慰謝料
交通事故の慰謝料を損害賠償請求専門弁護士が徹底解説!【2025年最新】
2025.01.20
このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、
2025年最新の、
- 慰謝料と示談金の違いとは?
- 交通事故慰謝料として請求できるもの
- 交通事故慰謝料の請求先
- 交通事故慰謝料の基準と相場
- 交通事故慰謝料と示談金との違い
- 交通事故慰謝料はいつもらえるのか
- 過失割合の解決方法
- 弁護士に依頼するメリット/デメリット
等をはじめとして、
交通事故被害に遭った場合の慰謝料請求について徹底解説します。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。
交通事故被害に遭われた方やそのご家族の方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による交通事故解決サポートの詳細についてはこちら。
そもそも交通事故被害に遭って請求ができる慰謝料とは?
そもそも交通事故被害における慰謝料とはなんでしょうか。
どうして交通事故の被害に遭うと慰謝料の請求ができるのでしょうか。
それは、民法709条と710条に答えがあります。
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
民法710条「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」
民法710条にある「財産以外の損害」が精神的苦痛を指しており、その精神的苦痛を慰謝する(なぐさめいたわる)ための賠償が慰謝料ということになります。
被害者はここにいう「権利又は法律上保護される利益」を侵害された者ということになりますから、法律上損害賠償を請求する権利が生じるということになります。
慰謝料というのは精神的苦痛に対して支払われる金銭です。
精神的苦痛は人それぞれですから、評価があいまいにならざるを得ません。
とはいえ何らの基準がないというのも平等性に欠けますから、損害賠償請求実務上はこの「慰謝料」を大きく3つに分け、それぞれについて基準に基づいて計算をする運用になっています。
ここではその3つの慰謝料の定義について確認し、それぞれの計算方法や基準、相場は後ほど解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、文字のとおり入通院による精神的苦痛に対する慰謝料です。
交通事故被害に遭うと、怪我を負いその痛みや苦しみを負うことになります。
また、入通院による治療を余儀なくされることで、手間がかかったり、事故に遭わなければできていたことができなくなったりします。
こういった入通院期間の精神的苦痛に対して支払われるのが入通院慰謝料です。
後遺症慰謝料
後遺症慰謝料は、後遺症が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。
バイク事故で足を切断してしまった場合などがイメージしやすいですが、
交通事故によって生じた怪我の中には、治療を続けても良くならない=事故に遭う前の状態に戻らないというケースもあります。
こういった場合に毎年毎年後遺症によってどういう支障が生じてどういう精神的苦痛が生じたからこの年の慰謝料はいくらで、というような計算や支払の手続をするのは現実的ではありません。
ですから、損害賠償請求実務においては、事故により生じた怪我についてある程度の期間治療を続けたものの、これ以上良くならないという状態に達した時点を「症状固定」とし、
この「症状固定」の時点で残存している症状を「後遺症」としたうえで、この「後遺症」が残ったことによる精神的苦痛については残った後遺症の部位や程度により概算する運用が通底しています。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者本人が受けた苦しみや、生命を奪われた苦痛に対する慰謝料ですが、
民法711条に基づいて被害者を失った苦痛を抱えている近親者にも固有の慰謝料請求権が認められます。
民法711条「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」
慰謝料と示談金(賠償金)の違いとは?
交通事故被害に遭った場合に請求できる慰謝料の定義は今まで見て来たとおりです。
もう一つ、慰謝料の他に後遺痛事故被害に遭った場合に請求できるものとして、「示談金(賠償金)」という言葉もよく聞く言葉です。
この示談金と慰謝料の違いは何でしょうか?
示談金とは、「示談で獲得したお金」のことです。
交通事故により発生する損害は様々です。
怪我をしたり亡くなったりしてしまったことによる精神的苦痛が生じてしまうことはもちろんですが、
例えば治療や通院が必要となる場合には治療費や通院交通費が必要となるでしょう。
一方で通院のためにお仕事ができなかったり、後遺症が残ったせいで将来にわたって働きにくさが残ってしまったりといった損害も発生する可能性があります。
このような、交通事故により発生した損害全般に対して示談解決時に支払われるお金のことを「示談金」と呼んでいます。
「慰謝料」は「示談金」の一部に含まれるということになりますね。
なお「示談金」はあくまで示談解決した時のお金のことを言うので、裁判上の和解や判決で獲得した場合のお金は、
和解金や賠償金という呼び方をします。
交通事故の慰謝料は誰に請求する?
