スキー(スノーボード)事故で死亡した場合の慰謝料は?誰に請求できる?【弁護士解説】
2024.09.26
損害賠償請求
冬のレジャースポーツとして人気が高いスキーやスノーボード。
しかし、全国スキー安全対策協議会が発表している2023年2月1日~2月28日に全国のスキー場で発生したスキー事故の件数は、2885件です。
この内被害者の方が亡くなったのは6名(スキーヤー5名、スノーボーダー1名)でした。
スキーやスノーボードはとても楽しいものですが、それによって損害を被ったような場合には、
適切な賠償を受けなければなりません。
このページでは、スキー事故・スノーボード事故で死亡した場合の慰謝料や、請求の相手方について、
被害者側損害賠償請求を専門とする弁護士が解説します。
弁護士法人小杉法律事務所では、被害者側損害賠償請求を専門とする弁護士による初回無料の法律相談を実施しております。
スキー事故の被害に遭われた方はぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
スキー事故・スノーボード事故で死亡した場合の慰謝料
そもそも事故に遭い、相手に対して慰謝料(損害賠償金)の請求を行うためには、
相手方の行為が民法709条に規定されている不法行為に該当する必要があります。
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
狭義の慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)の請求については民法710条に規定があります。
民法710条「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」
この条文から、損害賠償請求の前提となる不法行為といえるためには、
- 故意・過失があること
- 権利侵害や違法性があること
- 損害が発生していること
- 加害行為と損害との間に因果関係があること
が必要になります。
ただし、スキーや、スノーボードなどのスポーツ事故の場合には、
交通事故や労災、学校事故のような事故類型の場合にあまり問題にならない点が問題になることがあります。
それが、「危険の引き受け、被害者の承諾、正当業務行為」などの違法性阻却事由の主張です。
そもそもスポーツはある程度怪我をしたり、事故が発生したりする可能性があることを前提として参加するものですから、
ある程度の危険性は被害者の側も承諾し、引き受けているはずです。
ですから、基本的にはスポーツ事故での相手方に対する損害賠償請求はできません。
ただし、
- 死亡事故に至ってしまったようなケース
- 後遺症が残ってしまったケース
のような場合は、そこまでの危険は引き受けていなかったとして、請求が可能な場合があります。
また、
- ルール違反があったために怪我をしてしまったようなケース
- 暴力によって怪我を負ってしまったようなケース
のような場合まで許容すべき理由はありませんから、請求が可能な場合があります。
その他、
- 施設や器具に不備があったため事故になってしまったケース
- 指導者の指導が不適切であったために事故になってしまったケース
なども、請求が可能な場合があります。
このように、スポーツ事故で慰謝料(損害賠償金)を請求できるかどうかは、
個別具体的な事情によることが多いため、お怪我をされた場合は一度弁護士に相談されることをお勧めします。
スキーやスノーボードももちろんスポーツに含まれますから、
慰謝料の請求に当たっては前述のケースに該当することが必要です。
そのうえで、亡くなってしまった場合の具体的な慰謝料金額の目安について解説していきます。
不法行為に基づく損害賠償請求では、『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)』(いわゆる『赤い本』)が、
一般的かつ通用力のある基準として用いられています。
この『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)』は、その名のとおり、交通事故訴訟の基準ですが、
不法行為一般で用いられている基準になり、これが損害賠償請求における裁判基準(弁護士基準)と呼ばれるものです。
続いて裁判基準(弁護士基準)の具体的な額について解説します。
スキー事故・スノーボード事故で死亡した場合の死亡慰謝料の具体的な金額
死亡慰謝料の基準は以下のとおりです。
- 一家の支柱 2800万円
- 母親、配偶者 2500万円
- その他 2000万円~2500万円
ただし上の基準はあくまで一応の目安とされていて、「具体的な斟酌自由により、増減されるべき」とも明示されています。
スキー事故・スノーボード事故で死亡した場合の死亡逸失利益の具体的な金額
被害者の方が亡くなってしまった場合に請求できる費目として死亡慰謝料の他に大きなものが、死亡逸失利益です。
逸失利益とは、被害者の方が事故により亡くなってしまったことにより、
本来将来にわたって得られるべきであったのに得られなくなった利益のことを言います。
この逸失利益は被害者の方の生前の生活態様に応じて変化するところも大きいのですが、
基本的な計算式があります。
- 死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入額は、基本的には被害者の方の事故前年の年収を用いることになりますが、
就労状況や年齢等によって異なる場合があります。
また、生活費控除率は、一般的に、
- 被扶養者1名の方が亡くなった場合:40%
- 被扶養者2名の方が亡くなった場合:30%
- 女性(主婦、独身、幼児等を含む)が亡くなった場合:30%
- 男性(独身、幼児等を含む)が亡くなった場合:50%
とされています。
就労可能年数は、亡くなった年齢から67歳までの期間とされるのが原則ですが、
これも被害者の方の年齢、職種、地位、健康状態、能力等により原則と異なった判断がなされる場合もあります。
その他葬儀費用や、入通院時の慰謝料、治療費、駆けつけ時の費用なども請求できますので、
詳しくは弁護士にご相談されることをお勧めします。
スキー事故・スノーボード事故で死亡した場合は誰に請求できる?
