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【弁護士解説】福岡の飲酒運転3歳児死亡事故|加害者の責任は?危険運転致死の改正の影響は?

2026.09.26

損害賠償請求

交通事故 刑事裁判 危険運転 死亡事故 死亡慰謝料 死亡逸失利益 被害者参加

事故で警察の事情聴取を受けている様子

2026年9月20日午前11時すぎ、福岡市西区小田の県道で、軽乗用車が前を走る大型バイクに追突し、

はずみで飛ばされたバイクが、道路脇のベンチでソフトクリームを食べていた家族連れに衝突しました。

巻き込まれた3歳の男の子が頭部を強く打ち、翌21日朝に亡くなっています。

軽乗用車を運転していた68歳の男性からは、呼気1リットルあたり0.99ミリグラムという高濃度のアルコールが検出されました。

  • 「朝にかけてワインや焼酎を飲んだ」
  • 「お酒の影響でアクセルとブレーキを踏み間違えた」

と供述しているとされ、当初の危険運転致傷容疑から危険運転致死傷容疑に切り替えられて送検されています。

 

ところで、この「危険運転致死傷罪」は、令和8年7月21日の改正により、飲酒運転の具体的な数値基準が設けられたばかりでした。

このページでは、交通死亡事故被害を専門とする弁護士法人小杉法律事務所の弁護士大澤健人が、

  • 危険運転致死傷罪の改正によって刑事責任の構図がどう変わったのか
  • ご遺族が行う損害賠償請求で何が最大の壁になるのか
  • 刑事手続のなかでご遺族に何ができるのか

等について解説します。

 

何が起きたのか-飲酒運転による死亡事故の発生とその後の経過

2026年9月20日 午前11時10分ごろ 福岡市西区小田の県道で、軽乗用車が走行中の大型バイクに追突。軽乗用車1台とバイク3台の計4台が絡む多重事故となる。
同時刻 追突されたバイク1台が、道路脇のベンチでソフトクリームを食べていた家族連れに衝突。大分市に住む3歳の男の子が頭部外傷で意識不明の重体となる。
同日 軽乗用車を運転していた68歳・無職の男性を、危険運転致傷の疑いで現行犯逮捕。呼気1リットルあたり0.99ミリグラムのアルコールを検出。
9月21日 午前8時12分 男の子の死亡が確認される。
その後 容疑を危険運転致死傷に切り替えて送検。「朝にかけてワインや焼酎を飲んだ」「お酒の影響でアクセルとブレーキを踏み間違えた」と供述しているとされる。

(読売新聞オンライン「福岡飲酒事故で3歳児死亡、両親は声震わせ「もっと一緒にいたかった」…好物のソフトクリーム食べていた時に巻き込まれる「びっくりしたね」」などを参照)

 

【刑事編】危険運転致死傷罪はどこまで問えるのか

裁判の様子

危険運転致死傷罪の法定刑——過失運転致死罪との決定的な差

自動車事故で人を死傷させた場合に問われる罪は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に規定があります。

 

まず、各条文を概観した後に、それぞれについて細かく解説します。

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第2条(危険運転致死傷)

次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール影響正常運転困難状態(身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為
二 薬物影響正常運転困難状態(薬物の影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
四 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ当該イ又はロに定める速度以上の高速度その他道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度(次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ当該イ又はロに定める速度に準ずるものに限る。)で自動車を運転する行為
イ 最高速度(道路交通法第二十二条第一項の規定によりこれを超える速度で進行してはならないこととされている最高速度(原動機付自転車を運転する場合にあっては、同法第三条に規定する普通自動二輪車の最高速度)をいう。以下この号において同じ。)が六十キロメートル毎時以下である場合 最高速度を五十キロメートル毎時超える速度
ロ 最高速度が六十キロメートル毎時を超える場合 最高速度を六十キロメートル毎時超える速度
五 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
六 殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為
七 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
九 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
十 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
十一 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第3条 (準危険運転致死傷)

