入資料で損害額を証明し、約250万円が遺族の休業損害として認定されました。

5.裁判基準を超えた葬儀関係費用の認定

裁判基準では、葬儀関係費用は、原則として150万円と決まっています。

これを超えた場合には、超えた理由が相当な理由であることを立証しなければなりません。

Aさんの葬儀に要した費用は150万円を超えていましたが、Aさんがどれだけの人に強く愛された人であったかを、心情意見で述べてもらっていますので、これを民事裁判の場でも主張した所、葬儀に要した費用全額が認められました。

合計約1億2000万円の賠償金獲得

刑事裁判・民事裁判を戦い抜いた結果、年収200万円強の被害者の死亡事故としては高額の約1億2000万円を獲得することができました。

 

弁護士小杉晴洋のコメント:死亡事故は刑事裁判への被害者参加が民事の損害賠償請求でもキーになります

弁護士小杉晴洋のコメント

刑事裁判・民事裁判ともに非常にハードな訴訟でした。

ご遺族の感情の強いケースでしたが、加害者の言い分や態度が不合理な事案であったため、当然と言えます。

このケースでは、まず、民事のことには手を付けずに、刑事裁判の被害者参加に注力したのが成功だったと思います。

最愛のご家族を亡くしていますから、いくら賠償金をもらっても納得いくはずがなく、このケースで民事の損害賠償請求から手を付けるのは弁護士として愚手といえます。

刑事裁判では、捜査担当検察官、公判担当検察官及び検察事務官との連携が上手くいきました。

打合せ回数も多く重ね、頻繁に連絡を取っていたこともあり、信頼関係が築けたのだと思います。

被害者参加されたご遺族のほかにも、傍聴希望者の親族やご友人の多いケースだったのですが、検察庁及び裁判所にそれぞれご遺族サイドの待合室をつくってもらい、刑事裁判の前後にその待合室で打合せや振り返りを行うことができました。

また、検察事務官や裁判所書記官の配慮により、多くの傍聴席も事前に確保していただきました。

証人尋問、被告人質問、心情意見陳述、論告意見陳述もうまくいったケースと評価できます。

民事の損害賠償請求訴訟では、死亡慰謝料額、逸失利益の基礎収入額、葬儀費用、遺族の休業損害、過失割合など多くの争点が形成されましたが、どれも遺族サイドの主張を認めてもらえました。

これは、刑事裁判での活動が功を奏した結果といえます。

刑事裁判自体の重要性や、刑事裁判が民事裁判に与える影響の大きさについて実感する裁判となりました。

裁判が終わり、ご遺族のおうちにお線香をあげに伺いましたが、ご遺族の笑顔を見ることができました。

刑事裁判の前や最中では、ある時は呆然とし、ある時は怒りに満ち溢れ、ある時は悲しみに暮れるなど感情のコントロールがきかない状態になっていましたが、刑事裁判を共に乗り越え、民事裁判も無事に解決することができたので、少し精神を回復することができたように感じられました。

もちろん最愛の被害者が亡くなってしまった悲しみが消えることはありませんが、多少の笑顔を取り戻すことができ、私としても少し嬉しい気持ちになりました。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。