コラム
死亡事故の自賠責保険金の計算方法と適切な賠償金を受け取るためのポイント
2025.03.16
このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、
- そもそも自賠責保険とは?
- 死亡事故に対する自賠責保険金の補償内容
- 自賠責保険金の計算方法と手続の流れ
- 適切な賠償金を受け取るためのポイント
などについて解説します。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による死亡事故解決サポートを行っております。
交通事故被害で大切な方を亡くされた被害者の方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による死亡事故解決サポートの詳細についてはこちら。
そもそも自賠責保険とは?
自賠責保険の概要と特徴
自賠責保険は、正式には「自動車損害賠償責任保険(共済)」といいます。
この自賠責保険は、自動車損害賠償保障法第5条で、自動車やバイク(原付を含む)の運行供用者に加入が義務付けられている、強制加入保険になります。
自動車損害賠償保障法第5条「自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。」
なぜ強制加入保険なのかという理由は同法の第1条の目的を見ると分かります。
自動車損害賠償保障法第1条「この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立するとともに、これを補完する措置を講ずることにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。」
交通事故被害に遭った時に、相手が何らの保険契約の締結もない無保険車だった場合、
加害者の資力にもよりますが、被害者は一切の補償を受け取ることができないリスクが生じます。
それでは安心して道を歩いたり、自分で車を運転したりできる世の中とはかけ離れてしまいますから、
被害に遭った際に一定程度の補償が必ず受けられるよう、法律で強制加入が義務付けられているのが自賠責保険というわけです。
ですから、この自賠責保険は被害者側に怪我が発生するような人身事故の場合に、被害者を保護するために保険金が支払われる運用になっています。
交通事故における自賠責保険の役割
先ほども見たように、自賠責保険は、交通事故の際に発生する損害に対し一定の範囲内で被害者への補償を行う役割を担っています。
発生した被害に対して迅速かつ平等に保険金の支払がなされる代わりに、保険金額としてはかなり低額です。
死亡事故の場合は自賠責保険金の上限額は3000万円とされていますが、適切な基準に基づいた計算を行った場合には、
数千万円から億単位の金額になることが多く、自賠責保険だけでは発生した損害を賄いきれないことも多々あります
(もちろんお金の問題ではないですが、民法上ではどうしても金銭で評価せざるを得ません。)。
自賠責保険と任意保険の違い
ここまで見てきたように、自賠責保険は強制加入制度を担保することで、被害者が一定程度の補償を受けられる環境の確保に一役買っていますが、
被害者側から見た(少なくとも金額の上での)適切な賠償がされるわけではありません。
ということは逆に加害者側から見ても、自賠責保険だけでは発生した損害の全てを賠償することができない=非免責債務を負う可能性が高いということになりますから、
多くの運転者は事故を起こしてしまった場合に備え、任意保険にも加入しています。
任意保険は文字どおり加入が任意の保険ですが、2023年度自動車保険の概況をみると、自動車の約90%に任意保険が付帯されているようです。
自賠責保険と任意保険の最大の違いは、支払金額の計算方法です。
自賠責保険の支払金額の計算方法は、後述するように、自動車損害賠償保障法施行令というかたちで明記されています。
明記されていることで、平等性が担保されているわけです。
一方で、任意保険会社の対人賠償保険金の計算方法は、「被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額」といったあいまいな記載がされることが多いです。
この記載があいまいであるからこそ、交渉や裁判によって金額が変わる余地があるわけですが、
被害者の側からみれば適切な計算が為されているかを確認するのが難しくなります。
任意保険会社は被害者側に支払う保険金額が少なければ少ないほど、自社の利益が大きくなりますから、
被害者側にとって適切な金額を提示してくることはまずありません。
任意保険会社の支払は、被害者側が交渉で適切な金額を勝ち取る必要があります。
死亡事故に対する自賠責保険金の補償内容
遺族への慰謝料と具体的な補償内容
死亡事故に対する自賠責保険金の補償内容は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等支払基準 」に明記されています。
まず、死亡事故の場合に自賠責保険金から支払われるのは、
- 葬儀費
- 逸失利益
- 死亡本人の慰謝料
- 遺族の慰謝料
になります。順にみていきましょう。
葬儀費
葬儀費は100万円が支払われることとなっています。
逸失利益
逸失利益とは、事故に遭わなければ得られていたはずであったのに、事故に遭ったせいで得られなくなった収入等をいいます。