1 アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、アルコール影響正常運転困難状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、薬物影響正常運転困難状態に陥り、人を死傷させた者も、同様とする。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第5条(過失運転致死傷)

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

この自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律において最も重い罪として位置づけられているのは、

第2条の危険運転致死傷罪です。

 

危険運転致死(人を死亡させた場合)には、1年以上の有期拘禁刑(上限20年)が法定刑となっています。

 

とはいえ、危険運転致死罪の立件のハードルは高いです。

もちろん警察・検察はできるだけ高い量刑での求刑に向けた捜査を行いますが、ご遺族のご希望とは裏腹に、過失運転致死罪での立件に留まるケースも少なくありません。

 

過失運転致死罪は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金が法定刑となっており、執行猶予がつくこともままあります。

 

危険運転致死罪と、過失運転致死罪のどちらで求刑されるかは雲泥の差です。

 

今回の事故で、警察は、「危険運転致死傷罪」での送検を行いました。

これには、後述するように、令和8年7月21日の法改正が影響していると言えます。

 

 

ちなみに、第3条の準危険運転致死罪も、第1項においてはアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合に問われる罪になります。

この準危険運転致死罪は、法定刑が十五年以下の有期拘禁刑となっており、第2条の危険運転致死罪よりは軽い法定刑となります。

 

この危険運転致死罪と準危険運転致死罪の違いは、運転を開始した時点の酩酊や錯乱の程度によります。

 

危険運転致死罪に該当するのは、運転を開始する前から、自身が酒に酔っていて正常な運転ができる状態ではないことが分かっていたにもかかわらず、運転を開始したような場合であり、

専ら身勝手な気持ちで運転を開始している点が極めて悪質と評価されます。

 

準危険運転致死罪に該当するのは、運転を開始した時は正常な運転ができていたが、その後酩酊が進み、正常な運転が困難な状態に陥ったという場合であり、

危険運転致死罪に該当するケースの方が悪質性が高いと評価されているため、準危険運転致死傷罪の法定刑は比較すると低めに設定されています。

 

なお、第4条にアルコール等で正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転した者が、

人を死傷させた後に、更にアルコールを摂取したり、その場から離れてアルコール濃度を減少させたりして、

事故時のアルコールの有無や程度の発覚を困難にさせようとした場合の刑が別途定められていますが、本件には該当しません。

 

 

危険運転致死傷罪の改正が決定的な意味を持つ

今回警察が危険運転致死傷罪での送検を行ったことについては、

令和8年7月21日の法改正が決定的な意味を持っていると言えます。

 

従来の危険運転致死傷罪の成立要件(第2条1項)は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」であることを検察官側が立証する必要がありました。

 

この立証にあたっては、

  • 事故の態様
  • 直前の運転状況
  • 逮捕時の受け答え
  • 歩行検査の結果

等の間接事実を積み上げていき、運転手が上記の状態であることを立証しなければなりませんでした。

 

その結果、相当量の飲酒があっても「正常な運転が困難な状態」までは認定できないとして、

危険運転致死傷罪ではなく過失運転致死傷罪にとどまる、という結論になる事案が少なくありませんでした。

ご遺族にとっては納得しがたい結論であり、長く批判の対象となってきた部分です。

 

飲酒運転ではありませんが、同じく過失運転致死罪と危険運転致死罪のいずれに該当するかが争われた事案に、

令和8年1月22日福岡高等裁判所判決(WestlawJapan 文献番号2026WLJPCA01226002)があります。

 

この事件は、令和3年2月9日に、当時19歳の少年が、大分市内の制限速度時速60㎞の一般道を、BMW「M235i」で、

時速約194㎞という高速度で走行していたところ、対応右折車に衝突、その車両を運転していた当時50歳の男性が死亡した、というものです。

 

福岡高等裁判所は、この少年について危険運転致死罪の成立を否定しています。

 

