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三軒茶屋の交通事故で両足切断|加害者の処罰は?慰謝料の相場は?【弁護士解説】

2026.10.20

損害賠償請求

交通事故 刑事裁判 後遺症慰謝料 被害者参加 逸失利益

2026年10月18日の朝、東京都世田谷区三軒茶屋の国道246号で、停めた軽トラックから荷下ろしをしていた30代の女性に乗用車が衝突し、

女性が両足を切断する重傷を負いました。

 

警視庁は乗用車を運転していた40代の男を過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕しています。

(参照TBS NEWS DIG「荷下ろし中の女性 乗用車にはねられ両足切断の重傷 警視庁 車を運転していた40代男を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕 東京・世田谷区」)

 

意識は回復されたということですが、両足を切断されるというのはあまりにも重い怪我です。

  • 加害者の処罰はどうなるのか?(刑事)
  • 実際のところ損害賠償金・慰謝料はいくらもらえるのか?(民事)

というのは非常に気になるところです。

 

このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、

報道で分かっている事実を前提に、刑事・民事・手続の三つの面から、いま知っておきたいポイントについて解説します。

 

この記事でわかること

  • 逮捕容疑の「過失運転致傷罪」の内容と、刑事処分・免許処分の見通し
  • 両足切断で認定されうる後遺障害等級と、賠償額の考え方
  • 誰に、どの保険から、何を請求できるのか
  • 義足・住宅改造など、切断特有の費用が裁判でどう認められてきたか
  • 被害者参加制度など刑事裁判に関わる方法

 

10月18日に世田谷区三軒茶屋で発生した交通事故

今回発生した交通事故について、現時点で分かっている事実は次のとおりです。

日時 2026年10月18日(日)午前8時半〜9時前ごろ(報道により表記に幅あり。110番通報は8時45分ごろ)
場所 東京都世田谷区三軒茶屋の国道246号。東急田園都市線三軒茶屋駅から約300メートル
事故の態様 走行中の乗用車が、停車中の軽トラックに衝突。荷下ろしをしていた女性が軽トラックと乗用車の間に挟まれた。軽トラックは約150メートル先まで動き、ガードパイプに当たって停止
被害 30代の女性(軽トラックの運転手とみられる)が両足を切断。意識不明で搬送され、その後意識は回復
逮捕 乗用車を運転していた40代の男を過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕
未判明の点 事故原因(わき見、速度、飲酒等の有無)、運転者の認否、車両の所有関係、業務中の運転か否か

事故原因はまだ報じられていません。以下の解説は、原因によって結論が変わる部分を場合分けして説明しています。

 

運転者はどんな罪に問われる?処罰は?

裁判所・法律事務所

逮捕容疑の「過失運転致傷罪」とは

自動車の運転に必要な注意を怠って人にけがをさせた場合に成立する罪で、自動車運転死傷処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)第5条に定められています。

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

法定刑は7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。

「傷害が軽いときには、情状により、その刑を免除することができる。」とされていますが、今回の両足切断という怪我の大きさからすると、

この但し書きによる免除はないのではないかと思われます。

量刑の見通し

過失運転致傷罪では、前科がなく、任意保険に加入しており賠償の見込みがある場合、執行猶予付きの判決となる例が少なくありません。

 

たとえば、石川県金沢市で当時小学4年生であった女の子がスマートフォンをみていて脇見運転をしていた車にはねられ、

意識不明となってしまった事故について、金沢地方裁判所は被告人に対し禁固2年6か月・執行猶予4年の判決を言い渡しています。

 

本件は両足切断という極めて重い後遺障害が見込まれる事故です。

過失の内容(スマートフォン操作、大幅な速度超過など)によっては実刑の可能性も否定できません。

 

もちろん量刑は、犯罪行為の悪質性と被害結果の重大性で大きな量刑の幅が決定されることとなりますので、今後判明する事実関係によって変わってくると思われます。

 

運転免許の行政処分

刑事罰とは別に、運転免許の処分があります。

これは、刑事罰とは別の行政処分になりますが、治療期間3か月以上または後遺障害が残る事故で、

専ら運転者の不注意によるものと判断されれば、安全運転義務違反の2点に付加点数13点が加わり15点となり、免許取消し(欠格期間1年)の対象となります

(警視庁ホームページ「交通事故の付加点数」より)。

 

