後遺障害等級の解説

脊髄損傷

脊髄損傷とは|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、脊髄損傷とは何か、脊髄損傷の分類、脊髄損傷の症状について解説しております。

そして、脊髄損傷の後遺症や、自賠責保険の後遺障害についてどのような等級に認定される可能性があるのかについても、後遺障害専門の弁護士がご説明いたします。

脊髄損傷とは?

「脊髄損傷」とは、文字通り「脊髄」を損傷する傷病のことをいいます。

では、「脊髄」とはなんでしょうか。簡単に言うならば、「人間の背中に通っている大きな神経」です。

脊髄は、脳と並ぶ中枢神経の一つであり、脳から連続的に存在しています。脳と身体各部組織との間で行われる運動神経・感覚神経・自律神経等の信号伝達機能といった非常に重要な役割を果たす部位です。そのため、簡単に傷ついてしまったりしないように、脊椎によって守られています。右上図においてSpinal Cordとある部分が脊髄、Bodyとある部分が脊椎となります。また、脊髄が通っているところを脊柱管といいます。

脊髄損傷が起きる原因は?

脊髄損傷の主な原因は物理的な外力によるものであり、交通事故がその最たる例となります。

たとえば高速で走る自動車が生身の人間に正面からぶつかった場合を想像してみます。正面衝突による急激な外力により、人間の体は、くの字のように折れ曲がります。その際、体は外力によって無理やり、物理的な限界を無視するように屈曲させられた状態(過屈曲)となるため、脊椎や脊髄にも大きなダメージが入ります。こうした物理的外力によって脊椎を骨折し、これに伴い脊髄自体が損傷したり出血したりすることもあれば、外力により脊椎が抜け出るように脱臼・亜脱臼してしまい、これに伴って脊髄が圧迫され損傷してしまうこともあります。また、脊椎の骨折がなくとも、脊髄を強く打ちつけることによって出血してしまったり、脊髄を保護する硬膜の内外に血種が生じて脊髄を圧迫してしまう恐れもあります。骨折を伴う脊髄損傷は「骨傷性脊髄損傷」、骨折を伴わないものは「非骨傷性脊髄損傷」と呼ばれています。

交通事故の他、スポーツ事故や転倒事故などによって脊髄損傷が起きることもあります。柔道やラグビーなどの身体的接触の多いスポーツでは特に起きやすい傾向にあります。また、物理的外力による負傷以外の原因としては、腫瘍などが形成されることによって脊髄が圧迫され、脊髄損傷と同様の症状が現れるケースもあります。

脊髄損傷の分類とは?

さて、ひとくちに「脊髄損傷」といってもその負傷の態様はさまざまであり、損傷高位横断面における損傷の程度などの基準に基づき分類されることが多いです。この項では、脊髄損傷をいくつかの分類に基づいて解説します。

⑴損傷高位による分類

脊髄はその位置によって頚髄(頸髄)胸髄腰髄仙髄に区分されます。脊髄の下端部は第1腰椎・第2腰椎あたりで終わり、それ以下に馬尾神経が下がるような構造になっています。このことから、損傷した高位に応じて、「頚髄損傷(頸髄損傷)」、「胸髄損傷」、「腰髄損傷」、「仙髄損傷」、「馬尾神経損傷」と分類することができます。

頚髄」と「頸髄」で漢字が違うが、意味も異なる?ふとした疑問についてこちらのページで解説

損傷したときに生じる症状も損傷高位によって大きく異なり、一般に、損傷高位が高ければ高いほど重篤な症状を発症する傾向にあります。

頚髄損傷が最も重篤で致命的な症状が現れることが多く、損傷の程度によっては死に至る可能性もあります。

次いで胸髄損傷が重い症状が現れることとなり、頚髄損傷とともに、下半身の対麻痺になることが多いです。

腰髄損傷でも下半身麻痺が生じることがありますが、頚髄損傷や胸髄損傷と比べると、比較的症状は軽い傾向にあります。

そして仙髄損傷では、排尿障害などが生じる可能性があり、馬尾神経損傷の場合には、下肢の運動障害が生じることがあります。

頚髄損傷(頸髄損傷)、胸髄損傷、腰髄損傷については、以下のページで詳細を解説しております。

【頚髄損傷(頸髄損傷)の症状と後遺症】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

【胸髄損傷の症状と後遺症】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

【腰髄損傷の症状と後遺症】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

 

