【弁護士解説】 部活遠征のバス事故で高校生が亡くなったら、誰が責任を負うのか?
2026.05.12
お知らせ

2026年5月6日、福島県の磐越自動車道で、部活動の遠征に向かっていた新潟・北越高校のソフトテニス部のマイクロバスが事故を起こし、
生徒1名が亡くなり、多数の生徒が負傷するという、大変痛ましい事故がありました。
報道では、
- 運転していた68歳の男性が二種免許を持っていなかったこと、
- 車両が貸切バスではなくレンタカーであったこと、
- 過去にも同じ高校名義で複数回レンタカーが借りられていたこと
などが明らかになっています。
学校側とバス会社の説明にも食い違いが生じており、世間の関心も高まっています。
今回は、こうした「部活遠征中のバス事故」を題材に、
- 誰がどのような責任を負う可能性があるのか、
- 学校にはどのような安全配慮義務違反が考えられるのか、
- そして万が一お子さまが亡くなった場合の損害賠償額
について、弊所の交通事故・学校事故を専門とする弁護士大澤健人が解説します。
この記事のポイント
- 運転手・バス会社・学校・レンタカー会社の4者に責任が及ぶ可能性があります
- 学校が「依頼していない」と説明しても、安全配慮義務違反は免れにくいケースです
- 17歳男子高校生が亡くなった場合、賠償額は概ね9,000万円〜1億2,000万円程度になり得ます
- 遺族が請求する場合、共同不法行為構成で全員に連帯して損害賠償請求できる可能性があります
そもそも、何が起きたのか?
まず事案を簡単に整理します。報道されている内容は、おおよそ次のとおりです。
- 2026年5月6日午前7時40分頃、磐越自動車道で部活遠征中のマイクロバスが事故を起こした。
- 乗車していたのは、新潟市の私立北越高校の男子ソフトテニス部の生徒20名と、運転手1名。
- 生徒1名(17歳・男子)が亡くなり、5名が骨折等の重傷、計26名が病院に搬送された。
- 運転手は68歳の無職男性で、旅客運送に必要な「二種免許」を持っていなかった。
- 車両は通常の貸切バスではなく、「レンタカー」を使用していた。
- レンタカーは、新潟のバス会社「蒲原鉄道」の営業担当者を介して、「高校名義」で借りられていた。
- 学校は過去1年で少なくとも9回、同じ仕組みでレンタカーを利用していた。
- 学校は「レンタカーは依頼していない」と説明し、バス会社は「依頼があった」と主張している。
参考:磐越道バス事故 “白バス行為”北越高校とバス会社間で繰り返されたとみて警察が捜査 運転手宛か現金入り封筒も(福島テレビ FNNプライムオンライン)
ここまで読まれて、「あれ? 貸切バス事業の許可があるバス会社が、なぜレンタカーを?」
「無免許の人が運転していいの?」と疑問を持たれた方も多いと思います。
実は、ここに本件の最大の法的問題が凝縮されています。
誰が、どんな責任を負うのか?