被害者が請求できる賠償金・慰謝料

誰に請求できるのか

① 運転手本人(民法709条)

運転手は、直接の加害者として不法行為責任を負います。

 

民法709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

② 車両の保有者(自動車損害賠償保障法3条・運行供用者責任)

乗用車の所有者が運転手本人以外(たとえば親や知人、レンタカー会社など)であれば、

その所有者は「自己のために自動車を運行の用に供する者」として責任を負う可能性があります。

 

自動車損害賠償保障法第3条自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

③ 運転者の勤務先(民法715条・使用者責任)

乗用車運転中ということで、業務中の事故である可能性は低いかもしれませんが、業務中である場合には勤務先にも請求可能です。

 

民法715条

1 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

実際の支払いは、加害車両の自賠責保険と任意保険(対人賠償)から行われるのが通常です。

賠償額が大きくなるため、請求できる相手と保険を早期に確定させることは重要です。

 

加害者側が任意保険未加入の場合には、被害者の方が人身傷害保険等の保険に加入していると、そちらからの填補を受けられる可能性があります。

 

 

両足切断で認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級認定

一言で足の切断と言っても、つま先から股関節までのどこで切断してしまったかによって後遺障害等級は変わります。

 

後遺障害等級の認定の際に基準になるのは、

の3つです。

 

リスフラン関節とは、足の甲の中ほどあたり、中足骨と立方骨・楔状骨との間の関節をいいます。

足関節は足首のこと、膝関節は膝のことです。

 

それぞれの足をどこで切断してしまったかによって、後遺障害等級が変わります。

報道では両足の切断という情報にとどまっているため、断定することは難しいですが、以下の可能性があると思われます(自動車損害賠償保障法施行令別表第二より)。

 

  • 両方の脚を膝関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第1級5号「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」
  • 一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:併合2級
  • 一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:併合2級
  • 両方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第2級4号「両下肢を足関節以上で失ったもの」
  • 一方の脚を足関節以上で、もう一方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:併合3級
  • 両方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第4級7号「両足をリスフラン関節以上で失ったもの」

 

両足切断で請求できる主な損害

後遺障害慰謝料早見表(弁護士基準)

などが、交通事故一般(被害者に後遺症が残ってしまうケース)で請求できる損害になります。

 

このうち、大きな割合を占めることになるのが、「後遺症逸失利益」と「後遺症慰謝料」です。

順にみていきましょう。

 

両足切断の場合の後遺症逸失利益の金額は?

後遺症逸失利益とは、後遺症が残ってしまうことで将来にわたって働きにくさが生じ、

事故に遭わなければ得られたはずの収入が得られなくなるという損害をいいます。

 

 

この後遺症逸失利益の計算は、以下のような計算式で行われます。

後遺症逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(に対応するライプニッツ係数)

 

基礎収入は、被害者の方が事故に遭わなければ得られたであろう収入・その収入を得られる能力を指し、

基本的には事故前年の収入を用いることになります。

 

労働能力喪失率は、後遺症が残ってしまったことによる働きにくさを割合で示したもので、

認定される後遺障害等級に応じて決まります。労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表が参考にされます。

 

労働能力喪失期間とは、その方が働かれる予定の期間です。基本的には67歳までとされます。

 

報道では30代女性とされていますので、これを前提に概算を出してみます。

基礎収入:令和7年賃金構造基本統計調査より、女性35~39歳の平均賃金448万5300円とします。

労働能力喪失期間:35歳とすると、32年間となります。ライプニッツ係数は20.3888です。

労働能力喪失率:これは後遺障害等級に応じて決まりますので、以下それぞれ計算してみます。

 

両方の脚を膝関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第1級5号「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」

労働能力喪失率は100%となるため、

後遺症逸失利益は、448万5300円×100%×20.3888=9144万9885円

が目安となります。

 

一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:併合2級

一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:併合2級

両方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第2級4号「両下肢を足関節以上で失ったもの」

労働能力喪失率は100%となるため、

後遺症逸失利益は、448万5300円×100%×20.3888=9144万9885円

が目安となります。

 

一方の脚を足関節以上で、もう一方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:併合3級

労働能力喪失率は100%となるため、

後遺症逸失利益は、448万5300円×100%×20.3888=9144万9885円

が目安となります。

 

両方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第4級7号「両足をリスフラン関節以上で失ったもの」

労働能力喪失率は92%となるため、

後遺症逸失利益は、448万5300円×92%×20.3888=8413万3894円

が目安となります。

 

なお、現に車椅子などでお仕事をされている方々がいる中で、労働能力喪失率100%(全く就労できない)という主張については争われる場合があります。

この場合には、お仕事の内容等を十分に考慮し、就労ができないのだということを証明していく必要があります。

 

両足切断の場合の後遺症慰謝料の金額は?