⑵横断面の損傷範囲による分類

脊髄損傷は、損傷の程度によって「完全損傷」と「不完全損傷」に分けられます。

完全損傷は横断面全体が損傷されたケースで、脊髄が横断的に断裂している状態であり、完全麻痺や感覚消失を発症します。

他方、不完全損傷は横断面の一部が損傷されたケースとなり、一部損傷の態様によって更に「前部脊髄損傷」、「後部脊髄損傷」、「脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)」、「中心性脊髄損傷」の4つの損傷パターンに類型化されています。上図は脊髄の断面の模式図になりますが、この断面においてどの領域を損傷したか、という分類基準です。

そして脊髄内の神経伝達経路の構造上、損傷パターンに応じて、現れる症状や症状が出る部位などが異なってきます。また、脊髄損傷様の症状は現れているものの、所見としては不十分という場合にも、不完全損傷の傷病名が診断されることがあります。

中心性脊髄損傷についてはこちらで詳しく解説しております。

前部脊髄損傷、後部脊髄損傷、脊髄半側損傷、中心性脊髄損傷と感覚障害の関係についてはこちらで詳しく解説しております。

脊髄損傷の症状

脊髄損傷を負傷した場合に一般に現れる症状については、以下のページで詳しく解説いたしております。

脊髄損傷|治療・リハビリの結果後遺症が残った…後遺障害や損害賠償請求はどうなる?【弁護士解説】

脊髄損傷|神経因性膀胱障害(排尿障害)とは?後遺症や後遺障害等級は?【弁護士解説】

本項では、症状について一覧的にまとめております。

⑴運動神経障害(運動麻痺)

脊髄損傷により、上肢や下肢に運動麻痺が生じます

人間が体を動かそうとするとき、脳から脊髄を介して運動機能の信号が各部に送られます。

しかし、脊髄を損傷することにより、信号の伝達経路に支障が生じてしまい、身体に上手く信号が届かなくなってしまうのです。

運動麻痺は発生部位に応じて呼び方が異なっており、人間の体を下の図のように上肢・下肢、左半身・右半身の4つのエリアに分けて考えます。

図中における①~④のすべての部位に運動麻痺が生じているものを四肢麻痺、両上肢(①&②)または両下肢(③&④)にのみ麻痺が生じているものを対麻痺、左上下肢(①&③)もしくは右上下肢(②&④)にのみ麻痺が生じているものを片麻痺、①~④のいずれか1か所にのみ麻痺が生じているものを単麻痺といいます。

Q.「下半身不随」と「下半身麻痺」の違いって何? → A.こちらのページで解説しております。

⑵感覚神経障害

皮膚組織で感じ取る温冷覚や痛覚といった表在感覚や、骨や筋組織等の内部組織で感じ取る位置覚や振動覚といった深部感覚について、感覚消失や感覚鈍麻が生じます。

感覚障害が現れる部位については、脊髄の損傷高位や、脊髄横断面における損傷範囲によって異なってきます。

脊髄損傷と感覚障害の発症の関係についてはこちらで詳しく解説

⑶呼吸障害

頚髄損傷を負った場合によく見られ、自発的呼吸が困難となります。

損傷高位によっては重度の呼吸障害が現れ、呼吸停止となり死亡に至る可能性もあります。

⑷神経因性膀胱障害(排尿障害・蓄尿障害)

尿意を感知することや、自力で尿を排出することができなくなってしまい、そのため膀胱に尿を溜めきれずあふれて失禁してしまうといった排尿障害・蓄尿障害が現れます。

膀胱尿管逆流を併発することもあり、その場合更に尿路感染症などの二次的な感染症を引き起こす恐れもあります。

⑸自律神経障害(交感神経遮断に付随する症状)

