【弁護士解説】後遺障害等級12級に該当する場合の逸失利益の計算
2026.07.03
損害賠償請求

逸失利益とは、本来であれば将来的に得られるはずであったのに、不法行為等の被害に遭ったことによって得られなくなった利益のことをいいます。
不法行為等の損害賠償請求実務においては、不法行為被害により後遺症が残存した場合には後遺症逸失利益を、死亡に至らしめられた場合には死亡逸失利益を請求することができます。
逸失利益は、将来的な損害を請求するものであることから、損害賠償請求の費目の中でも高い金額になることが多く、そのため計算について争点となることもあります。
本稿では、後遺障害12級に該当する後遺症が残存した場合の後遺症逸失利益の計算について解説いたします。
後遺症逸失利益の計算の基本
後遺症逸失利益は、後遺症が残存したことによって、労働能力にどの程度の制限が生じて、その制限がどの程度の期間継続するかに基づき算定されます。
その基本的な計算式は、以下のとおりとなります。
| 後遺症逸失利益=基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
以下では、各項目についてみていきましょう。
⑴基礎収入
後遺症逸失利益の計算の基礎となる収入額をいいます。実務においては基本的に事故前年の現実収入を基礎収入として採用することが多いです。
たとえば、令和7年に起きた交通事故の場合は、令和6年の年収額を基礎収入として用いることとなります。
また、家事従事者(専業主婦・主夫など)や児童・幼児、学生などの「事故前の現実収入」を観念できない被害者の後遺症逸失利益を算定する場合には、毎年政府によって行われいる賃金構造基本統計調査(通称:賃金センサス)における平均賃金の金額が基礎収入として用いられています。
⑵労働能力喪失率
労働能力喪失率は、後遺症によって、労働能力にどの程度の制限が生じているかを数値として表したものです。
原則としては、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考としつつ、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に考慮して数値を決定するとされていますが、実務においては後遺障害等級に対応した労働能力喪失率が形式的に用いられることが多いです。具体的には下表のとおりで、12級に該当する後遺症の場合には労働能力喪失率は14%となります。
なお、完治した等によって後遺症が残存しなかった場合には、労働能力の喪失がありませんので、後遺症逸失利益は請求できません。

⑶労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、後遺症による労働能力への制限がどのくらいの期間続くかを表すものです。
原則として、労働能力喪失期間をカウントする際の起算点(始期)は症状固定時の年齢、終期は67歳となります。ただし未就労者(学生、児童、幼児など)については、始期は18歳とします。
例外的に、症状固定時の年齢から67歳までの年数が、症状固定時の年齢の平均余命の2分の1の年数よりも短い場合には、平均余命の2分の1の年数が労働能力喪失期間として採用されます。なお平均余命については、政府統計の簡易生命表を参照します。
また、症状固定時の年齢が67歳以上である場合には、症状固定時の年齢の2分の1の年数を労働能力喪失期間となります。
例1:症状固定時35歳の被害者の労働能力喪失期間
→67歳-35歳=32年が労働能力喪失期間となる
例2:令和6年に症状固定を迎えた時55歳の被害者女性の労働能力喪失期間
→67歳までの年数12年<令和6年簡易生命表55歳女性の平均余命33.54年の2分の1である16年より労働能力喪失期間は16年
例3:令和6年に症状固定を迎えた時70歳の被害者男性の労働能力喪失期間
→令和6年簡易生命表70歳男性の平均余命15.60年の2分の1である7年を労働能力喪失期間とする
⑷中間利息控除(ライプニッツ係数)について
上記の計算式において、「ライプニッツ係数」とは?と思われた方もいるかと思います。
ライプニッツ係数とは、後遺症逸失利益を算定するにあたり、中間利息を控除するために乗じるものになります。
損害賠償は、その性質上、一回的に支払われるものになりますので、将来的な損害も含めて「現在」受け取るかたちになります。