交通事故被害に遭った場合の慰謝料は誰に請求するのでしょうか。
加害者本人
まず思いつくのは加害者本人でしょう。
先ほども見たように、民法709条及び同710条で、交通事故のような不法行為の被害者は加害者に対して損害賠償請求権を有すると定められています。
ここにいう「利益を侵害した者」は「交通事故加害者」ということになりますから、当然加害者に対しては損害賠償請求をすることができます。
ただし、実際の事案では加害者本人に対して慰謝料を直接請求するというのは珍しいです。
というのも、発生した損害全額を填補することができる資力を加害者が有していることは稀だからです。
事故を起こしてしまったときのために、自動車(バイクや原付バイクなども含む)の運転手は、
自賠責保険や任意保険に加入しています。
実際の事案では、こういった保険に慰謝料を請求することになります。
順にみてみましょう。
自賠責保険
自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法第5条により、自動車の運行供用者に加入が義務付けられている強制加入保険です。
自動車損害賠償保障法第5条「自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。」
この自賠責保険の最大の特徴はもちろん強制加入保険であることですが、他にも後述する任意保険との違いがあります。
被害者の直接請求権が認められている(自賠法第16条)
任意保険との大きな違いは、被害者の直接請求権が認められていることです。
自動車損害賠償保障法第16条「…被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」
一見当たり前のように思えるかもしれませんが、当たり前ではありません。
一般に賠償責任保険と言われるような類の保険は、「加害者が自分のために加入している保険」になります。
どういうことかというと、
- 加害者が事故を起こしてしまい、損害賠償請求を受ける立場になる(賠償責任を負う)
- 資力がないために十分な賠償を被害者に対して行うことができず、強制執行を受ける恐れがある
→このような事態を防ぐために自分が賠償義務者になった時に保険からお金を払ってもらえるように加入して保険料を支払う
これが賠償責任保険が成り立っている理由です。
したがって、制度上は
- 加害者が被害者に対して賠償金を支払う
- 加害者が、被害者に対して賠償金を支払ったことによって自身に生じた損害について保険会社に請求する
- 保険会社から加害者に保険金が支払われる
という流れになるのが賠償責任保険です
(ただし実務上は手続の煩雑さ等の回避のため、直接請求権が保険会社によって認められている場合もあります。)。
これの何が問題かというと、加害者が「自分は本件事故について賠償義務を負う者ではないので保険は使わない」と言ってしまうと、
被害者は裁判で勝つ等して加害者に損害賠償義務を認めさせなければ賠償金を受け取ることができなくなります。
交通事故被害に遭うと、突然治療費や通院交通費の支払が発生したり、逆に仕事をすることができなくなって休業損害が発生したりします。
事故以前と同水準の日常生活を送れなくなるどころか、生活に困窮するような事態さえ起こりかねません。
せめて治療費だけは、せめて休業損害は、と思っても加害者が支払意思を見せなければお金が一円ももらえないというのはあまりに被害者側に酷すぎます。
このような問題を解決するために、自賠責保険には被害者の直接請求権が認められているのです。
これは、自賠責保険の強制加入を定めている自動車損害賠償保障法がその第1条で被害者保護を目的と定めていることによります。
自動車損害賠償保障法第1条「この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立するとともに、これを補完する措置を講ずることにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。」
この被害者の直接請求権のほかにも、被害者に有利な過失相殺の設定(「過失割合の解決」で詳述します。)などがされており、
自賠責保険は被害者保護に一定程度資するといえます。
しかし、この自賠責保険、被害者と加害者双方にとって1つ重大な弱点があります。
それは、支払限度額が低すぎるという点です。
自賠責保険は確かに強制加入を実現しているという点で、どんな交通事故被害に遭っても賠償を全く受け取ることができないという事態を避けるのに一役買っています。
一方で強制加入を実現するためには保険料率を下げなければなりません。
自動車損害賠償保障法第25条「責任保険の保険料率及び責任共済の共済掛金率は、能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない。」
自賠責保険料は自賠責保険会社に利益が出ないように設定しなければならないように法律で定められていますが、
低い保険料で、日夜日本全土で発生する数多くの交通事故事案に対して迅速かつ平等に保険金を支払う必要がありますから、
発生した損害の全てを自賠責保険金のみで賄えるようにはなっていません。
被害者側にとってこれが問題であることは明らかですが、加害者側にとっても問題です。
なぜなら被害者側から裁判を起こされ、自賠責保険基準を大きく超える損害額が裁判で認定されてしまうと、
自賠責保険基準を超えた部分は自分の手出しということになり、結局無保険の場合と同じで強制執行などをされる可能性があるからです。
だからこそ運転手の多くは任意保険と呼ばれる保険に、まさに任意で加入しています。
任意保険
任意保険とは、各運転手が自賠責保険に上乗せする形で保険金を支払ってもらうために加入している保険です。
損害保険料率算出機構が発行している「2023年度_自動車保険の概況」によれば、全車両の75.4%が任意対人賠償責任保険に加入しているとのことです。
この任意保険があることにより、被害者は自賠責保険では賄いきれない損害についても加害者側からの賠償を受けることができるようになります。
しかし、「この損害については自賠責保険に請求」「あの損害については任意保険に請求」としていると手続が面倒です。
ですから実務上は、任意保険が窓口となり、本来自賠責保険が支払うべきものについてもまとめて任意保険が支払をし、その部分については任意保険から自賠責保険に求償するという、
いわゆる「(任意)一括対応」が行われることが多いです。
この一括対応については治療費を窓口で支払う必要がなくなったり、賠償請求の手間が省けたりと被害者にとっても有用な仕組みですが、
保険会社が提示してくる条件で示談をしてしまうことだけはないようにしましょう。
任意保険会社は支払う保険金額が少なければ少ないほど自社の利益が大きくなるという立場にありますから、被害者にとって適切な示談金の支払を提示してくることはまずありません。
人身傷害保険
ここまで見てきたように、交通事故の被害者は発生した損害の賠償や慰謝料について、
加害者や加害者が加入している保険に請求することができます。
ですが、では実際たまたま自身が被害に遭った事故の加害者が任意保険に加入していなかった場合はどうなるでしょうか?
自賠責保険の最低限度の補償だけを受け取り、後は加害者が無資力だから泣き寝入り、ということになるのでしょうか。
そういった事態を避けるために、被害者は自分で自分のために保険を掛けることができ、そのような保険の代表例を人身傷害保険と言います。
この人身傷害保険は加害者側に賠償責任保険がない場合はもちろん、被害者側の過失が大きい場合にも利用するメリットがある保険です。
交通事故被害に遭った場合に慰謝料が請求できるのはおもにここまでみてきたような相手や保険になります。
慰謝料の計算方法:3つの基準とは?