その判断の理由は以下のようなものです。

  • 危険運転致死罪にいう「進行を制御することが困難な高速度」とは、「速度が速すぎるため、自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの具体的な道路の状況、車両の構造や走行性能等の客観的な事実に照らし当然に、あるいは、ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度」をいう。
  • 本件についてみると、BMW「M235i」は、走行安定性に疑いを入れる事情がなく、ドイツ製でアウトバーンを想定した最高時速250㎞の車両である。車線内で直進してふらつきもなく、路面状況が具体的に運転に影響を与えたことの立証がない。

以上からすれば、今回の少年の運転は、「進行を制御することが困難な高速度」の運転とはいえず、危険運転致死罪が成立しないとしたのです。

 

他方で、福岡高等裁判所自身も、

  • 日常用語としての「危険な運転」であることは明白
  • 均衡のとれた処罰が実現できていない懸念もあると言わざるを得ない
  • 立法的手当てによって対応すべき事柄

と述べており、法改正による解決を図るべきであると示していました。

 

そして、これらの裁判例の集積や世論などを踏まえて危険運転致死罪が改正されました。

改正の最大のポイントは、客観的な数値基準が設けられたことです。

 

飲酒については、その第2条1号において、「身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態」と明記がされました。

 

今回の事故の発生日は令和8年9月20日であり、改正法の施行日より後ですから、改正後の規定が適用されます。

 

事故後検出された呼気中アルコール濃度は、1リットルあたり0.99ミリグラムであり、基準値0.5ミリグラムを上回りますから、

基本的には危険運転致死罪の構成要件に該当すること自体は争いになりにくい事案だと考えられます。

 

仮に同じ事故が法改正・施行前に起きていたとすると、検察官は「正常な運転が困難な状態」の立証という壁に向き合わなければなりませんでした。

この立証が難しいという判断になれば、過失運転致死罪での立件に留まるわけですから、この法改正が与える影響は極めて大きいです。

 

 

危険運転致死罪の量刑を左右する事情

危険運転致死罪の法定刑は1年以上20年以下と幅が広く、具体的な刑は事案に応じて決まります。

今回の報道内容からは、次のような事情が量刑上重く評価される方向に働くと考えられます。

 

  • アルコール濃度が基準値の約2倍、酒気帯び基準の6倍超という高い水準であったこと
  • 「朝にかけてワインや焼酎を飲んだ」という供述内容。飲酒後すぐに運転に及んでいる点に加え、飲酒の習慣性がうかがわれる場合には、規範意識の欠如としてより重く評価される可能性があります
  • 被害者が3歳のお子さんであり、道路脇のベンチという、本来なら危険が及ぶはずのない場所にいたこと
  • バイク3台を巻き込む多重事故であり、被害が広範囲に及んでいること

 

他方で、被告人が事実を認めていること、被害弁償や示談の成否、前科前歴の有無などは、被告人側の事情として考慮されます。

 

【民事編】ご遺族の損害賠償請求のポイント

刑事裁判は国が加害者を処罰する手続であり、ご遺族の損害の回復はそこでは行われません。

ご遺族の方が受けた損害の回復にあたっては、民事の損害賠償請求の手続をとる必要があります。

 

誰に請求できるのか?

まず飲酒運転をしていた運転者本人に対しては、今回報道されている事故内容などからすると、民法709条に基づきほぼ争いなく請求できるはずです。

 

また、今回加害者が運転していた車両の所有者が別の場合には、自動車損害賠償保障法第3条に基づき、その所有者に対しても請求が可能です。

 

さらに、仮に追突されたバイク3台に何らかの過失が認められる場合には、このバイクの運転者についてもそれぞれの過失分に応じた請求が可能な場合もあります。

 

3歳のお子様の損害はどのように算定されるのか?