このとき、損害賠償を受けた側は逸失利益を含めて金融機関に預金等することで、運用益を得ることができます。
そうすると、賠償を受けた側に「もらい得」が発生してしまうこととなります。
こうした「もらい得」を防ぐために、逸失利益の計算段階で運用益を差し引く(中間利息を控除する)ことができるライプニッツ係数を乗じるわけですね。
換言すれば、ライプニッツ係数を乗じることで現在価値への引き直しを行っているとも言えます。
以下、実務的な話になりますが、
ライプニッツ係数は基本的に年数に応じて値が一意に定まるため、基本的には年金現価表において年数に対応した係数を機械的に乗算するかたちでよいのですが、
学生、児童・幼児などの未就労者の後遺症逸失利益を計算する際には気を付けなければいけません。
これらの場合、「症状固定時の年齢から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数」から「症状固定時の年齢から18歳までの年数に対応するライプニッツ係数」を減算しなければなりません(大学卒業を前提とする場合には18歳を22歳に読み替えます)。
例4:令和5年に症状固定を迎えた時10歳の男児に、12級に該当する後遺症が残存した場合の後遺症逸失利益
569万8200円(令和5年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男・全年齢平均)×14%×(10歳~67歳までの年数57年に対応するライプニッツ係数27.1509-10歳~18歳までの年数8年に対応するライプニッツ係数7.0197)=1605万9624円
逸失利益について、さらに詳しい説明も行っております。こちらをご覧ください。
後遺障害等級12級に該当する場合の後遺症逸失利益について
前項では、後遺症逸失利益の基本的な考え方を解説しました。
本稿では、後遺障害の内容も踏まえて、逸失利益について具体的に見ていきます。
⑴12級に該当する後遺障害とは?
一口に後遺障害と言っても、その部位や程度は多岐に渡ります。
現在、不法行為による損害賠償請求において、後遺障害の評価基準として一般的に用いられているのが、労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)における障害(補償)給付に係る後遺障害等級基準です。これは、後遺症の範囲・程度に応じて1級~14級の後遺障害等級が規定されており、「後遺障害」として補償されるべき後遺症について定められたものとなります。等級の数字が小さいほど、重度の後遺症となります。なお、交通事故における自賠責保険や、学校管理下での事故における日本スポーツ振興センターの障害見舞金の後遺障害等級基準は、労災保険の後遺障害等級基準に準拠するかたちで規定されています。
労災保険の後遺障害等級において規定されている、12級に該当する後遺障害は以下のとおりです。
| 第12級の1 1眼の眼球に著しい調節機能又は運動障害を残すもの
第12級の2 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 第12級の3 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 第12級の4 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの 第12級の5 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 第12級の6 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 第12級の7 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 第12級の8 長管骨に変形を残すもの 第12級の8の2 1手の小指を失ったもの 第12級の9 1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの 第12級の10 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの 第12級の11 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 第12級の12 局部に頑固な神経症状を残すもの 第12級の13 削除 第12級の14 外貌に醜状を残すもの |