次に見ていくのは慰謝料の計算方法です。
慰謝料の計算方法には大きく分けて3つの基準があり、それぞれに特徴があります。
順にみてみましょう。
1 自賠責基準
自賠責基準は先ほど慰謝料の請求先で見た自賠責保険における支払基準である、
「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」のことです。
この自賠責基準は金額が明確である一方、3つの基準としては最も低額な基準になります。
それは、先ほどもみたように自賠責保険という保険自体が、
最低限度の補償を担保することにより被害者保護を図るセーフティーネットとして設けられているものだからです。
したがって計算の方法自体も定額になるように設計されていますが、
なおかつ自賠責基準には、
- 傷害部分:120万円
- 後遺症部分:後遺障害等級に応じて75万円~4000万円
- 死亡部分:3000万円
という上限金額が設けられています。
自賠責基準で算出した保険金は迅速かつ平等に受け取れるというメリットはありますが、
被害者にとって適切な慰謝料の支払を受けることはできません。
2 任意保険基準
自賠責基準が被害者にとって適切な慰謝料算定基準でないことは容易に予想がつくかもしれません。
なぜなら自賠責により支払われる保険金だけで被害者が適切な慰謝料を受け取ることができるのであれば加害者側が任意保険に加入する意味がなくなるからです。
上でもみたように任意保険は自賠責保険に上乗せするために各運転手が加入して保険料を別途支払っている保険ですから、
任意保険基準は自賠責基準より高いか少なくとも同じでなければなりません。
ここで任意保険会社担当者の気持ちになって考えてみましょう。
任意保険会社の利益を極めて簡単に理解しようとすれば、
利益=被保険者から支払われた保険料総額-被害者等に支払った保険金総額
ということになります。
任意保険会社とすれば被害者等に支払う保険金総額が少なければ少ないほど自社の利益が大きくなるという関係にあります。
任意保険会社は一括対応を行う場合、被害者に対して支払った保険金のうち自賠責保険が本来支払うべき部分に関しては、
自賠責保険に求償をかけることで回収することができ、自社の手出しを少なくすることができます。
したがって任意保険会社は、自賠責基準と同じか少し超える程度の金額で、かつ説明がつく限りで最も低い金額を基準としたいということになります。
これが任意保険基準であり、被害者にとっては到底適切な基準でないことがお分かりいただけると思います。
3 裁判基準(弁護士基準)
被害者にとって最も適切な基準が、この裁判基準(弁護士基準)です。
この裁判基準とは、過去の裁判例などを基に公益財団法人日弁連交通事故相談センターが策定した基準であり、
損害賠償請求実務で必須といえる「赤い本」と呼ばれる『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)』という形でまとめられている基準です。
3つの基準の中で最も高額かつ、事故類型や被害者個人に特有の事情などを考慮して柔軟に慰謝料額を決定することができる基準です。
被害者が適切な慰謝料を獲得するためにはこの裁判基準(弁護士基準)を用いた計算がほぼ必須といえ、そのためには専門弁護士への依頼が極めて重要です。
以下では具体的な裁判基準(弁護士基準)を用いた計算についてみていきましょう。
- 関連記事:知らなきゃ損!交通事故慰謝料の弁護士基準での計算とは?
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- 関連記事:交通事故の慰謝料、弁護士基準でいくらもらえるのか?徹底解説
裁判基準(弁護士基準)における入通院慰謝料
裁判基準における入通院慰謝料の計算は、原則として入通院の期間に応じて行われます。
先ほどの「赤い本」の中では、入通院慰謝料(傷害慰謝料)の計算に用いる表として、別表Ⅰと別表Ⅱが設けられています。
別表Ⅱは別表Ⅰと比較して少し金額が抑えられている基準ですが、原則として別表Ⅰを用いることとされています。
例外的に別表Ⅱが用いられる場合は、「むち打ち症で他覚所見が無い場合等(軽い打撲・軽い挫創等)」とされています。
具体的な傷病や通院期間を例に挙げながら計算のやり方を見ていきます。
他覚所見がないむち打ち症で6か月間の通院を行った場合
他覚所見がないむち打ち症で6か月間の通院を行ったような場合には、先ほど見たように別表Ⅱを用いることになります。
別表Ⅱにおける通院6か月の慰謝料は89万円とされていますから、これが目安になります
(ちなみに自賠責基準で計算した場合には、最大でも77万4000円となります。)。
- 関連記事:交通事故のむちうち、慰謝料を最大化するためのポイントとは?【弁護士解説】
- 関連記事:交通事故慰謝料の計算方法:通院日数の重要性を解説
- 関連記事:交通事故で6ヶ月通院!慰謝料の計算方法を弁護士が徹底解説
複雑骨折で入院3か月通院6か月の入通院を行った場合
複雑骨折で入院3か月通院6か月の入通院を行った場合はどうなるでしょうか。
今回の場合は別表Ⅰを用いて計算するという原則が適用される場面ですから、
別表Ⅰより211万円が目安となります
(ちなみに自賠責基準で計算した場合には最大でも116万1000円となります。)。
ただし、赤い本には「こういった事情がある場合には表の基準より慰謝料を増額すべき」という例が列挙されています。
例えば、
- 「入院待機中の期間及びギプス固定中等安静を要する自宅療養期間は、入院期間とみることがある。」
- 「傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額する。」
- 「生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰返したときなどは、入通院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮する。」
といったルールがあります。
したがって先ほどの例にあげた被害者がギプス固定を1か月行っていたような場合には、入院4か月通院5か月と同視できるので、233万円が一つの目安になります。
また、複雑骨折は傷害の程度が大きく、かつ手術を繰返すこともありますから、更に増額も考えられます。
このように、個別具体的な事情により基準を超えた慰謝料が相当と認められる場合もありますので、
そういった事情を漏らさず請求に載せていくことが重要です。
軽症の場合や通院が5回の場合は?