後遺症慰謝料も、認定される後遺障害等級に応じて決まります。

以下は、裁判基準における後遺症慰謝料の目安になります。

 

  • 両方の脚を膝関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第1級5号「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」:2800万円
  • 一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:併合2級:2370万円
  • 一方の脚を膝関節以上で、もう一方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:併合2級:2370万円
  • 両方の脚を足関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第2級4号「両下肢を足関節以上で失ったもの」:2370万円
  • 両方の脚をリスフラン関節以上で切断してしまった場合:後遺障害等級第4級7号「両足をリスフラン関節以上で失ったもの」:1670万円

 

認定される後遺障害等級によって金額が大きく変わるため、適切な後遺障害等級の認定を得ることは重要です。

 

なお、後遺障害等級が1級や2級に該当するようなケース(被害者の方が亡くなった場合に比肩するような精神的苦痛をご家族が受けたケース)では、

ご家族の方々自身にも固有の慰謝料請求が認められる場合があります。

 

両足切断の場合に特有の損害

両足を切断した方の生活には、義足や車いす、住まいや車の改造、介護など、生涯にわたる出費が伴います。

この生涯にわたる出費を適切に請求するためには、ポイントを押さえた的確な主張・立証をしていくことが重要になります。

 

義足の費用

義足は、

  • 断端(切断した部分)を収める「ソケット」
  • ひざの役割を果たす「膝継手」、「足部」
  • 肌とソケットの間に入れる「ライナー」

などの部品からなり、部品ごとに傷み方が違います。

 

ひざより上で切断した大腿義足は膝継手が必要なぶん高額になりやすく、両足を切断した場合は2本分が必要です。

また、切断直後は断端の形が変わり続けるため、まず仮義足で訓練し、形が安定してから本義足を作るのが一般的で、その間の作り直しの費用も損害になる場合があります。

 

以下は市場の参考価格(費用の目安)になりますが、実際の価格は製品や義肢製作所によって大きく異なります。

実際の請求に当たっては、主治医の意見と義肢装具士の見積書などを基に主張することになります。

従来型の大腿義足 約25万〜45万円
吸着式の大腿義足 約50万〜100万円
コンピュータ制御の膝継手を使う構成 100万円前後から、高機能品では数百万円
ライナー・断端ソックス等の消耗品 半年〜1年程度ごとの交換

 

京都地方裁判所平成14年10月3日判決では、

後遺障害等級2級に該当する両足切断の被害者に対し、

足部は1.5年、ソケットは1年、カバーは0.5年と部品ごとに交換周期を分けて算定し、義足関係で合計1,700万円台が認められました。

福岡高等裁判所平成17年8月9日判決では、

左下腿切断などで併合4級の後遺障害等級の認定を得た症状固定時34歳の女性について、義足の見た目を自然にするための費用も財産的損害と認め、3年ごと16回分で約1,919万円を認定されています。

なお、断端の皮膚が弱く交換が増える見込みが高いとして、中間利息を控除がされませんでした。

東京地方裁判所平成8年3月27日判決では、

義足の作成1回あたり、約55万円・耐用年数5年で平均余命まで12回分が認定されました。

加害者側は修理で足りる、公的給付を受けられるなどの主張を行っていましたが、この主張は認められませんでした。

千葉地方裁判所令和3年5月31日判決では、

右大腿切断等で併合1級の後遺障害等級の認定を得た65歳男性について、義足・車いす費用として約145万円が認定されました。

将来装具費用は症状固定時の年齢から平均余命までとされることが多いため、比較的高齢の方となると金額も少なくなることになります。

 