交感神経の中枢が胸髄の上位から腰髄にかけて存在するため、頚髄や上位胸髄を損傷することにより、交感神経が障害されます。

交感神経が障害されると、体温、血圧等の調節や代謝などが正常に行われなくなります。

他方、副交感神経は延髄から迷走神経を通って各胸腹部臓器に分布するつくりとなっているため、副交感神経は障害されません。

⑹反射の異常

熱いやかんに手を触れた時に、意識とは関係なく手を引く動作をとるように、こうした反射が起こるときには、通常、過剰に反射が起こらないように制御がなされています。

しかし、脊髄損傷を負った場合には、この制御が上手く働かなくなり、過剰に反射反応が現れることになります。

⑺神経症状

神経の構造について、中枢神経である脊髄から神経根が伸び出て、体の各組織に末梢神経を巡らせているようなかたちになっています。

脊髄の損傷とともに脊椎を骨折したり、血種等が生じることによって神経根が圧迫される場合には、障害されている神経根が伸びだしている髄節支配領域に応じた範囲に疼痛やしびれ等の神経症状が現れます。

 

脊髄損傷では、以上のような症状が現れることが多いです。

注意する点としては、脊髄損傷の損傷高位や損傷の程度によって、症状の重さの程度が異なってくることです。

例えば運動麻痺の場合、頚髄損傷では上下肢すべてに麻痺が生じる四肢麻痺になることが多いですが、腰髄損傷では上肢に麻痺が生じることはなく、専ら下肢に対麻痺や単麻痺が生じることとなります。なぜならば、上肢の運動指令を伝達する神経経路は頚髄の部分から伸びており、下肢の運動指令を伝達する神経経路は腰髄の部分から伸びているからです。

脊髄損傷は、損傷高位以下に障害が生じるものなので、頚髄損傷の場合には上肢の運動指令の伝達経路と下肢の運動指令の伝達経路の両方が障害され、他方で胸髄損傷や腰髄損傷では上肢の伝達経路は障害されず、下肢の伝達経路のみが障害されることになります。

 

ここでもう一点注意するポイントがあり、中心性脊髄損傷の場合には、やや異なる症状を呈することがあります

中心性脊髄損傷の中でも、とりわけ起きやすいとされているのが中心性頚髄損傷ですが、これを負傷した場合、下肢よりも上肢に運動麻痺の障害が強く現れます

中心性脊髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

また、損傷高位と症状の発生の関連性については、以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

脊髄損傷|損傷高位(レベル)と症状の関係は?【弁護士解説】

後遺障害の認定基準

交通事故による脊髄損傷によって運動麻痺や感覚障害などの症状が現れ、治療・リハビリを行ったものの、残念ながら後遺症が残ってしまう可能性があります。

一般的には、6か月~1年ほど治療やリハビリを行い機能が回復しなかった場合は、後遺症と判断されることが多く、症状固定の診断がなされることになります。

交通事故の相手方が運転していた自動車やバイク等が自賠責に加入していた場合には、自賠責に後遺障害の認定や保険金の申請ができます。

脊髄損傷の後遺障害認定及び等級の判断は、基本的に①麻痺の程度や範囲、②介護の要否や程度、③その他神経因性膀胱障害(排尿障害)や脊柱の障害、体幹骨の障害等の状況に着目して行われます。そして、CTやMRI等の画像所見によって、これらの後遺症を医学的に裏付けることができるかも重要となります。

以下は、自賠責保険において定められている後遺障害等級のうち、脊髄損傷による後遺症で認定される可能性がある等級です。

⑴別表第一第1級1号

脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺、神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形等が認められるもの

⑵別表第一第2級1号

脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために、立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに、軽度の神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形が認められるもの

⑶別表第二第3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷別表第二第5級2号

脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸別表第二第7級4号

脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために、杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑹別表第二第9級10号

通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑺別表第二第12級13号

通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの

おわりに

本稿では、脊髄損傷とはどのようなものか、また脊髄損傷と自賠責の後遺障害の関係について解説しました。

脊髄損傷の場合、運動障害としての麻痺や、感覚障害等が残存していることについて、画像所見や神経学的所見から医学的に立証できることが求められ、そのために後遺障害診断書の他にも複数の書類を準備する必要があります。

すなわち、自賠責保険の請求にあたっては、画像、検査、書類作成、資料取付など重要なポイントが数多くあり

等級獲得に向けて押さえるべきポイントをきちんと把握したうえで用意を行うことが望ましいといえます。

そのためには、後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠であると私どもは考えております。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております

小杉法律事務所では、保険会社との連絡や示談交渉だけでなく、

自賠責保険からの依頼への対応などについても窓口となるなど、これまでの経験やノウハウに基づき、後遺障害等級獲得に向けてサポートしてまいります

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お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。