事故による怪我が軽症の場合や通院が5回程度の場合でも、基本的な計算方法は変わりません(おそらく別表Ⅱを使用することになります。)。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
- 関連記事:交通事故の慰謝料、軽傷の場合どのくらいが妥当?
- 関連記事:【交通事故】通院5回で受けられる慰謝料や一時金とは?
- 関連記事:交通事故の通院慰謝料、1日いくら貰える?相場と計算のポイントを解説!
入通院慰謝料計算の注意点
入通院慰謝料の計算はここまで見てきたように入通院期間を前提としています。
では入通院期間をできるだけ引き延ばせば引き延ばすほど入通院慰謝料額が上がるのかというとそういうわけではありません。
厳密に言うと入通院期間が伸びれば入通院慰謝料額が上がるという側面は確かにあるものの、
入通院慰謝料の増額を狙って入通院期間を延ばすのはリスクが大きいです。
入通院慰謝料の基礎となる入通院期間は、「事故による怪我の治療のために入通院を余儀なくされた期間」と捉えられます。
つまり、主治医が完治または症状固定と診断した場合や、実質的には治療効果がなくなっており治療が終了していたと考えられるような場合には、
入通院期間はその時点までとされます。
その時点を超えた入通院については、慰謝料算定の基礎とすることができないのはもちろん、必要のない治療をしていたということになりますから、
この超えた期間の治療費は相手方に請求することができず自己負担となります。
結局のところ入通院期間は主治医の判断に従いながら決めた方がご自身のためになります。
ただし、もちろん加害者側保険会社が決定する事項ではありませんから、治療費打ち切りのタイミングで必ず治療を終了しないといけないということは決してありません。
- 関連記事:交通事故通院、いつやめる?判断基準とその注意点
- 関連記事:交通事故慰謝料は通院で稼げる?弁護士解説
裁判基準(弁護士基準)における後遺症慰謝料
次に裁判基準(弁護士基準)における後遺症慰謝料を見ていきましょう。
この後遺症慰謝料については、3つの基準(自賠責基準・任意保険基準・裁判基準)で金額に差異はあれど、
「認定された後遺障害等級に応じて金額が決定される」という決定方法自体は通底しています。
後遺障害等級は、被害者の方一人一人に残っている症状を平等に評価するための方法として実務上広く用いられており、
自賠責保険も、任意保険も、裁判所も、被害者の後遺症を判断する上ではまずはどの後遺障害等級に該当するかという視点で考えます。
この後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令における後遺障害等級表に準じて決定されます。
後遺障害等級別の後遺症慰謝料
裁判基準(弁護士基準)における後遺障害等級別の後遺症慰謝料の基準は以下のとおりです。
- 後遺障害等級第1級 2800万円
- 後遺障害等級第2級 2370万円
- 後遺障害等級第3級 1990万円
- 後遺障害等級第4級 1670万円
- 後遺障害等級第5級 1400万円
- 後遺障害等級第6級 1180万円
- 後遺障害等級第7級 1000万円
- 後遺障害等級第8級 830万円
- 後遺障害等級第9級 690万円
- 後遺障害等級第10級 550万円
- 後遺障害等級第11級 420万円
- 後遺障害等級第12級 224万円
- 後遺障害等級第13級 180万円
- 後遺障害等級第14級 110万円
これを見るとお分かりいただけると思いますが、認定される後遺障害等級に応じて金額が大きく変動します。
適切な慰謝料を獲得するためには、適切な後遺障害等級の認定を得ることが必須といえます。
後遺障害診断書作成時に弁護士に相談すべき理由
交通事故における後遺障害等級の認定は主に自賠責損害調査事務所における調査で行われます。
この自賠責損害調査事務所における調査は、迅速に行うために原則として書面による審査となっています。
後遺障害等級の認定の申請時に必ず提出しなければならない書類として「後遺障害診断書」がありますが、
この「後遺障害診断書」の記載によって適切な後遺障害等級の認定可能性が大きく変わると言っても過言ではありません。
「後遺障害診断書」の作成は医師の専権事項ですが、医師は患者の症状を少しでも改善することについては専門家ですが、
「どう診断書を記載すれば後遺障害等級の認定基準に該当するか」ということに関しては専門家ではありません。
この事項の専門家が弁護士であり、だからこそ弁護士に相談することで大いに後遺症慰謝料が変わる可能性があります。
弁護士法人小杉法律事務所では後遺障害診断書の作成に当たり、記載時に気を付けていただきたいポイントや実施していただきたい検査をまとめた依頼書という書類をお送りすることで、
主治医に適切な後遺障害診断書を作成していただけるよう努めています。
場合によっては後遺障害等級認定の観点からみると不十分な記載の後遺障害診断書をご作成いただいた場合には、ご面談などを通して訂正をしていただくようにしています。
適切な後遺障害等級認定を得ることが適切な後遺症慰謝料を得るための第一歩です。
近親者固有の慰謝料が認められる場合
ところで、遷延性意識障害や重度高次脳機能障害などが残存するような場合、
被害者本人が事故以前と同じ日常を送れなくなったという精神的苦痛が甚大なことはもちろんですが、
介護の必要性などが生じると被害者のご家族にも負担がのしかかることになります。
このような場合には近親者固有の慰謝料が認められることがあります。
最高裁判所第三小法廷昭和33年8月5日判決(民集12巻12号1901頁)では、「死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、近親者にも慰謝料請求権が認められる」と判示されており、
現在の実務上もこの考え方は通底しています。
裁判基準(弁護士基準)における死亡慰謝料
最後に裁判基準(弁護士基準)における死亡慰謝料を見ていきます。
死亡慰謝料の額は基本的には以下のように被害者の属性によって決定されます。
- 被害者が一家の支柱と評価される場合:2800万円
- 被害者が母親、配偶者と評価される場合:2500万円