これらから見えてくる争点と対策は次のとおりです。

  • 高機能義足は認められるか:仕事や生活で必要な機能(坂道・階段・不整地の歩行など)を、職業や生活環境と結びつけて医学的に説明できれば、高額でも認められる余地があります。
  • 見た目のための費用:外観を自然にする費用も、損害として認めた高裁判決があります。
  • 交換周期の根拠:メーカーの耐用年数だけでなく、断端の皮膚の状態、体重の変化、活動量など、交換が早まる事情を記録しておくことが重要です。

 

車いす・介護用品・消耗品

両足切断では、義足を外している時間(入浴、就寝前後、断端が傷んだとき)の移動手段として車いすが欠かせません。

裁判例では、屋内用・屋外用など用途ごとに複数台と、おおむね4〜6年ごとの買替え費用を認めた例が多く、

車いすの修理費として年額8万円を認めた例(東京地裁平成21年10月2日判決)もあります。

 

介護ベッド、シャワーチェア、移乗用の手すりなども、必要性が示されれば認められます。

ライナーや断端ソックス、断端の皮膚を保護するケア用品などの消耗品も、継続的に必要であれば将来分を請求できます。

住宅の改造費・転居費用

段差の解消、スロープや手すりの設置、浴室・トイレの改修、車いすが通れる廊下幅の確保、玄関の昇降機の設置などが対象になります。

裁判所は「障害の内容からみて本当に必要か」「家族も便益を受けないか」を具体的に検討します。

必要性で範囲を限定

東京地方裁判所平成24年10月31日判決は、

請求約545万円のうち階段・手すり・歩行補助具の約111万円のみを認め、この事例では床暖房や昇降機などは事故との因果関係を否定しました。

家族の便益で減額

東京地方裁判所平成24年7月17日判決は、

システムキッチン・ウォシュレットトイレは被害者が使用する可能性がないこと、

洗面化粧台・テレビドアホン・雑工事・給排水工事の一部は介護と関係がないこと、

改造工事が同居の親族の便益にもなることなどを考慮し、

被害者主張額の8割に相当する額を相当因果関係のある損害と認めました。

現地の状況から必要性を認定

東京地方裁判所平成29年9月1日判決は、

自宅前の階段の段差や踏み面の狭さを家屋調査の報告書や被害者の具体的な昇降状況等を踏まえて、

手すりの設置だけでなく階段全体の改修を認めました。

 

他の項目との関係

東京地方裁判所平成21年12月4日判決は、将来のヘルパー費用を損害として認める以上、家屋改造費まで事故との因果関係は認められないとしました。

 

賃貸住宅で改造ができない場合や、階段のある住まいから転居せざるを得ない場合には、転居費用や家賃の差額が損害として問題になることもあります。

工事の前に、リハビリ担当者(理学療法士・作業療法士)や建築士に「なぜこの工事が必要か」を記した意見書を作ってもらい、見積書・図面・改造前の写真とあわせて残しておくことが大切です。

 

また、家屋改造などを行う前に実際の日常生活状況を動画で撮影しておき、

現にこのような支障が出ているのだということを示すことも有用になるでしょう。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、ご自宅にお伺いし、介護状況を確認・撮影させていただき、家屋改造費や将来介護費を獲得した事例がございます。

自動車の改造・購入費、通院交通費

両足を失うと、アクセルとブレーキを手で操作する運転補助装置の取付けや、車いすを積み込める車への買替えが必要になることがあります。

 

福岡地方裁判所平成25年7月4日判決(両下肢完全麻痺)は、

車いすでの移動に大型車両が必要として車両購入費約425万円と、6年ごとの将来の買替え費用(1回100万円)を認めました。

 

もっとも、事故前から車を持っていた場合などは、通常の車との差額や改造部分の費用に限られることが多く、「障害のために必要になった部分」がどこかが争点になります。

また、公共交通機関の利用が難しい間のタクシー代は、症状からみて必要であれば通院交通費として認められます。領収書は必ず保管しておきましょう。

将来の介護費

両足切断は、常時介護を要する後遺障害(自賠法施行令別表第1)には当たらないため、介護費が当然に認められるわけではありません。

それでも、入浴・排せつ・移乗・外出・義足の着脱などで人の手助けが必要であれば、その程度に応じて将来介護費が認められます。

 