この逸失利益については、
「年間収入額または年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出する。」
とされています。
と言われても理解しにくいところがあると思われますので、例をあげながらみていきます。
事故前の年収が400万円である30歳の男性が交通事故被害に遭い、亡くなってしまったとします。
この方は、事故に遭わなければ、67歳ころまで働けていたはずです。就労可能年数とは、基本的には死亡時の年齢から67歳までの期間(この方の場合は37年)になります。
また、事故前の年収は400万円でしたが、年齢を重ねていく中でどんどん昇給していくはずであったと思われますから、
その方の67歳までの収入を、30歳時点の年収で計算するのはいささか不合理なように思われます。
このような場合には、全年齢の平均給与額である490万9200円を基礎に計算がされます。
1年間に490万9200円を稼ぐ能力がある方が、今後37年間にわたって就労し、収入を得られるはずであったのに得られなくなった、ということは、
逸失利益の金額は、中間利息の控除を考慮して(ライプニッツ係数についてはこちらをご覧ください)、
490万9200円×22.167(37年に対応するライプニッツ係数)=1億0882万2236円となりそうです。
ところで、この方は事故に遭い亡くなってしまったことで、将来得られるはずであった収入を得られなくなってしまいました。
一方で、将来にわたってかかり続けていたはずの生活費についてもかからなくなっています。
本来かかるはずであった生活費が事故のせいでかからなくなったということで、この分は実質的には得をしているという評価をされ、
この生活費に充てるはずであった部分については控除が必要となります。それが生活費控除率であり、被扶養者がいないときは、50%とされています。
ですから、この方の逸失利益の金額は、
490万9200円×(1-50%)×22.167(37年に対応するライプニッツ係数)=5441万1118円ということになります。
死亡本人の慰謝料
死亡本人の慰謝料は400万円とされています。
遺族の慰謝料
遺族の慰謝料が請求できるのは、「被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)」とされています。
そのうえで、請求権者1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人の場合には750万円とされます。
また、被害者に被扶養者がいるときにはこの金額に200万円が加算されることになっています。
死亡事故における補償限度額
ここまで見てきたような基準や計算方法に基づいて自賠責保険金額が決まります。
しかし、自賠責保険には支払限度額が決まっており、死亡事故の場合には3000万円とされています。
たとえ逸失利益の計算などで3000万円を超えた場合であっても、支払われる保険金は3000万円を上回ることがありません。
自賠責保険は迅速かつ平等に支払いを受けられる一方、適切な金額を受け取ることが難しいということをお分かりいただけると思います。
適切な金額を受け取るためには、任意保険会社との交渉を行わざるを得ません。
死亡に至るまでの傷害
なお、事故によっては被害者の方が病院に搬送され、入院をしばらく続けたものの亡くなってしまった、というようなケースも存在します。
このように、事故に遭い亡くなられるまで(死亡に至るまで)の間に、お怪我に対する治療を受けたり、精神的苦痛を受けていたりするような場合には、
「死亡に至るまでの傷害」として、先ほど見たような補償と別に補償を受けることができます。
自賠責保険金の計算方法と手続きの流れ
死亡事故における自賠責保険金計算の基準
先ほど見たように、死亡事故における自賠責保険金は、
- (死亡に至るまでの傷害)
- 葬儀費
- 逸失利益
- 死亡本人の慰謝料
- 遺族の慰謝料
から構成されており、死亡に至るまでの傷害を除いた4つについては合計で3000万円が上限とされています。
必要書類と請求手続
自賠責保険に対して死亡事故の保険金請求を行う場合に必要な書類には以下のようなものがあります。
- 支払請求書兼指図書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 死体検案書(死亡検案書)
- 請求権者の印鑑登録証明書
- 請求権者と被害者の相続関係等を証明するための戸籍
その他事案に応じて追加書類の提出を求められる場合があります。
提出書類が不備の場合、手続が遅れる可能性があるため、提出前に確認を行うことが大切です。
提出にあたり不安があるような場合には弁護士に相談することも有用です。
適切な賠償金を受け取るためのポイント
保険会社との交渉で起こりがちな問題
死亡事故の場合に保険会社との交渉では様々な問題が起こりがちです。
最も起こりがちな問題は、適切な基準による計算が為されないことです。
加害者側保険会社は、被害者側に支払う保険金額をできるだけ少なくしようと考えているため、
最低限度の補償である自賠責基準や、それと同じかやや高い程度の任意保険基準での示談締結を迫ってきます。
しかし、これらの基準での計算は、被害者側から見て適切な金額であることはほとんどなく、
被害者側が適切な金額を受け取るためには弁護士基準(裁判基準)での計算及び請求を行う必要があります。