- 被害者がその他(独身の男女、子供、幼児等)と評価される場合:2000万円~2500万円
ただしこの基準は「赤い本」上も「一応の目安を示したものである。」とされていて、「具体的な斟酌事由により増減されるべき」ともされています。
民法711条では「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」
とされており、一見すると近親者固有の慰謝料の請求が認められるのは「被害者の父母、配偶者及び子」に限定されているように思われます。
しかし、最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(民集第28巻10号2040頁)において、
「不法行為による生命侵害があつた場合、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうることは、民法七一一条が明文をもつて認めるところであるが、右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しない者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが、相当である。」
と判示されたことで、「被害者の父母、配偶者及び子と実質的に同視できるような身分関係が存在し、かつ被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた」と認められる場合には、
民法711条に所定の関係性にない場合であっても固有慰謝料を請求することができます。代表的な例としては兄弟姉妹です。
死亡慰謝料は入通院慰謝料や後遺症慰謝料と異なり、被害者の生前の生活状況や事故により具体的にご家族にどのような精神的苦痛が発生したかを主張することで金額が大きく変わることもあります。
そこで重要になるのが刑事裁判への被害者参加です。
被害者参加とは平成19年の刑事訴訟法の改正により導入された制度で、
被害者やご遺族が刑事裁判で心情を陳述したりといった参加ができる制度のことです。
この被害者参加の際の心情意見陳述などは、
加害者(被告人)及び裁判官に被害者側が直接思いを伝えることができるために、
裁判官がそれを斟酌してくれ、被告人の刑事責任が重いものとなる傾向があります。
また、民事の損害賠償請求においても心情意見陳述で提出した陳述書は証拠として用いることができ、
例えば被害者の死亡によりご家族が受けた精神的苦痛の大きさを証明する証拠となったり、
被害者の兄弟姉妹の方が民法711条所定の者と同視しうるほど被害者のことを大切に想っていたことを証明する証拠となったりすることで、
死亡慰謝料を増額する事由になります。
弁護士法人小杉法律事務所では民事損害賠償請求に活かせるというところもありますが、
被害者参加はご家族にとって、事故後一つ前に進むきっかけになる場所でもあると考えており、積極的に参加をお勧めしております。
- 関連記事:交通事故の死亡慰謝料や賠償金の平均相場は?裁判基準以上の慰謝料を獲得するためのポイント【被害者専門弁護士解説】
- 関連記事:【交通死亡事故加害者のその後は?懲役刑?】遺族側専門弁護士の解説
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交通事故の慰謝料はいつもらえる?
交通事故慰謝料はいつもらえるのでしょうか?
基本的には示談交渉がまとまった後や裁判で支払額が確定した後になります。
入通院慰謝料は治療を続けている最中は常に金額が変動しますし、
後遺症慰謝料も実際症状固定まで治療を行わないとどの程度の後遺症が残存するかは分かりません。
ですから、原則として慰謝料を受け取ることができるのは損害が確定した後になります。
ただし、被害者としては事故により通院などで支出が増えたり、逆に仕事ができずに収入が減ったりすることで、生活が立ち行かなくなることもあります。
このような場合に悠長に示談締結や裁判上の和解または判決を待ちなさいというのは被害者にとって酷ですし、
加害者側がその被害者の苦しい立場を利用して被害者に不利な示談をまとめてしまう可能性もあります。
このような事態を避けるために、自賠責保険に対する被害者請求を行ったり、
事案によっては加害者側保険会社に内払といってその時点までに確定している損害の一部を先払いしてもらったりといった対応が求められます。
いずれにしても被害者側が行う必要がある手続は速やかに行うべきであり、そのためには専門弁護士の力を借りることも有用です。
交通事故慰謝料と過失割合の関係
過失割合が慰謝料に与える影響
交通事故被害に遭った場合の慰謝料請求で良く耳にする単語として「過失割合」という単語もあると思います。
「過失割合」とは、一言でいえば発生した交通事故において当事者の双方がどれだけの責任を負うかを表す割合のことをいいます。
民法では「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定されています(民法第722条2項)。
これを「過失相殺」といい、過失相殺によって定められた被害者及び加害者の過失の割合を「過失割合」といいます。
たとえば、発生した交通事故について双方の過失割合が9:1であれば、事故の90%が加害者の責任であり、残りの10%が被害者の責任ということになります。
この割合は事故後の損害賠償の基準となるため、非常に重要な役割を果たします。
今回の事故により被害者に生じた損害が1000万円であった場合、被害者の過失が10%となると、この1000万円×10%=100万円は自己過失分ということで相手に請求することができず、
受け取ることができる金額は自己過失分を差し引いた900万円となります。
この過失割合が8:2となると、受け取ることができる金額は800万円となり、発生した損害の大きさは変わらないのに受け取ることができる金額が減少してしまいます。
このように、過失割合は損害賠償金額全体に影響を与えるため、被害者や加害者が適正な補償を受けるためにも、正確な過失割合を算出することが必要不可欠です。
被害者自身の過失が大きくても慰謝料を多く受け取る方法!?