被害者の方ご本人が加入されている保険
加害者に対する損害賠償請求とは少し違いますが、被害者の方ご本人が、こういったスキー事故・スノーボード事故で怪我をしたりお亡くなりになったりした際に備えて、
保険に加入されている場合があります。
特にスキーやスノーボード事故のようなレジャーは、1日(1DAY)単位で加入できるような保険もありますので、
まずは今回の事故の件で使用できる保険が無いかを探してみることをお勧めします。
- わざとケガをした場合
- 重過失によってケガをした場合
- 医学的他覚所見のないむち打ち症
などでは保険金請求は認められないとされていることが多いですが、
そうした免責事由がなければ、保険金の支払を受けることができる場合が多いです。
先ほどまでみたように、加害者に対する損害賠償請求は、スポーツの場合は難しいことが多いですが、
加害者・指導者・施設管理者などに違法性がなく損害賠償請求をすることができない場合であっても、この保険金請求は認められるということになります。
加害者:スキー事故に関する判例
何度も言いますが、スキー事故やスノーボード事故の場合は、相手方の行為が民法709条所定の不法行為に該当し、かつ違法性阻却事由がないことを言わなければ損害賠償請求はできません。
この点について裁判所の考え方が示された判例として、最高裁判所平成7年3月10日判決(判例時報1526号99頁)があります。
この判例では、「スキー場において上方から滑走する者は、前方を注視し、下方を滑走している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負う」とされていて、
スキーヤー同士の衝突事故の場合には、上から滑ってきた者が原則的に責任を負うとされています。
この判決に対する解説(判例タイムズ876号142頁・判例時報1526号99頁)では、
「事故につき不法行為責任を負うか否かは、あくまで民法上認められるべき注意義務違反があるか否かをもって決せられるもの」とされていて、
単にルールやマナーに違反していないことをもって、直ちに不法行為の責任が否定されるわけではないとされています。
ただし、下方滑走者が転倒しているような場合などは、下方滑走者にも過失が取られるケースもあるため、
正確な主張にあたっては弁護士に相談されることをお勧めします。
スノーボード事故に関する判例
また、スノーボード事故に関する判決として、大阪高等裁判所平成18年6月23日判決があります。
この判決では、先ほどの最高裁判決を踏まえて「一般に雪面をスノーボードを使用して滑走するものは、その有する技術に相応のスピードコントロールをして適切な滑走ラインを滑走し、前方を注視して、他の滑走者との接触・衝突を避けるべき注意義務を負うというべきである」としています。
この判決の元となった事故は、スノーボードクロスの競技中の事故でしたが、
「スノーボードクロス競技の試合中にコース上を滑走する場合であっても、その競技者は、競技中であるとの一事をもって、上記注意義務を免れるわけではない。なぜなら、上記競技において、他の競技者への接触や衝突が発生しやすいとはいえ、それらの接触や転倒がルール上許されているわけではなく、また、競技者において、他の競技者から接触又は衝突されることを容認しているわけでもないからである。」
としており、競技中であっても前方注視義務や衝突回避義務が免除されるわけではないと判示されている点で有意義な判決であるといえます。
スキー場やイベント主催者、インストラクターなど
施設や器具に不備があった場合や指導者の指導が不適切であったために事故が発生してしまった場合などについては、
スキー場やイベント主催者、インストラクターなどについても損害賠償請求の相手方とすることができる場合があります。
ただし、この点も請求が難しいことも多いため、弁護士に相談されることをお勧めします。
まとめ:スキー事故・スノーボード事故は弁護士に相談しましょう
ここまで見てきたように、スキーやスノーボードのようなレジャースポーツにおける事故は、
加害者や施設側に対する損害賠償請求が難しいことも実際のところ多いです。
しかし、則ち損害賠償請求ができないということではありません。
スキー事故・スノーボード事故で大切な方を亡くされているにもかかわらず適切な賠償を受けられないということは絶対に避けなければなりませんから、
スキー事故・スノーボード事故に遭われた方は、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士法人小杉法律事務所では、修学旅行のスキーの際の事故で、被害生徒の過失0で勝訴した事例などをはじめとして、
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スキー事故・スノーボード事故に遭い、ご不安をお抱えの方はぜひお気軽にお問い合わせください。