交通事故、特に死亡事故の場合、責任を負うのは「運転手だけ」ではありません。
本件のように複雑な構造では、複数の関係者が法律上の責任を負う可能性があります。
当事者ごとに順番に見ていきます。
運転手の責任 ― 刑事と民事の両方
まず最も直接的な責任を負うのは、運転していた68歳の男性です。
刑事責任としては、過失運転致死傷罪(自動車運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)が成立し、7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
| 自動車運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」 |
注意義務違反の程度が重大であれば、危険運転致死傷罪(同法第2条・第3条)の検討対象にもなります。
| 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条
「次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第3条 「1 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。 |
さらに、二種免許を持たないまま旅客運送目的で運転していたため、道路交通法違反(無免許運転)、
そして自家用車(レンタカー)を使って有償で人を運んだ点で、道路運送法第4条違反(無許可旅客運送、いわゆる白タク行為)にも該当する可能性が高いといえます。
民事責任としては、民法第709条(不法行為)に基づき、ご遺族に損害賠償をする義務があります。
バス会社(蒲原鉄道)の責任
バス会社は当初、「運転手は知人の紹介で、社員ではない」「事故歴は把握していなかった」などと説明しています。
しかし、これで責任を免れることはできるのでしょうか。
民法第715条の使用者責任は、必ずしも雇用契約があることを要件とせず、実質的な指揮監督関係があれば成立します。
営業担当者が運転手を紹介し、車両を手配し、報酬の流れを管理していたのであれば、事実上の使用者と評価される可能性があります。
| 民法第715条
「1ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 |
さらに、自家用自動車(レンタカー)を使って実質的に旅客運送業を行っていたとすれば、
それ自体が道路運送法違反(白タク行為)であり、バス事業者として重大なコンプライアンス違反となります。
民事的には、自賠法(自動車損害賠償保障法)第3条の運行供用者責任、民法第709条の不法行為責任(運行管理体制の不備)にも問われる可能性があります。
| 自動車損害賠償保障法第3条
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」 |
学校(北越高校)の責任 ― 在学契約上の「安全配慮義務」
私立学校と生徒(保護者)との間には在学契約が成立しており、
学校はその契約に付随する義務として、生徒の生命・身体の安全を守る「安全配慮義務」を負います。
とくに部活動の遠征は、学校が業者選定の主導権を持つ場面です。
学校は「レンタカーは依頼していない」と説明していますが、契約名義が「高校」であり、
過去1年間に9回も同じ仕組みで契約が繰り返されていた以上、組織として認識し得たと評価される可能性が高くなります。
事故の発生は、運転手の過失によるところが大きいことになりますが、
今後学校側が、運転手が無免許運転であることを認識していた、又は、認識することが可能であったということになる場合には、
運転手が安全な運転を行うことができず、事故を起こし、生徒の身体・生命が害される危険性を予見可能であったということになる可能性があります。
そうした場合、安全配慮義務を負う学校としては、このような事態にならないように適切な運転技術を有している者に依頼をするなどの安全配慮義務を尽くすべきといえます。
しかしながら、そうした措置を取ろうという努力が十分にされていないということになれば、
学校においても生徒に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務が発生する可能性があります。
レンタカー会社の責任
レンタカー会社にも、自賠法第3条の運行供用者責任が及ぶ可能性があります。
レンタカーの貸主は、判例上、運行供用者性が認められる傾向にあるためです。
加えて、貸出時の運転免許の確認、用途の確認といった注意義務違反があれば、
安全に運転を行うことができずに事故を起こしてしまう危険性が高いことが予見可能であったとして、
民法709条の不法行為責任も問題となり得ます。
学校にどんな安全配慮義務違反が考えられるのか?

ここが本件の最大の論点の一つです。学校は具体的にどのような点で「安全配慮を怠った」と評価されるのでしょうか。
法的に「安全配慮を怠った」といえるかどうかは、事故の発生を予見可能だったかどうかが重要となります。
私が考える主なポイントは次の6つです。
① 適正な貸切バス事業者を選んでいない
生徒を遠方まで運ぶのであれば、本来は道路運送法第3条1号イの許可を受けた「貸切バス事業者(緑ナンバー)」を選ぶべきです。