先ほど述べたように、被害者の過失の大きさは受け取ることができる慰謝料額に大きな影響を与えます。
ですから、まずは警察の捜査記録やドライブレコーダーなどをしっかりと分析したうえで、
本件事故はどのような類型に当てはまるのか、修正可能な要素はないのかなどを一つ一つ丁寧に主張・立証することで、自身の過失割合(過失相殺率)を下げるよう努めるべきです。
しかし、残念ながら被害者の方にも一定程度の過失割合(過失相殺率)が認められる事案も少なくありません。
そのような場合に、次のような保険制度などを使うことにより、被害者自身の過失が大きくても慰謝料を多く受け取ることができる場合があります。
健康保険
実は交通事故の場合であっても、第三者行為による傷病届という書類を健康保険協会に提出することで、
健康保険での治療が可能となります。
なぜ健康保険を利用すると被害者自身の過失が大きくても慰謝料を多く受け取ることができるのか?
ここからは例を挙げて解説していきます。
被害者のAさんは片側一車線の道路を走行中に、対面の信号が青だったので交差点に直進して進入しました。
すると、対向車線からその交差点に右折して進入しようとした加害車両と衝突し、むち打ちになってしまいました。
東京地裁民事交通訴訟研究会編別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)では、
この事案はAさんの過失が20:加害者の過失が80ということになります。
Aさんはこの事故で負ったむち打ちについて、自由診療(自賠責)での通院治療を行うことにし、
治療費については加害者側保険会社の治療費一括対応をしてもらうことにしました。
トータルで、治療費として200万円、慰謝料として100万円の損害が発生しました。
この時Aさんが加害者側に対して請求できる金額は、(200万円+100万円)×(1-20%)=240万円となります。
ただし、治療費の200万円は既に加害者側保険会社から支払済ですから、
最終的にAさんが受け取ることができる金額は240万円-200万円=40万円です。
慰謝料として100万円の損害が発生しているにもかかわらず、過失相殺を行ったこと等により受け取ることができる金額が60万円も減少してしまっています。
次に健康保険を利用した場合を見てみましょう。
まず、自由診療と健康保険の大きな違いとして、1点あたりの単価が挙げられます。
自由診療はその名のとおり自由なので、1点当たりの単価を病院が自由に設定することができます(一般的には20円)。
一方で健康保険は1点当たりの単価が10円で固定です。
ですから、同じ治療であったとしても健康保険を利用した場合にAさんに治療費として発生している損害は100万円ということになります。
さらに健康保険を利用した場合の窓口負担は3割ですから、100万円×3割=30万円がAさんに「実際に」発生した損害ということができます
(残りの70万円は健康保険協会から加害者側に請求が行われるため、Aさんから加害者側に対する請求では考慮しません。)。
トータルでAさんに発生した損害は治療費の30万円と慰謝料の100万円です。
Aさんは20%の過失がありますから、最終的にAさんが受け取ることができる金額は、
(30万円+100万円)×(1-20%)=104万円です。
この内30万円を治療費として差し引いたとしても、104万円-30万円=74万円を慰謝料として受け取ることができたと言えます。
健康保険を利用しなかった場合と比較して34万円も多く慰謝料を受け取ることができました。
このからくりは、「被害者の過失分も含めて健康保険が支払ってくれている」ことにあります。
先ほど除外した70万円の中には、本来被害者の過失として考慮されるべき=被害者が受け取ってはならない金額も含まれていました。
にもかかわらず、被害者は100%の治療を受けることができてしまっています。
このように、実質的に健康保険が被害者の過失分を肩代わりして支払っているため、被害者は健康保険を利用することで自身の過失分を小さくすることができ、結果的に慰謝料を多く受け取ることができるのです。
労災保険
労災保険を利用することによっても、過失のある被害者は慰謝料を多く受け取ることができます。
通勤中に交通事故被害に遭ってしまった場合、被害者は労働者災害補償保険(労災保険)から給付を受けることができます。
通勤中の事故により怪我を負った場合には、労災から以下のような給付を受けることができます。
- 療養給付(または療養の費用の給付)
- 休業給付
- 障害給付
ここでも例を挙げながら考えていきます。
通勤中に交通事故の被害にあったBさんは、通勤災害として申請を行い、
労災から療養給付を受けることになりました。
最終的な相手との話し合いで、Bさんに今回発生した損害は、
治療費50万円、慰謝料100万円の合計150万円であり、Bさんと加害者の過失は30:70ということに落ち着きました。
このとき、Bさんは発生した治療費の全額について労災から療養給付を受けた状態で通院していたため、
実質的な費用負担は発生していない=治療費の50万円については既に填補されている状態でした。
通常どおり考えると、Bさんが最終的に受け取ることができる金額は、
(治療費50万円+慰謝料100万円)×(1-自己過失分30%)-50万円
=150万円×70%-50万円
=55万円ということになりそうです。
ところが、ここで労災保険を利用した場合のルールが発動します。
それは、「費目間流用の禁止」の原則です。
次の裁判例は労災保険の休業補償給付及び障害補償給付について示したものですが、「費目間流用の禁止」について判示しているので見てみましょう。
最高裁判所第三小法廷昭和58年4月19日判決(判例時報1078号78頁)「労働者に対する災害補償は、労働者の被つた財産上の損害の填補のためにのみされるものであつて、精神上の損害の填補の目的をも含むものではな
いから(・・・)、前記上告人が受領した労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは上告人の財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであつて、上告人の慰藉料請求権には及ばな
いものというべきであり、従つて上告人が右各補償金を受領したからといつてその全部ないし一部を上告人の被つた精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰藉料から控除することは許されないというべきである。」