第12級の1、2は眼の障害、3は歯牙障害、4は耳の障害、5は体幹骨の変形障害になります。
6,8は上肢の障害、8の2と9は手指の障害です。7は下肢の障害、10及び11は足趾の障害となります。
12は神経系統の障害で、14は外貌の醜状障害になります。
この中で、後遺症逸失利益の算定にあたり特に争点となるのが、第12級の5(体幹骨の変形障害)、第12級の12(局部の頑固な神経症状)及び第12級の14(外貌醜状)です。
⑵第12級の5に該当する体幹骨の変形障害が残存している場合の逸失利益
体幹骨の変形障害は、鎖骨や胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤骨といった、体幹を支持する役割を担う骨を骨折し、外見的に明らかな変形が残存してしまった場合に該当する後遺障害になります。
体幹骨の変形障害の後遺症逸失利益を検討する上で問題になるのは、「体幹骨に変形があることによって、労働能力への制限は生じ得るのか?」ということです。
上肢や手指の可動域制限などであれば、労働能力の制限も観念しやすいですが、
肋骨に変形があることがただちに労働能力に制限をもたらしうるかというと、断言しがたいというところが現実としてあります。
この点につき、裁判例をみてみましょう。
| 裁判例1:神戸地判平成30年12月13日(交民51・6・1470)
会社員たる現場監督(男性・固定時54歳)の左肩関節機能障害等(併合9級。この中に左鎖骨変形の後遺症も含まれているとみられる。)につき、左鎖骨の変形障害が原因とみられる疼痛が続いていること、裸体になったときに変形が明らかにわかる程度のものであること等に照らすと変形障害についても実際に労働能力を喪失させていると評価できるとして、左鎖骨変形障害は労働能力喪失率に影響しないとの加害者の主張を排斥し、14年間35%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例2:大阪地判平成30年4月27日(自保ジ2026・135)
トラック運転手(男性・固定時37歳)の右鎖骨変形(第12級5号)につき、同障害には重いものを持ち上げたり下ろしたりするときの痛み等の症状も含まれており、業務に影響が生じていること等から、30年間14%の労働能力喪失を認めた。 |
裁判例1・2ともに、体幹骨変形を原因とする疼痛が生じており、これがために労働能力に影響が生じているとして、労働能力喪失を認定しています。認定された労働能力喪失率については等級に対応した数値であり、労働能力喪失期間についても考えられる最大年数が認定されています。
すなわち、体幹骨の変形という点だけではなく、体幹骨変形から派生的に生じる神経症状も踏まえた上で労働能力の喪失の程度を判断される傾向があるといえます。そのため、体幹骨変形が残存したことによってどのような症状が派生的に生じているか、またその症状によって就労上どのような影響が生じているかを丁寧に立証すれば、体幹骨変形の後遺症逸失利益についても一定程度認定される可能性があります。
⑶第12級の12に該当する局部の神経症状が残存している場合の逸失利益
前項で見たように、基本的な後遺症逸失利益の計算式は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数になります。
ここで、12級に該当する神経症状の原因がむち打ち症である場合には、労働能力喪失率を10%、労働能力喪失期間を10年と制限的にみる例が散見されます。
過去の裁判例の傾向より、このように労働能力喪失を制限的に捉える傾向があることから、訴外における交渉の際にもこの点が指摘されることがままあります。
特に、交通事故等で加害者の任意保険会社が賠償提示をしてくる際には、少しでも支払う賠償金を抑えるためにこうした制限的な算定が行われることが多いです。
とはいえ、これはあくまで「傾向」であり、必ずしもこの10%・10年に則る必要はありません。
後遺症が残存している部位や、実際の仕事への支障等を丁寧に示し、より適切な労働能力喪失率や労働能力喪失期間を主張していくことも考えられます。