千葉地方裁判所令和3年5月31日判決は、右大腿切断等で併合1級となった65歳の男性について、

施設での生活を含む継続的な介護の必要性を認め、将来介護費約4,013万円を認定しました(持病による一部減額あり)。

同判決は、労災の療養補償給付を性質の異なる将来介護費から差し引かないとも判断しています。

裁判例では、ご家族による介護と、ご家族が高齢になった後の職業介護人による介護とで日額を分けて算定する例が多くみられます。

「どの動作に、誰が、どれくらいの時間手を貸しているか」を日々記録しておくことが、介護の必要性と程度を示す重要な資料になります。

なお、将来の介護費用について、介護保険給付を受けられる場合にはそれを差し引くべきだという主張が相手方からされる場合があります。

この点、裁判例上はこの差し引きを行う取り扱いはされておりません(『別冊判例タイムズ39号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂6版』(菊池憲久・堂薗幹一郎・伊藤智和編))

ので、しっかりと主張していくべきです。

 

保険・給付の整理

  • 自賠責保険:加害者側の保険会社を通さず、被害者が直接請求できます(被害者請求)。当座の費用に充てる仮渡金の制度もあります。
  • 任意保険:契約上の補償対象となる場合に、保険金額等の範囲内で自賠責を超える賠償部分を補償します。
  • ご自身の保険:人身傷害保険、弁護士費用特約が付いていないか確認しましょう。
  • 労災保険:業務として荷下ろしをしていたなら業務災害となる可能性があり、第三者行為災害として届け出ます。個人事業主の方は特別加入の有無を確認してください。労災から支給された療養補償給付は治療費、休業補償給付は休業損害等と対応し、控除されます。特別支給金は控除されないとされています(最高裁判所第二小法廷平成8年2月23日判決・民集50巻2号249頁)。
  • 公的制度:身体障害者手帳、障害年金なども生活再建の柱になります。

時効に注意

加害者に対する損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年(生命・身体の侵害の場合。民法724条の2)で時効にかかります。

自賠責への被害者請求は、後遺障害部分については症状固定から3年です。

刑事裁判が続いていても時効は止まりませんので、時効には注意しましょう。

【手続編】刑事裁判への関わり方と使える制度

裁判

被害者参加制度

過失運転致傷罪は被害者参加制度(刑事訴訟法316条の33以下)の対象です。

起訴されれば、裁判所の許可を得て法廷に出席し、被告人への質問や、心情や事実・法律の適用についての意見を述べることができます。

 

刑事裁判に実際に参加し、直接被告人に対して質問や意見を述べることができること自体大きなメリットですし、

刑事裁判で得られた証拠(過失割合・加害者の運転態様等)は損害賠償請求の際にも有用です。

 

弁護士法人小杉法律事務所でも、被害者参加制度の利用を推奨しております。

 

早い段階でしておきたいこと

以下はできるだけ早期から進めておくと、実際に損害賠償請求を行っていく際に有用な証拠を集められたり、請求先を確保したりすることができます。

  1. 診断書、診療記録、切断に至った経過の資料を集めておく
  2. ドライブレコーダー・防犯カメラ映像、目撃者の連絡先を早めに確保する
  3. 勤務先に報告し、労災保険の適用を検討する
  4. ご自身とご家族の保険(人身傷害保険・弁護士費用特約)を確認する
  5. 保険会社とのやり取りは記録し、症状固定前に示談書へ署名しない
  6. 検察庁の被害者支援員に連絡し、被害者等通知制度で処分結果の通知を希望する
  7. 後遺障害の等級認定の前に、交通事故に詳しい弁護士へ相談する

 

まとめ

逮捕容疑は過失運転致傷罪(7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)です。

前科がなく、任意保険加入があれば執行猶予となる例も多いですが、今後捜査により判明する事情によっては実刑になることもあります。

 

過失運転致傷罪でも、公判が開かれる場合には被害者参加制度の利用が可能です。

被害者参加制度の利用は、刑事・民事の双方にメリットがあります。

 

両足の切断は後遺障害1級・2級・4級の該当可能性があります。

後遺症慰謝料や後遺症逸失利益の額は後遺障害等級に応じて変わるので、適切な後遺障害等級を得ることが重要になります。

 

義足の将来の交換費用、住宅・車の改造費、介護費、ご家族の慰謝料等も請求できる場合があります。

必要性を医学的・具体的に示せるかが金額を左右するので、医師の意見や現状の支障を表す証拠を集めていくことが重要です。

この記事の監修者弁護士
小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。

弁護士小杉晴洋の詳しい経歴等はこちら

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