ここで重要なのは、
- 「労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものである」
- 「精神上の損害の填補の目的をも含むものではない」
- 「労災保険による補償金を受領したからといってその全部ないし一部を被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰藉料から控除することは許されない」
ということです
(なお、療養給付についても東京高等裁判所平成9年4月24日判決(交通事故民事裁判例集30巻2号349頁)や、東京高等裁判所平成10年10月30日判決(判例タイムズ1026号246頁)等で、慰謝料との損益相殺がされない旨判示されています。)。
先ほどの実際の例に当てはめながら考えてみましょう。
先ほどの例では、治療費も慰謝料も一緒くたにした総損害額から、被害者の自己過失分(30%)と、既に療養給付として填補されている部分50万円を差し引くという計算でした。
しかしこれでは、療養給付の差し引きが慰謝料にも及んでしまっています。
具体的には、治療費50万円×(1-30%)=35万円 35万円-50万円=「-15万円」が、慰謝料の枠に食い込んでいます。
ただし「費目間流用は禁止」されていますから、
労災保険により給付を受けている場合には、費目ごとに過失相殺と損益相殺(差し引き)を行います。
まず治療費に関して、
治療費50万円×(1-30%)=35万円 35万円-50万円=-15万円となりますが、
費目間の流用は禁止ですので、この-10万円は他の費目との間で調整されず、他の費目との間では0円という扱いになります。
慰謝料に関してみると、
慰藉料100万円×(1-30%)=70万円となり、これと差し引きするものはありませんので、
Bさんは最終的にこの70万円をそのまま受け取ることができます。
このように、労災保険を利用することで、自己過失が大きい場合でも慰謝料を多く受け取ることができます。
また余談ですが、労災保険を利用した場合にはさらに被害者側にメリットがあります。
それは「特別支給金」の存在です。
「特別支給金」とは、休業給付や障害給付、障害年金等を受け取った場合に、
労災保険から通常の補償に上乗せして支払われる給付のことです。
通常の(補償)給付が被害者(労働者)が被った損害の填補を目的としたものであるのに対し、
特別支給金は被害者(労働者)の福祉の増進を図るための労働福祉事業の一環として給付されるものであることから、
被った損害から控除すべきではないとされているのです(東京地方裁判所昭和61年11月11日判決(交通事故民事裁判例集19巻6号1559頁)など)。
休業給付などが最も分かりやすいですが、
休業を余儀なくされた場合に労災から受けられる給付は休業給付と休業特別支給金の2つになります。
休業給付は発生した損害の60%、休業特別支給金は発生した損害の20%分の支払があります。
このとき被害者は未だ填補されていない損害として、100%-60%=40%を加害者側に請求することができます。
つまり被害者は、休業給付として60%+加害者から損害賠償金として40%+特別支給金として20%の計120%の支払を受けることができます(20%分得をします)。
このように、通勤災害の場合に労災を利用するメリットは大きいです。
人身傷害保険
人身傷害保険は相手方が無保険の場合などに大きな効力を発揮する保険ですが、
実は被害者側に過失がある場合にもとても有用です。
それは、「人身傷害保険の損益相殺時の特性」によります。
ここでも例を挙げて考えてみましょう。
交通事故被害者のCさんは今回の事故で、治療費100万円、慰謝料100万円の計200万円の損害が発生しました。
治療費については当初加害者側保険会社から一括対応をしてもらっていましたが、一括対応分が50万円になったところで対応を打ち切られてしまいました。
その後は自身が加入していた人身傷害保険から治療費の支払を受けました。
加害者側保険会社との交渉で、過失割合はCさん20 :加害者側80ということでまとまりました。
この時、Cさんが最終的に受け取ることができる金額は、
(治療費100万円+慰謝料100万円)×(1-自己過失分20%)-(加害者側保険会社既払50万円+人身傷害保険既払50万円)
=60万円ということになりそうですが、そうはなりません。
人身傷害保険は損益相殺時に「被害者の自己過失分から先に充当される」からです。
最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決では以下のように判示されています。
「上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」
人身傷害保険に加入している被害者というのは、
「自分の過失があろうがなかろうが、その程度が小さかろうが大きかろうが一定程度の損害の填補を受け取れるように」、毎月保険料を払っていますし、
その目的を認識したうえで各保険会社も人身傷害保険という商品を提供しています。
にもかかわらず、実際に交通事故被害に遭った場合に、自身の過失が大きいために受け取る金額が少なくなるというのは、
人身傷害保険の趣旨・目的に照らして合理的とは言えません。
ですから、人身傷害保険金の差し引きについては、
「被害者に発生した損害について裁判基準額を受け取れるように充当したうえで、それを超えた額についてのみ、被害者が加害者に対して請求できる金額から差し引きが行われる」ということになります。
先ほどの例に当てはめてみましょう。
Cさんは治療費100万円と慰謝料100万円の合計200万円の損害が発生し、自己過失分が20%ということになっています。
また、既に受け取っている金額として加害者側保険会社から50万円、自身の人身傷害保険から50万円があります。
まずCさんの自己過失分は、200万円×20%=40万円です。
人身傷害保険金はまずこの自己過失分と損益相殺(自己過失分に充当)されます。
40万円-50万円=-10万円となりますね。
次に全体で見てみましょう。Cさんが相手に対して請求ができるのは、
200万円×(1-20%)-50万円=110万円、ここから先ほどの人身傷害保険金が自己過失分を超えた部分である10万円を引き、100万円ということになります。