なお、骨折や靭帯損傷、腱板損傷等のむち打ち症以外の外傷を原因とする神経症状の場合は、等級に応じた喪失率や喪失期間が認定されやすい傾向にあります。
| 裁判例3:京都地判平成26年9月19日(自保ジ1936・84)
引越業等(男性・固定時32歳)の左足部骨折後の左足部痛(自賠12級13号)につき、画像条第1TMT関節に骨折後の変化と関節面の不適合性が認められることなどから、緩解の見込みは認めがたいとして、25年14%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例4:名古屋地判平成29年11月1日(交民50・6・1419)
大学生(男性・固定時21歳)の左膝前十字靭帯損傷による左膝疼痛(自賠12級13号)につき、損傷された前十字靭帯が自然修復することは稀で、変形性膝関節症に至る可能性があり、数年程度の経過により症状が馴化され、後遺障害の程度が軟化するとしても、その後に悪化する可能性があるとして、喪失期間が5年に限られるとする加害者の主張を排斥し、22歳から67歳まで45年間14%の労働能力喪失を認めた。 |
⑷第12級の14に該当する外貌醜状が残存している場合の逸失利益
第12級の14に該当する外貌醜状の基本的な要件は、以下a~cいずれかに該当し、人目につく程度以上のものであることとされています。
a 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
b 顔面部にあっては、10円硬貨大以上の瘢痕又は3センチメートル以上の線状痕
c 頸部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕
またこれらの他に、顔面神経麻痺の結果として口のゆがみが後遺症として残存した場合には、これも単なる醜状として外貌醜状12級に該当すると扱われています。
更に、両上腕又は両大腿について殆ど全域、胸部又は腹部について各々の全域、背部又は臀部についてその全面積の2分の1程度を超える醜状が残存している場合には、これも醜状障害12級に相当する後遺障害として取り扱われます。
基本的な醜状障害12級の説明は以上になりますが、もしかしたらお気付きの方もいらっしゃるかもしれません。
それは、「醜状障害が残存していることによって、労働能力制限は生じるのか?」ということです。
骨折箇所に痛みがあるとか、肩・肘・手関節や指に可動域制限があるとかであれば、就労する上での制限があることも考えやすいですが、
顔や首などに傷痕が残っていたとしてもそれ以外に後遺症がないようなケースでは、直ちに労働能力に制限があるとは考え難いところがあります。
実際、損害賠償請求実務においては、訴訟・訴外ともに、醜状障害の逸失利益は非常に争いになりやすく、
等級認定された後遺障害が醜状障害のみである場合には、逸失利益は発生しないとして全面否定してくることも少なくありません。
では裁判ではどのような判断がなされているか、見ていきましょう。
| 裁判例5:名古屋地判平成24年11月27日(交民45・6・1370)
小学生(女子・固定時12歳)の顔面線状痕・陥没痕(当時12級15号)につき、今後の進路ないし職業の選択・就業等において不利益な扱いを受ける蓋然性は否定できず、醜状痕を気にして消極的になる可能性も考慮し、賃金センサス全労働者全年齢平均を基礎に、49年間5%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例6:名古屋地判平成25年7月5日(自保ジ1908・73)
大学生(女性・固定時19歳)の口唇部の10円銅貨大以上の瘢痕(当時12級15号)につき、被害者は保育士になることを希望しているが子どもに接する仕事であり瘢痕によりその就職が制限される蓋然性があるとし、事故後のコンビニ等でのアルバイトはこれを否定するものではなく、大学卒業から就職等の制限の蓋然性が高い40歳まで14%の労働能力喪失を認め、以降の不利益は慰謝料で考慮するとした。 |
| 裁判例7:京都地判令和3年5月14日(自保ジ2101・55)