これらの業者は運行管理者・整備管理者の選任が法律上義務付けられており、安全水準が制度的に担保されています。
ところが本件では、白ナンバーの「レンタカー」が使われていました。
そもそも適法な事業者選定がなされていない可能性がある、というのが出発点の問題です。
適法な事業者でないとすると、遵法意識が低く、安全な運転がなされず、事故が起きてしまうかもしれないと想起することができる可能性があります。
そうすると、事故の発生についての予見可能性を基礎づける1つの事情となってきます。
② 運転手の二種免許を確認していない
人をお金をもらって運ぶには、第二種運転免許が必須です。
学校は引率責任者として、運転手が必要な免許を持っているかを確認すべきでした。
免許をもっているということは、適切な運転技術をもっていることの確認にもなりますので、確認をしていないということになれば、安全性が担保されていないということになります。
また、仮に、運転手が必要な免許をもっていないということを学校側が知っていた、又は、知ることが可能だったということになれば、
事故が起きてしまう危険性が高いことを知り、又は、知ることが可能だったということになります。
そうした場合には、今回の事故の発生を予見することが十分可能だったということになります。
③ 運転手の運転歴・健康状態を確認していない
報道では、当該運転手は過去数か月の間に複数回事故を起こしていたとされます。
本来であればそうした情報は、運行管理上把握されているべきです。
こうした事実を学校側が知っていた、又は、何らかの事情により知ることができたということになれば、
再び事故を起こしてしまう危険性が高いことが予見可能だったということになります。
④ 引率教員が現場で確認していない
出発時に車両のナンバー(緑か白か)や運転手の身元は、外形的に確認可能です。
引率教員の誰も車両のナンバーが目に入らなかったとは考えにくいのではないかと思います。
そうすると、適法な車両ではないことに気づくことができ、安全性に疑問があることに気づけた可能性があります。
この事情も事故の発生を予見させる1つの事情になる可能性があります。
⑥ 組織内のチェック体制が機能していない
過去にも繰り返し同様のレンタカー手配があったとすると、ナンバーの色について疑問の声があがっていた可能性も考えられます。
何度も乗車している教員においては、異変に気づく機会も多かったことになります。
誰もが疑問に思わなかったということになれば、危機意識が薄いことを示す事情になりますし、
議論がなされていたということになれば、組織として事故の危険性が高いことを予見可能だったということにもつながります。
学校が「依頼していない」と主張しても、契約名義が「高校」であり、過去9回も契約が反復されている以上、
「組織として把握すべきだった」と評価される可能性が高くなります。
高校生(17歳・男子)が亡くなった場合、賠償額はいくらになるのか?

ここからはお金の話になりますが、ご遺族にとっては最も切実な問題でもあります。
死亡事故の賠償は、「赤い本」と呼ばれる『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター編)に沿って、以下のような項目に分けて計算されます。
⑴ 死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、亡くなってしまった方が本来将来にわたって就労することで得られていたはずなのに、
事故に遭い、亡くなってしまったことで得られなくなってしまった利益のことをいいます。
計算式は、
| 「基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数のライプニッツ係数 |
です。
男子高校生の場合には、
基礎収入は、賃金センサスと呼ばれる厚生労働省の統計(令和7年賃金構造基本統計調査)に基づき、男性・学歴計・全年齢平均の収入を用いることになります。
令和7年だと、610万7000円になります。
生活費控除率とは、得られていたであろう収入のうち、自分の生活費に費消していたであろう部分について差し引くための係数です。
男子高校生の場合には、男性・独身者(被扶養者0名)に該当すると思われるため、裁判例上は50%とされることが多いです。
就労可能年数は、67歳までの期間とされることが多いため、18歳からの計算ですと49年間になります。
これに基づいて計算を行いますと、
610万7000円×(1-50%)×25.5017=7786万9440円
が一つの目安となります。
⑵ 死亡慰謝料
赤い本基準では、独身男女・子供・幼児等の区分で2,000万〜2,500万円とされています。
本件は将来性のある高校生の死亡事案であり、また学校・バス会社の重大な違法行為が認定されれば、慰謝料の増額事由として考慮される可能性があります。
⑶ 近親者慰謝料(両親・親族の方)
民法711条に基づき、ご両親には、本人慰謝料とは別に、固有の慰謝料が認められます。
| 民法711条
「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」 |