人身傷害保険金が自己過失分から先に充当される関係で、被害者が受け取ることができる金額が増加しています。
またこのとき被害者Cさんは、発生した総損害が200万円であり、
人身傷害保険金から50万円、加害者側保険会社から治療費として先に50万円、最終的に100万円を受け取っているため、
自身に過失があったにもかかわらず発生した損害の全額について支払を受けることができています。
このように、人身傷害保険は使い方によって被害者が自身に過失がある場合でも裁判基準満額の慰謝料を受け取る可能性があります。
ただし人身傷害保険の利用は複雑ですから、専門弁護士の指示を仰ぐことをお勧めします。
自賠責保険
自賠責保険は先ほど見たように3つの基準の中では最低限度の基準です。
しかし、被害者の過失が大きい場合には利用する方が被害者に資する場合があります。
自賠責基準には、過失相殺(過失割合)について次のような規定があります。
「被害者に重大な過失がある場合は、次に掲げる表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から減額を行う。ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合には20万円とする。」
被害者の過失が7割未満 | 後遺障害又は死亡:減額なし | 傷害:減額なし |
被害者の過失が7割以上8割未満 | 後遺障害又は死亡:2割減額 | 傷害:2割減額 |
被害者の過失が8割以上9割未満 | 後遺障害又は死亡:3割減額 | 傷害:2割減額 |
被害者の過失が9割以上10割未満 | 後遺障害又は死亡:5割減額 | 傷害:2割減額 |
このように、自賠責保険は被害者保護を図るために、被害者の過失割合がそのまま減額幅にならず、少し小さい割合で減額がされるということになっています。
自己過失が非常に大きいけれども大きな被害が発生した、というような場合には自賠責基準で計算したものが結果的に一番高額になるということもあり得ます。
ここまで見てきたように、交通事故被害に遭い適切な慰謝料を獲得するためにはまずは被害者自身の過失を小さくするように努めるべきです。
ただし、どうしても一定程度の過失が認められてしまうようなケースにおいては、各種保険をうまく活用することによって慰謝料を多く受け取ることが可能な場合もあります。
損害賠償請求と各種保険の活用を並行して行うのは知識が必要となりますから、専門弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故慰謝料の請求を弁護士に依頼した場合のデメリットはある?
ここまでみてきたように、交通事故被害に遭った場合に適切な慰謝料を獲得するためには、弁護士への依頼がおすすめです。
ではデメリットが無いのかというとそういうわけでもありません。
弁護士に依頼した場合には依頼した場合特有のデメリットが生じざるを得ません。
弁護士費用が発生する
弁護士に依頼した場合の最大のデメリットは弁護士費用が発生することです。
弁護士に依頼しない場合には弁護士費用は発生しないわけですから、弁護士に依頼した場合の一つのデメリットと言えるでしょう。
とはいえ、弁護士に依頼することで増額する慰謝料額の方が基本的には大きいため、
結果としては弁護士に依頼した方が受け取ることができる金額が多くなる場合がほとんどです。
まれに弁護士が介入することにより増額が期待される金額より弁護士費用額が高くなってしまう、いわゆる費用倒れが発生する可能性がある事案もありますが、
そのような場合には初回無料の法律相談を実施している事務所などに相談することで、費用倒れのリスクについても説明を受けることができます。
また、ご自身の保険に弁護士費用補償特約(弁護士費用特約)が付帯されているような場合には、
各保険会社約款にもよりますが、法律相談料10万円及び弁護士報酬300万円までを保険が負担してくれるため、
費用負担の心配なく弁護士に依頼することが可能です。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故という突然身に降りかかる不法行為の被害に遭い、
今後の支出や収入にご不安をお抱えの方から相談料や着手金をいただくのは安心のご提供に繋がらないと考え、
原則として初回相談料無料、着手金なしでのご契約を行っております。
また、報酬金についても獲得した金額からのご精算を行うため、被害者の方に手出しをいただくご心配なしでご依頼いただけます
(弁護士費用特約の利用が可能な場合には相談料及び着手金のご請求をさせていただきます。)。
このように、弁護士費用がかかる場合でも、結果としてプラスになる場合がほとんどです。
適切な交通事故慰謝料を勝ち取るために信頼できる弁護士に依頼しましょう
専門弁護士に依頼するメリット
ここまでみてきたように、交通事故で慰謝料を請求する場合には、
信頼できる専門の弁護士に依頼することにより大きなメリットを受けることができます。
事故直後や通院中から損害賠償請求を念頭に置いたアドバイスを受けられることはもちろん、
煩雑な書類手続や保険会社対応などのストレスから解放され、安心して治療に専念することができます。
また、専門知識に基づいた後遺障害等級認定の申請や示談交渉、裁判により、
被害の大きさに応じた適切な慰謝料を勝ち取ることができます。
さらに、過失割合の交渉などにおいても利用すべき適切な保険の提案などもしてくれるため、
被害者の方にとって最も有益になるでしょう。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。
専門弁護士及び専門パラリーガルのサポートにより、被害者の方にご安心と解決をご提供いたします。
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交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による交通事故解決サポートの詳細はこちら。
交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士との初回無料の法律相談の流れについてはこちら。
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