宿泊施設の仲居(女性・固定時21歳)の口唇下部の線状痕(12級14号)、顔のしびれ、右三叉神経第2枝の感覚障害等(12級13号)、右上肢の疼痛及び右膝の疼痛(14級9号、併合11級)につき、線状瘢痕が一見して分かるもので、化粧や髪形等によって目立たなくすることも容易とはいえないこと、接客業を継続することが困難になったことから、就労に具体的な影響を与えており、瘢痕については将来回復する見込みが乏しいとして、46年間20%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例8:横浜地判平成21年4月23日(自保ジ1794・19)
小学生(女子・事故時9歳)の右下肢露出面の醜状痕(14級5号)につき、同級生から傷跡の指摘をされ、プールや公衆浴場の使用を避けたり、受診時に傷を見られることを嫌がったり等、醜状痕が被害者の行動を制限しているとし、将来を考える上で、本件事故による醜状痕によって行動や発想の制限を受け、職業について自由に考え選択することができないと認め、賃金センサス女性学歴計全年齢平均を基礎に、就労後5年間5%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例9:東京地判平成13年8月22日(交民34・4・1047)
予備校生(男性・事故時19歳、固定時29歳)の頸部、腰部の神経症状(各14級10号)、顔面醜状(12級13号、併合12級)につき、男性といえども醜状痕によって希望する仕事への就職が制限されたり、就職しても営業成績があがらなかったり、仕事の能率や意欲を低下させて所得に影響を与えることは十分考えられるとして、症状固定から10年間10%、その後10年間5%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例10:東京高判平成28年12月27日(交民49・6・1335)
舞台俳優・衣料品店準社員(男性・固定時25歳)の外貌醜状(顔面下顎部正面の挫創治癒痕12級14号)につき、音楽大学卒業後、舞台俳優を目指して現に歌手やダンサーとして舞台活動を行っているところ、舞台活動においては外見の均整も重要な要素であることは否定し難い等として、67歳まで5%の労働能力喪失を認めた。 |
| 裁判例11:神戸地判令和2年6月11日(交民53・3・642)
配達業務等に従事する会社員(男性・固定時37歳)の左眼下部1箇所、左頬2か所の線状痕につき、自賠責同様外貌に醜状を残すものとして12級14号を認定し、十全は営業業務を行っていたこともあったが、転職活動においては、配達業務等不特定多数の者と接する機会が少ない業種かどうかを確認し、接客や営業の仕事は避けるようになっていること等から、30年間7%の労働能力喪失を認めた。 |
裁判例5~8は被害者が女性の、裁判例9~11は被害者が男性の裁判例となります。
後遺症逸失利益を認めた裁判例においておおむね共通しているのが、「将来的な職業選択・就業等における制限や不利益」です。
確かに、手足の可動域制限等と比べて、醜状があることによる機能的な労働能力制限はあまりないかもしれません。しかしながら、たとえば俳優業やモデル、ホスト/ホステス等のように、外見が非常に重要になる職業も現実としてあり、醜状障害があることでこうした職業に就業できなくなるなどの制約が生じることも大いに考えられます。
また、就業したとしても、傷痕があることによって人目が気になるとか、或いは人に指摘されるかもしれない等といったことから就労に対して消極的になる可能性もあります。すなわち、醜状障害によって精神的側面で労働能力制限が生じることが考えられるため、これをもって裁判所は労働能力喪失を認定しているといえます。
なお、前出の裁判例5~11では、男女ともに醜状障害による後遺症逸失利益が認定された裁判例を特にピックアップしていますが、醜状障害の等級が認定されているからといって、必ずしも後遺症逸失利益も認定されるわけではありません。前述のとおり、醜状障害があったとしても労働能力に制限はないとして逸失利益を否定している裁判例も数多くあります。
中でも、裁判例の傾向として、男性の醜状障害は女性に比べて逸失利益が認定され難いところがあります。これは、社会における価値観として、やはりどうしても女性のほうが外見や容姿の重要性が高く、したがって傷痕が残存することによる影響が大きい(相対的に、男性のほうが影響は小さい)ことが理由の一つとして考えられます。
⑸醜状障害で逸失利益が認められない場合はどうなる?