被害者の方が亡くなった場合には、基本的に以下のような損害が算定されます。

この損害については、亡くなった方が未就学児であっても同様です。

 

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、亡くなってしまったお子様ご本人や、ご家族の皆様の精神的苦痛に対して支払われるものです。

 

裁判所が用いるいわゆる「赤い本」(『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編)』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編))が定める裁判基準(弁護士基準)では、

2000万円~2500万円が一つの目安とされています。

 

これは、近親者の方の慰謝料も含まれるとされていますが、

今回のように加害者が飲酒運転であるような場合には、基準を超えた増額が認められる場合もあります。

 

 

死亡逸失利益

死亡逸失利益とは、亡くなってしまったお子様が将来にわたって得られるはずであった収入が、

事故に遭い、亡くなってしまったことで得られなくなったという損害に対して支払われるものです。

 

基本的な計算方法としては、

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数(に対応するライプニッツ係数)

で計算されます。

 

未就学児の方の場合には、基礎収入は厚生労働省の賃金構造基本統計調査より、男女別・学歴計・全年齢平均の収入を参考にするのが原則です。

令和7年版ですと、610万7000円が基礎収入となります。

 

生活費控除率とは、お亡くなりになってしまうと収入が得られなくなるのと同時に、生きている以上は必ず費消する生活費もかからなくなりますので、

その分を差し引くために考慮されるものであり、男児の場合は50%とされることが多いです。

 

就労可能年数は、18歳から67歳までの49年間とされることが多いです。

 

以上を踏まえて概算をしてみますと、

610万7000円×(1-50%)×16.3686(3歳から67歳までの64年間に対応するライプニッツ係数28.3065-3歳から18歳までの15年間に対応するライプニッツ係数11.9379)

=4998万1520円

が、死亡逸失利益の一つの目安となります。

 

その他

  • 葬儀費用:原則150万円まで
  • お亡くなりになるまでの入通院慰謝料・治療費・付添費・駆けつけ費用など

が請求できる可能性があります。

以上を踏まえると、1億円程度の賠償金が想定されます。

 

ただし、今回の事故は飲酒運転という極めて悪質な運転により、3歳のお子様の命が奪われたという事故ですし、

その点は重く評価されるべきであると考えられます。

 

また、ご両親もお怪我をされているという報道もあり、ご両親のお怪我についてもしっかりと適切な賠償を求めていくことは重要です。

 

 

飲酒運転でも対人賠償保険は支払われる

ここは誤解が非常に多いところですが、実務上きわめて重要です。

 

加害者が飲酒運転をしていた場合でも、自賠責保険および任意保険の対人賠償責任保険からは、被害者に保険金が支払われます。

これらは他人の損害を補償する保険であり、被害者救済の観点から、飲酒運転は免責事由とされていないためです。

 

免責となるのは、加害者自身を守る性質の保険です。

運転者本人が飲酒していた場合、車両保険、人身傷害保険、搭乗者傷害保険については、約款上、保険金が支払われません。

つまり「飲酒運転だから保険は一切下りない」というのは誤りで、加害者本人は保護されないが被害者への賠償は保険から支払われる、というのが正確な理解になります。

 

加害者に資力がない場合はどうなる?

本件の加害者は68歳・無職と報じられています。

先ほど見たように、死亡事故の賠償額は、1億円規模になりますから、現実に回収できるかどうかが最大の課題になり得ます。

 

無制限の対人賠償保険に加入があれば良いですが、ない場合には以下のような保険関係を確認することが重要です。

 

1 自賠責保険

自賠責保険は強制加入保険ですから、対人賠償付帯の任意保険よりは加入可能性が高いです。

限度額は3000万円までとされており、損害額の全額を填補するには足りませんが、

巻き込まれたバイク運転者にも一定程度の過失が認められる場合には、複数の自賠責保険から別々に3000万円を回収することができる可能性があります(いわゆるダブルポケット・トリプルポケットの事案)。

 