ただし、被害者の祖父母や兄弟なども、条件によっては近親者として慰謝料請求権が認められることがあります。
最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(民集28巻10号2040頁)でも、上記の条件に当てはまる近親者と実質的に同等の関係にある者にも、近親者固有慰謝料請求権が認められたケースがあります。
民法711条に規定がない近親者の方の慰謝料請求を認めさせるために重要なのは、被害者と近親者との特別な関係性です。
例えば、同居しているといった日常的に深く関わり合っている関係がある場合、慰謝料が認められる確率が高いです。
⑷ 葬儀関係費用
赤い本では原則150万円とされ、これを下回る実費の場合は実費が損害となります。
交通事故により被害者が死亡した場合、遺族は葬儀を執り行うことになります。
この葬儀費用については、最高裁判所第一小法廷昭和43年10月3日判決で、加害者側に請求できることが認められています。
| 最高裁判所第一小法廷昭和43年10月3日判決「右費用(葬儀に要した費用)は、その額その他原審認定の諸般の事情に徴し、社会通念上不相当な支出とは解されない。そして、遺族の負担した葬式費用は、それが特に不相当なものでないかぎり、人の死亡事故によつて生じた必要的出費として、加害者側の賠償すべき損害と解するのが相当であり、人が早晩死亡すべきことをもつて、右賠償を免れる理由とすることはできない。」 |
この判例では、葬儀に要した費用は、それが特に不相当なものでない限り、必要的出費として加害者側の賠償すべき損害と解するのが相当であると判示されています。
一般的に葬儀費用として損害賠償の対象として認められるものは以下のようなものがあります。
- 通夜・告別式費用: 祭壇代、斎場使用料、棺・骨壺代、遺影作製費など。
- 宗教者への謝礼: お布施、読経料、戒名料(法名料)など。
- 火葬・埋葬費用: 火葬料、納骨にかかる実費。
- 飲食・接待費: 通夜振る舞いや精進落としなどの飲食代(過度でないもの)。
- 供養・装飾費: 供花代、葬儀広告代、看板代など。
- 事務的費用: 死亡通知の郵送費、電話代、会葬御礼(粗供養)など。
- 遺体関連: 遺体の捜索費、処置費、搬送料(霊柩車、遠方からの搬送など)。
- 法要費用: 四十九日までの法要(初七日など)にかかる費用。
これらは、故人を弔うために必要不可欠と見なされ、賠償対象の範囲として認められることが多い項目です。
また、別枠になりますが、ご遺族が病院や葬式に駆け付けるために生じた交通費も「駆け付け費用」という項目での請求が可能です。
⑸ その他
その他、病院に搬送された後の治療費や、文書取得費用なども請求が可能です。
⑸ 合計額の目安
| 死亡逸失利益 | 約7800万円 |
| 死亡慰謝料 | 約2000万~2500万円 |
| 葬儀費用 | 約150万円 |
| その他 | 発生した実費額に依る |
| 合計 | 約1億円 |
以上のように、約1億円の損害賠償金が、現在のところ考えられる目安かと思われます。
ただし、慰謝料額などは典型ですが、個別具体的な事情によって大きく変動するところでもあります。
また、裁判になった場合には、これに加えて、事故日からの遅延損害金(年3%)と弁護士費用相当額(認容額の約10%)が加算されることが多いです。
弁護士としての見解

これは「運転手のミス」では片付けられない事件
本件の本質は、運転手個人のヒューマンエラーではありません。
違法・無資格な運送形態が、学校とバス会社の間で組織的・継続的に利用されてきた構造そのものに、事故の原因があると考えます。
「経費削減」のために「白タクまがいのレンタカー運送」を選び、それを学校が黙認・利用してきた。
安全をコストの調整弁にしてしまった結果、若い命が失われた。私はこの事件をそう捉えています。
最後に ― 同じ事故を繰り返さないために
本件は、ご遺族の損害賠償の問題にとどまらず、
学校が部活動の遠征をどう運用すべきか、貸切バス制度の脱法的利用をどう防ぐかという、社会全体の課題を突きつけています。
文部科学省・国土交通省の連携、学校内のガイドライン整備、保護者による業者確認の機会の確保など、
再発防止の議論につなげていくことが、亡くなられた生徒さんへの本当の意味での弔いになると、私は考えています。
交通事故・学校事故でお悩みの方へ
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的なケースについては個別の事情によって結論が変わります。
お子さま・ご家族が交通事故や学校事故に遭われた方、損害賠償について不安をお持ちの方は、できるだけ早い段階で交通事故・学校事故に詳しい弁護士にご相談ください。
初回相談は無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。
【注記】
本記事は2026年5月10日時点で公表されている報道内容に基づき、一般的な法的考え方を整理したものです。
具体的な事実認定や法的評価は、捜査・裁判の進行に伴い変動し得ます。また、損害額の試算は赤い本に基づく標準的な目安であり、最終的な認容額を保証するものではありません。

弁護士