⑷では醜状障害と逸失利益について説明しましたが、醜状障害は逸失利益が認定されないことも少なくありません。
ですが、醜状障害について逸失利益が認められなかった場合に、後遺障害が残存していることに対する救済が何もないのかというと、そうではありません。
というのも、後遺障害等級が認定されている場合、等級に即した後遺症慰謝料(後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対する賠償)が基本的に認められるのですが、醜状障害の場合、逸失利益として認定することはできないものの、後遺症慰謝料の判断において日常生活や就労への影響等を汲み取って判断がなされることがあります。
| 裁判例12:東京地判平成3年9月27日(交民24・5・1156)
顔面醜状(12級)、頭痛等(当時14級10号、併合12級)のクラブママ(事故時41歳)につき、外貌醜状について逸失利益を認めないこと、患部にガラス片が残存していること等から、後遺障害分950万円を認めた(12級の後遺症慰謝料が290万円であることから、660万円の増額)。 |
| 裁判例13:さいたま地判平成22年6月25日(自保ジ1836・161)
顔面3箇所の線状痕(12級14号)の男児(5歳)につき、具体的な線状痕が明らかでなく、将来唇のラインを整える手術をする必要があり、線状痕が改善されることも予想され、将来の労働能力に影響を与えると認めることはできないが、後遺障害の存在及び影響については慰謝料で斟酌するとして、傷害分72万円、後遺障害分440万円を認めた(後遺症慰謝料につき150万円の増額)。 |
| 裁判例14:横浜地判令和元年9月26日(交民52・5・1182)
女児(事故時11歳)の右ふくらはぎの線状瘢痕(80㎜×5㎜)、右下腿内側の線状瘢痕(70㎜)、右下腿外側の線状瘢痕(70㎜)、右足関節外踝の線状瘢痕(2㎝)につき、逸失利益を否定したが、自賠責で下腿の瘢痕が12級相当と認定されていること、生活の様々な場面において今後長期にわたって大きな精神的苦痛をもたらし続けることが容易に想像できること等から、傷害分180万円のほか、後遺障害分420万円を認めた(後遺症慰謝料につき130万円の増額)。 |
| 裁判例15:東京地判平成24年4月25日(自保ジ1875・71)
主婦(固定時70歳)の顔面醜状(12級14号)につき、逸失利益を否定したが、日常生活への影響、後遺障害等級に該当しない右肘頭骨折後の手術痕等が残存していることなどから、後遺障害分350万円を認めた(60万円の増額)。 |
| 裁判例16:名古屋地判令和3年6月30日(自保ジ2103・73)
14級4号の右上肢に瘢痕を残した家事従事者(女性・30代)につき、労働能力への直接的な影響は認め難いものの対人関係や対外的な活動に消極的になる形で間接的に労働能力に影響を及ぼす恐れが認められ、これを慰謝料の加算事由として考慮し、後遺障害分180万円を認めた(14級の後遺症慰謝料が110万円であることから、70万円の増額)。 |
| 裁判例17:東京地判平成17年5月30日(自保ジ1617・21)
洋服デザイン販売会社経営兼ファッションモデル(女性・年齢不明)につき、鼻根部の直径1.5㎝大の外傷後色素沈着、毛細血管拡張性の症状は後遺障害等級に該当する程度には至らないとして逸失利益を否定したうえで、日常生活や精神面における影響は無視できないこと、モデルという容貌が殊更重要視される職業で仕事を受けられなくなり本件事故後廃業したこと、明確に算定はできないが逸失利益も否定できないことなどから、傷害分、後遺障害分200万円を認めた。 |
裁判例12~15は醜状障害12級が認定されているケース、裁判例16は醜状障害14級、裁判例17は醜状障害非該当のケースになります。
醜状障害について逸失利益は認めないとしつつも、日常生活や対人関係への影響や将来にわたる精神的苦痛の可能性などを考慮し、後遺症慰謝料において基準以上の金額が認定されています。
以上のことから、裁判においては、醜状障害の逸失利益や後遺症慰謝料を判断するにあっては、形式的にあてはめをするのではなく、被害者の性別・年齢・職業・傷痕の態様・心情・将来への影響等の個別具体的事情を考慮した上で判断が行われていることが分かります。その他の後遺障害と比較すると逸失利益が認定される難易度が高い傾向にはありますが、具体的事情や支障等について丁寧に主張することで、逸失利益や後遺症慰謝料の認定を獲得できる可能性もあります。
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損害賠償請求において、後遺障害は賠償額に大きくかかわってきます。
そのため、適切な賠償を得られるようにするにあたっては、後遺障害の内容を的確に把握することはきわめて重要であると言えます。
また、逸失利益についても、形式的に当てはめて計算するのではなく、
実際の就労や就業における後遺症の影響などを把握して、個別具体的に労働能力喪失の程度を判断することが肝要となります。
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