2 人身傷害保険等

被害者側で人身傷害保険や無保険車傷害特約の付帯されている保険に加入していた場合には、

加害者の資力などにかかわらずご自身の保険から支払を受けることができます。

 

ご同居のご家族の方であれば利用可能な特約もありますから、確認することで大きく世界が変わる可能性があります。

 

3 政府保障事業

加害者側が自賠責保険にも加入していないという場合には、国土交通省が定める政府保障事業に請求することができます。

ただし、支払い上限は自賠責保険と同じく3000万円までということになりますから、残額は加害者本人に請求せざるを得なくなります。

 

4 加害者本人

これまで見てきたような保険を活用し、なお支払を受けられない不足分が存在する場合には、

加害者本人に請求することになります。

 

裁判により判決を得て、強制執行などで回収を進めていくことになります。

 

過失割合と時効

本件では、亡くなったお子さんは道路脇のベンチにいたところに巻き込まれており、

被害者側に過失が認められる余地はまず考えられません。

 

過失相殺による減額は想定しにくい事案といえます。

 

時効については、人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から5年で消滅します(民法724条)。

刑事裁判の結果は民事の損害賠償請求に影響を与えるため、基本的には刑事裁判の進みを待った方が良いと思われますが、

本件のような事故の場合には、捜査が長期化することも考えられます。

 

時効には気を配りつつ、場合によっては時効更新の合意書の取り交わしなどが必要になります。

 

被害者参加制度とは? ご遺族が刑事手続きに関わる方法

危険運転致死罪でこのまま検察の捜査が進むのであれば、おそらく公判請求がされると思われます。

 

危険運転致死罪で公判請求がされると、被害者参加制度(刑事訴訟法316条の33)の利用ができます。

 

この被害者参加制度は、平成19年の刑事訴訟法の改正で導入された制度です。

従来刑事裁判は、裁判官・検察官・被告人(の弁護人)の3者で行われており、被害者やご遺族は蚊帳の外という状況でした。

 

しかし、被害者や遺族が置いてきぼりにされる刑事司法はおかしいという動きが大きくなり、

導入されたのがこの被害者参加制度です。

 

これにより、ご遺族の方は、

  • 証人尋問
  • 被告人質問
  • 心情意見陳述
  • 論告意見

などについて行うことができ、当事者として刑事裁判に参加することができます。

 

例えば刑事裁判の中で、飲酒運転に至った経緯や当時の心情などを引き出すことができれば、それを民事の損害賠償請求の際に主張し、

加害者の過失の大きさを示す要素にすることができますし、

ご遺族の方が今回の事故で受けた精神的苦痛について心情意見陳述で述べることで、裁判基準の慰謝料額では足りない苦痛を受けているということを示すこともできます。

 

このように、刑事裁判への参加により、民事裁判も有利に進められる場合がありますので、

弁護士法人小杉法律事務所にご相談いただいた、被害者参加制度の利用を推進しておりまして、

被害者参加制度の利用により、過失運転致死罪での実刑判決を得た事例や、裁判基準以上の慰謝料額を獲得した事例も複数ございます。

 

 

まとめ

今回の事故では、加害者の呼気1リットルあたりに0.99ミリグラムのアルコールが含まれていたということが明らかになっており、

危険運転致死罪に導入された数値基準の適用ができる事案だと思われます。

 

危険運転致死罪と過失運転致死罪とでは法定刑に大きな差があります。

また、危険運転致死罪で公判請求された後も、刑事裁判にしっかりと参加していくことで、求刑どおりの判決の獲得や、裁判基準以上の慰謝料の認定を目指していくことが、

お亡くなりになったお子様の無念を晴らすことに繋がると言えるでしょう。

 

お子様のご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

※本記事は2026年9月25日時点の報道内容に基づく一般的な法律解説であり、

個別の事案についての法的助言ではありません。実際の対応にあたっては、弁護士等の専門家にご相談ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。

弁護士小杉晴洋の詳しい経歴等はこちら

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