加害者側保険会社の提示を確認し、適切な基準による計算を行った場合にはどれくらいの金額になるのかを確認すべきです。
また、死亡事故特有の問題として、過失割合の争いが非常に難航しやすいことが挙げられます。
過失割合の争いはもともと難航しやすい論点ではありますが、死亡事故の場合、被害者の方が亡くなってしまっていますので、
被害者側の視点から事故当時の状況を証言することが極めて難しくなります。
ドライブレコーダーや監視カメラなどがある場合は別として、
加害者側の供述のみで過失割合の交渉が進むことは絶対に避けなければなりませんから、
警察の捜査記録を閲覧・謄写したり、刑事裁判の記録を取得したりして過失割合の交渉を行っていく必要があります。
当事務所でも、加害者が嘘の証言をしていた事案で加害者の嘘を暴き、被害者の過失なしで解決した事例がございます。
刑事裁判の被害者参加を積極的に行うべき
保険会社との交渉にあたって非常に重要なのが、刑事裁判への被害者参加です。
死亡事故を起こしてしまった場合、加害者は過失運転致死罪などの罪に問われることとなり、
多くの場合公判請求がなされ、刑事裁判が開かれることになります。
この刑事裁判は、加害者(被告人)の罪の重さを決定する場ですから、直接的には損害賠償請求に影響を与えることはありません。
しかし、被害者参加という制度を利用することで、間接的ですが損害賠償請求に影響を与えることが可能となります。
被害者参加制度とは、文字どおり被害者が刑事裁判に参加できる制度のことをいいます。
基本的に刑事裁判は、検察官・裁判官・被告人の3者の間で行われる手続になりますが、特定の事件においては被害者がその場に参加することが可能です。
この被害者参加制度を用いた場合、被害者は、
- 心情意見陳述
- 論告意見
- 被告人質問
等ができるようになります。
- 関連記事:刑事裁判参加サポート
例えばこの心情意見陳述の場では、ご家族の方が、生前の被害者の様子や、被害者を失ったことによる苦痛などをお話することになります。
そのお話された陳述書を民事の損害賠償請求時に提出することで、慰謝料の金額をより増額させられる可能性があります。
刑事裁判への被害者参加は、被告人や裁判官に直接ご自身の想いを伝えることができるという時点で、
被害者側専門弁護士としては非常にお勧めしておりますが、損害賠償請求を考えても極めておすすめです。
当事務所でも、刑事裁判への被害者参加を行うことで、加害者の実刑判決を勝ち取ったり、裁判基準以上の慰謝料を獲得した事例がございます。
仮渡金制度の有効活用
特に一家の支柱とも呼べる方が死亡事故で亡くなってしまったような場合、ご家族の生活を守るためにお金が入り用になることがあります。
直近でお金が必要だからということで、加害者側保険会社の低い提示を飲まざるを得ないということはあってはなりません。
このような場合に利用できる制度として、仮渡金という制度があります。
これは、自賠責保険金の一部を「仮に支払ってもらえる」制度です。
自賠責保険金の全てを請求する本請求の場合、必要な書類も多いですし、自賠責保険での調査も長くかかってしまいます。
それでは直近の生活での支出に間に合わないという場合に、仮渡金制度を利用することで、290万円を受け取ることができます。
トラブルに備えた専門家のアドバイス
保険会社や加害者との交渉でトラブルを避けつつ適切な補償を受け取るためには、交通事故の専門家である弁護士のサポートを受けることが有効です。
特に、自賠責保険の算定基準よりも高額な賠償金を目指したい場合は、弁護士基準を用いた交渉が欠かせません。
弁護士を活用することで、自賠責保険や任意保険の交渉をスムーズに進めるだけでなく、被害者自身の不安を軽減することができますので、
保険金請求やトラブル対応に専門知識を持つ弁護士を選ぶことがポイントです。
弁護士を活用した賠償金の交渉
交通事故による死亡事故では、適切な賠償金を受け取るために弁護士の活用が重要です。
自賠責保険や任意保険の基準で提示される賠償額が、被害者や遺族にとって十分であることはほとんどありません。
特弁護士基準で算定される賠償金は、自賠責基準や任意保険会社基準よりも高額になる傾向がほとんどですから、
弁護士に相談し、交渉を依頼することで、より多くの保険金や慰謝料を受け取れる可能性が高まります。
弁護士は、慰謝料の算定や逸失利益の計算に精通しており、保険会社との交渉を有利に進めるための力強い味方となります。
死亡事故は専門弁護士に相談しましょう
交通事故で被害者の方が亡くなってしまうような場合、
ご家族の方は深い悲しみの中にいらっしゃることと思います。
そのような中であっても、加害者側保険会社は容赦なく支払う保険金額を少なくしようとしてきます。
もちろんお金の問題ではありませんが、とはいえ残されたご家族の今後の生活を支えるお金が、
被害者の命の金銭としての評価が、適切な基準で計算されないということは絶対に避けなければならないとも思っております。
交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士に相談することで、
今後の進め方についてのアドバイスを受けられるだけでなく、自賠責基準を超えた適切な賠償金を受け取るためのサポートを受けることができます。
死亡事故で大切な方を亡くされた方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。